悪い事は初めからしちゃいけません
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
【スタンモード】……というスキルがある。このスキルの発動中、冒険者はどんな攻撃でも生物に傷をつけることは出来ないという、一見するとデメリットばかりが目立つスキルだが、傷付けられない代わりとして、攻撃の威力に相応する痛みと衝撃を与えることができ、青い電流のようなものを蓄積させることができる。そしてこの青い電流が一定以上溜まれば、どんな生物でも気絶してしまうのだ。
いわば、暴漢などの犯罪者に対する対人用のスキル、またはモンスターの捕獲研究の為に用いられるスキルだ。……そして、拷問用のスキルとしても重用されると、ネットか何かで見た覚えもある。
「おらああっ‼」
「いぎゃああああっ!?」
そんなスキルを発動させた俺、新藤司は薫の顔面を力一杯殴りつけた。本来なら軟な一般人の顔面なんて粉々になるところだけど、スキルの影響で顔骨が砕けるどころか、青痣の一つも付かない、綺麗な状態のままだ。
本当なら推奨戦闘力がかなり高いダンジョンで手に入るオーブに秘められたスキルだけど、極稀に推奨戦闘力が低いダンジョンでも手に入れられることがある。それを手に入れられたのは、苛立ちが未だに鎮まらない俺にとってはラッキーだった。
サンドバッグなんかじゃ気が済まない……このスキルのおかげで、生身の人間を殺すことなくストレス発散に使えるんだから。
「糞クソクソ糞がぁあ! バカにしやがって……俺をバカにしやがってぇえええ!!」
大会から一週間、優勝も出来ず、九々津の奴なんかに一方的にやられた俺は、その怒りを鎮めるために毎晩毎晩薫を俺の部屋に呼び出してストレス発散の道具にしていた。
こうして痛みに泣き叫ぶ薫の顔を九々津のそれと頭の中で重ね合わせると、殴っている間はスッとするんだ。
うちの家は防音性に優れていて外に音や声が漏れることはないし、【スタンモード】でどれだけ殴っても怪我はしないから周囲に暴行の痕を見つけられることもない。薫にも暴力で脅迫し、周りの奴に告げ口させないようにしているからバレる心配もない。
「チッ……! 気絶しやがって……」
十発くらい殴ったところで、青い電流が一定以上溜まった薫は糸が切れたかのように気を失ってしまった。
こうなってしまえばどれだけ殴っても面白くない……仕方ないから意識が戻ったところでまたストレス発散に使うとしよう。……いや、それとも他の女どもを呼び出してそいつらもサンドバッグならぬ、肉バッグにしてやるか?
本当なら、九々津の家族に報復してやろうと思った。薫から家族の情報や家の場所はある程度聞いてたし、普段家にいない両親は無理でも妹なら……そう思って後を付けようとしたんだが、何も無い場所から槍や杖を取り出した冒険者と思われる同年代の女二人が、九々津の妹とよくツルんでるせいで、全然機会がない。
家の塀にも妙なマジックアイテムみたいなのが付けられるから迂闊な事は出来ねぇしよ。
「……ん?」
そんな事を考えていると、玄関の方からチャイムの音が鳴った。
「……誰だよ」
両親は不在で、俺も通販とかは頼んでいない。だから来客に来る奴なんてまずいない筈なんだが……俺はひとまず玄関を開けると、そこにはスーツを着た男が二人と、私服の男が一人立っていた。
「夜分遅くに申し訳ありません。我々、警察署の冒険者犯罪課の者なのですが……先日、ユース王決定戦が行われたスタジアムのトイレで、とある冒険者が襲われた事件がありまして、……少しお時間よろしいですか?」
向けられた警察手帳に、俺の心臓は思わず跳ね上がる。トイレで襲われた冒険者って……まさか、バ、バレたのか……!?
「新進気鋭の冒険者への嫉妬心からか何なのか、動機は不明ですが、犯人は変装こそしていたものの冒険者である可能性が高くてですね。とりあえず、犯行が可能そうな冒険者の方々にお話を聞いて回っているのですが……単刀直入にお聞きしますが、事件があった大会当日の17時頃、どこで何をしていましたか?」
不味い不味い不味い不味い不味い……! バレたらタダじゃすまないし、薫の事まで知られたら余計に罪が……!
……いや、落ち着け。まだ相手は疑っている段階だ。適当にはぐらかせちまえば……!
