超巨大モンスター防衛作戦 3
気になったことやご質問などがございましたら、感想にてお伝えしていただくと、次話の後書きにて返答させていただきます。
まるで樹木をそのまま削り出したかのような巨大な氷柱が無数に放たれ続ける中、ドゴォォォォォォオンッッ‼‼ という豪音が鳴り響き、構成される魔力を飛び散らせながら、城壁が激しく揺れる。
大質量同士の衝突によって、城壁の上に乗る冒険者たちに届くのは振動どころではない……途方もない衝撃波となって体が傷付き、中には吹き飛ばされて城壁から落ちてしまう冒険者もいるのだから、体当たりそのものの威力がどれほどのものかなど想像に容易い。
「【スケープバリア】は通じないか……まぁ、そうだろうな」
良くも悪くも、想定内の猛攻だ……獅子村萌子は巨大な氷山を背負うモンスターの敵視を一身に受けながら、飛来する氷柱の弾幕や、指向性を持たせて吹き荒ぶ吹雪から、仲間たちを冷静に防御する。
攻撃を防いで時間を稼ぐことは出来ると、自信を持って言えた。数多のスキルを組み合わせた萌子の最大防御は、ゼル・シルヴァリオと同等の敵の猛攻にも耐え凌ぐだけの実績があったからだ。
だがそれはあくまで時間稼ぎにしかならないという事も分かっていた。一撃で城壁を激しく揺るがす威力の攻撃を何発も受け続ければ、そう長くは持たない。
「突撃班三名、頭部への到着を確認しました!」
「で、ですが召喚されたモンスターの大群が首を伝って迫ってきています!」
やはり頭部への攻撃は嫌がるか……照準器が取り付けられた迎撃兵器を使い、ゼル・シルヴァリオの体の上の様子を最も観測できる砲手兼観測役の言葉に、萌子は通信機を通じて全冒険者に指示を飛ばす。
「人数が揃うまでの間、頭部に辿り着いた者はモンスター共を排除し、攻撃地点を保持しろ! 迎撃兵器A、C、Gはそれを援護! 照準を首へと変更するのだ!」
『『『了解っ!』』』
凄まじい破壊の嵐がゼル・シルヴァリオの体の上で巻き起こる。攻撃を放つのはいずれも上位ランカーに匹敵する国連の冒険者たち……巻き込まれれば、並みのギガントモンスターなど即座に消し炭にされそうな光景だが、依然としてディザスターモンスターは無傷だ。気にも留めている様子もない。
「……やはり鍵となるのは彼らの力か」
目途が立てば連絡するよう、ギルドの観測室に言い残してはいるが、いつ増援が来るかも分からない。それに対して、稼げる時間はせいぜい二~三日だと、経験則や客観的事実から冷静に判断した萌子は眉根を歪める。
目に塵が入れられれば、指で擦らせて視界を妨げることもできるだろう。だがそれで歩みを止める者などそうはいない……迎撃兵器による攻撃にしろ、上位ランカークラスの冒険者の攻撃にしろ、ゼル・シルヴァリオにとって【滅神属性】が宿らない攻撃など、その程度のものでしかないのだ。
元々、繊細な気質ではないだろうという事は察していた。傷付かない攻撃など全て無視して直進し続けられる図太さを持つ者の意識を引こうと思えば、傷付けられる攻撃を用意するしかないのだ。
防壁を長続きさせるためにゼル・シルヴァリオの意識を誘導する……それが出来るのが萌子か、雄介たちなのだが……この状況では雄介たちに頼るしかないが、如何せん戦闘力が足りない。あの巨体を前にすれば、並みの威力と範囲の攻撃など針先で突かれるのと同然。
「【魔王覚醒】に至れれば……というのは期待する方が無理があるな」
【魔王覚醒】……それはかつて萌子が戦った邪竜のような、あるいは雄介とカズサが戦った織田信長のような、魔王種と呼ばれる特殊なモンスターを倒す事でのみ得ることができる、魔王装備と呼ばれるユニーク装備に宿る切り札とも言えるスキルだ。
個々によって効果に違いはあるものの、いずれも強力であり、何らかの切っ掛けや条件を満たしてようやく発現する、いわゆる隠しスキルと呼ばれる力なのだが、数が極めて少ないためにその条件は曖昧なところが多く、萌子ではアドバイスのしようがなかった。
仮に【魔王覚醒】を得るに至っても、それがこの状況で有用なものであるかどうかわからない。希望と呼ぶにはあまりにか細い光だ。
「いち早く増援が来るのを祈るしかない……か」
現在、他にも二体同時に出現したディザスターモンスターの対応に追われ、魔王装備持ちは全員出払ってしまっている。
ディザスターモンスターを倒さなければ増援など送れないだろうし、例え倒せたとしても動ける状態かどうか……。
「などと……考えても詮の無いことだな」
絶望するよりも先に、守るべきものがある。萌子はただひたすらに仲間たちを信じて、ゼル・シルヴァリオの攻撃を無心に耐え続けるのであった。
=====
何十体ものゼル・ジーヴァを倒しながら走り続け、ようやく首まで辿り着くことが出来た。
頭と胴体を繋ぐ橋のように巨大な首の上では、無数のゼル・ジーヴァたちと、突撃班の冒険者たちが激戦を繰り広げている。頭部を攻撃しようとする冒険者を狙っているのだろうか……耐久値の低さもあって掃討は順調そうだけど、俺たちもここに来たからには早く戦わないと!
