第四章 五 エマの高校生活
昼間は高校に通って、午後はボイストレーニングとダンスレッスンの忙しい日々だ。厳しいが充実はしていた。
今日は全てのレッスンが休みだったので、気が楽な日だ。明日に備えて、英気を養う一日になる予定だ。学校の授業も最後まで受けられる日だ。昼休みに同じクラスの真等江利安とエマは教室にいた。定番の恋愛話で盛り上がっていた。
「エマは彼氏はいないの?」
と、江利安は興味津々に訊いてくる。
「いないよ」
と、エマは笑いながら言った。
「うそ?」
「本当よ」
「目がうそをついている」
「ついていないよ」
「隠すな」
「アイドルは恋愛禁止よ」
「だって、先輩に気がある目をしているよ」
「そんな人いないよ。誰よ」
「二年の若村亜貴央先輩」
「……」
エマは確かに気になっていたが、好きとそう言うレベルではない。
「やっぱりそうなんじゃないの」
「違うって」
「まあ、いいや。ちょっと校内散歩しよう」
と、提案され、エマは従った。
三階の踊り場で江利安は急に立ち止まった。エマも付き添っているので、横に並んだ。
「どうしたの? 校内散歩は?」
当然、エマは気になった。
「階段を上ったから疲れちゃった」
「えっ、何それ」
江利安は息を切らして疲れているように見えないからだ。
「ちょっとここで休憩よ」
「まあ、いいけど……」
しばらく沈黙が続いた。
「来た!」
と、江利安が声を上げた。
誰が来たかと思えば、廊下を亜貴央が一人で歩いている。顔は無表情だ。
「知ってたな」
と、エマは小声で言ったが、江利安には聞こえていないようだ。
「どうしよう?」
江利安は亜貴央を見て動揺している。
「こっちに来るよ」
と、エマは囁くように言った。
その間に亜貴央は素知らぬ顔で、踊り場を通り、階段を下りて行った。
「どこに行くんだろう」
「さあ」
エマはそう答えるしかない。
「気にならないの?」
「ならないよ」
「私の好みなの」
「格好いいとは思うけど……」
「ほら、やっぱり」
「ちょっと、待ってよ。江利安ほど、夢中になれないよ」
「何で」
「私はアイドルよ」
「だよね」
「私も応援するから頑張ってね」
「うん」
結局、亜貴央に興味があるのは江利安であることが判明した。一人で会うのが恥ずかしいからエマを誘ったのだ。
普通の高校生の一場面だ。
エマも高校生なのだが、アイドルでもある。ティーンフュチャーのセンターを目指して頑張っているので、恋愛は休止しているのだ。
その後、江利安と亜貴央は付き合うのだが、短い期間で終了となった。




