身をもって体験して分かる怖い話
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
夏休み突入まであと僅か。世の学生たちが指折りカウントダウンを始めているであろう今日この頃。
「わああああああああああああああああああっ‼」
「九々津くん、ダッシュダッシュ!」
「後もうちょっとだよ! 頑張れ!」
千堂と百瀬と一緒に、俺は生身で泣きながらボスモンスターと戦っていた。
赤穂ダンジョン。推奨戦闘力5500、その最奥に君臨する巨大な二頭犬、オルトロス。
巨大な二つの口には剣のような牙が並び、カズサに守られた状態に無い俺なんて一噛みでズタボロに出来るであろうモンスターだ。
「ああああああああああああああああっ‼」
「大丈夫っすよ、ユースケ! 落ち着いて逃げてください‼ 何時でも守れる所にいますからね!」
涎を撒き散らして追いかけるオルトロス。恐怖で泣きながら逃げる俺。そんな俺に軽々並走しながらエールを送るカズサ。
だがそんな声なんて俺の耳に入る余裕なんてない。超人のブレスレットやアイテムで身体能力が上がって入るけど、相手は【炎の牙】を始めとした、牙に関するスキルを大量に持っているというオルトロスだ。
俺なんて一口サイズな大きな口で齧られれば、間違いなく体に風穴が開いて死ぬ……!
「ガァアウッ!」
「んああああああああああああっんはああんはああああああああ‼」
それでも俺は走り続けた。ガチィンッ! と、俺のすぐ後ろでオルトロスが上下の牙を打ち鳴らす音が何度も聞こえてきたけど、それでもやけっぱちになりながら走り続けた。
少しずつ……少しずつ距離を詰められてる……! まだか……まだ着かないのか……!? マジで死ぬ! マジで死ぬってええ‼
「ああああああああああああああああああああああああああっ‼」
「「ギャインッ!?」」
目的となる位置を目指して、永遠にも感じる短い時間を走り抜ける。その甲斐があって、オルトロスは俺が仕掛けた罠アイテム、魔導地雷を踏み抜いた。
【アイテム強化】によって威力が増した地雷が引き起こした大爆発は、オルトロスの巨体を吹き飛ばす。前足を失いながらもまだ闘志を怯ませずに俺を威嚇するのは凄まじいが――――
「今よ、瑠衣!」
「任せて!」
稲妻のような軌道と速度を誇る千堂の【雷鳴突き】が、巨大な火球を放つ百瀬の【業火球】がオルトロスの左右の頭を砕く。
渾身の一撃を二つも受けたオルトロスは流石に耐えきれなかったのだろう……光の粒子となって、カードと魔石を残してこの世から消え去った。
「ふぅ……何とかなったわね」
「皆お疲れさまー。九々津君も……」
「ほほろおっほほほいほいぃいいいいい!」
「よしよし、頑張りましたね。偉い、凄く偉いですよ」
「……本当に、お疲れ様だったね」
=====
【木偶同調】を発動し、カズサの内部空間で彼女の体を操作する……これこそがカラクリという冒険者の最強の戦闘スタイルであり、これからも変わることのない在り方だ。
人数差を活かした戦い方もあるかもだけど、それはあくまで搦め手。そもそも【木偶同調】しないと、カズサは殆どのスキルが使えない状態になるし、戦闘力の低い俺が足を引っ張る可能性だってある。だから俺たちは戦う時、必ず【木偶同調】を使っている状態で戦うのだ。
……で、ここで本題。なんで俺が生身の状態で戦闘力に大差がないモンスターと戦う事になったのか。
先日のトイレ襲撃事件の後、冒険者としての今後を考えた俺はギルドの訓練場の門を叩いた。カラクリという冒険者はカズサが居て初めてまともに戦えるんだけど、いざという時に彼女がいなければ自分一人で対処しなくてはならない。
でも俺は新藤の襲撃に対してひたすらパニックになって、グルグルパンチをしただけだった。結果として何事もなかったけど、もし襲ってきたのがもっと強い冒険者だったらと思うとゾッとする。
俺はアイテムマスターだ。生粋の戦闘職と真っ向に戦えば、余程の戦闘力差がない限り敗ける。だがせめて冷静に対処して応援を呼べるようになれないか……そう考えたわけだ。
それからというもの、俺は訓練場の教官から護身術とか色々習いはしたんだけど、非常時における冷静な対処というのは経験を積まないとどうにもならないと言われた。
まぁ、それもそのはず。無暗に筋肉付けただけで度胸も一緒に付くなら誰も苦労しない。命を狙う者からプレッシャーを浴び、生存本能を刺激されることで、戦いにおける肝が据わるのだと歴戦の冒険者である教官は言っていた。
そこで考え付いたのが、生身でモンスターと戦ってみて度胸を付けようというものだった。とは言っても、いきなり俺一人じゃ危ないし、カズサという保険と、千堂と百瀬の協力を仰いでからだけどな。
実際にやってみて、度胸が付きそうだという手応えはある。オルトロスと戦った後だと、そこらの雑魚モンスターなんて怖くないとか思えるし。
まぁ要するに、過激な精神修養って奴だ。非常時の冷静な対処にも役立つだろうし、こうして培われた精神力と土壇場での冷静さは【木偶同調】を使っての戦いにもきっと役立つに違いない。
でもさ……いくら色んな保険を用意したからって、怖いものは怖いんだぜ?
