第11話
あれ、めっちゃウけてる。
「こんな笑ったの、久しぶり」
言いながら、ミサキの笑いはなおもエスカレートしていく。もはや爆笑だ
自分の顔を気にせずに破顔し、けらけらころころ。高笑いや引き笑いなど、おおよそ辞書に載ってるポジティブな笑い方を全て披露した後、妙にエロく吐息を洩らし、彼女の笑いはようやく収まった。
そして彼女は愉快げに毒を吐いた。
「そうだよね。なんかうるさく言ってくる奴らって臭いよね。きっと人を貶す言葉しか吐かないから口の中も汚くなっていくんだね」
いや、俺はそこまで言ってないけどね。
「いいね、あんたのさっきの言葉」
関係ない
それが何かの合言葉かのように、ミサキは心地よさそうに小さく口ずさんだ。
「そうだよ、あたしがどんな格好してようと関係ない。あたしの自由だ。勝手に気をつかったり珍獣扱いするなよな」
その溌溂とした荒い口調は、見えない誰かに吐き捨てているようだった。不遇な対応を押し付けてきた、誰かたちに。
それに、とミサキはいたずらっ子のような憎めない表情で続ける。
「あたしって、綺麗だし」
その言葉は一本の大樹のように堂々としており、確固たる自信が込められていた。さっきまで飛び降りようとしていた彼女はどこかへいってしまったかのようだ。
よく分からないが、俺は人を救ったってことでいいのだろうか。俺みたいな奴でも人助けって出来るんだな。何か気分いいや。
ミサキは「よっと」と軽快に手すりを乗り越えてこちら側に戻り、屈託のない笑顔を俺に向ける。
「ありがとね。何か吹っ切れたよ。あんた、キモいけど悪い奴じゃないね」
感謝もされた。悪口も言われてちょっと複雑な気分になるが、否定はできないからしょうがない。
まあ、俺も自分の能力について新発見があったし、全く釣果がなかったというわけではない。
おっぱいは揉めなかったけど、まあこういう日もあっていいか。今日は気持ちよく寝て明日からまた人のおっぱいたくさん見よ。
俺も充足感で胸いっぱいになり、お互い良い気分でさようならをしてこれにてお開き。そんな空気が、俺と彼女の間で流れている。
少なくとも、俺はそう思っていた。
が、ミサキは違ったようだ。
「あ、あとさ……」
彼女はおもむろに口を開き、後ろに手をやってモジモジとしだした。
俺の顔を見ては視線を逸らしを繰り返し、「えーっとね」「そのお」と意味のない言葉を洩らし、何かを言いあぐねている。
明らかに様子がおかしい。一体どうしたんだと思っていたら、おそるおそるといった感じでミサキはそれを口にした。
「あ、あんたになら……揉ませてもいいかも」
こいつ、とんでもないことを言い出しやがった。