何気に、地の文に一人称が使われないのは初
先週お伝えしたとおり、毎週金曜は更新を休ませていただきます。また土曜日にお会いしましょう
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
九々津雄介との通話を切ると、獅子村萌子は冒険者ギルド東京本部のとある一室へと向かった。
関係者以外の立ち入り禁止を記したプレートが付いた扉を開け、地下へ続く階段を降りると、そこにあったのは遺体解析室……異世界で散っていった、冒険者たちの死の真相を調べるための場所だ。
「やぁ、待っていたよ萌子ちゃん」
「お疲れ様です、九々津さん。……あと失礼ですが、その呼び方は流石に」
「あぁ、ごめんごめん。プライベートの癖がつい……失礼して申し訳ない、獅子村さん」
中に入ると、そこには柔和そうな雰囲気を持つ男性……九々津修一が萌子を待っていた。他にも科学捜査班のメンバーたちも揃っていて、中央の寝台には青いシートが被されている。
「先日、ご子息にお会いしました。若い身空で自らクランを結成しようとは……どこかの誰かを思い出しますね」
「ははは。雄介が最後に会ったのは、記憶にも残っていないくらい小さい時だったけど……随分懐いていたし、影響されちゃったのかな? 僕にも家内にも似ずに見栄っ張りになったよ」
「無理もないかと。あの人が放つオーラは一線を画するものがありましたから」
まるで……というよりも、実際に旧知の仲のように軽い談笑を繰り広げる二人だったが、それもほどほどで止めて、萌子は真剣な面持ちで寝台の前に立つ。
「こちらが今回の戦死者ですか?」
「……うん。といっても、遺体は殆ど残っていないけどね」
瞼を伏せ、胸に手を当てて勇敢に散っていったであろう冒険者に黙祷を捧げると、青いシートを取り払う。シートの下には、冷気を放つ一本の腕が鎮座していた。
「消息を絶ってから五日、今日ようやく遺体の一部を見つけて持ち帰ってきたけど……この季節に常温で放置しても未だに解凍される気配がない。凄まじい氷属性の攻撃を受けたことは、容易に想像がつくね」
指で軽く突いてみると、氷独特の堅い感触が返ってくる。ただ表面を凍てつかせただけではこうならない……体の芯まで凍り付かせ、粉々に砕かなければ、こんな死体にはならないだろう。
地域にもよるが、異世界の季節というのは、大抵日本の四季と連動している。つまり現在、異世界の殆どは地は夏な訳だが……仮に被害者が五日前に死亡したとすれば、この死体は炎天下の中で数日間も冷凍状態を維持し続けたことになる。
「被害者は?」
「名前は秋宮健吾。知名度はなく、ランカーではないものの、戦闘力30万を超える異世界観測部隊の一人だ」
異世界観測部隊……それは異世界で起こる現象や、ギガントモンスターの調査と討伐などを行う、ギルド……ひいては国直属の冒険者部隊だ。
厳しい関門を潜り抜けて隊に名を連ねた者の実力は折り紙付きで、ランカー上位に匹敵する実力を持つ者も多いのだが……。
「六日前に異世界のA大陸を調査していた小隊を率いていた彼との通信を最後に、翌日以降の定期通信もなかったため、他の部隊が捜しに行ったんだけど……彼らが捜査していたはずの活火山があった場所は雪と氷で覆われ、溶岩は全て冷却。捜索の末、秋宮隊長のドッグタグが付いた凍った腕が見つかったという訳だ」
実力のある冒険者が死んだ……それだけでも多大な損失だが、一番の問題は火山という大自然の一角すらねじ伏せる、冷気に関わる何かがあるという事だ。その存在が、秋宮健吾たちを殺害したと考えてもいいだろう。
「幾らギガントモンスターでも大きな活火山一つを雪山にできる力があるなんて思えない……となると、後は分るね?」
「えぇ。私の……いいえ、私たちの出番という事でしょう」
何気なく答える萌子の目に気炎が上がる。
「我々は他のどの生物よりも欲と業の深い人間だ。たとえ摂理を前にしたとしても、屈するわけにはいかない」
「頼りにしているよ。本当に、君たちだけが頼りだからね」
頭を下げる修一に萌子は首を軽く横に振る。
「どうか頭を上げてください。この星に住まう以上、決して避けては通れない道なのですから」
自分がやらなくても誰かがやる……そんな理屈など、あらゆる意味で通じないことを萌子はよく知っている。
ならば、立ち向かわなければならない。自分だけではなく、自分を慕い着いて来てくれる仲間たちを……全てを守るために。
「それで、編成のほどは如何なさいますか? 私ではどうにも決定力が欠けるので、高い攻撃性能を持つ者を一人よこしてほしいのですが」
「あぁ、それなら禅十郎君と組んでもらおうと思っている。ただ……またしても困ったことになっていてね」
「……またですか」
二人の脳裏に一人の青年の姿が浮かび上がる。そして偶然か必然が、二人のイメージに浮かぶ青年は全く同じタイミングで手に持つスマホを破壊したのだ。
「試しに老人携帯を持たせてみたんだけど……またしても壊してしまったようでね。当の本人はボタンを押していただけのつもりらしいんだけど……」
「以前もスマホを弄っていただけでバグらせた男ですからね。先端機器が無理ならと思ったのですが……あの超が付く機械音痴にまともな連絡手段を期待したこちらが愚かでしたか」
「黒電話なら使えると豪語してたんだけどねぇ」
「何百年前の電話ですか、それは。異世界で固定電話が使えるわけないというのに。……まったく、今時連絡手段に鳥を使うのはあの男だけだぞ。本当に二十代の若者なのかが疑わしい」