「よしよし、もう大丈夫っすよ。怖い犬はもういませんからねー」
「すー……はー……すー……はー……」
ビビり過ぎて腰が抜けて立てなくなって、危うく洩らしかけた俺は、カズサの華奢な腰に両腕を回して、脂肪が薄いのにちゃんと柔らかい腹に顔を押し付けながら深呼吸をしていた。
深呼吸には気持ちを落ち着かせる効果がある。百瀬と千堂が背後でドン引きしてる気配があるけど、これは戦いと恐怖の余韻を冷ますためにやっているのであって、カズサから発せられるどこか甘くて良い匂いを堪能している訳じゃないので勘違いしないように。
「ほら、もうダンジョンは無事踏破しましたし、そろそろ帰りましょう? ギルドに戻ったらユースケの大好きなプリンもあるっすよ」
「…………もう一歩も動けない」
「そっかぁ……それじゃあ、もうちょっとここで休みましょうか。ユースケはたくさん頑張りましたもんね。無理をせずに行きましょう」
「すー……はー……すー……はー……」
カズサの許可を得たことで深呼吸を再開。この体臭は不思議と何時までも嗅いでいたくなるし、頭を撫でるカズサの手の感触が心地いい。あと十二時間くらいこうしていたい。
「それにしても、【恐怖耐性】が無いのは不便よね。今となっては分らないけど、一般人から見たモンスターってそんなに怖いものなの?」
「怖いなんてもんじゃねーよ……」
千堂が心底不思議そうに首を傾げてたけど、あんな巨大な牙が並ぶ口で噛みつかれそうになれば、一般人は誰だって俺みたいになるはずだ。
実際噛みつかれたら体に穴どころじゃすまないだろうし……。生存本能の暴走とでも言うべきか、モンスターから明確な死の気配が漂ってきて、何も考えられなくなるんだよ。
今の俺を見て「ダサい」とか「情けない」とか傍観者ポジションから好き勝手言う一般人が居たら、是非とも同じ目に遭ってもらいたい。下手すりゃ洩らすから。
「でも九々津君、ナイスアシストだったよ! 普通よりも凄い罠を張れるし、一人でも活躍できるんじゃないかな?」
「ちょ、瑠衣ちゃん!? アタシのアイデンティティーが揺らぐ発言を!?」
「……いや、無理だな。アイテムを主力にする戦い方はコストがメッチャ掛かるし、何よりアイテム切れになった場合が怖い」
自己強化系の常時発動型スキルの恩恵というのは、想像以上に大きい。スキルのインターバルやアイテム切れになった時、頼りになるのはそういうスキルなのだ。
幸いにも俺には幾つものスキルが付与されたブレスレットやマフラーがあるからある程度は戦える下地があるけど、オーブには頼れず、有用な強化槌の出現率を考えれば、俺だけで活動しても冒険者としての頭打ちは目に見えているし、金も稼げない。
ちなみに、魔王装備は身に着けられない。コートとブーツは小柄なカズサに合わせたサイズになっているから着れないし、魔王銃剣は反動が強すぎて俺には撃てないし、精々【星切之太刀】で頑張るしか出来ない。
「【恐怖耐性】の強化槌とか無いんすか? そこまでレアなアイテムでもなさそうですし、探せば見つかりそうなもんですけど」
「それは無理じゃない? 【恐怖耐性】はアイテムマスターでいうところの【アイテム強化】や【アイテム使用動作キャンセル】みたいな、戦闘系天職のユニークスキルだし」
そう。実を言うと【恐怖耐性】はユニークスキルの一つで、それを会得できる強化槌やオーブも無ければ、付与された魔法の装備も確認されていない。だからわざわざこんな精神修行なんてやってるわけである。
「でもこんなに怯えられたら、正直見てられないよ。弱いモンスター相手じゃ意味ないからって言っても、こんなやり方じゃ命の保証だってないし……」
「…………大丈夫。頑張るから」
百瀬の言葉を振り払うように何とか立ち上がる。確かに怖いし危ないし、ビビッて足はまだガクガクしてるし、今すぐ止めたいけど諦めない。
俺は弱い。一人で出来ることなんて限られてる。だからせめて……心だけはカズサの相棒に相応しい男になりたいんだ。強い彼女と、少しでも釣り合いが取れるように。
ご質問があったのでお答えします。
Q『ジョブで魔法少女になったらおっさんから若返って永遠の1○歳になるんでしょうか』
A『なります。魔術師や僧侶など、魔法スキル特化のジョブはあっても魔法少女は現在ありませんが、異世界は地球から情報を得て変化するもの。中身オッサンの魔法少女が爆誕してしまう可能性は十分あります。まぁ、作中に登場させるつもりはありませんが』
Q『ア○ルー型が出ないって事は愛玩用の豚型マスコットも出ないって認識で大丈夫ですか?』
A『その認識で大丈夫です。個人的には、豚は美味しく頂くものという認識がありますからね。……ローストポークが食べたくなってきました』
Q『親友二人名の知れたゲーム実況者みたいな感じだったけど、頭おかしい廃人ゲーマートリオの一人って提示版で言われてるってことは主人公も元々かなりゲーマー関係では知られてたのかな。三人で組んで何かの大会でてたとか 廃人の友人にその得意ゲームで4割かてるって相当だし』
A『ネトゲー界隈ではかなり有名ですね。三人ともどんなゲームでも同じハンドルネームを使ってて、人気ゲームは大抵プレイしていますし、公式大会でも優勝しています。この世界でもゲームは人気ですし、雄介や二村、八谷の事を知ってるゲーム好きの冒険者も結構いるんです』
Q『木偶同調あるから、武器以外の魔王装備はユースケに装備した方が良くない?』
A『作中にある通り、魔王装備のコートとブーツはサイズが違い過ぎて着れません。何しろカズサと雄介とじゃ、身長差はニ十センチ近くにもなりますし、肩幅も全然違いますからね。ちなみに服や靴、アクセサリーにスキルが付与された魔法の装備というのは、正しい着用をしなければスキルの効果が発揮しないんです』
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