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プロローグ ~翠刃の葬送者と蒼天の閃光~

「フッ!」

軽い息とともに振るった私の鎌が、アストラルデブリを切り裂く。沈黙したデブリから使えそうなパーツを物色しながら、辺りにほかのデブリがいないことを確認する。

「お姉ちゃん、こっちは回収できたよー。」

後ろから近づいてくる妹に返事をしながら立ち上がる。

「こちらも回収できた。」

集めたパーツを袋に詰めて、私たちは家電量販店だった場所から去っていく。

 めっきり使うことは減ったが、西暦でいうと2087年。地上は人の生きる場所ではなくなっていた。2032年、世界の国々の関係は、いいとはいえないが悪くもない、普通だった。けれど小さな国際問題は多くあり、それに対してフラストレーションを感じている国が多かった。そんな折、小さい内紛がアフリカで起こった。それは、これまで通りなら世界全土を巻き込む戦争になんてならなかった。先進国が、「アストラルマシン」なんてものを開発していなければ。日々のフラストレーションと、新しい兵器を試したいという思惑が先進国間で駆け巡り、内紛を調停するという名目のもと、アストラルマシンが初使用された。新しい技術であったために、制御がきかず他国のアストラルマシン同士が戦いあうという事件が起きた。そこから先は、考えるまでもない。先進国間で戦争が勃発し、瞬く間に世界を巻き込み地上から人が消え去った。アストラルマシンとは、簡単にいえば感情をエネルギーにして戦う兵器だった。武装の付いたスーツに、アストラル素子がついていて、このアストラル素子が人が持つ感情の大きさに比例して、エネルギーを生む。それは、戦争に駆り出されて「死にたくない」と願う、負の感情でもエネルギーになった。先進国は、犯罪者たちを無理やりアストラルマシンに搭乗させ戦わせた。この負の感情が裏目に出て、アストラルマシンは人を見境なく襲うようになった。こうして、人類の総数は大きく減り、9割以上が地下シェルターで暮らすようになった。このまま、アストラルマシンに搭乗している人が死ぬまで耐えて、地上に戻ればいい。そんな甘い考えのもと、人々は地下シェルターで暮らしていた。地上の文明崩壊から30年を超えたころ、1体目のアストラルマシンの死体が見つかった。アストラルマシンは国の兵器だったため、行動を記録するカメラがついていた。そのカメラには、人々の希望を打ち壊す記録が残っていた。マシンの搭乗者たちが、自身の脳を完全にコピーし、地上の機械に移していく光景だった。同時に、生き残った人々は、地上に戻るという希望を完全に捨て去った。現在では、アストラルマシンの原型モデルは消えているが、原型が持っていた「死にたくない。生きたい。」という強い感情が世界中の機械に移されて、人を襲うようになっていた。これらは、「アストラルデブリ」と呼ばれるようになっていた。

「さっきの場所はデブリが多かったおかげで、がっぽり稼げたね。」

「ああ。これで当分は困らないだろう。」

今の世界では、共通のお金は存在しない。物々交換が当たり前だ。デブリのパーツと交換してくれる人など滅多にいない。シェルターには。だが、地上にはデブリのパーツを欲しがる酔狂な人間もいる。その多くは、アストラディアと呼ばれる、アストラル素子を搭載した武器や装備の製作のためだ。アストラルマシンやデブリを倒すには、アストラル素子が出すアストラル性の攻撃でなければならない。これを達成する唯一の方法が、アストラディアだ。これのせいで、デブリを倒すにはアストラディアが必要だが、アストラディアを交換するには、安くても損失の少ないデブリのパーツを20個は要求されるという堂々巡りだ。地上を出歩いてデブリを狩る人は「シーカー」と呼ばれるが、アストラディアの入手の難易度のせいで、日に日に少なくなっている。

「お姉ちゃん、なんか静かすぎない?」

確かに、機械の集まる家電量販店の跡地の近くにいるのに、ほかのデブリの気配が全くしないのは妙だ。

「エアリス構えろ。シーカー狩りだ。」

私自身も、鎌を構えながら妹に呼びかける。当たり前のことだが、アストラディアを持っているからと言って、楽にデブリを狩れるわけではない。なら、デブリを狩ったシーカーを狩った方が効率がいいと考えるやつが出てくるのは当然だった。そういった、デブリではなく人を狩るようになった者たちは、シーカー狩りと呼ばれていた。

「奇襲は失敗か。女1人でいいカモだと思ったんだがな。」

数は5人。今話したリーダー格の男が全身アストラディアで固めていて、それ以外も全身とはいかずとも、武器や装備の一部にはアストラディアを装備している。私の所感だが、アストラディアを2個以上持っているものは、シーカーの中でも強い部類だ。こちらのアストラディアは、エアリスの剣のみだ。これだけ見れば、彼我の戦力差は大きいが、私たちも運だけで地上を旅しているわけではない。その時、突然男たちの1人が血飛沫をあげた。

「グッ・・・」

首と武器を持っていた右手の手首と肩に大きい斬撃痕があり、そこから滝のように血が噴き出していた。

「ッ!お前ら離れろ!」

即座に散開の指示をリーダー格の男が出す。対応の速さはなかなかだ。何にやられたかは分からないが、集まったままだと一気にやられると判断したようだ。対応自体は正解だが、仲間がついていけるかは別だ。仲間の突然の死に、動揺した男たちのなかで、反応の遅れた1人が1人目と同じようにやられていく。

