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瑠璃の焔  作者: 御守
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003_絶望

部屋を抜け出し施設を出て、すぐ傍にあった路地裏で身を潜める。放送で流れた"北部"は路地裏を奥に進めば着きそうだ。

「音がしていたのはこの先…かな?」

「いや、もう少し西側だったような…まぁ、とりあえずこの道を真っすぐ進んでみるか。」

「そうだね。」

道なりに沿って進んでいくと、だんだん煙たくなり視界が徐々に遮られ見づらくなるが、光が射しこみ明るくなる。どうやら大通りに出たようだ。建物の陰に隠れて様子を窺う。…普段は賑やかであろう大通りは静かで、壊れた車から火が上がっている。店の窓は割られ、血痕が残っているもののその出所は無かった。

「うわぁ…凄いことになってる…。」

「っ…セシル、大丈夫か?」

「う、うん…私は大丈夫…。」

火が視界に入った時、少し震えていたらしくジョゼフが心配そうに此方を見る。…あれから火は克服したつもりだったけれど、まだ少し恐怖心が残っていたみたいだ。と、私と同じように周囲を見ていたリョウが「うん?」と声を上げた。

「どうしたの、リョウ?疑問に思ったような声を出して。」

「あ、いや、おかしいなって…。」

「おかしいって言うと、何がだ?」


「…血痕が沢山残ってるのに、体が残ってないのはおかしいなって。たとえ潰されたりとかみじん切りにされても、少なくとも肉塊の1つや2つ残ってる筈なのに。」


そう言った瞬間、すぐそこで爆発音が轟く。身を縮め、そっと音のした方へ目を向ける。音の発生源は火が上がっていた車で、周囲に土埃が舞っている。車が爆発した…というより、何かが車に叩き付けられて土埃が舞い上げられたように感じる。

「な、何…?」

「…静かに。」

土埃が晴れると、そこには四肢に黄色の千切れた糸がついた男性がいた。いや、男性というより…男型の人形、といったところか。四肢のつなぎ目から赤い綿が飛び出している。

「…人形?」

「趣味が悪い…。でも、なんでそんなものが…。」

嫌な予感がするな、と更に身を縮こまらせた、その時。何かが人形の頭部に当たった。遅れて銃声が響く。再び、銃声。

「今度は何?!別勢力の敵?!」

「…いや、ノエルさん達だよ。」

いつの間にか単眼鏡を取り出して視ていたリョウが言う。貸してもらい、指示されたビルの屋上を見るとノエルさんが大きな銃を構えて撃っていた。慣れた手つきで素早く弾を装填して撃つ様はとても格好いい。

「うわぁ…凄い…!」

「あ、セシルだけずるい!私も見せて!」

すぐさまモデスタは私の手から単眼鏡を奪い取り、どこだと探し回っている。と、目の前に何かが叩き付けられて再び土埃が舞った。吸わないように口を手で多い、目を細める。徐々に土埃が晴れていくにつれ、小さな影が浮かび上がり、声が徐々に響いていく。

「ふふ…あはは、あははははははは!!」


そこに居たのは、あの時の少女だった。

「あ…。」

「まずい、隠れて!」

どうしよう、腰が抜けて、動けない。

「セシル、速く!」

「おい、セシル!」

あの子は、私の、親の仇。だけど、今は、逃げないと。

「はは…?」

少女と、目が合った。途端に少女は口元に一層の笑みを浮かべ、手を首に向け近づいてくる。嫌だ、死にたくない。

「い、嫌…!」

「セシル!」


「駄目…!」

さっきまで身を隠していたモデスタが横に突き飛ばし、一緒に倒れ込んだ。少女は一瞬キョトンとさせたが直ぐに笑みを戻し、私ではなくモデスタの首を掴み──


──容赦なく、首の骨を折った。


「あ…あぁ…。」

悲鳴を上げず、私の上で力なくモデスタは倒れた。次に私の首を折らんと手を伸ばす、がその腕は途中で止まり、一瞬後ろを見て此方を名残惜しい表情を浮かべて走り去っていった。

「モデ、スタ…?」

大事な幼馴染からの返事はなく、絶望で目の前が真っ暗になった。


* * *


「…。」

さて、どうするか。温室育ちで世間知らずのお嬢様に、幼馴染の死を目の前で目撃させて現実を知らしめたものの、このままでは利用価値を見出せるとは言い難い。下手に放置すると鬱になって使い物にならないし、このまま強行して働かせても良いが今の状態では開花は厳しいだろう。

「うーん、どうしたものか。」

「…アナタがナヤむなんてメズラしいですねェ。アシタはユキでもフりますかね。」

「そんなに珍しい事でも無いよ、普段表に出さないだけで。」

合流地点に到着し、シリルが怪我人の手当てをしながら此方を見る。と、ノエルがビルから飛び降りて目の前に現れ詰め寄ってくる。

「で、あの子達どうなったの?全員生存END?」

「いや、1人死亡。前言ってた子、セシリアを庇って首をポキッと。」

「あちゃ~神経やられちゃったか~。流石のシリルでも、ああなっちゃったら治療は出来ないし…。」

「ハイりたてのシンイりですからソセイホケンにもカニュウしていないでしょうし、あのキンガクをヨウイデキるとはオモえないですねぇ。」

「1年間の猶予はあれど、諦めてくれるとあの子の為にはなると思うけどね。ただ…」

「ただ?」

「このままだと開花は厳しい。心の傷はそう簡単に癒えるものでもないし。」

「うーん…となるとカウンセリングがいるかなぁ。…シリルちゃーん?」

「はぁ…ワタシはシンイりはニガテなんですよ。…まぁ、ヨウスをみてヨウハンダンってところですかね。」

「そっかぁ…まぁ、最悪人事とか経理の戦闘少なめの課に入っても良いけど…。」

「…もしかしてセシリアを自分の後輩にしたいの?」

「バレちったか。ま、まぁ…本人の意思第1だから!ねっ!」

「マッタく…アナタってヒトは。」

「強欲だなぁ…。」

と、ノエルの左腕のポケットに入れられた無線から連絡が入る。

『こちら、カーティスとガリーナ。"黄色の演劇"が区画外に出たのを確認、どうぞ』

「了解、撤退し本部にて合流、どうぞ』

『了解、以上。』

「…にしてもリュウ君、アレ追っかけなくても良いの?地味に今回被害出ちゃったけど。」

「いいの。アレはセシリアに狩ってもらう。両親の仇討になるし、上手く行けば冠色に至れるだろうし。」

「…カタヅけオわりました、ハヤくホンブにモドりますよ。」

「はいはい、シリルちゃん。」

「…はぁ…。」

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