表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンホールの怪物  作者: 小石沢英一
22/58

第四章 四 嶋田涼花卒業

 嶋田涼花の卒業が間近に迫っていた。スキャンダルでの卒後ではない。年齢制限なので、ファンたちは感謝と悲しみで一杯だった。


 ラストコンサートは八月三十一日だった。キャパは三千人程度のホールだった。センターでないので、特に人気があるわけでもなく、形式的だ。


 一人メンバーが減るので、増員は決定的なので、嶋田涼花ファン以外はそれを楽しみにしている。


 夏休みの間、エマはティーンフュチャーのメンバーとしてフォーメーションの練習に明け暮れていた。美々奈とは会話はもちろん、目も合わさない日々が続いた。いや、合った時は睨まれていた。


 いよいよ、嶋田涼花の卒業公演の当日になった。


 エマは一番で控え室に入った。続いて、美々奈も来るが、変な空気で離れた場所で待っていた。


 そして、次期リーダーの藤呂サリーが入室した。


「どうしたの? 緊張しているの? もっと笑顔ね」


 と、サリーのひと言で雰囲気が変わった。 続いてダンスが得意な二人、白地間芽依しらちまめいと朝川るなが同時に入室した。


「おはよーです」


 芽依とるなは中学三年生なので、妙に明るく、さらにエマと美々奈だけの時とは随分と雰囲気が変わった。


 そして、センターの久野田安耶が入室した。貫禄が違う。近くで見ているだけで、光り輝いている。


 少し、遅れて、現リーダーの嶋田涼花が入室した。


 全員揃った。


 嶋田涼花は一人ずつ、声をかけていた。最後にエマの所に来た。


「ダンスの先生から聞いたよ。周りの妨害で大変だったでしょう。でも、それに堪えたから今があるんだからね」


「はい」


「それと、恋愛も大事だからね。前にも言ったけど、オタクのおっさんに夢を見させてあげているのだから、そこはうまくやってね」


「はい」


 エマはダンスの先生が黙認したのを初めて知った。


「さあ、円陣」


 と、嶋田涼花が最後のかけ声だ。


 エマと美々奈も加わった。


「今日もベストを尽くして後悔のない公演にしましょう」


「頑張ろう!」


 と、全員で飛び上がり、拍手した。


 エマと美々奈の出番はまだなので、舞台袖で待機だ。控え室だったら堪えられないだろう。


 拍手と共に公演は始まった。


 満員御礼。空席はなく、人で埋め尽くされている。


 ファンたちはそれぞれ好きなメンバーの名を個別に叫んだ。


 嶋田涼花が卒業するから、集まったのではない。ティーンフュチャーの人気で集客を呼んだのだ。特にセンターの安耶の存在が絶対だ。今、辞めたら、大変な事になるだろう。だから、安耶の他にも人気のメンバーを増員する事が先決だ。


 ファンたちは新メンバーは一人だけ増えると予想していた。


 公演は盛り上がり、アンコールに応え、二曲披露した。


 嶋田涼花の最後のあいさつを終えた。ファンたちからは盛大な拍手が起こった。


「私は今日で、終わりなので、ここから先は新リーダーに交代します」


 と、嶋田涼花はマイクをサリーに渡した。


「新リーダーの藤呂サリーです!」


 ファンたちは大きな声援をおくる。


サリーはマイクを口元から下げ、静かになるのを待った。


 ファンたちもサリーから、新メンバーの紹介を知りたいので、徐々に静まり返った。


「それでは、重大発表!」


 サリーではなく、芽依がマイクを奪い言った。


 ファンたちは再び、叫びまくった。


「取らないでよ」


 サリーがマイクを奪い返し「新メンバーです!」


 と、言うと、舞台袖から美々奈とエマが現れた。


 会場は大声援だ。


 サリーから美々奈にマイクが渡された。


「始めまして、与瀬美々奈です。十五歳、高校一年生です。十月十日生まれです。生誕祭にはみんなに祝福されるようなアイドルを目指します。なので、応援をお願いしま~す」


 エマの知っている美々奈ではない。笑顔で、甘えた声でオタクのおじさんを一気にメロメロにした。何の恥じらいなく、ここまで出来るのはある意味感服するしかない。


 美々奈は笑顔のまま、エマを見ないで、マイクを渡した。


 エマは正直、大勢の人前で緊張した。


「……」


 言葉が出ない。


「頑張れ!」


 ファンの声援だ。


 それでもエマは棒立ちだった。


 透かさずサリーが横に来た。


「焦らないで、ゆっくりでいいから、深呼吸して、名前と年齢だけを言えば後は何とかなるから」


 と、耳元で囁いた。


 エマは深呼吸をした。


 その間、ファンたちは黙って待っていた。


「あの……」


 エマは下を向き黙ってしまった。


「もうちょっと待ってね」


 と、サリーはファンに向けて言った。


「目時、エマです。高校生です……」


「かわいい!」


 ファンたちからは拍手が起こった。


 無事に自己紹介は終わった。


 控え室に戻る途中、メンバーたちは「初めてで緊張しちゃたでしょう。よく頑張った」


 と、温かい言葉をもらいエマは気が楽になった。しかし、美々奈だけはファンの前とは違い鋭い目つきで、睨みつけ不満があるのがありありだ。


 一生仲良くなれないタイプだろう。それはいいが、ライバル心を持たれ、攻撃的な態度は気が滅入る。


 翌日のスポーツ新聞の一面にティーンフュチャー新メンバー加入の文字が躍る。写真の扱いはエマも美々奈も同等だ。記事もどちらかに偏っていない。


 高校に登校しても、同級生たちの態度に変化はない。今まで通りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