8話
「この列って冒険者登録するだけの列なんじゃないのか? やけに人が並んでるんだけど」
「仕方ないわよ。だって冒険者登録だけの列じゃないもの。他にも色々な仕事を一緒にしてるの。冒険者ギルドの職員さんたちはみんな凄いのよ。仕事のできる人しかいないんだから」
「そ、そうなのか。すっげぇどうでもいい情報をありがとう。まぁ、俺は冒険者登録さえできて依頼を受けれるんだったら後は何でもいいんだけどな。すぐに列が進めばいいんだけどな」
俺は待つのが得意な方じゃないんだよ。遊園地とか行っても待ち時間が長いアトラクションは敬遠しちまうんだよな。だって、あれ待ち時間に対してアトラクションの時間が短すぎるだろ。そりゃ面白いかもしれないけどさ。明らかに割に合ってない気がするんだよ。
ひとまず、俺たちは列の最後尾に並んだ。
これで、後は時間が解決してくれる。俺としてはAランク冒険者様とやらの権力で順番を無視して一番前まで行かせてほしいところだが、後々のことを考えるとそんなことして目立つわけには行かないよな。俺だってこれからはこの町の冒険者として生きていくんだ。いらない騒ぎは避けておくに越したことはない。
「そういえば気になってたんだけど、冒険者登録するときの試験ってどんなもんなんだ? 簡単って言ってたからそれなりのもんなんだろうけどさ」
「水晶で能力値を調べるだけよ。一定のラインを超えてたらそれで試験はクリア。超えていなかった場合は別で試験をして適性を見ることになるわ。でも、貴方は自信があるのでしょう? 能力値が基準を超えてないなんてことはないわよね?」
「そんなもんなのか。俺の能力値が他人に見られてしまうのか……ビックリしすぎて腰抜かすなよ」
まさか、そんな単純なものだとは思わなかったな。これは試験って言っていいのか? 単にある程度の力を備えてる奴なら誰でも大歓迎ってことだよな。そんなに簡単でいいのかよ。冒険者は仮にも命がかかっている危険な仕事なんだろう? もう少し難しくしてふるいにかけたほうがいいんじゃないか?
「一つでも私の能力値を超えるようなことがあれば貴方はこの町で最強の駆け出し冒険者として認知されることになるでしょうね。そんなことになったらほかの冒険者たちが自信を無くしちゃうわ」
「だから俺のこと舐めんなって言ってんだろ。俺は男なんだぞ? 女に負けるはずないだろうが」
「あんたねぇ。男とか女以前に、レベルの差があるでしょ。私は52レベル、これでもこの町だとトップクラスのレベルなのよ。そもそも、初期の能力値からして次元が違うの。だから、私に勝とうなんてのは無理な話なのよ」
「はぁ、要するに天才ってわけか。俺はそんなレベルじゃないからな。もうすぐ明らかになることだし、色々いう必要はないな」
能力値がどれほどのものになっているか俺も正直楽しみだ。身体能力はぶっちぎっていること間違いなしなんだけど。ほかの能力値も相当凄いんだろうな。でも、頭が良くなったって気はしないから、そこだけちょっと心配だ。これで、知力的な数値だけ残念なことになってたらいい笑い者だ。そこに気が行かないくらい他がすんごいんだろうけど。
「参考までにどれくらいの数値が普通か教えてもらっててもいいか? こういうの初めてで想像できないんだよ」
「能力値はね、冒険者ランクと同じでSからFまでの評価とそれに合わせた数値で記載されるの。冒険者ランクはSまでしかないけど、こっちはSを超えてさらに上があるらしいわ。もちろん、Sランク冒険者ともなれば、いくつかの能力値がSを超えてるっていう話よ。私はまだSの数値が2つくらいしかないけどそれでも十分すごいんだからね」
「へぇ、それじゃあ俺はSは超えるんだろうなぁ。測定不能なんてつまらないことにならなきゃいいけど……」
「そんな数値見たことないから安心していいわ。水晶で確認できる能力値に上限があるなんて話聞いたこともないわ。それに、今まで能力値が測れなかったっていう前例もないわ」
それじゃあ、俺が一番にその称号を手に入れることになるんだな。それは光栄なことだな。
でも、あまりにも規格外の数値を叩きだしても面倒だし、ある程度くらいで抑えておきたいんだけど無理なんだろうな。能力値を隠すようなスキルがあればできたのかもしれないけど、折角だしありのままの数値を確かめておきたいという気もするなぁ。それに、これだけ大口叩いておいて能力値を隠してしょぼいものをお披露目するなんて恥ずかしい真似はできないな。
「もうそろそろじゃない? 登録は冒険者カードに名前をかくことで完了するわ。どう? 簡単でしょう? 能力値が低すぎて試験を受けないと行かないなんて面倒だからやめてよね」
「まじでいらん心配だ。俺がそんなことになるんだったらこの町の冒険者全員魔王よりも強いってことになるぞ。それはありえないだろ」
「どうして魔王が出てくるの? 確かに強さの表現としてこれ以上ない存在ではあるけど、あんたは自分が魔王と並ぶような実力とでもいうつもり? それは冗談にしても笑えないわ」
「冗談のつもりはないんだけどな。ほれ、順番が回ってきたみたいだぞ」
こうして俺たちの順番がやってきたのだった。