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【第1話(後編)】両足粉砕とレモンの味

 目が醒めた後に僕を待ち受けていたのは2つの地獄。

 1つ目は鎮痛剤が切れた後に襲う両足への激痛。

 複雑骨折した両足は緊急手術により、あとは時間経過とリハビリで完治を待つのみなのだが、鎮痛剤の投与がなくなってからの日々は想像を絶するものだった。

 昼は何にも気を紛らわすことのできない苦しみ。

 夜は寝ることのできない苦しみ。

 鎮痛剤の追加を看護師さんに求めるも、愚かな過ちを戒めるためとして要求には応じてくれず。

 2つ目は飛び降り行為と未成年飲酒に関する追及。

 警察、医師、そして両親の3者に対する説明のための言い訳、話の辻褄を合わせるのは非常に苦慮した。

 ラファと太郎を巻き込むわけにはいかなかったからだ。

 結果として、僕は慣れない入院生活に耐えかねて明後日の方向に羽目を外し、近場のコンビニから缶ビールを万引き、病室で一気飲みして酔った末、ふざけて病室の窓から飛び降りたという説明でまとまった。

 自殺を心配していた両親はその理由を聞いて安堵すると同時に激怒。

 警察はやんちゃな中学生の大馬鹿な行為として厳重注意に留めてくれたものの、学校のクラス担当の先生にはきっちり報告されるそうで、学校に行きたくない指数が急上昇している。

 そんなゴタゴタがようやくひと段落し、車椅子の操作にも慣れ始めた頃にラファが僕の病室を訪れた。

 彼女の不機嫌そうなムスッとした表情は相変わらずで、いつも通りの彼女だなと思った。

 変化のない能面に亀裂を入れてやろうという意気込みはあったものの、課題クリアだけじゃまだ浅いらしい。


「課題クリアしたんですけどー」


 嫌味ったらしく心情をぶつけてみたが彼女は黙ったまま近づいてくる。

 え、マジで怒ってるの?なんで?

 むしろ賞賛されるべきなんですけど。

 周囲の視界を遮るように仕切り用のカーテンを引かれ、ベッドから上半身を起こした俺を静かに見下ろす。

 理由は不明だが容赦ない折檻が行われる予感。

 不機嫌……というかもはや睨んでいるとしか思えないラファの険しい視線に思わず目を逸らす。

 中空を漂わせた視線は少しの間仕切られた真っ白なカーテンを這ったが、彼女にぐっと肩を掴まれたことにより強制的に正面のラファへと引き戻される。

 殴られると咄嗟に思い、反射で目を瞑る。


「す、すいません」


 なんで僕が謝っているのか自分でもよく分からないがとにかくすいません。

 瞼を閉じて世界との間に薄い幕を下ろした。

 その時、唇に柔らかい何かが触れる感触がした。

 ぬめりとした生物が口先に入ってすぐに出ていく。

 口内に残るほのかなレモンの香り。

 飴玉……とは違う。

 目を開くと、ラファがさっと顔を引いたのをかすかに捉えた。

 彼女の美しい白髪は証拠と言わんばかりに僅かに揺れる。


「…………僕に何か仕掛けた?」


「……………………何も?」


「まさか僕の口にこっそり酒を入れたんじゃないか」


 急に頭が痺れてフワフワしてきた。

 アルコールの酔いの感覚に酷似している。


「そんな悪さをするわけがないだろう。…………彼女なんだから」


「え、なんて?」


 え?なんて言ったの?もう1回言って聞こえなかったから?

 サウナで脱水症状を起こした時の感覚。

 ほど良い眩暈の心地良さ。


「お、おい。ワタル、大丈夫か」


 ラファがティッシュで俺の鼻を拭うと、鼻血がついていた。

 まぁそんなことは取るに足らないことだ。

 ラファが今初めて僕の名を呼んでくれたことに比べれば。


「ラファも、もしかしてこっそりお酒を飲んできたんじゃないか」


「そんなことするわけがないだろう。馬鹿で無茶するのはワタルくらいのものだ。お前しかいないんだ」


 嘘ばっかりついてー、ラファもちょっと火照ってるくせにー。

 なんてあまりしつこく食い下がると折れた両足を蹴とばされそうだったので言うのはやめておいた。

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