実用性よりもロマンを重要視してしまう、オタク心
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
冒険者ギルド第十七支部にあるゲートから行けるポイント。初心者向けと呼ばれるくらい比較的安全な場所だけど、そこから離れればモンスターが出現し始める危険地帯。
力を手にしてみれば試したくなるもので、俺が操る木偶人形は人間離れしたスピードで樹海を縦横無尽に駆け抜け、やがて五匹という小規模なランイーターの群れを発見。
接近しながら両手のガンブレードの銃口を群れの一匹に向けて集中連射。あっという間に仕留めたところで敵の接近の気が付いたランイーターたちだったが、木偶人形のスペックからすれば遅い。
(よいしょっと!)
二本のガンブレードでランイーター二体を切り裂く。残りの二体が木偶人形に噛みつこうと襲い掛かるが、ここで……!
(回避ステップ!)
ジャンプできる×ボタンと、移動の左スティックの同時押しによるステップ回避。モンスターバスターシリーズでは敵の攻撃を避けるための常套手段だ。それは木偶人形の操作でも適用されているらしく、攻撃を食らう直前に木偶人形は後ろにバックステップして回避した。
(ファイヤー!)
そして残りの二体も弾丸を浴びせまくって光の粒子に変えてやる。ここまでの一連の流れで、操作に対する不馴れな感じは一切ない……!
(マスター、マスター! 見てください! モンスターが魔石とかカードとか落としてるっすよ!)
(あぁ、回収しちまおう)
ランイーターたちが落としていったアイテム類を回収しつつ、俺は予感が確信に変わったことに、内心では狂喜乱舞していた。
やっぱり、木偶人形の操作はモンスターバスターにおける双剣と双拳銃とほぼ同じだ……!
もちろん、完全に同じというわけじゃない。違う武器種を一つに組み合わせたんだから当然だ。でもそれも、少し慣れれば違和感が一切ない。
木偶人形の攻撃アクションは俺のイメージに反映される……つまり、モンスターバスターの攻撃アクションをイメージすれば、俺はこれまで滅茶苦茶やり込んできたゲームのアバターを異世界で操っているに等しい。
たかがゲームと侮るなかれ。西暦二千年代には既に隆盛を極め、百年の混迷期を越えて蘇ったゲームは、異世界の資源を用いた最新の技術によって、敵モンスターはそれぞれ自立思考を有しいて攻撃パターンというものが存在せず、総合的なリアリティは現実と遜色がない。
(うへへへ……!)
(な、何すかマスター? 急に笑い出して)
(これが笑わずにいられるか)
これまで培ってきたゲームのテクニックが、異世界での冒険に反映されるなんて思いもしなかった。
しかもだ。【恐怖耐性】のスキルが無いという問題点も、ホログラム画面から戦況を客観的な視点から望める事によって、心に余裕が持てている。勿論、一回でも死ねばゲームオーバーなのは確かだから慎重にならざるを得ないんだけど、手に持つコントローラーが不思議な安心感を与えてくれるんだ。
どう表現すればいいのか分からないけど、無理矢理言葉にするなら、ゲームと現実がごっちゃになった感覚……とでも言うんだろうか? 悪い例え方だけど、大体そんな感じだ。
(さて……アクションに関してはとりあえず検証終了。次はこの武器についてだな)
最初から木偶人形に付属されていた二振りのロマン武器、ガンブレード。片刃の剣の柄あたりに回転式の弾倉と銃身を取り付けたような単純なカッコよさが俺の中二心を引き付けやがる。
(それにしても、こんなロマン武器がマジで使えるとは思ってなかったなぁ)
ロマン武器というのは見た目のカッコ良さとは裏腹に、実用性皆無の武器の事を言う。大鎌とか、ドリルとかな。
双剣も双拳銃も、人間の筋力の関係でロマン武器扱いだけど、ガンブレード二刀流というのは二つの武器の欠点に加えて、銃の機構が近接戦闘時の衝撃に耐えられないというのが、実用性が薄れる一番の理由らしい。
かつて存在していた軍隊では、先端にナイフを取り付けたライフルがあったそうだけど、アレだって基本的に振り回すんじゃなくて槍みたいに突くための物だったらしいし。
双剣に関しては冒険者の登場によって実用性が出てきたけど、結局は創作の中だけに存在する武器……それがロマン武器だ。
ちなみに、ダンジョンの宝箱から銃やチェーンソーみたいな機械仕掛けな外見をした武器が見つかることは、珍しいけど無い訳じゃない。
専門家曰く、この異世界は常に地球からの情報の影響を受けていて、出現するモンスターやダンジョンに変化を及ぼすのだとか。だから地球発祥の武器もあるし、地球の神話の化け物がモンスターとして現れることもよくある。
(マスター、知ってます? この異世界における武器の不思議は、全部「魔法の武器だから」って言葉で片付くんすよ?)
