求められすぎるっていうのは恵まれた悩みだと思う
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
夏休みに近付くにつれて、俺たちも少し慌ただしい日々を過ごしていた。
まとまった時間が大量に確保できるようになると、どんな予定を組むのかにも頭を悩まされる。宿題に関しては秘技、【適度な答えの丸写し】によって二日くらいで終わらせられるけど、遊びに行く予定やら冒険の予定やら、何をするべきなのかを見定める必要がある。
特に冒険の予定だ。闇雲にダンジョンを攻略するよりも、コレという目標を定めた方がいい。そう思ってカズサと一緒に色々と考えてるんだけど――――
「こないだ行った宮影ダンジョンは、訓練場所としてはイマイチだったな」
「そうっすね。戦闘力上げ的にも美味しくなかったですし」
推奨戦闘力18000、第十七支部のゲートが一番近い場所にある宮影ダンジョンは、最近発見された箱庭型だ。
ネットでも情報が出揃ってない中、とにかくモンスターの数が多いと聞いて行ってみたものの……なんて事はない。ただ出現するモンスターが分裂系のスキルを使ってるだけだった。
頭数を増やせるスキルは脅威だけど、それだけって感じ。それ以外に脅威となるスキルもなかったみたいだし、技術を磨くには物足りない。
しかもだ。一番許せないのは分裂した分をどれだけ倒しても魔石やカードを落とさない事。押し寄せてくるモンスターの数に反して旨味が凄く少ないのである。
「それに、あっちの方もどうにかしなきゃですよね」
カズサは俺の部屋に置いてあるパソコンに目を向ける。その画面には動画投稿サイトのマイページが開かれていて、メールボックスにメールが届いていることを告げていた。
俺は恐る恐るクリックを押す。そこには思ったとおりのメールが届いていた。
「まーた届きやがったよ、取材申し込みのメールが」
とりあえず「予定が詰まってるので一旦保留」という旨を伝えるメールを返信する。この作業もすっかり馴染みのものになってしまった。
「ここ最近ずっとですね。待たしてる取材とか、雑誌出演のお願いとか溜まってきてますし」
「本当だよ……ここまでくると、動画も中々投稿できないし」
織田信長との戦い以降、俺たちの動画は爆発的な伸びを見せた。
それ以来、冒険者関連の雑誌会社から取材の申し込みが山のように来るようになったのだ。中にはテレビ出演の話まで来てるし……。
「正直、嬉しくはあるんだけど捌き切れねぇ。予定を立てるのに時間を取られすぎて、肝心の冒険者業を怠りそう……」
「参りましたねぇ」
冒険者関連のニュースは常に熱い状態だ。そんな中でも目に見えて話題沸騰中の俺たちが見逃されるはずもなく……ギャラの支払いを始めとする、取材に関する書類のやり取りも多いみたいだし、このままだと夏休みを丸ごと取材で消費してしまうかもしれない。そう思わせるほど、取材申し込みのメールが届いているのだ。
「言っとくけど、これに関してはカズサの方が大変だぞ。お前に向けてモデルやアイドルのスカウトまで届いてるから」
「おぉう……そうでした」
冒険者と兼業するモデルやアイドルというのは、話題作りや需要の観点から爆発的に増加している。
可憐だったりカッコ良かったりする冒険者が異世界で活躍し戦う姿というのが世間の心を掴んでいるんだろう。まぁ正式な所属をしていないから、この手の話は幾らでも断れるんだけど……。
「むむむ……悩みますねぇ。興味はあるんですけど、冒険者業に大きな支障が出るのは流石に……」
カズサは目立つのは嫌いじゃない。それどころか興味があるくらいだ。俺自身、自己顕示欲が強いから取材とか言われると受けたくなるしな。
でも冒険者業も疎かにしたくない。今の俺たちは、あっちを立てればこちらが立たずの状態にある。
「ユースケってクランには所属しないんですか? アタシはどっちでも良いですし、クランに入ったらこういうのに悩まされる心配もないんですよね?」
「うーん」
カズサの言う事は良案ではある。冒険者クランに所属すれば、俺たちのスケジュールを管理してくれて、冒険者業と取材、私用のスケジュールを良い感じに取り計らってくれる。
俺たちは今多くの冒険者クランからの勧誘も来てるし、所属してしまえばこういった悩みから解放されるんだよな。
「ただ問題なのは、勧誘メールを送ってきたパーティがあるのが、皆県外や市外ってことなんだよな。往復に時間が掛かり過ぎるし、所属しようと思ったら転校しなきゃだし」
俺とカズサの学力を鑑みれば、間宮高校以外の学校に通うのは無理があるし、二村や八谷と離れ離れっていうのも抵抗が強い。
