霧山細華
「霧山さんこっちこっち」
俺が手を振ると彼女はこちらに気づいた様子で
「や、影助君」
と言って小走りでこちらに来た。
なんだかここの景色は懐かしい。
全てが始まった場所。
あまりいい思い出ではないけど……。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
本当に。何でもない。
今、凄く楽しいから……。
「と言うか影助君」
「はい?」
俺が抜けた声で返すと
「はい?じゃないよ」
彼女は少し不機嫌そうに言った。
俺、何かしただろうか……。
俺は首を傾げた。
俺が何もわからず黙っていると、
霧山さんは少し恥ずかしそうに
「さっきは、その……な、名前で」
と、言った。
どうしよう。後で思ったけどやっぱりそんな呼び方するような関係じゃないんだよな……。
「え、あ、あれはちょっと、言ってみただけです!ごめんなさい!」
俺は正直にそう言った。
「そう……。じゃあいいよ……。けど、敬語は止めてね……」
なんだかとても恨めしそうにそう言われた。
怖い……。明るい人だと思っていたんだが……急にこんな感じだとなんか……やりずらい……。
「あ、は、うん。わかり、分かった」
なんだろう。
何故か凄く舌が回らない。
呪いだろうか……。
「ふふっ、どうしたの?」
おい。
どうしたの?、じゃないだろ。
「何でもない」
「そ~お?ま、いっか」
全くこの人は……。
「で、職業はなににしたの?」
「刀士」
そうか。刀士。
それにしても灯ちゃんといい霧山さんと言い、ゲームをやる女の子はこういう物理戦の職業が多いのだろうか……。
「そうか~。なんで?」
「理由?そうだなぁ。なんか面白そうだったから。かな?」
そんなもんか。
俺もだ。
「影助君は職業何なの?」
「俺は、盗賊」
「盗賊ね。なんか、影助君に合ってる気がする」
褒めてるのかそうじゃないのかよく分からない感想だ……。
「で、ギフトスキルは何を?」
俺が聞くと霧山さんは
「ちょっと待って。私もまだ知らないから」
と言ってスキル欄を開いた。
そして
「反撃強化、だね」
なんか強そうな名前だな……。
なんでみんな強化なんだ。
俺のも一応強化かもしれないけどさ……。
「効果は?」
と、俺は言いながらスキル欄をのぞこうとすると
「ダメッ!」
と叫んだ霧山さんに突き飛ばされた。
「いてて……」
俺がそう言い立ち上がると、
霧山さんは申し訳なさそうに
「ごめんなさい……」
と謝った。
「俺も……ごめん」
なんか、微妙な空気になっちゃったな。
ここは俺が
「細華」
俺がそう言うと
「ふぇっ?」
と霧山さんは抜けた声を漏らした。
そして我に返ったように
「ちょ、ちょっと。びっくりするじゃん。やめてよ……」
霧山さんは目を泳がせてそう言った。
「……」
ヤバい。
ちょっと調子に乗りましたすいません。
俺がソワソワしてると
「ねえ」
と、霧山さん。
「は、はい!」
……慌てて大声で返事を……。
「ねえ、私の事からかってたでしょ」
「はい。すいません」
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「で、なんでダメだったんだ?」
商店街の道を歩きながら俺は聞いた。
「いや~、こういうのは人に見せるもんじゃないと思ったからさ」
霧山さんは答えた。
なるほど。
確かにそう言われるとそうかもしれない。
もっとレベルの高い場所には対人戦のできるコロシアムがあると聞いた。
あれ?実は霧山さん。ゲーム結構やってる方だったり、する?
ま、いいか。
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「どうも。影助君のクラスメイトの霧山細華です。よろしくお願いします」
霧山さんが席を立ち挨拶すると
「川上直也です」
「灯です」
と二人も席を立ち、返した。
二人が少し不機嫌そうに見るんだが……。
自己紹介の空気を重くしないで欲しい。
「じゃあ、こんなもんでいいだろ」
直也はそう言い席に座った。
直也がいつになく不機嫌だ。
灯ちゃんは……たまに見たことある感じだ。
「あのさ、直也、灯ちゃん」
俺が申し訳なさげに聞くと
「「何っ?」」
と、二人同時にこちらを向いた。
いや、睨んでる……。
目が、目が怖い……。
「何か、あったの?」
俺がそう聞くと直也は
「あぁ。霧山細華は、俺達の宿敵だ」
そう、静かに言った。