(それは知ってる。有名だし)
俺は【鑑定眼】をガンブレードに向けて発動させる。
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品名:マジック・ガンブレード
魔力の弾丸を発射する双剣。連射可能。ちなみに銃身と弾倉は飾り。
《装備スキル》
・チャージショット
・オーラブレード
・モードシフト
―――――――――――――――――――――――――
この銃身と弾倉飾りだったのかよ。その割には弾を撃つ度に弾倉が回転してたけど……。
(……良い趣味してやがる)
(本当っすね。これ作った人、絶対ロマンの分かる人でしたよ)
二人してガンブレードのカッコよさに酔いしれる。どうやら木偶人形もロマンが何たるかが分かるらしい。たかが人形、所詮は女と偏見を持つのは早計のようだな。
「まぁ重要なのはこっち……装備スキルの方だけどな)
装備スキルはその名の通り、武器や防具に付加されているスキルのことで、装備するだけでスキルカードに記されたスキルと同じ要領で力を使える。
(充填時間に応じて威力と射程が伸びる【チャージショット】か……どれ)
近くの木に向けて、さっきまでと同じように弾丸を一発撃ってみる。弾が突き刺さった木には、小さく深い穴が穿たれていた。
続いて別の木に【チャージショット】を撃ってみる。銃口に光の玉が発生し、限界までそれを維持して発射。大きな光の弾は幹を大きく抉り、木はベキベキと音を立てて倒れた。
……人に当てないように気を付けないとな。こんなん食らったら、戦闘力が低い冒険者なら一発で致命傷になりそうだ。
(次は斬撃の威力を上げる【オーラブレード】ね)
これはスキルの名前から予想できたように、発動と同時に刀身が強い光を帯びて、切れ味が上がるものだった。効果の持続時間は一分くらいで、それを過ぎると元に戻る。
(それで最後は【モードシフト】。変形系のスキルだな)
魔法の武器の中には、形状を変化させる武器がある。どうやらこれもその類の物らしく、今の二刀流の状態であるデュアルモードと、バスターモードという攻撃の威力が飛躍的に上がる形態に自由に切り替えられるらしい。
試しに使ってみると、二本のガンブレードが合体。木偶人形の身長に近い長さを誇る二又の大剣に変化した。それに合わせて柄も短めの槍みたいに長くなって、全体的な大きさは木偶人形の身長を完全に超えている。
(身の丈以上の大剣と重火器を組み合わせたガンブレード……変形してもロマン武器っすね)
(まぁ、こっちに関しては練習がいるなぁ)
モンスターバスターには大剣や重量級の遠距離武器もあるけど、それほど使用率が高くない。一応、木偶人形のパワーがあれば振り回せるけど、それだけって感じだ。むしろバカデカい刀身の重さでバランスが崩れる。試しに弾を撃ってみれば、反動も凄いときたもんだ。
デュアルモードじゃ火力が足りない時に使うことになるだろうから、ちゃんと使えるようにならないとな。
(でもこうして確認してみると、冒険者活動二日目にしてはかなり恵まれた力だよな)
(そうでしょう、そうでしょう! 何だったら褒めてくれても良いんすよ、マスター!)
(うん、偉い。超偉いぞ。信じられないくらい有能だ)
(えへへ)
なんかドヤ顔がウザくて適当に褒めたけど、当人は満足そうにはにかんでやがる。その様子は、あざといのに可愛いらしかった。
こうして見ると、やっぱりとんでもない美少女っぷりだ。あざとい仕草も全然ワザとらしくないし、コイツは本当に何なんだろうか? 元が手のひらサイズの木製マネキンみたいなのだと言われても、多分誰も納得しないと思う。
(まぁ話を戻して、だ……あと確認しとかないといけないのは、スキルインターバルだな)
(そうっすね。それをちゃんと把握しとかないと、いざって時にヤバいですし)
スキルは大きく分けて二つの種類に分けられる。
常に効果を発揮し続ける常時発動型と、冒険者の意志で発動する任意発動型だ。
この任意発動型スキルというのは、一度発動するとインターバルを挟まなければ再度使用することができない。スキルによってインターバルの長さに違いがあって、冒険者はその辺りを意識しながら戦わないといけないのだ。ちなみに、ガンブレードに秘められたスキルも全部任意発動型である。
(それじゃあ早速試していくか)
スマホのストップウォッチ機能を使って実験を開始。そこそこの数はあるけど、検証はすぐに終わった。
まず【チャージショット】が一分。【オーラブレード】が二分。残りのスキルはインターバル0秒だ。
この結果には正直驚いたけど、スマホで検索してみると、任意発動型スキルは効果が強力だったり、攻撃向けであればあるほどインターバルが長くなっていく傾向があって、インターバル0秒のスキルも別に珍しくはないらしい。
何はともあれ、これが今の俺の手札の全てだ。後はこれらの手札をどう使うのか、そこは俺の腕の見せどころだろう。
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