機械科学技術が溢れるこの時代では考えられないことを天然でやってのける人物を思い、二人は同時に頭を抱える。件の男は、今の時代では絶滅したとしか思えないほどに古風なのだ。
一応、連絡手段である鳥というのはテイムされたモンスターであり、地球との連絡役を担う事も出来るのだが、それでも不便。おかげで修一たちは苦労が絶えない。
「今、禅十郎はどこに?」
「E大陸でいつも通り活動しているはずだね」
異世界には海があり、複数の大陸が確認されている。その中でも日本に存在するゲートから辿り着けることが多いA大陸とは違い、E大陸はアマチュア冒険者の立ち入りを一切禁止している、ギガントモンスターの巣窟だ。
発見されたダンジョンも超高難度ばかり……限られた冒険者だけが探索できる、魔境の中の魔境である。
「わかりました。それでは私は禅十郎と早速合流します。私の愛馬なら数時間でE大陸にある奴の本拠地に着くでしょうし」
「ペガサスか……確かに君のテイムモンスターなら速いだろうね」
地球における神話では、海神と怪物の子だったり、討伐された怪物の首から生まれたとされていたりする、世界的に見ても有名な有翼の馬型モンスターだ。
十年ほど前に萌子にテイムされ、彼女が手塩にかけて育てたモンスターの飛行能力は、異世界でもトップクラス……戦いだけでなく、急ぎの用事がある時などにも重用する機会も多い。
「合流後は共に調査に乗り出します」
「こちらも支援は惜しまないので何でも言ってくれて構わない。何か分かったら、すぐに連絡をして」
ご質問があったのでお答えします。
Q『料理店に就職じゃなくて自分のお店を出したいなら調理師免許じゃなくて食品衛生管理責任者の資格だけでいいのだけど異世界の食材を扱う時は調理師免許が必要なんですか?』
A『それは普通に知らなかった……でもこっちで調べてみたところ、取得して損する類のものでもないみたいですし、小説的には分かりやすくて良いかなと。ちなみに異世界食材を扱っても、経営には管理世金車の資格だけでいいものとします』
Q『パーティー上限はないのでしょうか?例えば◯人以上で1体のモンスターを協力して倒した場合スキルカードが出ないとか、モンスターが強化されてしまうなど』
A『管理できるなら上限は無いですね。一応、信長ほど極端ではないにしても、敵の人数に応じて自己強化するスキルを持つモンスターは想定していますね』
Q『異世界の食材を現実の世界で育てるのが無理だとして…他のダンジョンで見つけたのを一番ランクの低いダンジョンで栽培とかは出来ないのかな?できるなら比較的に安全に栽培できそう?』
A『迷宮型ダンジョンでならできるところもあるかもですね。現状ではそこまで計画が進んでいないのですが、将来的には迷宮型ダンジョン一個丸ごと占領して栽培……という事もあるかもです』
Q『そう言えばギガントモンスターにテイムシールって使えるのかな?』
A『一応使える可能性も考慮しています。ただ、この設定を採用するにしても、簡単にテイムできるという設定は避けたいところですね』
Q『以前の質問でゴミ処理用の異世界は無いと答えられたのですが地球でも問題になっている廃棄物の不法投棄を異世界でした場合とかの罰則とかはどうなっているのでしょうか?』
A『一応、異世界でもゴミのポイ捨ては違反行為です。ただ地球ですら解決が難しいのに、それが異世界となるとどうしても難しいものがありますね。ゴミの回収自体は【アイテムボックス】を使えば簡単なので、良識のある人はゴミを回収していきますが』
Q『17支部って結構大きいギルドなのに、なんでパーティがないの?』
A『現実でも自ら会社を設立しようという人は稀ですよね? あれと似たようなもので、数年前まで強力なライバルとなり得るパーティがあったのでこの近辺を拠点にしようとする者がいなかったのも理由の一つですね。今は十七支部付近を拠点にパーティを結成しようとしているプロ冒険者は何人かいますよ。登場させる予定ないですけど』
Q『Q&Aの回答にて、ここで言っているパーティーを組むというのがよくあるファンタジー物でのクランに相当するというのがありましたが、今からでも作品中のパーティーをクランという名前に変更することはできないのでしょうか?
私の認識として、一緒に冒険をするメンバー(集団)をパーティ、その場限りの集団を臨時パーティ、複数パーティで戦闘を行う組織的なものをレイド、パーティ(単体、または複数)が所属している組織をクランまたはギルドと呼ぶという認識があるので、そのクラン(ギルド)に相当する組織をパーティと呼ぶのは読んでいてすごく違和感があります
このままパーティーを使ったとして、それじゃあダンジョンに入る時のメンバー(集団)を何と呼ぶのか?ファンタジーものならそれこそパーティーと呼びますが、新たな呼称が付くのでしょうか?』
A『あぁ~、そう感じる方もいらっしゃったんですね。作者個人としてはクランという用語が出てくる作品を読んだことがないので違和感は無かったんですが……。
一応、パーティではない冒険者の集団にはこれといった呼び名は無く、大学生冒険者たちならサークルとか、それ以外ならチームとか、単に集団とか色んな呼び方をされるんですよね。代わりにクランという呼び方は登場させないことで区別してもらおうと。
ただこのご意見は検討するに値します。こちらに関しては色んな読者様のご意見を聞きたいですね。活動報告でも書いておきますし、変更した方がいいというご意見が多く集まれば、改稿しようと思います』
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