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マンホールの怪物  作者: 小石沢英一
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第四章 九 衝撃

 九月初旬になっていた。エマの高校二年の夏休みは毎日、十月のコンサートに向けて、入念なリハーサルが行われていた。センターのポジションが見えてきただけに、はりきり方が誰よりも異常だった。


「エマ、そんなに頑張り過ぎると、身体壊すよ」


 と、サリーは心配で言ったつもりだ。


「大丈夫です。自分の身体は自分が一番知っているので!」


 と、エマは突き返すような言葉で、サリーに敵対心丸出しだった。


 来年は全国ツアーを控えているだけに、重要な時期だった。メンバーの雰囲気は最悪だった。それはみんながプロ意識が高いだけにしかたがない事だ。


 エマはアイドルとして、頑張るしかなかった。そんな最中、ボイストレーニング終了後にチーフマネージャーが不機嫌な顔で現れた。こんな時は何かあるのだ。


 今日はエマだけで、他のメンバーはいない。


「エマ、話がある」


 と、チーフマネージャーはぶっきらぼうに言う。


「何でしょう?」


 エマは最悪な事を考えていた。そうすれば、動揺も少なく済むからだ。


「この十月のコンサートが終わったら安耶は卒業だ」


「えっ? 卒業って、安耶さん、ティーンフュチャーを辞めるんですか?」


「その通りだよ」


「そうなんだ」


 エマは頬が緩んだ。


「どうした。嬉しいのか? お前も表現が豊かになったな。前なら無表情だったのにな」


「普通です」


「そう言う事だから、わかっているな。期待は裏切るなよ」


「はい」


 チーフマネージャーの言いたい事はわかっていた。改めて、恋愛禁止と口には出さないがそう言う事だ。


 今のエマには歌う事が大事なので、そんな隙はないはずだった。


 詳しくは聞けなかったけれど、安耶が急に卒業するのか疑問に思った。


 その情報はダンスレッスンの時の休憩時間に判明した。その場に安耶がいなかった。


 ダンスチームのサリーと芽依とるなは密接に会話している。エマは三人とは距離があるので、離れた場所にいた。


「安耶ちゃん、何で辞めるの? 男?」


 と、芽依は言った。中学生から出た言葉はファンが聞いたらがっかりするだろう。


「年齢じゃないしね」


 と、るなも畳みかける。


「知りたいのね」


 サリーは話したがらないが、二人の圧力に屈伏した。


「教えて!」


 と、芽依とるなは同時に言った。


「あなたたちの想像通りよ」


 サリーは言って、後悔するようにため息が漏れた。


「やっぱりね」


 芽依は疑いから確信して、えらく満足な顔をしている。


「誰よ。誰よ。安耶ちゃんが辞める原因になった相手の男は。芸能人でしょう?」


 るなはさらに追及を緩めない。


「……」


 サリーは黙っていた。


「知っているんでしょう!」


 芽依も応戦した。


「もう、あなたたちにはかなわないわ」


「わかったから、誰よ」


 るなはサリーの顔に近づけた。


「まあ、芸能人ではないんだけど……」


「一般人? そんなら、辞めるとか以前の問題。付き合ってもマスコミはスルーしてくれるはずだし……」


 芽依とるなは首を傾げた。


「芸能人じゃないんだから、言わなくてもいい?」


「嫌だ。知りたい」


 芽依は駄々っ子のように身体を揺らした。


「しょうがないね、誰にも言わないでね。ここだけの秘密よ」


「はーい」


 と、芽依とるなは同時に返事した。気の合っている二人には太刀打ち出来そうもない。


「野球選手よ。名前を言っても知らないでしょう?」


「知らなーい」


「それだけ」


「知らないけど、安耶ちゃんはその後はどうなるの?」


「とりあえず、熱愛の発表はされないけど、卒業後には大々的にスクープされるみたいよ」


「スポーツ選手も駄目なのか。私たちは一般人としか恋愛出来ないんだね」


 芽依が悲しそうな顔で言った。


「そうそう。キモいおっさん相手に我慢して、イケメン芸能人と恋仲になる事を夢見ているのに、無理なのね」


 るなも同調するように悲しげな顔だ。


「芽依とるな。気をつけてね」


「一般人としか付き合いませーん」


 と、芽依が言って、るなも首を縦に振る。


「もう、私たちアイドルは恋愛禁止なんだからね」


「はーい」


 と、芽依とるなはおちょくっているようにしか見えなかった。


レッスンが終わり、サリーがエマを呼んだ。


「何?」

 