「エアリス、もう十分だ。」

私は、刹那的に2人を倒した妹に声をかける。

「5人ともやれるよ?」

エアリスが、何もない空間から出てきながら問いかける。

「私の相手も残せ。お前を傷つけようとしたやつをただで返すわけにはいかない。」

「こんな奴らじゃ、私は捕まえられないってわかってるでしょ。」

「それでもだ。」

私たちが距離を詰めながら、そんな会話をしていると、リーダー格の男が割り込んできた。

「その恰好に、その速さ。もしかして、お前たちが「翠刃」と「蒼天」なのか?」

エアリスが突然表れたことに驚かない辺り、こちらの手の内を知っているようだ。しかし、男の言葉の中に耳慣れない単語があったな。「翠刃」と「蒼天」、聞いたことのない称号だ。シーカーは、日頃から命をかけてデブリと戦っている。もちろん、命を落とす者も多くいる。だからこそ、長く生きているシーカーは強い。自ずと、そういったシーカーには、畏怖を込めて、称号がつく。具体的に決まっているわけではないが、長く旅していれば自然と呼ばれるようになる。だが、これまで私たちに称号がついていたことはなかった。決まった拠点を持たずに、適当な旅を続けていたから、私たちのことを知るものなど、非常に少ないはずだ。そんな考えを巡らせていると、男が続けて口を開く。

「おまえらが、あの伝せ…。」

それ以上の言葉は発されることなく、男の喉元に光る刃だけが、場の空気を支配していた。一瞬遅れて、残りの2人も血を吹いて倒れる。

「私が目を離したすきに、逃げるべきだったな。」

男は観念したように、目を閉じながら体と頭が離れるのを待ちながら返してくる。

「おまえらが相手なら、どのみち死んでただろ。」

それを最後に、男の頭と体は永遠に出会うことはなくなった。

「まあね~。」

男たちの持っていた物資を回収しながら、妹が話さなくなった男に返す。エアリスにけががないことを確認して、私たちは今度こそ、家電量販店跡地を離れた。


 シーカー狩りを退けた後も私とお姉ちゃんは、出会うデブリを狩りながら旅してました。特に目的があるわけではないけど、地下に閉じこもるのは嫌だからね。

「そういえば、さっきの「翠刃」と「蒼天」って、私たちの称号かな?」

「もしそうなら、名乗る名前ができてありがたいな。」

「シルクリスっていう可愛い名前がついてるのに、お姉ちゃん名乗らないもんね。」

「変に親しみを持たれるのは、面倒だからな。無愛想なやつだと思われていれば、お前にちょっかいをかけるやつも減る。」

「お姉ちゃんは、もうちょっと人と…。」

言いけた言葉が止まる。私とってもいいもの見つけちゃった!

「どうした?…ああ、シェルターか。」

お姉ちゃんも、私の視線で気づいたみたい。そう、地下シェルターの入り口を見つけたのです。私たちは、地上で野宿することの方が多いし、それにも慣れてはいるけれど、お風呂に入れません。お姉ちゃん曰く、昔の人々は毎日お風呂に入っていたそうだけど、今の世界じゃお風呂はとっても貴重なのです。地上でも、雨を浴びることはできるけど、シェルターのお風呂は格別なんです。なんといっても、浴槽があるからね。

「ここのシェルターは泊めてくれるかな?」

言いながらも、既に私はお風呂に向かって歩きだしてます。

「シーカーとシーカー狩りを、全部一緒だと捉えるところも多いからな。」

お姉ちゃんの言う通り、地下シェルターは閉鎖空間なので、場所によってシーカーに対する態度も大きく違います。実際に、シーカーだからという理由だけで、中に入れてくれなったシェルターも多くありました。私は希望と諦め半々で、二重構造になっているシェルターの入り口をくぐって、奥のドアを叩きます。すると、扉が開いて30前後のお兄さんが出てきました。灰色のつなぎに、ゴーグル、頭にはバンダナといかにも技術者といった感じの風貌です。

「ケインじゃないのか。あんたら誰だ?」

お兄さんが普通の反応を見せます。何も言わずにドアを閉めたりしないあたり、このお兄さんは、話が分かりそうです。

「私たちは地上を旅してて、今日の休む場所にシェルターの中を使わせて欲しいんだけど…。」

「シーカーだろ。別にぼかさなくても、ここはシーカーは悪だ。絶対入れるな。みたいなとこじゃないさ。とは言っても、あんたらが人を狩る連中とは違うってとこを見せてもらう必要はある。」

「なにがあったら、シーカー狩りじゃないって分かってくれる?」

「普段なら、デブリを狩るとこを見せてもらうだけでいいんだが…。最近は、このシェルターの周りにデブリはいないしな。そっちに証明できる何かはないのか?」

「こっちが聞いてるんだけど?」

困ったなぁ。話の分かる人ではあるんだけどなぁ。何かないかなと思って、鞄をあさってると、不意にお姉ちゃんが口を開きました。

「「翠刃」と「蒼天」。」

それってさっきの…。

「えっ、あんたらまさか、あの「翠刃の葬送者」と「蒼天の閃光」なのか?」

お兄さんの食いつきはとっても良かったです。良すぎて、お姉ちゃんが若干引いてました。

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