頭の良い人に対してはバカで立ち向かう
皆様へのお詫び。全話で主人公が封じられているはずの【リジェネ】のスキルを使っていたのを、指摘によって気付きました……! こちら側の失念による誤字みたいなものです。とりあえず受けたダメージは回復ポーションで回復したという風に修正しておきました。皆様にはご迷惑おかけして申し訳ありません
それからも激戦は続いた。互いの動きの癖を学習し、騙し合い、隙を見ては一撃を入れる闘いをどれだけ続けただろうか。
思い返すのは、格ゲーで八谷のような格上と戦っている時に似た、焦りでひりつくような感覚。だが命を懸けている分、それはゲームの何倍もの感覚として襲い掛かってくる。
頼みの回復ポーションは見る見るうちに減っていき、そのくせ信長の体力ゲージはチマチマとしか削れない。奴を倒しきるよりも、回復ポーションが尽きるのが先なのは明白だった。
「あああああああああああああっ‼」
それでも、裂帛の気合を乗せた雄叫びを放ちながら、俺の操作に従ってカズサは信長に立ち向かう。
あと少し……最大火力を叩き出せる攻撃で信長を倒せるところまで、奴の体力ゲージを削れれば……!
(【爆雷】! 【鉄槍】!)
強力な放電を浴びながらも、左側を目掛けて放たれた鉄の槍を火縄銃の持ち手で叩いて砕く信長。
銃口をこちらに向けることのない僅かな隙を狙い、大壺爆弾を投げつける。あのタイミングなら、もう火縄銃で爆弾を撃ち抜くことも出来ないはず……!
(……いや! 防御を――――!)
しかしそんな希望は【窮鼠の直感】によって伝えられる危険によって打ち砕かれる。
何と信長は爆発による衝撃を浴びながらも、生じた爆風に乗ることで超加速し、神速でカズサとの間合いを詰めてきたのだ。
「喰らえぃ!」
「がふっ!?」
強烈な突きで吹き飛ばされ、燃える塀に激突するカズサ。突き破らなかったのは、迷宮型ダンジョンの壁に似た性質を塀が持っていたからだろう……それが災いして、瞬時に反撃を許すことになってしまった。
火縄銃を連射しながらカズサに向かって跳躍し、上空から重力を加えてながら日本刀でカズサを貫こうとする信長。
(舐めんなボケ!)
咄嗟にバスターモードに変形させたガンブレードの幅広の刃で銃撃をガードし、そのまま上空の信長を【チャージショット】で狙い撃つ。
「甘いわ」
すかさず突きの体勢から切払いに移行し、紫電を纏う刀で大きな魔力弾を真っ二つに切り裂くが……その瞬間に【烈風爪】を放つ!
高速で迫る五条の風刃。そのまま信長に直撃するかと思ったが、その瞬間にベルトに宿るスキルから頭へと強烈な警報が鳴る。
(跳べぇ!!)
「だぁあああああああっ‼」
信長はカズサが攻撃を放った直後の隙を見逃さず、赤黒い極大光線を放ってきたのだ。それに対してカズサは風の刃を掻き消しながら進む光線に向かって真っすぐ跳躍……【ミラージュステップ】によって光線をすり抜け、まだ空中にいる信長へと一気に距離を詰めながら、バスターモードに変形させっぱなしのガンブレードを振り下ろすが、刀で弾かれた。
(まだまだ!)
二回目のジャンプで信長の頭上へと跳び、再びガンブレードを縦に叩き込む。これも難なく火縄銃で受け止められたが、ここは踏ん張りの効かない上空。地面に向かって吹き飛ばされる。
「はあああああああああああ‼」
地面を蜘蛛の巣状に割りながらも、足から着地して隙らしい隙を見せない信長に向かって三回目のジャンプ。再び脳天を目掛けて踵落としを振り下ろした。
「……ふん」
だが信長はこっちに視線一つも向けることなく、サイドステップで回避しやがったのだ。
反応速度というよりも、こっちの攻撃を予見したような避け方だ……! 信長は居合抜きを思わせる横構えを取る。カズサは刀の間合いの内側で、絶好の隙を晒してしまった。
右腕が動いた瞬間に【ミラージュステップ】によって透過しながらバックステップしたが、まだ刀が振るわれない……!?
