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マンホールの怪物  作者: 小石沢英一
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第五章 八 無表情な

 通勤ラッシュの時間帯を避け、電車内は空席もあり、輝は座席に腰を下ろした。晴天にも恵まれ、車窓を楽しんでいた。周囲から見れば気楽な旅行者にしか見えない。それ以外の事を想像する人がいるのだろうか。

 

 いるわけがない。

 

 

 レンタカーを前回同様に枝分かれの道で停めた。

 

 再び、現場に戻った。

 

 撮影が出来ない事は確認済みだ。山の麓は圏外なので、SNSは使用できない。電波の届くところで送信すればいいのだ。

 

 そのためにノートと鉛筆を用意した。アナログだ。


 リアルタイムでの送信は出来なくても、伝える事は出来るはずだ。

 

 輝は不思議な建物に辿り着いた。前回も来ているが、違うような気がした。道なりに沿っているだけなので、間違いはない。気のせいなのか。少し、多く歩いたような気がした。正確な時間を計っていないので、証明をする事は不可能だ。

 

「あれ?」

 

 輝は不思議な建物を目の前にして、驚く事があった。建物が高くなったような気がするのだ。


 ここまで、色々と違和感があると、好奇心が高ぶる。ここには何かがある。

 

 建物に突入だ。

 

 輝は透明な壁を想定し、両手を突き出し、ゆっくりと歩いた。

 

「わあ!」

 

 やはり、建物の一メートル手前で止められた。

 

 なぜだ?

 

 科学的に説明は不可能だ。文章だけで配信しても、都市伝説の域をでない。


 困った。

 

 たとえ映像が撮れたとしても、CG合成とか言われる可能性はあるが、ないよりはマシだ。

 

 しかし、撮影は不可能だ。

 

 わかっていた結果ではあるが、行き詰まった。

 

輝は呆然と銀色の建物を見つめるしかなかった。

 

 諦めるのも手だ。

 

 頭では理解していたが、帰路と言う選択肢はない。動く事も出来ない。こんな奇っ怪な事など滅多にあるはずがないからだ。どうにかして、この建物の写真だけでも撮りたい。

 

 その場で画面を何度もタップした。予想通り反応はない。

 

 画面にはしっかりと銀色の建物が映っているだけに残念でならない。

 

 輝は諦めず、画面越しに銀色の建物を見ていた。

 

「何だ!」

 

 人が出て来たのだ。

 

 銀色の建物のドアが開いたのだ。そこから小学生から高校生くらいまでの男女が次々と行列をなしている。

 

 輝の存在など無視するように横を通り過ぎて行った。

 

 どこに行く?

 

 ざっと二、三十人程度はいるだろう。綺麗に整列して、乱れる事がなく、突き進んでいる。全員、無表情でロボットみたいだ。気持ちが悪い。


「おーい!」


 と、輝が目の前を通る、子に声をかけた。もちろん反応があるわけでもない。視線さえも合わせない。

 

「待てよ!」

 

 と、輝は目の前の男子小学生の腕を掴んだ。

 

 男子小学生は輝を睨んだ。

 

「何ですか?」

 

 抑揚がなく、不気味で小学生とは思えない口調だ。

 

「どこに行くんだ?」

 

「家に帰るに決まっている」

 

 そう言うと、男子小学生は輝の腕を振り()き、列に戻った。

 

 輝は列の最後尾まで待って、追った。今はそれしか出来ないからだ。

 

 小学生は帰宅すると言っていた。ここからだと、公共の交通機関を使用するので、必ずどこかで動画を撮影し、自宅まで突き止める事が可能だ。この不可解な事が一つ解明出来る手がかりになるかもしれないのだ。

 

 いやがうえにも期待が高まる。

 

 時間は麻痺し、長く歩いたような疲労感。特に足が重く、一歩が大変だ。

 

 もうそろそろ車を停めた位置に近づいていた。

 

 輝は歩けなくなった。一団の最後尾から徐々に離されていた。

 

「何だ?」

 

 ありえない事が目の前で起こっているのだ。


 天から幅二メートほどの光線が一直線に地面に降り注ぐ。その中に一団は突っ込んで行った。

 

 輝の足も限界に達していた。休みたい。本音である。

 

 しかし、ここで休んだら、せっかくのチャンスを逃す事になる。

 

 距離は三十メートルほどなので、輝が無理して走れば追いつける距離だ。一団は一定のスピードで歩いているので、まだ間に合いそうだ。そう思った瞬間、身体は重いが、足が動いていた。いや、走っていた。

 

 もう少しで最後尾の子供に触れるとろだったが、一歩遅く、光線の中に入った。

 

 輝は光線に手を触れた。右手である。

 

「あちっ!」

 

 焼けるような熱さで、一瞬で手を引っ込めた。

 

 右手は真っ赤で()れていた。

 

「どう言う事だ!」

 

 輝が右手を見ている間に光線は消え、子供の一団も消えた。あれだけいれば誰か見つかりそうだ。一人もいないのだ。光線と共に完全に消失した。

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