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目の前の女の子を説明するだけの話

作者: ぽい

よくわからない内容。伝われワルツ。

1. 一緒に踊っている女の子を説明するだけの話


 私の目の前に女の子がいる。初めて会った知らない女の子。私は彼女の手を支えロンドを踊っている。身に覚えのない場所、聞き覚えのない曲、そして顔がはっきりしない他の踊り手たちと観客は私にここは夢だと教えてくれた。目の前の女の子は金色の髪をして青い目でこちらをみている。しかし、私より頭ひとつ低い彼女が私をずっとみていると首がつかれるのか、ときどき頭上のティアラと対面させる。私は状況を詳しく理解するために女の子に話しかけようと口を開ける。規則的なリズムを奏でる曲と人の話し声から、私ひとりの声で雰囲気を台無しにしないと理解しながらも、宝石のような女の子に話しかける緊張からわけのわからないことを言ってしまった。

「もしここが現実なら、私は人生の幸運を使い切ってしまったのでしょう。しかし、ここは都合のいい夢。よろしければあなたのことを教えてもらえませんか?」

目の前の女の子は私の言葉を聞き終えると微笑み返すだけで何も返事をしてくれない。曲が終わりかけなのかリズムが遅くなる。まわりの風景や人もかなりぼやけている。夢がもうすぐ終わる。記憶もあいまいになってきた。曲が終わり、私と女の子の足が止まる。女の子が私を肩の上から抱きしめ、私の視界を青くする。

「また現実でアイマショウ」



2. 現実の女の子を説明するだけの話


 私の目の前にLサイズのコーヒーが置かれている。仕事の休憩時間なので行きつけのコーヒー店でいつもの商品を買い、テラス席で飲んでいる。昨日の夢で出会った女の子が気になって仕事に集中できず、まだもやもやする頭をリセットするためだが、よほど気になるのかどれだけ飲んでも苦味を感じない。ふと店の入り口を見ると、ドレスを着た女の子がガラス戸に頭をぶつけてしゃがんでいた。私の服は仕事用だし周りも白いシャツに黒いスーツ、彼女だけが西洋の世界観から飛び出してきたようで、店員も対応に困っている。

「あれ?」

私は夢をみている?それとも女の子と一度どこかで会って忘れていたけれど、夢で思い出した?デジャブもありえる。店内からはおしゃれな音楽が聞こえるし、私は外国に旅行をしたことがない。女の子に意識を向けていると目が合った。こちらに指をさしている。店員は私の連れと理解したのか入り口から私のところに案内した。女の子は私の対面に座っている。昨日夢で見た女の子と同じ見た目をして、ティアラの代わりに真っ黒のちょうちょうで髪をまとめている。私は非現実的な状況に何も言えず、じっと見つめた。女の子が緊張した顔をして口を開ける。

「もしここが現実なら、私は人生の幸運を使い切ってしまったのでしょう。しかし、ここは都合のいい夢。よろしければあなたのことを教えてもらえませんか?」

私は理解した。これは試されているのだと。女の子が言葉を発したときに店内のおしゃれな音楽がだんだんと夢で聞いた曲に変わって、店員や客がダンスをしている。曲が終わるまでが女の子と話せる時間だろう。私は今自分に起きていることをできるだけ伝えるために口を開けようとした。

「言葉がことばがコトバが…コトバがコトバ…伝わるツタワルツ」

伝わらない、というか自由に話すことができない。私の口は勝手に動く。抵抗しようにも考えていることとができない。話すことをやめると口角が少し上がる。女の子の見開いた青い目から私の微笑みが見える。店内から聞こえる曲は中盤のすこし速いテンポになっている。店員や客の服が西洋風に変わっている。女の子の頭に飾りつけられたちょうちょうが極彩色のサナギに変わっている。

「理解しましたわ。ここはあなたの夢。あの知らない歌も服も風景も起きたら忘れる儚い蝶。でも中途半端に覚えているのはおつらいでしょうから」

女の子は席を立つと私の隣に来た。私より目線の高い彼女が顔を近づけてくる。


私は初めて同性の子からキスをされた。



3. 後処理


 極彩色のサナギが緑色の芋虫に変わる。主観の人間はだらりとテーブルにもたれかかる。西洋のドレスを着た少女は黒い液体に舌を付け顔をしかめる。

「もうすぐ、また会えますわ。その時にはもっと、言葉が…伝わる…こと…が」

芋虫が卵になった。

ラブからホラー

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