第二章 五 捕獲
目覚めの悪い朝だ。
流都は起きてすぐに昨日の事を思い出し、憂鬱になった。布団から飛び出して、スマホを見た。時間が気になったのではない。メールだ。
目を皿のようにして見たが、りりかから返信はない。
嘘だろう。
これは夢だ。と、思いたい。しかし、現実だ。
朝食も摂る気にならない。学校に行く気にもならない。
何もしたくない。無気力だ。
流都はティーンフュチャーの曲を流した。無気力から気力を回復させるためである。バラードは流さず、アップテンポの曲を流し続けた。
登校時間すれすれまで流し、エマのポスターにりりかから連絡がある事を祈った。
学校に行く、テンションは確保出来たが、教室に入ると、ため息しか出なかった。音楽プレイヤーを学校に持っていけないので、ティーンフュチャーの曲を聴く事も出来ない。曲が聴ければ状況は変わっただろう。
五時間授業だったが、えらく長く感じた。それに何をやったかなど論外だ。
しかし、帰宅は走った。りりかからメールを期待してである。
家に近づくにつれ、不安の方が増した。
自分の部屋に一目散に入ると、走ったので、息が切れそうだった。それでもスマホを見るのが先決だ。
一日も経っているので、メールはあるはずだ。
期待した。
絶対にメールがあると確信していた。
「……」
流都は目の前が暗くなった。
やはり、りりかからのメールはなかった。
絶望を感じた。
ティーンフュチャーの曲を流すしか解決策はなかった。
エマのポスターを見ても、笑顔は戻らす、瞳は薄らと滲んだ。
なぜ、りりかからメールがないのだろう。
流都はふと、気がついた。ウシガエルは夜行性なので、昼は暗い所に隠れていたり、水辺などにいる。りりかは水辺をさがし、スマホを水没し、故障してしまったので、メールがないのではないかと、思った。
そうだ。
あれほど、毎日、メールを送信してきたのに、急に止まったのはどう考えてもおかしい。
もしかして、今日も、りりかはカエルをさがしているのかもしれない。
出会ったら、文句をたくさん言ってやろう。
流都は急に身体に力が戻り、りりかをさがす事にした。
これもティーンフュチャーの曲を聴いたおかげだ。エマにも感謝して、外に飛び出した。
小学校近くの公園は昨日に引き続き、ウシガエルさがしの小学生たちでごった返していた。
「ここは後でいいか」
と、流都はこの近くにある水辺に向かった。途中に販売機があったので清涼飲料水を買った。一口だけ飲んで、歩き出した。
「おーい、流都!」
と、呼び止められ振り返った。顔に見覚えがある。
「首藤砂奈!」
それもそのはずだ。小学校まで、同じクラスだった。相変わらず、ぽっちゃりしているのは変わっていないので、すぐにわかったのだ。
「久しぶりだね」
砂奈はニコニコしている。
「昔と変わらないから、すぐにわかったよ」
「流都は身長が伸びたね。でも、わかったよ」
「何で?」
「変だから」
「コラ!」
「ほら、変わってないね」
砂奈が笑うので、流都もつられて笑った。
「そう言えば、りりかと同じ中学校だったよね?」
「うん。今も同じクラス」
「どうしている?」
「……」
砂奈に笑顔が消えた。
「何かあったのか?」
「うん……」
「気になるから言えよ」
「昨日、学校を欠席したんだけど、今日はちゃんと登校したけど……」
「昨日は病気か」
「昨日ね……」
砂奈は言うのを躊躇っている。
「何だよ」
流都が気にならないわけがない。砂奈は察した。
「昨日の夜にりりかのお母さんから電話がかかってきて、りりかが帰宅していないからって大騒ぎになったのよ」
「家出か?」
「りりかから、家出したいって聞いてないし、親に不満があるような事も聞いてないって話したから、たぶん、警察に連絡したんじゃないかと……」
「それじゃ、誘拐にでも遭ったのか?」
「私もそう思って、心配したけど、今日は朝からちゃんと登校して来たよ」
「よかった」
流都は大きく息を吐いた。
「それがよくないのよ」
「えっ? 何がよくないの」
「私も心配したけど、朝にりりかのお母さんから、電話が無事に戻った連絡あったの」
「意味がわからない」
「話はまだ終わってない。最後まで聞いて」
