5話
地道に歩いている間に俺は思考を巡らせる。
町についてまず何をするべきか? 俺はこれから何をして生きていくのか? 能力はどんなもんが使えるんだろうか? 俺の頭の中で思いつくだけでも疑問は尽きない。
詳しい説明を聞かなくてもいいって言ってしまった俺にも非はあるだろうが、最初に省こうとしてきたじいさんのほうが重罪だよなぁ。俺のわかることなんて精々、ここが異世界ってだけなんだぞ。
「それにしても、体を動かしながら何かを考えるのって相当頭が働くなぁ。これなら、名案が浮かびそうな気がするぜ」
そんなことを呟いてみたものの、町に着くまでに名案と呼べるようなものは降りては来なかった。
まあ、わかってましたよ。そんな都合よくいい考えなんて思いつくようだったら、森を抜ける間に思いついてるはずだ。いまさら無様な真似はしねぇさ。男は潔く諦める。そして、祈るんだ。
何事もなく町の入口へついた俺はとりあえず手前で待機した。
ここで、通行証なんかを見せろって言われる可能性もゼロじゃないからな。これくらいの予想は俺にとってもそう難しいことじゃない。俺にしてみれば簡単なことだ。何か起きてから対応するようじゃまだまだだからな。起きる前から対処しておくことに意味があるんだ。
「そこの貴方。町を見上げて何を呆けているの? 見たところ荷物も持っていない様子だけど、もしかして魔物に襲われて命からがら逃げてきたとか?」
「え? もしかして俺のことか?」
「貴方以外に人なんていないでしょ。変な人がいたから声をかけてみただけなんだけど、私の思い過ごし?」
確かに町の入口でぼぉっとしている奴は怪しいかもしれない。
俺だって見かけたら近づきたいとは思えないな。しかし、この子はその俺に声をかけてくるなんてな、もしかしてイケメン過ぎる俺の顔に一目惚れしてしまったのか?
「悪い、今のところ誰かと付き合うとかいう考えはないんだ。諦めてくれ」
「何言ってるの? さっきまでしてた妄想の続き? 怪しすぎて自警団につきだそうか迷うレベルよ貴方」
聞くからに面倒そうなところに俺を連れて行こうとしているな。異世界に来ていきなり面倒ごとに巻き込まれるのはごめん被る。
俺としても、この町で平穏に暮らしたいんだ。まずは、その拠点と金を集まられる仕事を見つけなくちゃいけない。ほかのことに時間を割いている余裕はないんだよな。
「なぁ、俺金もってないんだけど、何か楽して稼ぐ方法ってないか? できれば、危険とかない仕事で」
「人生舐めすぎてない? そもそも、なんでお金持ってないの? 本当に魔物に襲われたわけ?」
「まあ、そんなところだ。なんせ俺も必死だったからな、あんまり覚えてないんだ。それで? 何かいい仕事を紹介してくれるとすげぇ助かるんだけど」
「楽して稼げるような仕事があればみんなその仕事しかしなくなるわよ。強そうにも見えないし、冒険者もダメでしょう? あとは、簡単なアルバイトくらいしかないんじゃない?」
ん? 何か聞き覚えのある単語が出てきたような気が……そうだ!! じいさんが言ってたじゃないか。魔物を討伐して生計を立てている冒険者っていう職業があるんだって。俺はチート能力を授かってるんだぞ。その辺の雑魚相手だったら遅れをとることもまずないだろうし、これは案外簡単に稼げてしまうんじゃないか?
「腕には少し自信があるんだ。是非、その冒険者ってのを紹介してくれないか?」
「でも貴方、魔物から逃げてきたんじゃないの? それで腕に自信があるって言われても信じられないわよ。悪いことは言わないから、冒険者はやめておいたほうがいいわ。私も自分で冒険者を紹介した人が魔物に殺されたら目覚めが悪いでしょ? 真面目に働いて生きていくといいわ」
「それじゃあダメなんだよ。俺は、魔王を討伐するっていう使命があるんだ。それを達成するためには冒険者として腕を磨くことが必要不可欠なんだ。この通りだ、俺を冒険者にしてくれ!!」
「私に頭を下げられても困るわよ。私も一応冒険者として活動はしているけど、誰かれ構わず冒険者にしてしまえるほどの権限は持ち合わせていないわ。まずは、冒険者ギルドに行って、登録を済ませるところからよ。そこで、簡単な試験があるからそれには合格しなくちゃいけないんだけどおちる人なんて滅多にいないから大丈夫よ」
ここで、俺が魔物から逃げてきたという設定が足を引っ張ることになろうとは。最悪だよ。無駄に変なこと言ったせいでこの子にも心配されてるじゃないか。
俺の真の実力を見ればきっとパーティーを組んでくださいって土下座で頼むことになるんだろうけど、わざわざ実力を披露して注目を浴びる必要もないしな。ここは、隠しておこう。そもそも、俺自身強化された身体能力以外はどうなってるかよくわかってねぇんだけどな。
「とりあえず、その冒険者ギルドに連れて行ってもらえないか? 試験におちたら諦めて真っ当に働くからそれでいいだろう?」
「わかったわ。やる気はあるみたいだし、私が止めるのもおかしな話よね。それでは、行きましょう」