「い、一週間も前の事の、そんな細かいことなんて覚えてねーよ」
「なるほど。では、こちらを見ていただけますか?」
そう言って警官はタブレットの画面を俺に向けて映像を流し始める。そこにはスタジアムの出入口の前あたり、何も無い空間から突然現れた走り去っていくピエロ……ていうか、間違いなく俺の姿が映し出されていた。
「こちらはスタジアム正門の監視カメラが捉えた映像です。この奇妙な姿の現し方は、間違いなく【透明化】のスキルであるとギルドの方から教えていただきまして」
【透明化】のスキルは効果時間が短い。トイレから飛び出す前に使ったけど、正門を出た直後あたりに効果が切れたんだ。その後インターバルが終わってからもう一回発動して、変装を解いてから人気のない場所でスキルを解除し、何食わぬ顔で表に出てきたのに……。
「その後、我々警察はギルドと協力しながら【透明化】のスキルの持ち主をリストアップしたんですが……その中に、被害者のクラスメイトである貴方がいましてね。本当なら貴方への事情聴取はもっと早くに行うつもりだったんですが、ほら。貴方のお父様は政界や財界にも太いパイプを持っておられる投資家じゃないですか。その妨害もあって警察の捜査が停滞してしまったのですが、ついこの間、ようやくお父様から許可を取れまして」
それは、親父が俺を警察に売ったという事を意味していた。確かに俺の親父は、俺が小学、中学時代に起こした問題を簡単に揉み消せるだけの力があり、警察相手に押し通せるほどの社会的な地位を持つ人間だったが……冒険者ギルドまで敵に回す事は出来ないと、息子の俺を切り捨てるつもりらしい。
「そういう事なので、警察署まで来て捜査に協力していただけますか?」
もう無理だ。そう察した俺は警官二人の頭を飛び越えて逃げ出した。
こんな……こんな形で捕まって堪るか……! 俺は――――
「ぶげっ!? ……おぉぶ、うげぇええええええっ……!」
だがそんな俺の逃亡も、鳩尾を中心に全身に響くとんでもない衝撃によって止められる。胃の中の物を地面にぶちまけながら顔を上げてみると、そこには私服の男が俺を見下ろしていた。……こ、この強さ……まさか、冒険者か……!?
「お前の親父に足止め食らってる間、警察やギルドが何もしなかったと思うか? 市内の監視カメラの映像の確認や、スキルを使った調査までして、犯人はほぼ間違いなくお前だっていう証拠は揃ってるんだよ。捜査協力なんてのはただの建前、実際は逮捕しに来たって言ってんだ」
【アイテムボックス】から取り出してであろう鎖鎌が生き物のように動き、俺を拘束する。力一杯引き千切ろうとしたり、振り解こうとしてもビクともしやがらねぇ……!
「犯人確保の協力ありがとうございます。やはり冒険者の方がいると心強いですね」
「いえ、ここに至るには警察の方の力なくしてはあり得ませんでした。こんな奴は同じ冒険者として許せませんからね、協力は惜しみませんよ」
警察が手錠を持って近づいてくる。昔聞いたことがある……冒険者を拘束する用の手錠というものがあって、それを嵌められるとこれまで培ってきた戦闘力や、集めてきたスキルも何もかもが発揮できなくなるとか。
あれを嵌められたら、俺の人生が終わる……それは耐え難いことだった。
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあああ‼」
どうして俺がこんな目に合わなくちゃならないんだ!? 俺はただ、俺の思うがままの人生を歩みたかっただけ! それを邪魔した奴を排除しようとして何が悪いんだ!?
だがそんな俺の正当な訴えにも耳を貸そうともしない。こんな、こんな理不尽があって堪るかよ!?
――――私知っている。知っているわ! こういう時は「お前が言うな」と言うのでしょう!?
そのままパトカーに引き摺られそうになったその時、どこからか楽しそうな女の声が聞こえたと思ったら、俺の視界は真っ暗になった。
「なっ!? これはまさか、異世界へのゲート――――」
冒険者の声も遠ざかって、何を言おうとしたのかも分からない。ただ気が付けば、俺は燃え盛る寺院の山門前に座り込んでいた。
この異様な光景は恐らく、異世界の何処かなのだろう。なぜ急にこんな所へ転移したのか……色んな疑問があったのかもしれないが、そんなものは山門の向こうで何者かと戦う一之瀬カズサを見た瞬間に吹き飛んだ。
思い返せば……アイツらのせいで何もかもがおかしくなったんだ! アイツらさえ居なければ俺は順風満帆な学校生活を送れた! アイツらさえ居なければ冒険者としてのプライドを傷付けられずに済んだ! アイツらさえ居なければ、警察になんかに捕まらなくて済んだのに‼
「九々津ぅううううううううっ‼」
諸悪の根源。怒りの源泉であるあいつらを見た時、俺は何も考えられなくなって奴を背中から斬りかかろうとしたけど避けられて……気が付けば、黒い太陽に呑み込まれて意識を失った。
=====
次に意識を取り戻した時、俺は西洋の城の中にある、玉座の間のような場所に来ていた。
代わる代わる一変する光景に頭が追い付かなくなる。一体俺はどうしてしまったんだ……黒い太陽に呑み込まれて焼き尽くされたはずなのに、どうして俺はこうして意識を保てている?
