4話
俺も最初の森だからって油断しちまったぜ。そう、ここは異世界だ。俺の常識が通用するわけがない。あんまり適当に生きてるとすぐにゲームオーバーだ。まだ生きていたいからな。魔物が出てくるより先に俺は戦い方と森から出る方法を見つけなくちゃいけない。
「しっかし、どっちに進めばいいかわかんぇよな。地図なんて当然持ってないし、俺の手持ちの情報じゃどっちに町があるかなんて絶対わからないぞ。さてと、どうしたもんかな」
いきなりしんどい状況に陥る。
これが異世界での洗礼か……俺はこんなことでへこたれたりしないぞ。これでも、折れない心には自信があるんだ。
とはいえ、この状況を改善する方法が思いついたりしたわけじゃない。これからどうしようか? なんとか方法を考えるんだ。
「こういう時は周囲を見渡して少しでも情報を手に入れとかないとな。おっと、あっちに何か見えたりは……しないな」
ぐるっと回転しながら周囲を見てみたが、見渡す限り木ばっかりだ。どこに町があるかなんてのは見当もつかない。これは俺のせいだというわけじゃないだろう。この異世界が悪い。元をたどればこんな森に俺を転生させたじいさんが悪い。
確かに簡単すぎるのは面白くないが、いきなり詰んでる状況なんて楽しめるほど俺も能天気じゃない。いや、この一見詰んでいるような状況もまだまだなんとかなるのかもしれない。大体、見知らぬ森に迷い込んだだけで終わりなほど俺はやわじゃないんだった。俺だって、何でもしようと思えばできるんだよ。そう、町にたどり着くぐらいのことは朝飯前だ。
ひとまず、当てもなく歩いてみることにした。
ここでじっとしておくのが一番よくないからな。じっとしてたところで状況はまったく変わらない。それならば、何か起きることにかけて移動したほうが絶対にいいだろうという考えだ。そもそも、最初からそうしておくべきだったんだ。時間がもったいないし、森を早く脱出しないといけないからな。
「今更ながら、この森誰か俺以外に人がいたりしないのかな。そしたら、一緒に町まで連れて行ってもらえばいいんだよな。まぁ、そんな都合のいいことあるわけないか」
この森がもしかしたら、道が通っていて旅の人々の通り道になっていれば俺以外に人は歩いていてもおかしくない。そうだよ、森の中にも整備された道があるかもしれない。それさえ見つければこっちのもんだ。道なりに進んでいればいずれ町につくはず、俺って天才かもしれないな。
「うぉぉぉーー!! 方法が見つかったらやる気がでてきたぜぇぇーー!!」
俺はその場を走って後にした。
幸いなことに、俺の脚力は相当強化されているようで目にも止まらない早さで森を駆け抜けている。もう、このまま道を発見できなかったとしても森の外まで出ていけそうだ。
「やっべぇ、俺の足超早くなってるぞ!! これなら、楽勝だぜ」
すさまじい成長にじいさんから貰った能力の凄さを実感する。
まさか足が早くなっただけのはずないからな。ほかの能力も底上げされてると見て間違いないだろう。
この調子なら、道なんて探す必要ねぇ。魔物と遭遇したとしても走って逃げられるレベルだ。こんな速さが出るなんてびっくりだ。足が早いってのはここまで便利だったのか。
シュルシュルと木の間を駆け抜け、俺は前へ前へと進んだ。
途中視界の端になにか移ったような気もしたが、俺の意識は森を出ることに集中していたのでよくわからなかった。
「おお、森の終わりが見えてきたぞ。これで、俺も安泰だぁぁ!!」
凄い勢いで森から飛び出た俺は急ブレーキをかけ、その場で停止した。
森から飛び出して、周囲を見渡すと、遠くのほうに壁に囲まれた町らしきものを発見した。
「間違いない、あれは町だ。なんで壁で囲われてるのかはわからないが町に違いない。ついに俺はやったぞ。異世界でも一人で生きていけるんだ、俺は自由だ!!」
もう町さえ発見してしまえば怖いもんはない。あとは、町を目指して進むだけ。もう魔物の恐怖に怯えることもないし、無駄に急ぐ必要もない。町につけば、俺の知らない情報も手に入るだろうしな。
適当に走ってみたが、まさかこんなにあっさり町が見つかるなんてな。俺はやっぱり天才だ。
「町まで走ってもいいけど、さっきまでの速度で走るわけにもいかないよな。俺以外の人間があんな人間やめてるような速度で走れるわけじゃないだろうしな。無駄に注目を集めても時間が無駄に消費されるだけだ。俺は魔王を討伐するという目的に一直線に進むだけだ。ほかのことに時間を取られてる場合じゃない」
考えた結果、ゆっくりと歩いて行くことにした。
走って時間を短縮するよりもその後の処理にかかる時間のほうが多そうだからな。俺は考えることもできるんだ。
肉眼でも見えるような距離だし、歩いてもそう時間はかからないだろう。
ちょっと時間は大目にかかってしまうが、俺はこっちのほうがいいという判断を下したんだ。俺が決めたことだし、最善に違いない。
歩いて向かうとしようじゃないか。