「冒険者カラクリ! お前たちは頭部を攻撃してくれ!」
「っ!?」
ゼル・ジーヴァ掃討に参加しようとしたら、既に前線に加わっている筋肉ムキムキの冒険者が、振り返らないまま俺たちに叫んだ。
「少なくともダメージを与えられるお前たちが頭部を攻撃して時間を稼げ!」
「……了解っす!」
余裕がないのか短く端的な言葉だったが、異論はない。あんな足止め要因に何時までも時間を取られるわけにもいかないからな。
「でも……どうせなら攻撃ついでに手助けしていきますよっ‼」
上空へと跳躍し、冒険者たちを巻き込まない斜め上の射線から【天魔轟砲】をぶっ放す。
バスターモードの魔王銃剣から放たれる赤黒い極大の光線は首の上に居た氷の獣たちを粉砕するにとどまらず、ゼル・シルヴァリオの首を穿った。この時に初めて奴の体力ゲージが可視化されたが……ダメージが通っているようには見えない。それほどまでにゼル・シルヴァリオの体力は高いんだ……!
(となると……有効打を与える可能性があるのは、【コンボアタック】だけか……!)
同じ敵に連続攻撃を当て続けることで少しずつ威力が増していくスキル。これだけの巨体なら連続ヒット数を稼ぐなんて簡単だ……そう、思っていたんだが。
「こ、ここメッチャ氷柱が飛んできてますよ!?」
スキルの影響で、敵視と攻撃は全て獅子村さんに向いていることは間違いない。にも拘らず樹木のように太く巨大な氷柱は頭部に居る俺を含めた冒険者たちにも降り注いでいる。
これはもしかして攻撃の余波か……!? とにかく数を撃ちまくって照準が大きくずれた氷柱が、頭に降り注いてるってこと!?
(半ば自爆してるようなもんなのに、まるで堪えてる様子がねぇええ!?)
【滅神属性】の有無の影響か、自分の攻撃では自分が傷つかないんだろう。一見間抜けに見えるが、突撃班への攻撃にもなっているなら厄介なだけだ!
それにしても不味いな……注意を逸らしやすい頭を攻撃したんだけど、ここに居たら不規則に降り注ぐ氷柱の対処で、連続攻撃がどうしても途切れてしまう。無理矢理にでも回避しながら攻撃すべきかと悩んでいると、何やらヒラヒラした飛行物体に乗る冒険者が猛スピードでこちらに向かってきた。
(あれは……魔法の絨毯か!?)
「乗ってください‼」
極めて有名な飛行アイテムの一種。冒険者の戦闘力によって飛行速度が変化するそれに飛び乗ると、俺たちを乗せた魔法の絨毯はゼル・シルヴァリオの頭の周りを迂回するように飛ぶ。
「移動と回避はこちらでやります! そちらは攻撃に集中を‼」
【コンボアタック】の事を事前に話しておいた甲斐があったんだろう……主目的である目晦ましの為、頭上からでは攻撃し難い位置にある目をどうやって攻撃するか悩んでいたし、この選択はナイスとしか言いようがない。
「よっしゃー! いくっすよー!」
バスターモードの魔王銃剣が凄まじい連射音と共に火を噴いて、ゼル・シルヴァリオの目に直撃し続けた。
ご質問があったのでお答えします。
Q『エベレスト級(8000メートル?)のモンスターの攻撃を防げる城壁ってどれほどの大きさなのかと。幅もさることながら、高さが相当ないと乗り越えてしまうのでは? 襲撃場所がわかっていても建築時間が圧倒的に足りない気が。』
A『あくまで外観からの例えなので本当にエベレスト並みの大きさがあるかは作者自身も決めかねているのですが、本当にエベレスト並みの大きさがあると仮定します。この場合、全高は背中から隆起している超巨大氷山を含めての高さなので、六足歩行をしているゼル・シルヴァリオの頭の位置は、読者の方が思っているよりも低いんですよね。あと、城壁の建築ですが、これはスキルを使って一瞬で組み上げることができるので。一から材料揃えて人力で組み立ててるわけじゃないんですよね』
Q『失礼ですが、カズサのモデルのキャラってnineシリーズの九條都ですか?身長やスリーサイズがかなり近いですし髪色が違うだけで髪型も近いので』
A『違いますね。やってみたいタイトルなんですけど、作者はやったことないんですよね。ですが、良い線いってますよ。性格や顔立ち、髪型こそ異なりますが、身長やスリーサイズ、髪色は同じパレットから出たゲームのヒロイン、天羽みうに似てると、今気づきましたし。特に意識はしてなかったんですが……エロゲー好きの作者が好き好んで攻略した一番初めのトランジスタグラマーですからね。知らず知らずに意識が引っ張られたのかと』
Q『ゼル・ジーヴァを倒したら、ドロップ判定が有るタイプですか?
判定があるならドロップさせたカードで戦闘力を増やしながら戦えて、極わずかでも不利を埋められそうですが。』
A『ゼル・ジーヴァのような【眷属召喚】で出現したモンスターからはドロップアイテムが落ちないという設定になってますね。一応、【眷属召喚】が初めて出たコボルトナイト戦でも、召喚されたモンスターからカードや魔石が落ちたという描写は無かったと思います……が、後で一応確認しておきますね』
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