自分の体を見下ろしてみても、何も無い空間だけがあるというのに……。
「フンフンフーン♪ フンフンフーン♪」
そんな時、上機嫌な鼻歌と共に巨大なキリギリスたちが現れたかと思えば楽器で音楽を奏で始め、ガッシャガッシャという音を立てながら幾人もの兵隊が、玉座に続く赤い絨毯の道を挟む形で並ぶ。
一体何が始まるんだと、体もなく身構えていると、ドレスを着た十歳くらいの子供が何も無い空中に突如として現れ、玉座へとゆっくり舞い降りた。
「おはよう! こんにちは! こんばんわ! ご機嫌よう! 招待状なしに招いて失礼するわ! 私ったら欲しい物を我慢できない性分なの!」
一体コイツは何なんだ……? 突然現れたかと思えば、体のない俺の視線を正面から見つめ返しながら一方的に喋り始める。
「あのねあのね、気を悪くしないで頂戴ね!? 悪気があってオジサマのところに送り込んだわけじゃないのよ? 悠長に貴方が死ぬのを待ってられないからって、怖くて恐ろしくて冷酷で冷徹で容赦のないオジサマのところに送った訳じゃないの! ホントのホントよ!? オジサマなら絶対にそうするって思ってなんかなかったんだから!」
話の内容はグチャグチャで何を言っているのかイマイチ分からない。
「だってだって! こんなのってないわ! 私はずっと私の英雄たちに会えるのを楽しみにしてたのに、それをオジサマに先を越されちゃったのよ! こんなの理不尽だわ! ずるいわ! あんまりだわ! オジサマなんてお腹一杯になるまで子ヤギを食べて、レンガのお家で燃やされちゃえばいいのに!」
ただなんとなく、俺をここに招いたのは目の前の子供で……。
「勿論、仕方なかったって分かってるわ! 私はレディーだもの! トラブルにだって優雅にお茶とお菓子を用意して待てちゃうんだから! だってそうでしょう!? 英雄たちと私たちは惹かれ合う運命なの! 灰かぶりとガラスの靴のように出会う宿命だもの! 時が来ればお菓子のお家と素敵な紅茶でお出迎え! カボチャの馬車だって用意したわ! お土産はもちろん玉手箱! 今からとっても楽しみね!」
俺を殺させたのもこいつで……。
「でもねでもね! 私はまだ怒っているの! 英雄たちを一番にお出迎えするのは私だったはずなのに、どこかの誰かのせいで予定はパー! 大事なマフラーは枝にひっかけられて、一生懸命書いた招待状も全部全部書き直し! そんな悪い子は手と手と足と足をチョキチョキして、可愛いお人形に仕立てて上げなくちゃ!」
あまりにも無邪気に、あまりにも残酷な事を、俺に……。
「これは仕方ないことなのよ! 貴方が私の英雄たちに意地悪しなければ、こうならずに済んだのに! だからねだからね! 自分にとっても噓吐きなオオカミ少年、どうかいっぱい歌って踊って叫んで泣いて、私と一緒に英雄たちを持て成して?」
ご質問があったのでお答えします。
Q『魔王銃剣って日本刀に火縄銃のガンブレードってことは、いちいち縄に火着けて撃つの?雨降ったら使用できないの?』
A『本編でも語られたことですが、ガンブレードの銃の機構など飾りです。雨が降ろうが水中だろうが、問題なく魔力の塊を発砲できますよ』
Q『具足って足装備の事じゃなく、鎧兜小手脛あてその他含めた鎧一式の事ですよ、南蛮鎧のイメージならいっそブーツでいいんじゃないですかね?』
A『もちろん存じていますが、作中に登場したユニーク装備の具足という名称は当て字みたいなもんです。ほら、字面だけ見ると足の防具みたいに見えるじゃないですか。語感も良いですし、もうこれでいいかなって思って』
Q『木偶人形は一定の条件を満たした人間であり異世界でアイテム化したものである
一定以上の信頼感系を持つアイテムマスターが使うことで本来の性能を引き出せる様になるのかな?』
A『残念ながら、違いますね。ですがまるっきり的外れでもありません。続きが気になる方は是非とも応援よろしくお願いします』
Q『覇王之威光は魔王之威光の誤字ですかね?』
A『魔王の……威光? ちょっと待ってください、そんなスキル書きましたっけ? 魔王之慧眼とか、魔王の蹂躙、威光之渦の事ではなくてですか?』
Q『神仏ニ背ク外套の《装備スキル》
・覇王之威光 魔王之威光じゃなく?
