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マンホールの怪物  作者: 小石沢英一
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第一章 二 ペシャンコ

 翌日の朝。


 マンホールの事は学校中で噂になっていた。特に五年二組の教室では怪物の話題が途切れる事はなかった。


 授業が終わり、帰り間際になって左村先生は生徒たちを集めた。


「先生、早く帰りたいよ」


 と、生徒の一人が言った。


「短くすむからちょっと聞いて」


 左村先生は真剣な眼差しだ。生徒たちもこれは何か重大な事でもあるのではないかと勘ぐった。


「塾があるから早く」


 中には自分本位の生徒もいる。


「最近、この学校の前のマンホールに怪物がいるって噂になっているけど、怪物なんていないわ」


 左村先生は言い切った。


「絶対いるよ!」


 信じている生徒からの反発である。


「真北くんでしょ? 怪物がいるって言い触らしているんでしょ?」


「そ、そうだけど……」


 留樹緒は急に名指しされて困惑した。


「真北くんが見たって言った直後に先生は近くにいたけど、何もいなかったわ」


「えっー」


 左村先生の言葉に生徒たちは残念な声を上げた。


 五年二組が情報発信源だけに、生徒たちは嘆息と疑念に二分した。


 留樹緒は不服だったが、左村先生に反論の材料もなかった。


「証拠を見つけよう」


 と、人太が言ってくれたのは心強かった。



 放課後、留樹緒と人太は公園の前のマンホールに来ていた。もちろん、一度、帰宅してからである、


 留樹緒がマンホールをジロジロと観察をした。


「マンホールの蓋が開いた形跡はないな」


 人太は首を傾げながら見ていた。


 二人はしばらくマンホールをじっと見ていた。


 もちろん、何も起こらなかった。


「あれ?」


 留樹緒は飽きてきたので、視線を公園に向けていた。


「どうした?」


 人太はマンホールをずっと見ていた。留樹緒の声で我に返ったのだ。


「おじさんだ!」


 留樹緒の指差す方向に長身の男がいた。


「行ってみよう」


 人太が言うより先に留樹緒が走り出していた。


 公園内は子供たちが数人いる程度だ。


「おお、君か」


 長身の男は留樹緒を見るなり手を握った。


「カエル見たよ」


 留樹緒は手をどけた。


「どこどこ?」


「ペシャンコになって死んでいた」


「なぬ!」


 長身の男は急に顔を真っ赤に眉間に皺を寄せた。留樹緒は一気に恐怖で身体が硬直した。


「カエルがどうしたの?」


 険悪な雰囲気に人太が割って入って来た。


「あのカエルが必要だ」


 長身の男は人太をギョロリと見た。その表情は穏やかに戻っていた。


「でも、死んでしまったから、他のをさがすしかないね」


 人太は平然としていた。長身の男の怖い表情を見ていないからだ。見ていたら、泣き出していただろう。


「他のでは駄目だよ」


「どうして?」


「黄金に光ったカエルなどそうはいない」


「黄金? 普通のウシガエルだよ」


「黄金のカエルは不死身だから、まだ無事だという事だ。良かった」


 長身の男は頬が緩んでいた。どうやらペシャンコになったウシガエルではないようだ。


「黄金のカエル何かいるの?」


 ようやく、留樹緒は声が出せた。


「いるさ。もし捕まえて持って来たら、何でも願いを一つだけ叶えてあげるよ」


 と、長身の男は言った。


「さがす!」


 と、人太は言って長身の男はどこかに消えた。


「黄金のカエルなら目立つからすぐに見つかるよ」


 人太は無駄に自信ありげだ。


「そうだよ。見つけよう。見つけたらあのおじさんに渡して、願いを叶えてもらおうよ」


 留樹緒も人太に影響して、楽観的になる。


「願いを叶えるってのが胡散臭いね」


 人太は急に態度を変える。


「僕は新品のゲーム機がほしいんだ。それくらいなら大丈夫だと思うけど……」


「その程度なら……」


 人太はなぜか急に乗り気ではない。


「さがそう」


 留樹緒は意気込んだ。人太は冷静なのか楽観的なのか気まぐれだ。


 だから二人は別々に黄金のカエルさがしを始めた。一日さがしたが成果はなかった。

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