超巨大モンスター防衛作戦 6
「水爆は水中爆弾って意味じゃないですよヤバイですよ!」
というご指摘を受けまて、しまったと思いました。以前にも同じようなご指摘を受けたのですが、訂正するのをすっかり忘れてしまっていました。訂正しておいたので、良ければご確認を。
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
城壁に体当たりをしようとするゼル・シルヴァリオの機先を制するように、巨大な紫電の剣を脳天に叩き込んで攻撃を封じる。
こんな作業をもうどのくらい繰り返しただろう……気が付けば、ゲートがある山は目と鼻の先まで迫っていた。
(まだか……まだ増援は来ないのか……!?)
他の場所に出現したディザスターモンスターを倒し、向かってきているという報告は獅子村さんから一~二時間くらいまでに届いたけど、正確な時間は分らない。何せ時計を見る暇もないくらい、俺たちは追い込まれていたからだ。
俺自身の戦闘力を上げていたおかげで、ここまで集中力を維持したまま戦い続けることは出来た。自分で言うのもなんだけど、出来る限りのことはしてきたと思う。
(それでも……止まらないんだよなぁ……!)
ゼル・シルヴァリオは、無茶苦茶なスキルは使ってこない。いや、範囲と威力自体が無茶苦茶だから気休めになってないけど、それでも生き延びながら攻撃することは何とかできる。
カウンターのスキルだって回避の感覚を掴んでからは何とか凌げている。誰も彼もが、全力をぶつけることが出来ているんだ。
(ただ、とにかくしぶとい……!)
【撃神】と【滅陽】をそれぞれ四発。【コンボアタック】で高めに高めた一撃を幾度も叩き込んできた。それでもゼル・シルヴァリオの体力ゲージは八割を切っていないのだ。
(それも殆ど獅子村さんの【撃神】で削ってましたしね)
(あぁ……俺たちの一撃なんて、与えたダメージ全体の二割くらいしかないんだろうな)
戦闘力90万越えから放たれる超火力スキルの威力は圧巻だ。ゼル・シルヴァリオのあの巨体ですら後退るくらいには。
だがインターバルが終わるまでの時間が半日と長すぎる。削り切れないのも当然のことだ。戦闘力10万そこらの俺たちでは、どれだけバフ詰んでもあの威力は出せない。
(っ! ユースケ! また城壁に攻撃がきますよ!)
(マジかよ! こっち見やがれ‼)
しかも更に最悪な事に、ゲートに近づくにつれて挑発が効きにくくなっているのだ。
ゲートの向こう側から漂う大勢の人間の気配に興奮でもしているのか、奴の眼には獅子村さんすら映っていないんじゃないかってくらい侵攻に力を注いでいる。
おかげでさっきから体当たりの直前に頭を叩いて攻撃そのものをキャンセルくらいしか出来ていない。煩わしい敵を追い払う……そんな素振りすら見せていないのだ。
(まだ出力は十分に溜まってないんですけど……!)
巨大な瞳に向かって威力が激増した【天魔轟砲】を叩き込むも……止まらない。僅かながらにでも目に見える攻撃も無視して、強烈すぎる体当たりが……巨大すぎる氷柱の雨が……濃密すぎる猛吹雪が城壁を襲い、城壁に大きな亀裂が入り、大量の魔力が飛び散って削られていく。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいって‼ あんなん、あと一発強烈なの食らったら……!?)
進むことにのみ注力し始めた分、城壁を破る速さも劇的に上がっている。この壁さえ破ってしまえばもう誰にも留められないと、これまでの戦いで学習しているのか……!?
実際、今張られている城壁が砕かれれば、インターバルを終える間もなくゼル・シルヴァリオは地球へ辿り着くだろう。それが分かっているからこそ、俺たちは身を守る一切の防御を捨てて攻撃に転じた。
インターバルの計算も何もかも無視してあらん限りの攻撃を、僅か一秒の足止めの為に放つ。連続で叩き込まれる強烈な広範囲攻撃によって、ゼル・シルヴァリオの頭部が見えなくなるほどだったが……結局は徒労に終わった。
■■■■■■■■■――――ッッッ‼‼‼‼
これまでよりも更に勢いが付けられた体当たりが炸裂。城壁はすさまじい破砕音を鳴り響かせながら、盛大に四散して飛び散っていった。
(クッソ! あとどのくらいで到着するんだよ、増援!)
