【第2話(中編)】斬り放された両足と移転する幸福
僕と栗田さんは目の前で起きた事象を理解できず身体が固まっていた。
病室内で唯一ラファだけが、平然と無情に両足の機能を失った彼を冷たく見下ろしている。
「お前の両足をいただくと言っただろう。だから足の機能を剣で斬り落として奪ったんだ」
「はぁ!?ふざけんじゃねぇよ!俺の両足を返せ!」
「安心しろ。お前から奪った両足の機能は栗田の両足に移してやった。お前のおかげで栗田は自由に歩けるし走れるようになっているはずだ」
ラファは栗田さんに視線を送って行動を促した。
ベッドから出て立ってみろと。
栗田さんは困惑しながらもベッドからそっと足を出してつま先を床に触れてみる。
両足から伝わる硬くて無機質な床の感触に驚いているようだった。
足先から踵へと下ろし、それから膝に力を入れて彼女はゆっくりと立ち上がってみせる。
自身の両足にもたらされた奇跡に栗田さんは言葉が出ないまま歓喜の涙を流し、取り戻した感覚を噛みしめるようにその場を何度もジャンプした。
ありがとうと声を震わせながら、白髪の天使を抱きしめ、天使は慈しむように彼女の頭を優しく撫でた。
1人の奇跡と1人の悲劇。
自らの意志で悲劇を背負ったタケル君もまた、涙を流している。
それは自ら望んだ栗田さんの幸福に対する歓喜の涙ではなく、悲劇に見舞われた自身への悲嘆にくれる涙だった。
「…………返してくれ。俺の両足を返してくれ葉月。それは俺の両足なんだ。こんな言うことのきかない身体なんて嫌だ。サッカーができない、自転車に乗れない、自由に外を出ることもできない。こんな地獄はやっぱり嫌だ!」
タケル君は床に倒れ伏しながら栗田さんの両足にしがみつき、必死で訴えかける。
「お前自身が決めた覚悟だろう。まぁ、栗田が返してもいいと言うのなら剣を使って元に戻すこともできるが、どうする」
がしかし、栗田さんは先ほどまで流していた涙を拭いて花が咲いたような笑顔で言い放つ。
「絶対に返さない。だって私、タケルのこと好きじゃないし。タケルが一方的に好意を抱いて無償で譲ってくれたんだから今はもう私の物。返さなくちゃいけない道理はないよ」
タケル君は絶望のあまり言葉を失っていた。
当事者じゃない僕も栗田さんの言動に唖然とする。
当然の結果とばかりな顔をするラファと栗田さんの2人は、改めて労いと感謝の言葉を相互に交わして、栗田さんは看護師を呼びに病室を出て行った。
「葉月の両足をさっきの光の剣で無理にでも斬ってくれよ。さっきはちょっとした勢いで言っただけなんだ。発言を取り消したい。だから両足を返してくれ」
タケル君は縋るように訴えるが、無情にも天使は首を横に振るだけだった。




