3話
「詳しい説明はする必要がないから省くが、新たな世界に行っても強く生きるんじゃぞ」
「ちょっと待ってくれ。詳しい説明は必要だからな。どう考えれば必要ないって判断になるんだよ。これから俺は見ず知らずの世界に行かされるんだぞ? 説明がなけりゃ何もわからんじゃねぇかよ。どうやって魔王を倒すんだ? そもそも、魔王ってどこにいるんだよ」
「そんなことわしに聞かれても知らんわ。それくらいのことは自分で何とかするのが当然のことじゃろうが。おぬしも大概自分に甘いようじゃのそのような状態ではいくらわしが力を授けたところで魔王を討伐することは叶わんぞ」
この爺さん人を自分の都合で異世界に転生させようってのにこの適当さはないだろ。
心の広い俺だから許されているところだが、これが一歩間違えれば大げんかに発展するレベルだ。
「魔王のことは自分で調べるのはギリギリ納得した。でも、異世界で俺が使っている言語はそのまま通じるのか? 金とかもどうすればいいんだよ? その辺の細かいところの説明を省かれちゃ死活問題だぞ」
「言葉はチート能力と一緒に読み書きを頭の中に刷り込むから安心するんじゃ。おぬしがいくら馬鹿でも慣れ親しんだ言語として意識することもなく読み書きできるようになるじゃろう。お金はわしから授かる能力でなんとかすれば良かろう。ほかのものは皆、冒険者という魔物を討伐して生計を立てている職業についておったぞ」
「そこは安心した。でも本当に大丈夫なのか? まだまだ考えれば不安なところなんて無数に出てきそうなもんだけど……」
「おぬしはこれから異世界で生きていくんじゃ。細かいところなんぞ気にする必要はない。強く生きていくんじゃ」
適当なこと言ってやがるが、とりあえず言葉さえ通じれば何とかなるかもしれないな。
このじいさんの言う通り、折角の二度目の人生なんだ。俺が好きなようにしていいじゃないか。じいさんから色々教えてもらって生きるなんて窮屈過ぎる。俺は俺の好きなように生きてやるぜ。
「おぬしには魔王討伐という任務が課せられるがそれ以外は基本的に自由じゃ。何をしようが構わんが、先ほども言った通り悪事はダメじゃぞ。わしが発見次第、地獄へ落としてやるからの。そこは気を付けるんじゃ、いくら強い力を手に入れたとしても今と変わらぬ清らかな心でいるのじゃ」
「俺も地獄に落ちたくないからな。好きにさせて貰うとするが、そこは気を付けとく」
「わしとの約束じゃぞ。それでは、もういいかの?」
「ああ、もう大丈夫だ。後は自分でなんとかする」
「それでは、さらばじゃ。おぬしが魔王を討伐することを祈っておるぞ」
「なんじゃここ……」
俺の視界に入ってきたのは圧倒的な森だった。
気が付けば、森の中につっ立っていたという謎の状況だった。
「森の中からスタートってなんか安直だよな。町の中とかだったら最高だったんだけど、それじゃあ、ちょっと味気ないもんな。無駄に手間がかかるのもめんどくさいけど、これくらいはまあいいだろう」
森の中にも魔物とやらは生息しているかもしれない。
というか、俺じいさんからチート能力を授かったんだよな……そんなことしたっけ? 大丈夫だよな? 俺にチート能力を授け忘れたとかそんなしょうもないおちないよな?
いやいや、冷静になろう。確かにそんなことしていた感じはまったくしなかったけど、きっと転生させるタイミングでやってたはずだ。だから、俺が気が付いていないだけだ。これで、チート能力を授けてもらってないなんて笑えなさすぎるもんな。
「なんか弱い魔物でも出てきてくれないかな。そしたら、俺の力を試せるんだけど……チート能力って一体どんな力なんだ? 身体能力とかも向上していそうだけどそれだけじゃないよな。もっと、色々あるはずだ。そうじゃないとチートなんて大それたこと言わないだろ」
俺が思っているよりも今の俺は強いはずだ。
俺だって魔王を討伐するために異世界から転生してきた最強の存在なんだ。そもそも、魔王だってとんでもない強さなんだろう? だったら、それを討伐する俺はそれ以上に強い力を持っていないと話にならないじゃないか。
これは、相当期待してよさそうだな。魔王討伐を成す、勇者。今の俺がまさにそれだ。
森の中にも関わらずテンションが上がってしまう。俺の力がどんなもんか試さずにはいられなくなってきたな。どうしたものか。適当に力を使ってみてもいいが、誰かを巻き込んじまったりしたら俺は地獄行きだからな。そういうところは慎重にならざる負えないな。
「ほんと、魔物が出てくりゃ一発で解決なんだけどな。もっとも、力の使い方がわからないから下手すりゃ俺がやられちまうんだけどな」
よく考えてみると、力の使い方がわからないじゃねぇか。
もしかして、大分まずい状況なんじゃないか? 俺は具体的にどう強くなってるんだ? パッと思いつくのなんて身体能力しかないよな?
「やっぱり魔物が出てくるのはまだ待ってもらおう。こっちにも準備ってもんはあるもんな。いきなり出てこられても俺も相手できねぇよ。それより、ここから早く脱出しよう。いつ魔物が出てくるかわかったもんじゃない」