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マンホールの怪物  作者: 小石沢英一
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第五章 九 小学校へ

 先頭は流都で留樹緒が虫かごにカエルを入れて学校に向かっていた。

 

 りりかと人太に出くわしたら、留樹緒が一目散に逃げられるような態勢だ。人太なら流都が足止めを出来るだろう。相手は小学生なのだ。

 

 これほど学校までの道のりが緊張するとは流都も留樹緒も感じた事がない。前方はもちろんの事、後方も時々見ながらでは疲労感が増すばかりだ。

 

校門まで僅かの距離に迫っていた。

 

 次の角を曲がれば校門だ。

 

「流都、どうして立ち止まったの?」

 

 予告なしに流都が止まったので、留樹緒はぶつかりそうになった。

 

「りりかにメールする」

 

 流都はスマホを出して、『どこにいる?』と、送信した。

 

 しばらく待った。

 

 その間も留樹緒は人太が現れないか注意していたので、首を左右に振りっぱなしだった。

 

「返事は?」

 

 留樹緒は流都をじっと見た。周囲を警戒しているので、首を動かしぱなしだ。

 

「まだこない……」

 

 流都はスマホをずっと見つめていた。

 

「返事、こないの?」


 留樹緒は疲れたので、早く校舎に入りたいのだ。

 

「そんな事はない……そうだな。それじゃ行くか」

 

 流都は歩き出した。


「ちょっと待って!」

 

 留樹緒は急に大きな声を出し、流都は立ち止まった。

 

「何だ?」

 

 流都は首だけ動かし振り返り、留樹緒を見た。真顔だ。

 

「わざわざ、校門から入らなくてもいいんじゃないの?」

 

「それもそうだな……」

 

「それに校門の前にはマンホールがあるんだよ。そこにカエルが入ったら大変な事になるよ」

 

「そうだな……」

 

 流都は留樹緒に言われるまで、気がつかなくて、恥ずかしくなった。相手が小学生だからなおさらだ。

 

 校門にりりかが待っているのかは確認していない。スマホに返信もないので、いないのかもしれないが警戒はしていた。

 

 校庭はネットで覆われている。到底入れない。

 

「流都、こっち」

 

 と、留樹緒は言って、校門とは反対の方に走り出した。

 

「そうか!」

 

 流都もこの学校に数年前まで通っていたので、留樹緒がどこに行くすぐにわかった。

 

 校門の反対側にも門があった。

 

 留樹緒も流都も息を切らしていた。走ったからである。

 

 反対側の門はもちろん閉まっていた。施錠(せじょう)までしてあるので、開くはずがない。


「これ持ってて」

 

 留樹緒は虫かごを流都に渡した。扉の高さが低いので、高学年の留樹緒でも容易に乗り越える事が出来るのだ。

 

 先に留樹緒が門を乗り越えた。

 

「そう言う事か」

 

 流都は独り言で納得したようだ。虫かごを門の扉越しに留樹緒に渡した。すぐに扉を乗り越えた。

 

 これで校舎に入れる。手間取ったが、りりかに会わずに済んだ。

 

「おーい、ちょっと……」

 

 流都は留樹緒を呼び止めたが、走って先に行ってしまった。

 

 校舎に入るには下駄箱のある正門にいかなければならない。りりかが校内で待っていれば入れないのだ。簡単に喜んでいられない。

 

 流都は迷った。しかし、他に選択肢がないので、下駄箱に向かった。

 

 虫かごは留樹緒が持っていたので、りりかが校門の前で待っていても、カエルは気がつかないだろう。

 

 問題は人太だ。流都は小学生なら何とかなると、高を(くく)っていた。

 

 流都は慎重に歩いた。

 

 下駄箱付近だ。この場所から数メートル歩けば校門が見えるので、りりかがいるか確認出来る。


 足早に移動した。

 

 いなかった。

 

 流都は安心した。しかし、りりかはどこに行ったのか?

 

 連絡が取れないだけに、不気味だ。もしかして真後ろにいるのではないかと、疑心暗鬼に陥る。


 そう考えるだけで、後ろにいる気がした。

 

 流都は立ち止まった。

 

 振り返れば済む事だ。

 

 いない。

 

 はずだ。

 

 耳から入ってくる情報に気配など感じられない。しかしそれは一、二メートルくらいで、もっと離れていればわからない。

 

 それなら前に進むだけだ。しかし、一歩が出ない。

 

 流都はゆっくりと振り返った。りりかがいた場合を想定し、身体は九十度だけ回転し、顔を背後が見える位置に動かした。カニ歩きならいつでも逃げられる体勢だ。

 

 キョロキョロと背後を伺う。まるで不審者のようにだ。

 

「何だ、いないか」

 

 流都は背後にいない事で安心し、前に向き直って、歩いた。もう、正門が見えた。外のマンホールがある場所にも誰もいない。

 

 第一関門の下駄箱に着いた。

 

 留樹緒はいない。

 

 どこに行った?

 

 教室?

 

 佐村先生に会うのだから、職員室が妥当だろう。

 

 流都は靴を脱ぎ、靴下の状態で廊下に右足を下ろした。

 

「どこ?」

 

 と、いきなり声が聞こえた。


 流都は聞き覚えがあった。片足だけ、廊下に足を置いた状態で、逃げるにしても靴を履かなくてはならない。

 

 どうする?

 

 声は校内からだ。

 

 流都はゆっくりと顔を上げた。

 

 予想通り、目の前にいるのはりりかだった。無表情だが、笑っていないのは確かだ。

 

「何が?」

 

 と、流都はとぼけた。今はそれが一番の解決策だ。他に思い浮かばなかった。

 

「はっ?」

 

 りりかは明らかに不機嫌だ。それにもう一つ気がついた事がある。校内にいるのにりりかはスリッパを履いていない。

 

 違和感を覚える。

 

 スリッパの場所は知っているはずだ。

 

 やはり別人か。

 

「そう、そう、途中で虫かごを落として、カエルは逃げられたんだ」

 

「本当かよ?」

 

 りりかは横暴な口ぶりだ。

 

「だから、一緒にさがそう。さあ、行こう」

 

 留樹緒が持っているカエルはりりかには見つかっていないようだ。だから、流都はりりかを校内から遠ざける事にした。

 

 りりかは靴を履いた。


「さあ、行こう」


 と、流都はりりかの腕を掴み、強引に校門の前まで連れて来た。

 

「どこで落とした?」

 

 相変わらず、りりかはぶっきらぼうで、無表情だ。

 

「こっちをさがすからそっちをさがして」

 

 流都は公園の方は指し、出来るだけ遠ざけようとした。

 

 りりかは黙って歩いた。さがしてくれるのだろう。

 

 流都はりりかが振り返らないうちに校内に戻った。

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