責めるなら、製法を秘密にしている工場とかも責めるべき
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
弓原ダンジョンの攻略は、順調と言ってもいい。
とにかくしぶといゾンビ系や厄介な幽霊系のモンスターに、単純に戦闘力が高いモンスターなど多種多様なのが潜んでいるけど、そこは深山さんとの連携でカバーしていけば、戦闘にさほどの支障をきたすことはなかった。
ただ問題があるとすれば、ただただ広いという事か。
「それではここのスイッチは私が押しておきますので、お二人はもう片方のスイッチを押してもらえますか?」
「了解っす」
ダンジョン内を常に照らしている燭台を傾ける深山さんを置いて、天井すれすれのところにある小さめの穴にカズサを潜り込ませる。
懐中電灯の明かりを頼りに、レンガ造りの小さな道の奥へ奥へと進んでいくと、最奥には不自然に出っ張ったレンガを見つけた。
それを押し込むと、ゴゴゴゴゴゴゴ……という何かが擦れる音が聞こえてくる。バックしながら深山さんのところに戻ってみると、先ほどまであったはずの壁が無くなっていて、その先には新たな通路が続いている。
「情報通り、道が開けましたね。ダンジョンリフォームも起きてないみたいですし、今の内に来れてよかった」
「よっし、先に進みましょう」
ダンジョンギミック……迷宮型ダンジョンによく見られる、仕掛けを解除しなければ先へと進めない仕掛けの事だ。
基本、迷宮型のダンジョンの通路や壁、天井は破壊することが出来ない。だから冒険者たちは迷宮の仕掛けを調べながら進むしかないんだけど、中には複数人で挑まないと解除できないギミックも多く存在する。
先ほどのギミックは、燭台に見せかけたスイッチと、目立たない小さな通路の奥にあるスイッチを同時に押さなければ通路が開かれないというギミックだ。
これが《神奈川守衛隊》から冒険者を雇った一番の理由だ。【木偶同調】を解除すればこの仕掛けを解くことも出来ただろうけど、ここに出現する雑魚モンスターは一体一体がオルトロスを一方的にシバき倒せる強さだ。迂闊に外に出たくはない。
一応、分身系のスキルがあるなら複数人が必要となるギミックも単独で解けるんだけど、無いもの強請りは出来ないし。金で安全を買ったと思えば安すぎる。
「次のギミックが見えてきましたね……次は二本の鎖を同時に引かなければ開かない鉄格子のようですが……」
「モンスターがメッチャ集まってますね。とりあえず仕留めちゃいましょうか」
弓原ダンジョンのギミックはどれも二人いれば解除できるものばかり。俺たちはモンスターを薙ぎ払い、ギミックを解除しながら長い長い道のりを進んでいく。
時間にして、およそ十五時間くらいといったところか。時々休憩を挟んだり、作戦会議をしたりしながら進み続ける。
(……ヤバい。トイレ行きたい。アイテムアイテム)
これだけ長時間ダンジョンに潜っていれば、当然トイレ問題が浮上するが、それも体内の排泄物を消滅させるマジックアイテム、トイレポーションを使って解決だ。そこそこ数が少ない資源を調合して作るからコストが高いけど、とんでもなく需要があるから、このアイテムは常に欠かさないようにしている。
それは深山さんの方も同じらしく、休憩になれば欠かさず飲んでいる姿が見られる。……一応飲み物なのに、尿が溜まらないあたりがまさにマジックアイテムって感じだ。
「ようやくここまで来たっすね」
そうして俺たちは、遂にボス部屋の前まで到着した。予定では、ボスモンスターに挑む前にここで就寝する予定だ。
そうなると当然モンスター対策をしなければならないんだけど、そこは防衛に秀でた《神奈川守衛隊》の見せどころ。深山さんは【アイテムボックス】から幾つかのアイテムを取り出し、それをカズサが床や壁に設置する。
(おおっ!?)
