超巨大モンスター防衛作戦 1
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
アイテムや国連の冒険者たちのスキル……これから戦いに臨む全員が出来るだけのバフを掛け合って、想定していた第一防衛ラインへと転移する。
(おぉ……! 一瞬でこんな遠くまで着くなんて……初めて体験しましたけど、転移系のスキルって便利っすね)
(その分、インターバルが長かったり、発動に条件があるみたいだけどな)
アイテムにせよ、オーブにせよ、空間跳躍系のスキルは激レアで、運べる人数や距離も限られている。それをさも当然のように戦力となる冒険者全員を、こんな遠い海岸まで運べるなんて……やっぱり、国連の冒険者たちは層が厚い。
(……いよいよっすね。緊張してます?)
(あぁ……怖いさ。間近で見ると余計にな)
牛歩のようにゆっくりと歩いて来ていたゼル・シルヴァリオは、既に沖を超えるところまで到達していて、その全容は見上げても捉えきることが出来ない。
脚一本取ってみても、ちょっとした山と同じくらいの大きさはありそうだ。あんなんで踏まれたり蹴られたりしたら、命はないと思った方がいいだろうし、背中に背負った氷山からは絶え間なく猛吹雪が噴出されている。
今更になって、こんな化け物は本当に人の手に負える存在なのか、心底疑わしくなってきた。
(でも、大丈夫だ)
これまで幾度か脅威を目の当たりにしてきたけど、今回の敵は余りに強大だ。
そんな時だからこそ、これまでを振り返る。何時だって一緒に戦ってくれた存在が、闇雲に冒険者に憧れるだけだった俺をここまで導いてくれた。……言葉にするのは恥ずかしくて言えないけど、そんな彼女が俺にとって命同然になってたんだ
だからどんなに怖くても戦おう。どのみち、ゼル・シルヴァリオを放っておけない。世界の為とかそういうのは一旦置いておいて、これからも彼女と一緒にいるために。
(俺たちが二人揃えば……)
(最強……ですもんねっ!)
何の根拠もない言葉。これほどの敵を前にすれば、現実が見えていない戯言に聞こえるかもしれないけど……俺からすれば勇気が出てくる合言葉のようなものだ。
その言葉を切っ掛けに胸の動悸がゆっくりと治まっていき、少し強張っていた指を軽くほぐす。コンディションは万全……何時でも行ける。
「これより、対ディザスターモンスター防衛線を開始する」
総指揮に当たる獅子村さんの言葉に、俺たちを含めた全員の顔が引き締まった。
「……皆、思うところがあるだろう。だが我々の前に広がるのは純然たる事実一つ」
俺たちよりも数歩前に出て、巨大すぎるモンスターを見上げる獅子村さんの背中が、この場に居る誰よりも大きなものに見える。
龍の衣装が特徴的なプレートメイルに大盾、そして独特な装飾が柄に施された長大なランス……形は少し変だけど、どこか金剛杵に似ている。
「今ここで奴を止めなければ、我らと、我らの背中にいる人々に未来はない。己の未来が惜しいのならば……愛する者がいるのならば、命を燃やして守り抜け‼」
ランスの先端をゼル・シルヴァリオに向けて、冒険者たちが誇る守護者は吠える。
「状況開始! 諸君らに魔王の加護を‼」
『『『おおっ‼』』』
ついに始まる戦い。俺たち突撃班が今にも飛び出しそうなのを堪えて、獅子村さん率いる防衛班の準備が整うのを待つ。
「防御壁を展開する! 防衛班総員、迎撃兵器の準備を‼ ダメージを与えられなくとも、衝撃で体勢を崩すことは出来る!」
『『『了解っ‼』』』
獅子村さんは両手に持っていたランスと大盾を雪に突き立てられるや否や、二つの武装は水に沈み込むかのように地面に呑まれ……地鳴りと共に、魔力で構築された超巨大な城壁となって、ゼル・シルヴァリオに立ち塞がった!