(フェイント……! タイミングをずらされた……!)
【ミラージュステップ】の透過が終わった瞬間を見計らいながら間合いを詰め、横構から刀が振るわれる。回避も防御も間に合わない……いや!
((このまま殴る!))
体力ゲージは十分。紫電が迸る刀の直撃を受けながらも、空ぶった足を軸にして、全身の捻りと体重を乗せた拳で信長の顔を力一杯殴った。
鎧の下は実体の無さそうな青い炎のように見えて、攻撃はちゃんと通るし、手応えもあるのか……そんなことを頭の片隅で考えながら、剣圧で吹き飛ばされたカズサの姿勢を空中で立て直させる。
「ぬぐ……!」
対して信長は全身が凍り付いて一瞬身動きが取れていなかった。
【絶氷】のスキルを拳に載せたのだ。本来なら掴んだ相手を凍らせる魔法スキルだけど、手から伝わるなら拳でも問題ない……!
(【炎柱】!)
氷は即座に砕かれて自由を取り戻させられるが、その隙があれば十分。信長の足元から炎の柱を放ち、奴の体力ゲージを着実に削り取る。
(くそ……もう、無くなってたか……!)
下級、中級、上級……種類問わずに体力ゲージを回復させられるアイテムは底を尽きてしまった。【リジェネ】も封じられっぱなしの今、俺たちは後一撃でやれるところまで追い込まれてしまった。
「最早回復も尽きたようだな」
「……それはどうっすかねぇ?」
「ふん……虚勢は止すがいい」
そんな俺たちの様子を瞬時に察したらしく、信長は断定的に言ってのける。カズサが精一杯のブラフを張ってるけど、嘘が得意じゃない彼女の言葉にも全く動じない。もしかしたら、俺たちが信長の体力ゲージが見られるように、信長にも俺たちの体力ゲージが見えているのかもしれない……!
(【空蝉】のおかげで、あの黒太陽のスキルは使ってこないのが唯一の救いってところか……!)
恐らく信長の最大攻撃スキルは、【空蝉】で完全に対処するどころか綺麗に反撃まで決められた。黒太陽のスキルを使えば【空蝉】で反撃を受け、黒太陽以外で【空蝉】を使えば真っ先に殺される……俺たちと信長の間では、そんな暗黙の了解のようなのがある。
(あと……高火力攻撃を二発……! それで倒せる……!)
信長の体力ゲージを何とかそこまで削り切ることが出来たけど、状況は芳しくない。
攻撃魔法スキルは全てインターバル待ちの状態だ。時間稼ぎをしようにも、カズサよりも速い信長に近接攻撃を仕掛けられれば、この体力じゃ心許なさすぎる。
次の攻防で何としても奴を倒したいが……どうする? デュアルモードの攻撃じゃ威力が低すぎて、攻撃を浴びながらの特攻を許してしまうから論外。今出せる高火力の攻撃は大壺爆弾と、【オーラブレード】を発動させてのバスターモードによる一撃。それらをどう当てるか……!
「考える間は与えぬ」
そんな俺たちの事情など当然無視して、信長の周囲に黒い靄のようなものが激しく渦巻き始める。ここに来て見せたことのないスキルだと……!?
「うわああっ!?」
その力は様子見をすることすら許されず……カズサの体が僅かに浮いて信長の元へと引き寄せられた。これは……引力を操るスキルか!?