その瞬間、青白い電流でアイテム同士が連動し、カズサと深山さんを囲むように強固な障壁を生み出して、ちょっとビックリした。
トイレ襲撃事件の後、防犯にと《神奈川守衛隊》から取り寄せた結界系アイテム、その上位版だ。十時間持続する使い捨てアイテムだけど、効果は十分。更に【アイテム強化】の補正も掛かっているから、このダンジョンの雑魚には突破できないだろう。
「それでは一度ここで睡眠をとって、万全の状態でボスモンスターに挑みましょう。こちらでエネルギー補充用の夜食と寝袋も用意しましたので、よろしければどうぞ」
「わーい!」
深山さんが【アイテムボックス】から取り出した二人分の弁当と飲み物、そして寝袋を受け取ると、俺たちの【アイテムボックス】を通じて一人分を内部空間に居る俺の元に届ける。
飲み物こそペットボトルのお茶だけど、弁当に関してはコンビニ弁当みたいな安物感のある奴じゃない、四角い木箱の高級そうな弁当だ。信じられないことに、これは依頼料金に含まれていない《神奈川守衛隊》からのサービスらしい。
(はぐはぐはぐ……うまうま♪)
(流石は《神奈川守衛隊》……口コミがほぼ星5は伊達じゃない)
ホログラム画面の向こう側でやたらと美味そうに弁当を味わうカズサを眺めながら、俺も鶏の唐揚げを食う。何かのマジックアイテムを使っているのか、作られてからかなりの時間がたっているにも拘らず、唐揚げはカリカリの触感が残っているし、ちゃんと温かかった。こういう気配りが人気の秘訣なのかもな。
確かな実力と誠意ある対応で人々から強い信頼を寄せられている古豪のクラン。ここに来るまでの間もかなり助けられたし、帰ったら口コミサイトで高評価を送りたい。
(あわよくば、【スケープバリア】の複数展開に関する情報を聞ければなぁ)
高い戦闘力を持つモンスターが多いだけに、ここに来るまでに攻撃を喰らう事も何度かあったけど、それら全ては【スケープバリア】でカバーされた。しかも一度に二枚同時に張ってもらえたおかげで、カズサはここまでノーダメージ。回復の出番がなかった。
(もぐもぐ……んくっ。聞かないんすか?)
(それが企業秘密っていうのは有名だし、それを根掘り葉掘り聞こうって気にはな)
どんな攻撃でも一回につき一度だけ無効化できる強力な防御スキルのインターバルを極限まで短縮させての連続使用だけではなく、一度の発動で複数枚張るという、他のクランにはない《神奈川守衛隊》独自のスキル運用法があるのはかなり有名だが、それは企業秘密として扱われている。
全体的な利益や戦力増強のために、冒険者は有益な情報の積極的な公開が推奨されていて、本来ならスキルの運用法を隠すのはバッシング対象だ。
でもそんな風潮が流れるようになったのはここ十数年の間。《神奈川守衛隊》はそれよりもずっと前から特異な防衛力を他のクランにはない専売特許として活動してきた。
彼らにも生活やクランの運営がある。どこの誰にも真似できない戦い方が外部に広まれば、「別に《神奈川守衛隊》に頼らなくてもいい」と思われるだろう。
そうなればクランの屋台骨を揺らがしかねない。そこら辺の会社や工場だって、技術の内容を守ることで利益を維持するんだから、《神奈川守衛隊》だけを責め立てるのは筋が通らない。
とは言っても、冒険者たちの戦力増強に貢献できていないのは事実。その代わりとして《神奈川守衛隊》は一時期冷たい風評被害を受けながらも、他のどこのクランよりも良心的な活動を繰り返し、遂には日本トップクラスの信頼と実績を勝ち取ったのだ。
(もしあの防御の秘密を知ろうと思ったら、《神奈川守衛隊》に入ってそれなりの立場にならないとだからな)
まぁ《神奈川守衛隊》への入隊基準はプロ冒険者であること。まだアマチュアの俺たちには、今のところ縁のない話だ。
そう一旦思考を放棄して、俺はゴミを【アイテムボックス】に入れると、睡魔に身を委ねながら寝袋の中で眠りについた。
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それから起床したのは約四時間後の事。ダンジョン内ということで眠りは浅かったけど、疲れた脳味噌を休ませるには十分。結界は無事モンスターからの襲撃を防いでいたようで、目が覚めた時にも変わらない状態の結界が展開されている。
(おはようございます。良く寝れました?)
