戦う料理人なんている訳ねぇという奴は、超大作のコック兼海賊にも同じことを言うべき
Q『それは事務員ではなくマネージャーでは?』
読者様のご指摘のおかげで、気付けました。確かにパーティ活動に関わる事務の大半がギルドが担当し、冒険者の活動をサポートするなら、事務員よりもマネージャーの方がしっくりきます。とりあえず改稿作業をさせていただいたので、どうかよろしくお願いします
モンスターは生物ではないのでは……そういう学説があると、聞いたことがある。
普通生物というのは死ねば当然肉体は残るものだけど、モンスターは死ねば肉体は消滅し、魔石やカードだけを残す。そういう理由から、モンスターを生物として分類するかどうかは今もなお揉めているのだとか。
だが異世界には、死んでも肉体が残る、れっきとした生物として分類されるのも存在する。
異界生物……そう呼ばれる生き物たちは総じてモンスターのような戦闘力は持っておらず、一般人でも捕獲することも仕留めることも出来て、尚且つ非常に美味な食材となるものやペットとして人気な生物たちが大半なのだ。
こうした事情から異界生物たちは資源として扱われているし、異世界に生えている植物には食用のものもあって、何もマジックアイテムの素材だけという訳ではない。
そういう事情もあって、異世界産の食材を求める者は後を絶たず、地球でいうところの高級品とか目じゃないくらい、食材として優れているらしい。俺も一度食べたことがあるんだけど……ヤバかった。貧相な感想しか出ないくらいヤバかった。
でもそんな異世界産の食材を使った飲食店はほぼ皆無と言っていい。
理由は色々あるけど、まず第一に冒険者たちが危険を覚悟に持ち帰ってくる異世界資源というだけあって馬鹿みたいに高いという事。
しかも土が悪いのか水が悪いのか……地球で異世界の食材の栽培や養殖は未だ成功しておらず、現在値下げされる目途も立っていないと、ニュースで見た。ペットとして地球に持ち込んでも、エサを与えれば生きていられるけど、繁殖がどうしてもできないんだとか。
数を増やせない上に、手に入る目途が非常に立てにくい食材を武器に店を構える物好きはいない。だから異世界産の食材というのは裕福な人種だけが口にする嗜好品扱いとされている。
ただ……この辺りでは一店舗だけ異世界産の食材を提供している飲食店が存在していたのだ。
「もしかして、二人の実家って、あの《カンパネラ》だったのか?」
「うん、そうなの」
数年前、ニュースでもかなり取り上げられていた、世界的にも数少ない異世界の食材を使った店で、パスタとかピザとか粉物料理を出していた。昔誕生日に両親に連れていってもらったことがあるけど……何年か前に経営者夫婦が亡くなったから潰れたって聞いたなぁ。
「でも異世界の食材って凄く高いんすよね? それで店が回ってたんすか?」
「《カンパネラ》のオーナーが、冒険者ランキング元一位の人だったんだよ。確かその縁でって聞いたけど……」
「正確にはちょっと違うらしいけど……まぁ似たようなものね」
元冒険者ランキング一位……御堂万太。かつて俺たちの地元を拠点にしていた、超大物冒険者だったけど、数年前にとんでもないモンスターとの戦いの末に戦死。彼をリーダーとして活動していたクラン、《御堂冒険会》も解散してしまったそうだ。
……そう言えば、獅子村さんも一時期《御堂冒険会》に居たとかそんな話をしていたような気がするけど……まぁそれはどうでも良いか。
「万太おじさんとお父さんは学生時代からの友達でね。お父さんとお母さんは元々どっかのレストランで働いてたんだけど、万太おじさんが結成したクランが順調に軌道に乗って、異世界に生えている、一粒で大量の小麦粉を生成できるっていう穀物の群生地や、調味料となる物を大量に見つけてから、万太おじさんの支援を受ける形で独立したらしいのよ」
「評判も良くて経営も順調で、私たちもお店が大好きだったから、何時かはお父さんたちの跡を継ごうって話してたんだけど……結局両親の事故があってすぐに、万太おじさんまで亡くなって……《カンパネラ》は閉店するしかなかったんだよね」
なるほど……話が読めたぞ。
「つまり、異世界の資源を好きな値段で売るために、クランを結成するなり、加入なりをしたいわけだな?」
「まぁ一般的な店よりも少し割高になるだろうけど、そういうこと。看板だけは、処分せずに大切にとってるしね」
異世界のハーブや粘土で作ったアロマに陶器。異世界資源を加工して作った商品を売るのもクラン活動の一つ。そう言った活動の一環として料理を提供するのも頷ける話だ。
