神からの無茶ぶり
俺の名前は――朝霧悠真。
総理大臣の息子っていう、クソみたいに目立つ肩書きを持ってる。
家の外に出れば、狙撃、誘拐、爆破、監視。
そんなの、もう慣れっこだ。むしろ……飽きた。
“自由”なんて言葉、この家の辞書には載ってない。
だから俺は、夜になると抜け出す。
こっそり、こそこそと。忍者かよってくらい慎重に。
向かうのは――近所にある、今はもう使われていない高校。
そこに、俺だけの“秘密”がある。
その夜も、俺はいつものように校舎の裏から忍び込んだ。
誰もいないはずの廊下。軋む床板。夜の校舎特有の、妙に静かな空気。
……と、ふと目に止まったのは、使われていない部室のドア。
隙間から、うっすらと明かりが漏れていた。
「……ん? 誰かいるのか?」
静かにドアを開けて、中を覗く。
――いた。
制服姿の生徒たちが、七人。
古びたソファに腰かけて、何やら楽しげに談笑していた。
(ああ……これが“幽霊部員”ってやつか)
部活してないのに籍だけある連中。父さんも昔、そんな話してたな。
思わず声をかけてしまった。
「こんばんは。幽霊部員の皆さんですか?」
……その瞬間だった。
七人全員が、ぴたりとこちらを見た。
一斉に。無言で。異様に静かに。
「……見えるのか?」
掠れた低い声が、静寂を裂いた。
よく見ると、顔色は不自然なほど青白い。瞳は虚ろで、光がない。
――背筋が凍った。
これ……本物の“幽霊”じゃねぇか。
幽霊部員、じゃなくて。ガチの、幽霊。
俺は見てしまった。話してしまった。関わってしまった。
それが、あの七人との最初の出会いだった。
後で聞いた話によると――
彼らはかつて、小枝高校の生徒だった。
だけど今はもう、誰ひとりとして生きていない。
全員、不自然な事故や事件で命を落としたという。
「私たちの死には、まだ終わっていない真実がある。君に……それを見つけてほしいの」
なぜ俺なんかに?
どうやら“神様”とやらが言ったらしい。
「いずれ現れる“見える者”と共に、自らの死の真相を知れ」と。
勝手すぎるだろ、そのご託宣。
だけど俺は、見てしまった。聞いてしまった。
そして、気づいてしまった。
――この七人の死には、ひとつの“繋がり”がある。
俺は、知らなくちゃいけない。
この学校で何が起きたのかを。
それが、“夜の学校、七つの真実”の始まりだった。