第三章 七 二つの光
昨日はようやく流都と会えた。嬉しい一日だったはずだが、どうもうまくいかない。
りりかは不満しかなく、今日も朝から砂奈に流都の話ばかりしていた。それは休み時間のたびにずっとである。
「今日も誘えばいいんじゃないの?」
砂奈は他人事のように言う。
「来ないかも」
りりかは不安な表情を浮かべた。
「大丈夫よ。りりか顔がかわいいんだから、自信をもちなさい」
「でも、流都にはそう見えてないのかも……」
「きっと、恥ずかしがってんじゃないの?」
「そうなのかな……そう見えないけど……」
「だって、昨日、ハンバーガーショップに会いに来たんでしょう」
「うん……」
「嫌いだった、絶対に来ないでしょう」
「そうだよね。カエルさがさない?」
「何よ、急にカエルって?」
「小学校で流行っているんだって」
「どう言う事?」
「カエルを捕まえると、願いが叶えてもらえるんだって」
「そんなの聞いた事ないよ」
「小学生の間だからよ。砂奈はカエルを掴める?」
「無理に決まっているでしょう」
「そうか。残念だな。掴めるなら、一緒にさがそうかと思ったんだけど……」
「流都は協力してくれないの?」
「無理」
「カエルが苦手?」
「そうじゃなくて、流都もカエルを捕まえて、ライブのチケットがほしいんだって。だから、手伝ってくれないよ」
「それならどうするの?」
「小学生が捕まえたら、奪う」
「どうやって?」
「強引に」
「人ごと思って……」
砂奈は部活があるので、学校に残り、りりかは帰宅し、流都に『カエルをさがしに行こう』とメールした。
しばらく返信はないので、公園に向かった。
『いかない』
と、途中で、返信に気がつき、流都だと、すぐにわかった。
『何で?』
りりかは諦めず、食い下がった。
すぐに返信は来た。
『体調が悪いから』
と、流都からメールが届いた。本当に体調が悪いかもしれないので、強引に誘えない。
『おだいじにね』
と、りりかは返信した。
今日の公園も小学生たちがウシガエルをさがしている。
りりかはウシガエルを見つけても、触れない。対処方を検討しても、肝心な事を知らないのだ。流都はおじさんに渡すと言っていた。
「ねえ、誰か、教えてよ。カエルを捕まえたら、どうすんの?」
りりかは夢中になっている小学生に訊いた。
「五年生に渡せば、ゲーム機と交換してもらえるんだ」
と、小学生は言って、目をキラキラと輝かせていた。
りりかは流都から聞いていた話とは違っていた事を確認した。渡す相手も目的も違うが、ウシガエルを捕獲するのは同じだ。
急に騒がしくなった。
あっという間に、小学生の輪が出来ていた。
どうやらウシガエルを捕獲したようだ。
りりかは輪に近づくと、横目に流都の姿を確認した。
体調が悪いのは嘘だったのだ。
ショックだ。そんなに会いたくないのか?
りりかは流都を見ないように努めた。
さらに小学生たちは興奮状態だった。
「このカエルをどうすんの?」
「五年生に渡すんだよ」
「五年生の誰?」
「知らないよ」
「知っている人いる?」
「……」
「そのカエルじゃないよ」
「違うの? 何だ、つまらない」
と、ウシガエルを持っていた小学生が地面に捨てた。すると蜘蛛の子を散らすように公園からいなくなった。
残ったのはウシガエルとりりかだ。目の前にあのウシガエルがいる。大きさも色も、気持ち悪くて、掴めないし、いつ飛び跳ねるかわからない恐怖だ。
誰かいないか。
流都でもいればいいが見渡してもいない。持ち去るしかないのだが、掴めない。
これでは願いが叶えてもらえない。
りりかは目をつぶりゆっくりとウシガエルを手さぐりで掴もうとした。
「あれ?」
地面に手をついても、ウシガエルの感触さえない。薄めで見ると、いなくなっていた。
消えた?
りりかはぐるっと一回りした。数メール先にウシガエルはいた。
やはり、ウシガエルは掴めない。
駄目だ。
今日は諦めよう。ついでに小学校に寄って、佐村先生に会おう。
りりかは公園前の小学校に向かった。
校門が見えた。
「どう言う事?」
りりかは目を疑った。小学校の前にあるマンホールの蓋が浮いているのだ。
あり得ない。
凝視するとマンホールの穴から影が現れた。目のような二つの光が点滅している。
前に見た時と同じ現象が起きている。
りりかは急に身体の異変に見舞われた。動かないのだ。声も出せない。その状態で身体が宙に浮いている。そして、マンホールの穴に吸い寄せられ影は煙のように広がり飲み込むように包まれた。目の前は真っ暗になり、意識が遠退く。これはどう言う事だ。夢なのか……。