(ちょっと寝足りないけど、頭は冴えてる)
内部空間で俺が目を覚ましたことを察したらしく、カズサは念話で俺に話しかけてくる。
念のための寝ずの番をしてくれたのは、【ゲージシステム】で疲労とは無縁のカズサだ。エネルギーゲージは時間経過で消費されていくけど、寝ている時は消費しなくなるので、普段は毎日欠かさず寝ており、思わず木偶人形であることを忘れそうになるけど、こういう状況では彼女に甘える方が合理的なのである。
「よし、行きましょうか」
結界はまだ残っている。程なくして深山さんも起床し、俺たちは慌てずに準備を進めてから、ボス部屋の扉を開けて中に入る。
四角い間取りの広い石造りのシンプルな空間。そして扉が取り付けられた壁の反対側の壁には、情報通りのボスモンスターが張り付いていた。
まるで壁と一体化したかのような、上半身だけの巨大な人形。全身黒塗りで、腕は四本。頭には王冠を被っており、本物の人間に似せて造られたかのような精巧すぎる顔立ちは、却って俺たちに異様な気味悪さを植え付けていた。
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種族:コッペリア
戦闘力:10
狂気を秘めた自立人形にして傀儡使い。二体の殺戮人形を自在に操り、挑戦者たちを処刑する。劇場において裏方は表に出ることはなく、主演の陰に潜む者。故に裏方に潜む限りは何物にも傷付けることはできない。
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ご質問があったのでお答えします。
Q『自分のスキルが書いているものがスキルカードでスキルを覚える物がスキルオーブと言うのは良いのですが戦闘力を上げる物もスキルカードという名前では、現在社会のおける命名法ではありえない名前の付け方です』
A『そんなにですか……正直、似たような指摘を受けたことはあるのですが、その時には既に変更するには支障が出そうなくらい話が進んでいまして。出来るだけオーブやカードという風に略称を使うことで区別できるように心がけてはいるのですが……』
Q『あ!、あの!!、主人公君のすりーさいずを!((((((((既出でしたらごめんなさいです)』
A『身長148センチ。スリーサイズは上から89(F)・56・86。着やせするタイプ。とあるギャルゲーのヒロインが似たようなスリーサイズだったので、そちらを参考にしつつ決めました。……念のため確認しますが、雄介のスリーサイズじゃないですよね……?』
Q『敵にマリオネット系がいた場合、テイムした際にアイテムマスター限定でモンスター兼アイテムみたいな扱いになりまんか?アイテムマスターが研究されてないならこの可能性はあると思います』
A『リビングドールなどをテイムした時、そうなる可能性としては十分あり得ますね。今はまだ色々考えてる段階なのですが……そうなると、どんな理由をこじつけて【アイテム強化】の適用内に入れてやるべきか』
Q『大小判 先生へ質問させてください。Q.主人公は動画投稿で「検証系」もいくつかしていますよね。それなら⓵他のアイテムマスターがカズサに木偶同調できる(乗れる)のか?⓶九々津が他の木偶人形でもカズサと同じ自動人形にできるか?等 例え駄目でも検証結果を投稿した話は出てこないのですか?視聴者のリクエストでHN:カラクリはしそうなのに。』
A『……やっべ。忘れてた。質問②は本文で出そうと思うのでこの場では答えられませんが、とりあえず質問①だけは本文で出す予定もないのでこの場で答えられるので答えます。まず【木偶同調】は同じスキルを持っている木偶人形と冒険者が揃って初めて効果が現れます。なので【木偶同調】を覚えていない雄介以外のアイテムマスターはカズサの内部空間に入ることはできません』
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