第五章 十六 エマの反応
輝はお腹の痛みは和らいだ。あれほど動けなかった事が嘘のようだ。周囲を見回した。特に変わった風景でもない。
エマはまだ戻って来ない。
逃げたか?
そんな事はない。それならお金は受け取らず、去って行ったはずだ。
エマと会話が出来るかと思うと、ワクワクとドキドキが混同して、ぶっ倒れそうだ。
ふと、輝の視界が一点に止まった。
エマの帰りが待ち遠しいのに、学校の前でまたしても女子中学生がマンホールを眺めている。
そう言えば、エマもマンホールを気にしていたような気がした。
何かあるのか?
輝は退屈しのぎにマンホールを確認する事にした。
女子中学生はいつの間にか、小学校の校門に向かっていた。
輝は気にする事なく、マンホールの蓋を見た。
「あれ、どこにでもあるやつじゃないか」
マンホールの蓋の模様が個性的ではないかと想像した。
普通。
何もないのだ。
眺める理由がない。
輝はマンホールの前で腕を組み、考え込んでいた。
答えが出るはずもなく、固まったままだ。
「もう、大丈夫なんですか?」
「えっ?」
輝は驚いた。そして、声のする方向にエマがいた。
「これ……」
エマは清涼飲料水を突き出した。
「ありがとうございます……」
ゆっくりと清涼飲料水を受け取った。商品のラベルにはエマの顔がプリントされていた。輝は気がつかない振りをした。
「お釣り……」
エマは手早かった。
輝はつられて、手を出した。硬貨の重みが伝わり、その後にエマの手が触れた。そのまま握っていたかった。
そんな事は出来るはずもなかった。
気がつけばエマの後頭部を輝は見つめていた。
「あの……」
輝はエマと会話がしたくて、呼び止めた。
「はい、何でしょう?」
エマは立ち止まり、振り返った。
「あの……」
輝は緊張した。同じ言葉を繰り返していたので、エマの顔が曇った。
「それでは……」
エマは輝に不信感を抱き、退こうとしている。
まずい。
「マンホールをなぜ、見ていたのですか?」
ようやく言葉を発する事が出来た。エマの顔を見なければ、普通に話せる。やはり、トップアイドルはオーラーが違う。
「それは……」
エマがゆっくりと振り返った。
「見ていたんですね」
輝はエマを直視しないで、話した。
「そうですね……」
歯切れが悪い。
「もしかして、何かとんでもない事でもあるのですか?」
輝は必死だった。エマはマンホールに何か隠し事があるような気がした。これも心霊スポット巡りをした経験から、非科学的な事は簡単に話したがらない。
「……」
エマは黙って下を向いた。
「霊でもでるのですか?」
「……」
「それとも奇妙な事でも起こるのですか?」
「……」
「何があるのですか? 実は不思議な事に詳しいんですよ」
エマは顔を上げた。何か言う決心がついたのだろう。
「カエルを持ってくれば何でも夢をかなえてもらえると、聞いたので……」
「カエル? えっ、カエルってあのゲコゲコ鳴くカエルですよね?」
「そうです!」
輝は正直困惑していた。オカルト系を想像していただけに、腰砕けだ。笑いたいのを我慢した。エマは真剣な眼差しをしていたからだ。
「それじゃ、一緒にさがしましょうか?」
「ええ? まぁ……」
エマの反応は拒否しているようでもあった。
「見つけたらカエルを差し上げます」
「それなら……」
エマは迷っているようでもあったので、輝が強引さに負けたようだ。それにカエルを捕まえるのはエマは苦手のようなので、渡りに船のようだ。
輝は下を向いて満面の笑みを浮かべた。側から見たら気持ちが悪い表情かもしれないし、エマに逃げられないようにするためだ。




