2話
「もうそろそろわしの話に入らせてもらってもよいじゃろうか? おぬしも自分がどのようにして死んだのか十分に理解したじゃろう?」
「いや、おかしい。俺はただの公園を秘密の場所とか抜かして入り浸っていたって言うのかよ。意味わからんくらいあほじゃねぇかよ」
「その話はもういいじゃろう。わしはおぬしを異世界に転生させんと行かんのじゃよ。だから、こっちの話を聞いてくれんかのぉ」
異世界に転生以前に俺の行いのやばさが際立ってしまっている。
俺はなんて馬鹿なことをしてたんだ。どう考えても普通の公園を秘密の場所なんて判断にはならないだろうが。やばい、恥ずかしすぎる。しかも、いつもけもの道を進んでたってのに、整備された道が合っただと? もうやばいって。
「もうよいの、わしの話に入らせてもらうぞい。死んだばかりじゃがおぬしには異世界に転生してもらうことになったのじゃ。わしが決めたわけじゃないから、純粋にラッキーとでも思っておればいいじゃろう。実に100万分の1ほどの確率を引き当てたんじゃからの。とんでもない豪運じゃよ」
「その話は今はいいんだよ。俺が気になってるのはどうして俺がこんなバカな真似をしてしまったかという一点についてだ。じいさんもおかしいと思うだろう? じいさんの話が真実なんだとすればとんでもない間抜けを晒していたことになるんだぞ。それも何十年もの間ずっと」
「何十年というがのぉ。精々10年じゃないか。気にする必要もないぞ。わし以外の誰にもバレていなことじゃ。いくら馬鹿な真似をした誰にも知られておらんのじゃったら何の問題にもならんじゃろう?」
「じいさんに知られてんじゃんか。しかも俺は知らなかったことを暴露されたしな。どうやってこれから先の人生を生きていけばいいんだよ。もう恥ずかしくて生きていけねぇよ」
じいさんにしかバレなれてないとかとてつもなく些細な問題だ。誰かにばれている時点で俺の羞恥心は発生してるんだよ。あぁ、最悪だよ。
しかし、こんなことばかり考えているわけにもいかないんだよな。異世界に転生させてもらえるってことになってるんだもん。そっちも相当一大事だろ。恥ずかしがってばっかりじゃいけないな。
「わかった。なんとか羞恥心を抑え込んでみせる。じいさんの話を聞かせてくれ」
「おお、やっとわしの話を聞く気になったかの。無駄に待たせおってからに、それでは本題に入って行くとするかのぉ。まずおぬしは自分が死んだということは既に自覚しておるの?」
「ああ、転げ落ちた記憶が鮮明に残ってる。すっげぇ痛かったからな。とんでもない体験をしてしまったぜ」
正直、二度と経験したくないな。あんな激痛が走りながら転げまわるなんて勘弁だ。
俺は死んでしまったんだよな。それで転生って話が出てきたわけか。
「1段階目はクリアじゃな。おぬしは死んだのじゃから、この生と死の狭間の世界に訪れておるのじゃよ。正確にはまだ完全に死んだわけではないが、そこは気にしなくてもいいからの。それよりも大事なのはおぬしにはこれから異世界に転生してもらうということじゃ」
「なんで俺は異世界に転生しなくちゃいけないんだ? そのまま生き返らせてくれたほうが嬉しいんだけど」
「おぬしはもう一度同じ人生を送りたいというわけじゃな。すまんが、それはできないんじゃよ。詳しく話はできんが、そういうことじゃと思って納得してくれるとありがたいの。まぁ、どんなにごねられたところでできんもんはできんのじゃけどな。
転生とか言っていた時点でなんとなく察してはいたがやっぱりか。
カブトムシを乱獲する人生にはもう戻れないのか……すこし寂しいな。
「別に構わないよ。俺は転生して新しい人生を送ろうが、元の世界に戻ろうが特に気にしない」
「お? 潔いの。わしはそっちの方が楽じゃから一向に構わん。それでは、具体的に異世界に転生して何をしてもらうかという話じゃが。おぬしには魔王を討伐してもらいたいんじゃ。異世界の魔王じゃよ」
「魔王ってなんだ? 何かの王様か?」
「その名の通り魔族の王じゃよ。人間と敵対している存在じゃな。最近のこの世界では人間と魔族のパワーバランスが崩壊しかけておってのぉ。そこで、おぬしのような異世界からの転生者を派遣するというわけじゃ。どうしても、わしが世界に直接干渉するわけには行かんからのぉ。苦肉の策というわけじゃ」
カブトムシを取る人生から魔王を討伐する人生にランクアップか。
凄い進歩だな。まあ、足を滑らせて死ぬような俺には到底成し遂げることができない無理な話だな。
「残念ながら、期待に答えられそうにないな。他を当たってくれと言いたいところだが、そうした場合は俺はこのまま死んでしまうのか?」
「その通りじゃ。おぬしは折角の大チャンスを無為にしようというのじゃな? もちろん、その場合はただ死ぬだけじゃ。二度とおぬしという自我がこの世に目覚めることはできなくなるのぉ」
「ちょっと待ってくれ。やっぱり俺がなんとかしよう。もしかしたら奇跡的に魔王を討伐できるかもしれないもんな。地道に修行でもしてみるさ」
「そんなことしても魔王には勝てんぞ。じゃから、おぬしにはわしから魔王を討伐できる力を授けることになるのじゃよ。とてつもなく強力な力じゃ。もし悪用なんぞしようものなら、容赦なく死後の世界へ強制送還するから覚悟するんじゃぞ」
「しないから、自分から死にたいと思わない限りそんなことしないって。そっか、俺が修行しなくてもその力さえあれば魔王討伐が叶うってことだな。無駄に覚悟を決めてたけど、良かったぜ」
これなら、俺でも魔王討伐が可能になるかもしれない。
張り切って行こうか。