 エマは疲れもあって、ぶっきらぼうな対応だ。


「大事な話だからね。しっかり聞いてよ。安耶が辞めた後はあなたがセンター候補だし、その先はリーダーになってもらわないといけない存在なの。わかる?」


「はい」


 エマは返事だけはした。それがサリーにはやる気があるようには見えないらしかった。


「そんな簡単じゃないからね。あなた次第でティーンフュチャーが終わってしまうかもしれないんだからね」


「それはわかってます」


 エマも少し、気負った。


「私にはセンターの資質がないから、ダンスで表現しているけど、肝心要のあなたがもっとアイドルとして高望みしないと駄目よ」


「してます」


「知っている? 美々奈が辞めた理由?」


 サリーは急に話を変えた。


「もしかして、恋愛禁止事項を破ったんですか?」


「そうよ」


「うそ!」


 エマは驚き、大きな声を上げた。


「誰だか知っている? 後砂涼とよ」


「えっ……」


 エマは青ざめた。


「どうしたの。気分でも悪いの?」


「大丈夫です」


「後砂涼は女好きで、アイドルに手当たり次第、手を出して、美々奈が未成年だから、問題になって辞めたのよ」


「そうですね」


「もしかして、あなたも後砂涼と付き合いがあったのかしら?」


「そんな事はないです」


「それなら、いいけど、大事な身なんだから、軽はずみな事しないでね。恋愛は卒業後にいくらでも出来るから、それまでは我慢してね」


「我慢しているんですか?」


「もちろんよ。わりとセンターになる子は規則を破るけど、私はファンのために捧げているの」


 エマは返す言葉はなかった。頷いただけだった。どう考えても、ファンのおっさんから、金を巻き上げる事には一応感謝するが、それ以上の感情も感謝もない。


 コンサートはまだ先だが、新曲のCDが発売された。購入者にはコンサートに招待とメンバーと話せる応募件付きだ。ファンが複数枚購入者も出て、売り上げも一位になるほど好調だった。さらに、飲料メーカーのスポンサーは自社の清涼飲料製品にコンサートの招待券が当たりくじを付けて、こちらも好調に売り上げを伸ばしていた。


エマがセンターになるのは時間の問題だと誰もが思った。


 そして、その日のチーフマネージャーは苛ついた感もなく、無表情で警戒するレベルではなかった。ティーンフュチャー全員集められていた。


「安耶がツアーを最後に卒業するが、その前に新メンバーを入れる」


「えー!」


 一同、驚愕する。


「村三戸羽、十二歳、中一と、田潮画留、十二歳、小六だ。二人ともボーカル候補だ」


 エマのセンターポジションは安泰ではなかった。


 戸羽は同時期のオーディションで合格したから、顔は知っている。二人の映像を観た。特に画留は小学生ながら、即、センターになれる逸材だ。ルックスも歌唱力も抜群だ。


 エマの努力は報われないのか。


 へこんだ。


 諦めるのか?


 その日の帰り道だった。


 調子が悪いとエマは言って、レッスンを早めに切り上げた。午後五時に最寄りの駅に着いた。空はまだ明るかった。


 とぼとぼと歩いていると、十メートル先に見覚えのある後ろ姿が見えた。


 エマは瞬時に修太とわかった。走って追いかけた。


 こんな偶然があるのか。同じ町に住んでいて、ずっと会わなかったのに、今日に限って出会うのは運命としか思えなかった。


 手の届く距離に縮まったら、声をかけよう。そう心に決めて、足早に歩いた。


 エマの足は急に止まった。目の前に赤信号でもあるようにである。


 修太の顔は見えない。後ろ姿だが、きっと笑顔だろう。目の間には女子高校生がいた。もちろんニコニコしている。彼女だろう。それ以外考えられない。


 エマは声をかけないで、踵を返した。もう振り返らない。と、何度も自分に言い聞かせ、自宅と違う方向に足を動かした。


 目的を全て失った気がした。


 明日の事よりも今日が終わるのが怖い。


 いつの間にか日は暮れていた。


 エマは涙で目の前がかすんでいた。どこをどう歩いたか記憶さえない。真っ白な色が広がった。


「わぁ!」


 何かにぶつかった。幸い、倒れる事はなかった。


「大丈夫かい?」


 と、ぶつかった人物が言った。改めて、見ると、首を上げないと顔は見えない。長身で上から下まで真っ白な服で統一されたおじさんだった。


「はい……」


 エマは喋りたくなかったので、返事をしただけだった。


「大丈夫じゃないね」


「……」


「実は私も大変なんだよ」


「……」


 エマはこの時点で去りたいが、なぜが動く事が出来なかった。


「ある怪物がこの地球を乗っ取って、人間を滅亡しようと企んでいるんだ」


「……」


「怪物のいる場所はわかっているんだが、近くに寄ると、私は簡単に消されてしまうから、簡単には近寄れないんだ。そこで、頼みたい事があるんだけど」


「……」


「怪物はまだ、地球を自由に動く事が出来ない。そのために、ウシガエルを使って調査しているんだが、そのウシガエルが怪物と同化したら、気体から固体に変化して自由自在になって、人間は終わりだ」


「……」


「そのウシガエルをさがして、私に渡してもらえば、危機は回避出来るし、あなたの願いを一つだけ叶えてあげるよ」


「何でも叶えてくれるんですか?」


 エマの瞳孔が開いた。


「何でも」


「過去の事でも変えられる?」


「もちろん」


「そのウシガエルはどこにいるのですか?」


「○×小学校。その前にあるマンホールに怪物が隠れているから、その近辺にいる」


「○×小学校か。調べればすぐにわかるか」


 エマはスマホで小学校を検索し、見つけた。


「それと、これ」


 長身の男は手のひらにすっぽり入るほどの小さな小瓶を突き出した。


「これ、何ですか?」


「この中に入っている液体を怪物に浴びせれば確実に倒せる」


「そうですか……」


 エマは訝しながらも受け取った。


「それじゃあ、よろしくね」


 と、長身の男が言い終えると、煙のようにエマの前から消えた。


 正直、長身の男の話は半信半疑だったが、願いを叶えてくれると言う単語に惹かれて、ウシガエルをさがそうと、思った。

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