「とっとと……!」
地面からせり上がるように出現した城壁は、その上に居た俺たちを空へと持ち運ぶ。
なんて規模だ……これは結界系スキルの一種なのか? 高さはゼル・シルヴァリオの頭を超えるほどだし、その中心には元々はランスだったと思われる、螺旋に渦巻く青黒く輝く水のようなものが円錐状の形を成していた。
「対超大型モンスター砲、設置完了!」
「特大壺爆弾、魔導カタパルトにセット完了しました!」
「移動式連射型魔力砲台、設置できました! 何時でも撃てます!」
そしてすぐさま城壁の上に設置される兵器の数々。あれらは全てダンジョンで手に入れたとされる、設置型だから持ち回しこそ最悪だが、並みの魔法の装備よりも遥かに高い火力を叩き出せるという、魔導兵器と呼ばれる代物だそうだ。
存在そのものは話に聞いていたけど、この目で見るのは今日が初めてだな。
「よしっ! それでは突撃班、まずは私が一撃目を当てる! 奴が怯んだ隙に乗り込んでいけ!」
『『『了解っ!』』』
そして……ゼル・シルヴァリオの前足二本が、とんでもない地響きと共に陸地へと叩きつけられた。攻撃誘導のスキルはきちんと効果を発揮しているのが、奴は城壁の上に立つ獅子村さんを真っすぐ睨みつけている。
「【撃神】……撃てぇええええええええっ‼」
城壁中央で渦巻いていた水が、さながら超巨大なドリルのように回転しながら伸びて、ゼル・シルヴァリオの首と右前足の付け根、その中間あたりを穿つ!
獅子村さんのランスに封じられていた、魔王銃剣でいうところの【滅陽】に類似するスキル、【撃神】。ディザスターモンスターが天災そのものだとするなら、獅子村さんの【撃神】もまた天災に等しい力があるだろう。
エベレスト級の巨体を誇るゼル・シルヴァリオが、【撃神】の圧力に負けて押し戻され、そのままバランスを崩しながら全身を右側へと傾けたのだから。
「初撃の直撃成功! これより防衛班は迎撃兵器でサポートをする! 突撃班、出撃ぃいいいい‼」
魔導砲から放たれる極大のビームやカタパルトから放たれる特大壺爆弾による一極集中攻撃が足を払い、移動式砲台がガトリングのような連射速度で放つ巨大な魔力弾が奴の目に向かって集中的に浴びせられる。
あれだけの巨体だ。人間から見た規模としてはかなりの攻撃の筈なんだけど、やたらとショボい攻撃に見えるな……。
(飛び乗るぞ、カズサァ!)
(了解っす!)
だが衝撃によって動きや視界を封じることは出来ている。両眼を魔力弾で連続攻撃されて嫌そうに顔を背け続けるゼル・シルヴァリオ……その隙を狙って、突撃班が各々のやり方でゼル・シルヴァリオに飛び乗ろうとしていく中、俺たちは【ブースト】で一気に接近。【三段ジャンプ】をフル活用した、空中での連続三角飛びで巨大で太い脚を駆け上がった。
(ここが、ゼル・シルヴァリオの背中の上っすか)
そして辿り着いたのは、モンスターの背中の上とは思えない巨大な氷山の麓。飛行スキルか何かで、既に頭へ辿り着いている冒険者たちもいる……俺たちも急いで向かわないとな。
「むむっ?」
その時、ガガッというノイズをカズサの耳が拾う。音源は、作戦開始前に渡された、イヤホン型の小型通信機だ。この猛吹雪の仲であっても、指揮官である獅子村さんの指示を遠くにいる冒険者に届けることができる代物である。
これが反応したということは、向こうから何らかの連絡があるという事に他ならないわけだが……。
『緊急連絡! 緊急連絡! ディザスターモンスターが背負う氷山から無数のモンスターと思われる影を確認! 繰り返す! 無数のモンスターが氷山から出現!』
「なっ!? マジっすか!?」
何らかの形で乗り込んできた冒険者を撃退してくる……その可能性は前もって示唆されていたけど、こういう形でか!?
警戒レベルを一気に引き上げ、魔王銃剣を両手に構えるや否や、そのモンスターはカズサの目の前に三体同時に出現した。
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種族:氷河眷獣ゼル・ジーヴァ
戦闘力:204565
氷河神獣ゼル・シルヴァリオが生み出した氷の先兵。材質が氷である為脆いが、それぞれが高い攻撃力を誇り、常に複数隊まとまって行動する神の守護者たち。
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