この段階になると、俺たちに出来ることなんてほとんどない。精々少しでも体力ゲージを削りながら、少しでも早く増援が来るのを祈ることくらいだ。
……これから二時間、獅子村さん一人でゼル・シルヴァリオの動きを封じている間に。
『……これより、本作戦は最終段階に入る。各員、私への支援を頼むぞ』
スキル【魔王覚醒】によって、自身が最終防衛ラインになると、獅子村さんは言っていた。その言葉の意味を俺たちはまだ実感できずにいるけど、もうあの人を信じるしか出来ないんだ。
『……カラクリ。聞こえるか? プライベート通信でお前たちに話しかけている』
脱力感でコントローラーを手放してしまいそうになるのを何とか堪えていると、通信機から俺たちに向けて獅子村さんが話しかけてきた。
「はい、聞こえてるっすよ」
『ではこのまま聞いてくれ。時間がない』
どうやらゼル・シルヴァリオがゲートに辿り着く僅かな時間を使って、俺たちに何かを伝えようとしているらしい。俺たちは無駄な口出しをしないよう、唇を固く閉じて耳を澄ませる。
『作戦前にも伝えたとおり、【魔王覚醒】によって稼げる時間は約二時間……遺憾だが、増援は間に合わないと思ってもらった方がいいだろう』
……正直、そんな気はしていた。五時間で到着するとは聞いてたけど、体感的に間に合わないんじゃないかって。
『ディザスターモンスターが一瞬でも地球に現れれば、その被害は計り知れない。そうなれば我々にとって敗北も同然だ……しかし、一縷の希望があるとも伝えていたな?』
俺たちが【魔王覚醒】を得ることができるかどうかか……。でもそれは……。
『会得条件が曖昧なところが大きく、難しいことであるというのは理解している。例え会得できたとしても、それが奴を止められるものであるかも分からない。だが我々は最早その可能性に賭けるしかないのだ。……それに、会得の手掛かりが全く無い訳でもない』
「思い当たる可能性があるんですね?」
『そもそも、お前たちが戦った織田信長を始めとする魔王種……奴らと戦う条件の一つとして、【英雄】というスキルが必要だ』
聞いたことがある。【全スキル習得可能】や【恐怖耐性】などの効果を併せ持つ複合スキルで、数少ないレア天職の中から極稀に最初から覚えている者がいるとか……詳しいことは分からないけど、かなりのレアスキルらしい。
不意に、信長と戦う切っ掛けになったマジックアイテム、英雄人形のゼンマイの事を思い出した。でもカズサも俺も【英雄】スキルなんて持っていない。獅子村さんの話が本当なら、どうして俺たちは信長と戦えたんだ?
『二人が【英雄】スキルを覚えていないことは知っている。にも拘らず魔王と戦う事が出来た。この矛盾の中にこそ、【魔王覚醒】に至るための鍵があるのではないかと、私はそう踏んでいる。……それに投稿されていた動画でも少し話しているのを聞いたが、カズサは記憶が曖昧なところがあるそうだな?』
「えぇ、そうですけど……」
『ならば思い出す価値はある。己が何者であるのか……なぜ自我を持ち、初めから雑多な知識を持っている、史上類を見ない木偶人形であるのかを』
その言葉を最後に通信がプツリと途絶えたかと思った瞬間……あれほど吹き荒んでいた大雪がピタリと止んで、異世界は影に覆われる。
一体何があったのだろうと上空を見上げてみると……そこには、雪雲が覆い尽くされた空と地面を隔て、雪が降るのを妨げる、とんでもなく長大な生物の胴体が蛇のように蠢いているのが見えた。あの生物が、ゼル・シルヴァリオが降らせる雪の全てを堰き止めているのだ。
(あれが……獅子村さんの【魔王覚醒】の力……!?)
作戦前に少しだけ、獅子村さんが持つ魔王装備の謂れを聞いてはいた。
インドの神話に登場する魔王。水の流れ……すなわち雨を堰き止めて旱魃を引き起こす不死の竜にして、神々の王すら恐れた邪竜。我が子を神に殺された仙人の成れの果て。
異世界で魔王種として現れたそれを獅子村さんが死闘の末に倒し、魔王装備を手に入れたのだと。
■■■■■――――ッッッ‼‼
獅子村さんが姿を変えた天地を覆い隠す、東洋龍にも似た姿の怪物……ヴリトラは、地面を揺らすほどの雄叫びを上げ、ゼル・シルヴァリオに飛び掛かった。
頭から前足までの大きさはゼル・シルヴァリオにすら匹敵し、その牙で神に食らいつき、爪を立てる。自分以上の大きさの敵に、ゼル・シルヴァリオの動きが初めて止まったぞ……!
(でも、制限時間は短い……!)
【魔王覚醒】は、発動者のスタミナを著しく削るらしい。睡眠も休憩も無しに戦い続けられる獅子村さんですら、二時間くらいしかもたない上に、タイムリミットが過ぎれば身動きが取れない程に消耗するのだとか。
増援は間に合わない。獅子村さんが限界を迎えたその時までに何とかしなければ、少なくとも第二十一支部と、その周辺は滅びるだろう。下手をすれば日本そのものが終わる。両肩に圧し掛かる重荷を感じながらも、俺たちは【魔王覚醒】会得に集中するのだった。
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