・暴君特権 パーティメンバーにも使用可?』
A『名称に間違いはないのですが……前の質問も似たような質問だったのですが、探しても見つかりません。ちなみに暴君特権ですが、結構メジャーなスキルやアイテムでパーティメンバーとの一時的な共有化は出来るようにするつもりです』
Q『封印の対策として速読や増毛などを覚えるときが来た。そうだよね?
スキルを増やすと言ったら、毒以外の耐性スキルを覚えないんですか?安全なところで麻痺や睡眠などをきたすアイテムを何度も使えばできるのでは?もしもの場合、中から状態異常を解除するアイテムを使えばいいし。
そういえば、スキルのオン・オフは出来るんですか?
耐性スキル持ちは病気で手術が必要なときに麻薬が無効されたら痛みに堪えるしかないし、不眠症になったら睡眠薬が効かなくなるし。もしかして病気や不眠症を回復するのに異世界のアイテムを使わないとダメ?なんか異世界に対する依存率が高くなりそう。』
A『封印対策として無駄スキルを覚える……断然ありですね。一応、他の方法でも出来ないかを検討中です。状態異常耐性スキルも覚えたいんですが、指摘の通りにしたの場合、カズサにわざと麻痺攻撃とか睡眠攻撃とか食らわせないとダメですからね。毒耐性の時はボスを倒すために雄介も覚悟を決めての事でしたし、正直、オーブを見つける方が良心的です。
スキルのオン・オフですが、素晴らしい着眼点です! 作中でこそ未だに語られてはいませんが、常時発動型スキルのオン・オフの切り替えは可能なんです。中には相性が悪くて互いの良さを潰し合ってしまう、そんな常時発動型スキルがありますからね。少し極端な例ですが、【毒無効】と毒状態の時に身体能力が大幅強化されつつ、毒ダメージを最小限に抑えるスキル、【毒強壮】とか。状況に応じて使い分けたい時に切り替えるんです』
Q『異世界と繋がるのは神々が原因なのか?二つの世界を闘わせて勝った方が他の世界を吸収して存在を維持する的な?または二つの世界が融合し一つの世界になるように繋がれた?それでノブの最期の言葉から、古い神々を誅して新しい神になろうってこと?』
A『ネタバレになるので多くは語りませんが……違いますね。そしておそらく、信長が作中で言った神というのは、読者の皆様が想像している神とは恐らく全くの別物ですね』
Q『現代人がハズレ職を検証ぜずにそのままにするはずがない、絶対に社会のシステムに活用したり、特性等を解明するはず。』
A『こういう質問が来るとは思っていました。いずれは本編でも語ろうと思っていましたが、ここで少し軽く事情を説明いたしますと、まず初めに作中の地球の総人口は、現実のそれと比べても十億単位で低いんです。これはゲートが開いて地球に現れたモンスターたちによって、人類が一度絶滅に追いやられそうになった名残ですね。それによって研究者の数も、研究者を志す者の数も大幅激減。それからモンスターは地球から駆逐され、今でこそ世界中が好景気と呼ばれるほどになりましたが、人類が文明復興からの発展を目指したのはここ百年ほどの間。現在ですら取りざたされた問題も、研究すべきことも山ほどある中で、冒険者として戦力に数えられなさそうなアイテムマスターの研究は後回しになりました。何せ異世界の資源の事や魔法の装備、カードにオーブ、主戦力となる天職など、調べることは山のようにあり、研究者たちは慢性的な人員不足に陥っていたからです。現実の様に充実な研究環境がある世界じゃないんですよね』
Q『質問失礼します。たとえば戦闘力5の人間が織田信長と戦ったらどうなりますか』
A『戦闘力10の信長が爆誕し、戦闘力5の敵なんて掠るだけで消し炭になりかねない高火力スキルで殺されますね。【天魔轟砲】や【星切之太刀】、【滅陽】は戦闘力が遥かに上回る相手にも通用する飛んでも火力スキルですからね。火縄銃の連射も、本人の戦闘力以上の威力が出ますし。戦闘力たったの5なんて、アイテムマスターや一般人くらいなもんですし』
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