第四章 四 嶋田涼花卒業
嶋田涼花の卒業が間近に迫っていた。スキャンダルでの卒後ではない。年齢制限なので、ファンたちは感謝と悲しみで一杯だった。
ラストコンサートは八月三十一日だった。キャパは三千人程度のホールだった。センターでないので、特に人気があるわけでもなく、形式的だ。
一人メンバーが減るので、増員は決定的なので、嶋田涼花ファン以外はそれを楽しみにしている。
夏休みの間、エマはティーンフュチャーのメンバーとしてフォーメーションの練習に明け暮れていた。美々奈とは会話はもちろん、目も合わさない日々が続いた。いや、合った時は睨まれていた。
いよいよ、嶋田涼花の卒業公演の当日になった。
エマは一番で控え室に入った。続いて、美々奈も来るが、変な空気で離れた場所で待っていた。
そして、次期リーダーの藤呂サリーが入室した。
「どうしたの? 緊張しているの? もっと笑顔ね」
と、サリーのひと言で雰囲気が変わった。 続いてダンスが得意な二人、白地間芽依と朝川るなが同時に入室した。
「おはよーです」
芽依とるなは中学三年生なので、妙に明るく、さらにエマと美々奈だけの時とは随分と雰囲気が変わった。
そして、センターの久野田安耶が入室した。貫禄が違う。近くで見ているだけで、光り輝いている。
少し、遅れて、現リーダーの嶋田涼花が入室した。
全員揃った。
嶋田涼花は一人ずつ、声をかけていた。最後にエマの所に来た。
「ダンスの先生から聞いたよ。周りの妨害で大変だったでしょう。でも、それに堪えたから今があるんだからね」
「はい」
「それと、恋愛も大事だからね。前にも言ったけど、オタクのおっさんに夢を見させてあげているのだから、そこはうまくやってね」
「はい」
エマはダンスの先生が黙認したのを初めて知った。
「さあ、円陣」
と、嶋田涼花が最後のかけ声だ。
エマと美々奈も加わった。
「今日もベストを尽くして後悔のない公演にしましょう」
「頑張ろう!」
と、全員で飛び上がり、拍手した。
エマと美々奈の出番はまだなので、舞台袖で待機だ。控え室だったら堪えられないだろう。
拍手と共に公演は始まった。
満員御礼。空席はなく、人で埋め尽くされている。
ファンたちはそれぞれ好きなメンバーの名を個別に叫んだ。
嶋田涼花が卒業するから、集まったのではない。ティーンフュチャーの人気で集客を呼んだのだ。特にセンターの安耶の存在が絶対だ。今、辞めたら、大変な事になるだろう。だから、安耶の他にも人気のメンバーを増員する事が先決だ。
ファンたちは新メンバーは一人だけ増えると予想していた。
公演は盛り上がり、アンコールに応え、二曲披露した。
嶋田涼花の最後のあいさつを終えた。ファンたちからは盛大な拍手が起こった。
「私は今日で、終わりなので、ここから先は新リーダーに交代します」
と、嶋田涼花はマイクをサリーに渡した。
「新リーダーの藤呂サリーです!」
ファンたちは大きな声援をおくる。
サリーはマイクを口元から下げ、静かになるのを待った。
ファンたちもサリーから、新メンバーの紹介を知りたいので、徐々に静まり返った。
「それでは、重大発表!」
サリーではなく、芽依がマイクを奪い言った。
ファンたちは再び、叫びまくった。
「取らないでよ」
サリーがマイクを奪い返し「新メンバーです!」
と、言うと、舞台袖から美々奈とエマが現れた。
会場は大声援だ。
サリーから美々奈にマイクが渡された。
「始めまして、与瀬美々奈です。十五歳、高校一年生です。十月十日生まれです。生誕祭にはみんなに祝福されるようなアイドルを目指します。なので、応援をお願いしま~す」
エマの知っている美々奈ではない。笑顔で、甘えた声でオタクのおじさんを一気にメロメロにした。何の恥じらいなく、ここまで出来るのはある意味感服するしかない。
美々奈は笑顔のまま、エマを見ないで、マイクを渡した。
エマは正直、大勢の人前で緊張した。
「……」
言葉が出ない。
「頑張れ!」
ファンの声援だ。
それでもエマは棒立ちだった。
透かさずサリーが横に来た。
「焦らないで、ゆっくりでいいから、深呼吸して、名前と年齢だけを言えば後は何とかなるから」
と、耳元で囁いた。
エマは深呼吸をした。
その間、ファンたちは黙って待っていた。
「あの……」
エマは下を向き黙ってしまった。
「もうちょっと待ってね」
と、サリーはファンに向けて言った。
「目時、エマです。高校生です……」
「かわいい!」
ファンたちからは拍手が起こった。
無事に自己紹介は終わった。
控え室に戻る途中、メンバーたちは「初めてで緊張しちゃたでしょう。よく頑張った」
と、温かい言葉をもらいエマは気が楽になった。しかし、美々奈だけはファンの前とは違い鋭い目つきで、睨みつけ不満があるのがありありだ。
一生仲良くなれないタイプだろう。それはいいが、ライバル心を持たれ、攻撃的な態度は気が滅入る。
翌日のスポーツ新聞の一面にティーンフュチャー新メンバー加入の文字が躍る。写真の扱いはエマも美々奈も同等だ。記事もどちらかに偏っていない。
高校に登校しても、同級生たちの態度に変化はない。今まで通りだった。