《カンパネラ》は《御堂冒険会》によって経営されていた、クランの一部署みたいなもんだったんだろう。だから一般人だったであろう二人の両親も異世界資源を加工した食品を、大衆向けの値段設定で売ることが出来たんだな。
「でもそれって、将来的には冒険者と料理店の経営者、二足のわらじになるんだろ? それって下手するとランカー上位になるより大変じゃないのか?」
「そうなんだよねぇ……調理師免許の他にも色んな資格とって修行もしなきゃだし、夢が叶うのは軽く十年以上はかかるだろうしね」
「しかもお父さんたちの《カンパネラ》とは全く違うものになるでしょうから、もう今から資金繰りに勉強にと大変よ」
それでも二人はやるつもりなんだろう。大変だと口では言っている割には、二人の眼は活き活きとしている。
高校生の身で長期的な目標を見据え、食材調達や資金繰りのために危険な異世界へ飛び込む……色んな意味で、この時代の人間らしい二人だ。
「だから九々津君にカズサ……私たちが求めるのはクランの権限と、将来持つつもりの店を本業として認めてもらうことなのよ」
「もちろん、出来る限りのことはするけど……ごめんね。私たちにも、私たちの目的があるから。条件が合わないなら無理しなくてもいいし」
つまり加入は出来ても依頼をこなすための時間は取りにくくなるし、最終的には冒険者業からも離れる可能性もあるという事か。
「いや、それでも助かる。本格的な活動は五~六年以上先だろうって話をしてたし、その間に人数とかも増やしていくつもりだったから。とりあえず二人には在籍だけしてもらって、今の内にクランを名乗れるように出来たら御の字だったから」
クラン自体は結成するけど、企業との提携など本格的な活動をするのはまだまだ先の話。二村と八谷曰く、二人は冒険者クランへの研修が出来る学部がある地元大学に進学し、そこでイロハを学びつつ人を増やしてから大きな活動をしていく……そういう算段を立てていた。
で、メンバーを増やすことができるかどうかは俺とカズサの活躍次第。クエストボードの依頼をこなせば、依頼主にどこのクランの誰が達成したか、そういう情報をギルドから伝えてもらう事も出来るから、早い段階から色んな所に名前を売ることにも意味はある……獅子村さんが自分のところのクランマネージャーに聞きだしてくれたことだから、お墨付きだ。
千堂たちと同じように、俺たちも長期的な考えのもとに動き出している。知識も経験も人数も足りてない中、大々的に動き出すような真似はしない……これから数年間は、個人で出来る範囲で依頼をこなしていき、名前を売ることに集中することになるだろう。
「細かいことは他の仲間を交えて色々調べながら話さないとだけど……二人の要望を照らし合わせても問題ないと思う。今度時間が空いた時にでも話し合いの場をセッティングする」
「まぁ、その前にアタシたちがプロにならないと話にならないんすけどね。次戦う相手……分かってますよね?」
暢気に笑うカズサだったけど、僅かに細められた目には、確かな闘志のようなものが宿っていた。
「あぁ、分かってる。何せ次の標的に見定めたのは、ランカーでも手を焼くモンスターだからな」
ご質問があったのでお答えします。
Q『流石にアイテムマスターでも誰かスキルカード使ってるでしょ』
A『似たようなご質問を今までに受けたことは何度かありますけど、これ本当に居なかったんですよ。集団が作り出したイメージによる常識の弊害というべきでしょうか……アイテムマスターは戦えない→スキルカードを使うだけ無駄→カードは前線で戦う冒険者にこそ譲渡すべきというのが、昔から当たり前になりつつありましたからね』
Q『パーティを作ると言う話になっていますが、これは他作品ではクランと呼ばれるような組織という認識であっていますか?他作品だとパーティはダンジョン等の攻略推奨人数(4~6人位)のイメージがあるので気になりました。』
A『そういう認識であってますね。ただの個々人の集まりではなく、プロ冒険者を旗印とした、資源やスキルの社会的運用が法的に認められた団体と思っていただければ』
Q『プロとアマって何が違うんですか?』
A『アマチュア冒険者はプロ資格を取っていない冒険者全員を指す言葉で、プロ冒険者というのは一定の功績を満たした者が人格検査をクリアしてなれる、一種の資格持ちです。プロになることでアマチュアでは立ち入りを禁止していた危険区域の探索や、パーティの結成など、アマチュアよりも多くの権限を与えられます』