カズサの戦闘力なら往復行けるんじゃないかっていう考えもあるだろうけど、冒険者には冒険者用の道路交通法みたいなのがあって、人命などに関わる緊急時を除き、車道や線路上を走るのは論外。歩道を車並みの速さで走るのもダメ。屋根伝いに跳んでいくのもアウトと、結構規制が多いのだ。
それもこれも、法整備が間に合っていない時に冒険者が自動車やらバイクやら一般人やらを撥ね飛ばしていた事件が多発していたからだとか。
「何年か前までは、十七支部の近くにもクランもあったんだけどな。リーダーが亡くなったのを機に解散しちゃったみたいで」
一応、電話やメールでやり取りしながら、資源を郵送することで遠方の冒険者とも所属契約するクランもあるっちゃあるけど……一旦所属してしまえば、鞍替えは簡単な事じゃないから、クランに所属するにしても慎重にならざるを得ないんだよな。
「ままならないっすねぇ。いっそのこと、お金に物を言わせてどっか場所を借りて記者会見っていうのやっちゃいますか? ほら、こないだテレビでやってたみたいに!」
「それも手段の一つだな」
どれだけ金がかかるのかは分からないけど、取材関係を一掃するなら悪くない手段に思える。
「でも一旦、この事は忘れよう。これから、夏休み前の最後の冒険に行かなきゃだからな」
=====
今、カズサの戦闘力は4万に達した。これは冒険者を始めた時から目指し続けた目標値であり、とあるダンジョンの推奨戦闘力でもある。
そして現在、俺たちは夏休み前の最後の土日を利用して、他県にある冒険者ギルドを訪れていた。
「第十七に比べると結構小さいところっすね」
「ゲートの先の地点は幾つものダンジョンにも近い場所にあるから、建物に反して結構人が多いんだけどな」
ここ、冒険者ギルド第六支部には、ちょっとしたマンションが建っていたとか聞いたことがある。
だがある日、マンション駐車場のマンホールが異世界へのゲートに変貌。国が丸ごと買い取って敷地内にギルドを設立したんだとか。
基本的に、ゲートが出現した場所を管理するためにギルドが建てられるからな。ギルドの大きさっていうのはゲートが出現した場所によって大きく異なってくる。むしろ第十七支部のような大きさのギルドは珍しいくらいだ。
「えっと、待ち合わせ場所は……一階の総合受付前だったか」
大体スーパーくらいの面積がある二階建てのギルドの自動扉を潜ると、すぐ目の前には総合受付が広がっていて、その前のベンチに一人の男性が座っていた。
がっしりとした体に短く切り揃えられた髪。前衛職の格好としてはポピュラーな全身鎧を身に纏った、三十代くらいの冒険者だ。着ている鎧には、翼をモチーフにした紋章が刻まれている。
「あぁ、すみません。もしかして《神奈川守衛隊》の……」
「あ、これは九々津様、お待ちしていました」
声をかけてみると、相手はやっぱり目当ての人だった。厳つい外見とは裏腹に、にこやかな表情と柔らかい物腰で俺たちに対応してくる。
「《神奈川守衛隊》に所属している、深山です。今日は派遣のご依頼いただき、まことにありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「今日はよろしくお願いします」
《神奈川守衛隊》……国内屈指の大手冒険者クランだ。
興行への協力から一般人に向けての講演会、被災地の復興に対する積極的なボランティア活動、そして他の冒険者への助っ人……俗な言い方をすれば傭兵業など、手広く活躍しているクランで、これから挑むダンジョンを攻略するにあたって、俺たちが依頼した相手でもある。
「わざわざすみません、これから挑むダンジョンには、戦闘力が高い冒険者の協力が必要でして」
「いえ、それが我々の務めですからお気になさらず」
むぅ……なんていう爽やかオーラだ。一回り以上は年下の俺に対しても見下すような感じとか全然ない。
深山さんは有名冒険者とかではないけど……なんて言うんだろう。他の冒険者とはオーラが違うんだよな。大手冒険者クランに所属している自負、みたいなのがあるっていうか。
「それでは今回のご依頼の確認ですが、期間は今日と明日の二日間、弓原ダンジョンの攻略に対する協力、ということでよろしいでしょうか?」
これから俺たちはこれまでにないほどの高難度のダンジョンに挑む。
目当てはモンスターを使役する激レアアイテム、テイムシールの入手だ。
ご質問があったのでお答えします。
Q『双剣やガンランスみたいな厨ニ武器だけじゃなくて演奏しながら攻撃出来るロマン武器は出ますか?』
A『ありますよね、演奏系武器。奏でながらぶっ叩いたり、弦で弾いた空気を真空の刃に変えて飛ばしたりする武器が。昨今のバトルものでも音を武器にするキャラは多いですし、ストーリーの都合が合えば出してみるのも良いかもですね。楽器系武器が出るかどうかは未定です』
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