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1話

「足が滑ったぁぁぁーーー!!!」


 ゴロゴロゴロゴロ。


 俺は急こう配の坂を転がる。

 なぜこんな坂を歩いているのかというと、この坂を超えた先によくカブトムシが取れるスポットがあるのだ。毎年お世話になっている知る人ぞ知る秘密の場所。ほかの人に知られてしまうと俺がとるカブトムシがいなくなっちゃうからな。


「いてぇ!! いってぇぇ!!!」


 勢いはとどまることを知らず、けもの道を転がり続ける。

 途中木や石にぶつかり、俺の意識はだんだんと薄れていく。

 このままじゃまずい、俺は微かに残った意識の中でそう思った。もう手遅れかもしれないが、まだ俺は助かるはずだ。ここで止まれれば、病院に言って無事生還だ。怪我だって病院に行けばすぐに治る。俺のかかりつけ医は天才だからな。地元の名医だ。俺の花粉症もおかげで完治している。あれはマジで感動したな。うっ、やばい……意識が……。






「ここはどこだ?」


 俺は不思議な空間で目を覚ました。

 ソファーで眠ってしまったみたいだ。しかし、ソファーもこの場所も俺の記憶の中にはない場所だ。


「そうじゃの、ここは一言で言えばおぬしの生きておった世界と死後の世界の狭間じゃ。まだおぬしは完全に死んではおらんというわけじゃよ」


 目の前に座っていたじいさんが突然しゃべりだした。

 いや、俺も今気が付いたんだが、俺の向かいにあるソファーに腰掛けているじいさんがいた。


「じいさん誰だ?」


「それも当然疑問に思うことじゃろうな。わしは神じゃよ。おぬしの生きておった地球を含めた宇宙の管理者といったところじゃな。神に会うことができる人間なんぞ、そうそうおらんのじゃからな。おぬしは自分の幸運をかみしめたほうがいいぞい」


 俺の質問にすぐに回答してくれるところを見ると、いいじいさんのようだな。

 いじわるじいさんだったらこう素直に教えてくれることはないだろう。適当なことを言って誤魔化されるか嘘をつかれて終わりだ。まだ、このじいさんを信じることができるか判断することはできないが、なんてったって神様だからな。疑うことなんてできねぇよ。


「確か俺はカブトムシを取りに行っていた気がするんだが……」


「その通りじゃ。おぬしはカブトムシを取りに向かう途中、足を滑らせ山の麓まで転げて行ってしまったのじゃ。あまりの転げようにもはや見ていて痛快じゃったぞ。なかなかのセンスを持っておるのぉ」


「そうだ、俺は足を滑らせたんだ。え? でも俺はあの程度の怪我で死ぬほど軟じゃないはずだ。どうしてこんなことになるんだよ」


「おぬしが山の麓まで落ちてきたころには体に無事な箇所がないほどに傷だらけじゃったぞい。山の麓につくまでに絶命しておったしのぉ。それほどの大怪我じゃったんじゃ」


 嘘だろ、俺は何十年と通った山で間抜けにも足を滑らせて死んだって言うのかよ。

 そんなわけわからん凡ミスをするなんてそれは俺じゃない。そもそも、俺は本当に足を滑らせたのか? 誰かの策略にはまって命を奪われたんじゃないのか? あの、カブトムシパラダイスを独り占めするために俺は殺されたんだ。そうじゃないと、納得できない。


「それで? 犯人は捕まったのか?」


「いきなり何の話じゃ? おぬしが生きておった時の未解決事件の話ならばあれは未来永劫解決することはないぞ。それほどまでに犯人は天才じゃったんじゃよ。わしも神様パワーがなければ犯人の正体にたどり着けんじゃったろうしの」


「そんなどうでもいい話してないって。俺を殺した犯人のことを言ってるんだ」


「おぬしを殺したじゃと? おぬしは自分で足を滑らせて死んだだけじゃろうに、どこに犯人なんぞ存在するのじゃ? それこそ、犯人なんて見つかるはずもないじゃろう」


 嘘だ。俺が足を滑らせて死ぬなんて無様な真似を晒すわけがないんだ。

 こんな事実は受け止めきれない。だって、カブトムシを取りにいく最中だったんだぞ? 俺があの山で命を落とすなんて、魚が海で溺れるくらいありえない話だ。


「死んだことをすぐに信じられない気持ちはわかるんじゃが、おぬしも思い出しておるじゃろう? 誰がどう見ても自分で足を滑らせてしまっただけじゃろうに」


「あの瞬間俺以外の人間が近くにいなかったという証拠でもあるんですか? 俺を罠にはめた犯人がいないと断言できるんですか?」


「なんじゃいきなり敬語になりおって。わしの凄さを理解したのじゃったら少し遅いぞい。わしは神なのじゃから最初から最大限敬うべき存在なのじゃ。じゃが、何をどうしようともあの山にいた人間はおぬし一人じゃったぞ。半径1キロどころか数キロ範囲に人っ子一人いなかったんじゃ。それがどうして他殺などという話になるんじゃよ」


「本当なんですね? 俺は足を滑らせたあほなんですね?」


「あほかどうかはわからんがの、足を滑らせたのは覆すことのできない真実じゃ。そもそも、無理に近道をしようなんて考えるのが間違いじゃったんじゃよ。整備された道から行けばこんな事故も起きんかったじゃろうしの」


「あの場所に行くのにほかの道なんてありませんよ。俺が何十年通ったと思ってるんですか? あの場所に一番詳しいのは俺です」


「ただの公園じゃろう。おぬしはたまたま人と出くわさなかっただけじゃぞ?」


「そんな、馬鹿な……」

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