「うん」
流都は喉が渇き、清涼飲料水をゴクリと流し込んだ。
「ケガとかないけど、今日は休ませますと、りりかのお母さんが言ったので、欠席かと思ったら、ひょっこりと現れたの」
「ほら、大丈夫じゃないか」
流都は興奮していたので、いちいち反応する。砂奈も話を遮られるので、注意したいが、無駄な反論をして長引かせなたくなかった。
「いつものりりかと違うのよ」
「違うって?」
「普段は明るいんだけど、今日のりりかは教室に入って来ても、誰とも会話しないし、あいさつしないの」
「それは変だな……」
流都も急にテンションが下がって、顔の表情も曇った。
「友達の私でさえ、話しても、うんともすんとも答えないの。それにずっと一点だけ見つめているし、怖いわ」
「どうしたんだろ……」
「顔とかそっくりだけど、別人じゃないかと思うほど」
「それは何だろう……」
流都も答えが見つからず、困惑するしかなかった。
最近、この付近で不思議な事が起こっている。まず、長身の男だ。ウシガエルをさがしだ、どういうわけか小学生にも広まり、みんながさがしている。荒唐無稽と片付けられるが、異常な光景だ。
流都は長身の男と会話したくなった。りりかの一件が関係あるように思えたからだ。
砂奈と別れ、小学校の近くに歩いていると、不思議と小学生の姿が減った気がした。いや、いない。
ウシガエルが見つかったのか。
流都は早歩きになっていた。
「何だ!」
流都は小学校前の公園で、異常な事が起こっているのを目撃した。長身の男が小学生二人と争っているように見えた。
長身の男は小学生一人を持ち上げ、すぐに首を絞めている。
それにすぐ近くに黄金のウシガエルもいる。
長身の男の言っている事は事実だったのだ。
これは大変だ。
しかし、長身の男が小学生を苦しめている理由が不明だ。事件だ。
だが流都は恐怖で前に出る事は出来ず、声も出せずにいる。
どうする?
この場から逃げよう。長身の男に関わって、自らも襲われる危険性があるからだ。
流都が踵を返そうとする時だった。
「……」
またしても説明が出来ない事が起こった。 マンホールの蓋が宙に浮いた。
そして、光を放ち、辺り一面が真っ白になった。マンホールの穴から影が現れた。
何が起こっているのかさっぱり理解出来ないが、黄金のウシガエルが赤く点滅に変化している。
長身の男と小学生の会話の内容はわからないが、怒号が飛び交っている。
どうすればいいのかわからずに、流都は傍観していた。
赤く点滅したウシガエルがマンホールの穴に近づいて行く。
長身の男はマンホールの穴に黄金のウシガエルを入れるなと、言っていた。
流都は面倒な事に今さらながら、関わりたくはないが、地球滅亡の言葉が浮かんだ。
逃げては駄目だ。
赤く点滅したウシガエルは動いた。飛び跳ねたように見えないが、移動しているのは明らかだ。マンホールに入ってしまう。
マンホールの穴から影から長身の男に向けて光線が照射された。
何が起こっているか、この場所からはわからない。
流都は固まっていた身体が嘘のように動き出し走っていた。ウシガエルを捕まよう。それだけを実行ししよとしていた。
赤く点滅したウシガエルは動く気配はない。
流都はじっとしているウシガエルを捕まえた。
長身の男に渡せばいいのだが、この雰囲気だと、持ち去るのが先決だ。
流都はウシガエルをギュッと抱き、誰にも渡さない覚悟でこの場を離れた。
あれほど真っ白だった景色も離れるにつれ、いつもの景色に戻っていた。
この先のプランなどなく、持ち去ったので、流都は立ち止まり、思案した。
長身の男に渡せば問題は解決するはずだ。しかし、すぐにあの場所に戻るのは危険だ。
それにあの怒号からすると、敵は二人の小学生と、マンホールの穴から出現した影だろう。小学生はともかく、マンホールの影はボスキャラぽく、簡単に勝てそうもない。
流都がウシガエルを見ると、赤く点滅しているわけもなく、黄金に光っていない。どう見てもただのウシガエルだ。
この事を誰に言っても信じてくれる人はいないだろう。
流都でさえ、この異様な光景を見るまでは信じていなかっただけに、誰にも話せないが結論だった。




