第五章 一 心霊現場
暑い夏だった。
もう九月だと言うのに、連日三十度を超えていた。
海川輝は夏休み前に大学を中退した。六月三十日が誕生日で、二十歳になった記念にである。
このまま大学を卒業し、就職して決まったレールの上を進むのに疑問を持ったからだ。
つまらない人生に思えた。
好きな事を仕事に出来たら最高だ。動画投稿サイトに興味を持ち、自ら投稿をしていた。それは趣味の領域を出ない。
本格的にやるには崖っぷちに立ったないと、行動を起こさない気がした。良い決断だと、思いたい。
とは言え、現実は厳しい。
動画投稿サイトで生活出来る収入がないので、普段は派遣でバイトをしていた。時間に融通がきくからだ。
輝は4Kカメラを持って、電車に揺られていた。都内から外れ、隣県に来ていた。
ここからはレンタカーを借りて、現場付近までは車の方が便利。
蝉の鳴き声が響き、太陽も少し傾いた位置にある。どこにでもある山の麓だ。ここで撮影しても、のどかな風景でしかない。
輝が撮りたいのは恐怖だ。全国の心霊スポットと呼ばれる場所を撮影し続けていた。大概、恐怖など存在しない。だから、陽があるうちに現場を下調べして、真夜中に撮影すれば、そう言う雰囲気になる。
ここの山も噂だけで、実際は心霊現象など起こっていない。
はずだった。
枝分かれした道がある。車を数台停めるスペースがあるので、降りた。山道は車が一台通れるのが精一杯だ。目的地は山頂ではない。もう一方の舗装されていない道だ。歩いて行くしかない。
輝はカメラを構え、画面上でどう映っているか確認した。どこにでもある森の入り口だ。
「えっ?」
画面は録画していないが、予想外な事が起こった。人が画面を横切ったのだ。
もちろん、幽霊ではない。人間だ。
後頭部しか映っていないが、身長からして明らかに男子小学生だろう。
森に遊びに行くのか?
いや違う気がする。
「おーい!」
と、輝は声をかけた。
しかし、男子小学生は振り返らなかった。 聞こえていないのか?
「そこの小学生!」
輝は走りながら、大声で叫んだ。二、三メートル先で聞こえないはずがない。
それでも無視だ。
もしかして、小学生ではないのか?
いや、半ズボンを穿いているし、背格好からどう見ても小学生だ。
輝は声をかけるのをやめた。男子小学生の真後ろに一定の距離を保ち追った。どこに行くか探りをいれるためだ。
森の奥へとドンドン進んで行った。
左右には樹木で覆われた獣道。
確かこの奥には大きな池があり、そこが心霊スポットとして、噂されていた。
男子小学生は迷う事なく歩き続けている。一向に振り返らなかった。それどころか歩く速度も増しているような気がした。
真っ平らな道ではないので、輝は距離を離されないようにするが精一杯だった。
前方が明るくなっている。森が終わり、池の付近だろう。ネットで閲覧しているので、間違いない。
輝は男子小学生に追いつこうと、走った。しかし、追いつく事などなかった。それどころかありえない光景を前に足が止まった。
池があるはずのところが水すらなく、平地を造られたように土で埋め立てられている。手前には銀色の建物がポツンとあるだけだ。窓も入り口のドアもなく、幅は五メートル位で、高さは二メートル程しかなく、とてもコンパクトな建物だ。
何だこれは?
男子小学生は銀色の建物に吸い込まれて行くように消えた。
輝は慌てて、カメラで撮影をしようとしたが、電源は入るが、録画が出来ない。故障か。
心霊スポットでは電子機器など正常に動作しないと言われているので、そう言うところなのか。
輝は撮影は諦めて、銀色の建物に近づいた。
「あれ?」
建物まで、一メートルの距離に行くと、その先が進めない。透明な壁があるようだ。
これは夢なのか。
いや、現実だ。
ありえない事だらけで、理解しがたく、説明など出来ない。
予定していた事が何も出来ない。
輝は一旦、退散するしか選択肢はなかった。