慌ててガンブレードを地面に突き立てて引き寄せられないように固定する。周囲を見てみると、明らかにカズサよりも軽い小石や瓦礫が微動だにしていない。
生物だけ引き寄せているのか? 織田信長のカリスマを特殊な引力として具現化したスキル……分かるぞ。このままカズサが引き寄せられれば、まともに体勢を整えられない状態で、紫電が迸る刀で切り飛ばされるってことくらい。
(そしてこのまま踏ん張ってても、火縄銃で狙い撃ちされるってことくらい!)
猛連射される火縄銃の弾丸が迫る! 俺は悔しさに奥歯を噛みしめながら、【アイテムボックス】内にある手のひらサイズの小さな盾状のアイテムを使うと、カズサの全身を青い光が包み込む。
アイアスの加護。どれほど高威力の射撃攻撃や投擲攻撃に対しても七秒間無敵になれる防御アイテムだ。本当なら最後の攻防で信長に接近する時に使おうと思っていた切り札なのに、こんな形で使わされるなんて……! このアイテム、一個しかないんだぞ!
コイツ……確実に止めを刺すために、あえてこのスキルをここまで隠してやがったな!?
(何か考えろ! 脳味噌焼き切れるくらい思考を回せ! 1秒で答えを見つけ出せ!)
初めて使うアイテムで、【アイテム強化】の効果によってどう変化したか分からない! 猶予は七秒と見た方がいい!
大壺爆弾も、バスターモードでの斬撃も隙が大きい攻撃だ。それを無策で繰り出して当たるほど信長は安い相手じゃない……! 意表を……俺たちなら絶対にやらないと信長に思わせるだけの意表を突く必要がある。
どうする……どうする……!? 短い時間の中、どれだけ策を講じても叩きつけられる、成功率0%という結果予測。ただ悪戯に時間が削られていく中――――
(特攻しましょう!)
力強い念話がカズサから送られる。
こんな僅かな体力ゲージで特攻なんて何を考えているんだ、仮に倒せたとしてもこっちが死んだら意味がない……そう言い返そうとしたけど、ホログラム画面の向こうにいるカズサの眼は、やけっぱちになった奴のものじゃない。極僅かな猶予の中で、思い悩む俺に最速で作戦を伝えようとしている……そんな眼だ。
(…………そうか……!)
そして気付いた。あったのだ、特攻でありながら最小の被害で相手に大ダメージを与えられる、そんな方法が!
(いくぞ、カズサ‼)
(了解‼)
体勢を整え、ガンブレードを引き抜くと同時に信長の方へとカズサを走らせる。体感にして、アイアスの加護の効果時間は残り二秒……引力の助けを借りれば、十分ガンブレードの間合いに収められる筈!
更に駄目押しで【ブースト】も発動。引力で崩れそうになる姿勢の制御に集中しながら、信長に対処する時間を与えない速さで一気に間合いを詰める。
「はぁっ!」
当然、間合いの内側に入れば刀を振るうだろう。信長からすれば当初の目論見通り、二段構えの内の片方を直撃させられるんだから。
だから俺はその攻撃を、大壺爆弾で防いだ。
「何……!?」
驚くのも無理はない。どうやって察していたかは分からないけど、信長は明らかにこっちの体力が尽きかけていることを察していた。そんな状態で大壺爆弾の威力に耐えられる筈がない……その認識、決して間違いじゃない。
でも俺自身、敵が強大だからこそ慎重になり過ぎて気が付かなかったスキルの可能性があった……【ミラージュステップ】は敵の攻撃を擦り抜けるだけじゃなく、自分の攻撃も擦り抜けることができるってことを!
「おおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」
コンマ一秒もボタンを押すタイミングを外せば自爆する危険な作戦。素人なら一発クリアなど夢みたいな成功率。日頃から爆弾アイテムを主力として試す事や使うことの多かった、アイテムマスターだからこそ狙えた刹那の瞬間。
超至近距離から巻き散らされる熱波と爆炎を浴びて体力ゲージを削られながらも、突き抜ける衝撃波だけは見事に擦り抜けて、カズサは光輝くガンブレードを大きく振りかぶりながら黒煙を引き裂く。
万感の思いを込めて押された△ボタン。爆煙で何も見えない。ただ……ガンブレードがガシャアアアンッて音を立てて砕ける音だけが、俺の耳に届いていた。
以前から信長の戦闘力やスキルに関する質問があったので、ご質問と一緒にお答えします。ではまずは劇中に登場した信長のスキルについてから。
種族:第六天魔王・織田信長
戦闘力:?
スキル一覧
【星切之太刀】
オーラブレードの強化版的なスキル。
【天魔轟砲】
極太ビーム。薙ぎ払いも可。とあるゲーム界隈ではグラビームと呼ばれる技に似ている
【滅陽】
黒太陽のスキル。効果範囲はダンジョン全域。ガード不可。回避不可。攻撃判定も長いのでミラージュステップでも凌げない。下記のスキルによって、信長が使えば漏れなくすべての敵を一撃死させる威力。身代わりスキルの類があればなんとかなる。
【六天之枷】
敵対者全員のスキルをそれぞれ六つずつ封じるスキル。封じるスキルはランダムで、一番マシな対処法は特に役に立たないスキルを沢山覚えること。
【不倶戴天】
ご指摘にあったとおり、信長と敵対する全ての者の戦闘力の合計の二倍の数値が信長の戦闘力になる常時発動型スキル……と言うだけではなく、敵の数が増えれば増えるほど信長に新たなスキルを与える力もある。これによって信長は敵対者が多くなればなるほど際限なく強くなり、最終的には全く手に負えない世界を滅ぼせる魔王となる。一応敵対者の数が減れば、その分戦闘力が減るという弱点にもならない欠点はある。魔王信長はたった一人で挑んで初めて勝機を見いだせるが、外界から遮断された特殊な空間内にいる敵対者はこのスキルの適用外となる。つまり、雄介とカズサは凄く運が良かった。
【暴君特権】
全てのスキルインターバルを半分にするスキル。信長本人が使えばその効果は更に跳ね上がる。
【侵略者】
アイテムやスキルなどで敵対者のステータスが増大した分、自身のステータスも増大させるスキル。考えてバフを詰まないと戦闘力に差が縮まらない。
【ゲージシステム】
カズサにもあることでお馴染みのスキル。これによって肉体の損傷は体力ゲージが、疲労はエネルギーゲージが肩代わりしてくれて、戦闘続行力を飛躍的に高める。体力ゲージが0になったら死ぬ
【魔王之慧眼】
一度技を見せれば二度目三度目では完全に対応できるようになる、織田信長の適応力が具現化したスキル。目に根差したスキルで、その影響からか、体力ゲージとか色々見える
【威光之渦】
織田信長のカリスマ性を具現化したスキルで、生物のみを引き寄せる特殊な引力場を生み出す。
といったところでしょうか。抜けていたり、疑問があったら感想にてお教えください。それでは、今回のご質問をお答えします。
Q『信長が倒して仲間になるパターンだったらもしかしてパイルフォーメーション的な?』
A『流石にそれはないですね。昔、英雄の力を具現化する有名な魔法少女物のゲームが出たんですが、大英雄の力を具現化した時の美少女主人公が、凄く残念なことに……。後に原作でカッコ可愛くリメイクされましたが』
Q『「この程度では貴様らの眼は砕けぬか」……「貴様ら」てありますけど、ユースケを感知してるんですか?』
A『上記にある【魔王之慧眼】の効果ですね。干渉するまでには至らないにしても、カズサの中に居る何者かの存在を感知することはできる……という訳ではないんですよね、実は! 詳しくはネタバレになるんですが、それ以外の方法でカズサの中に居る何者かの存在を知っていたんですよ』
Q『神奈川守衛隊は有用なディフェンススキルを秘匿してるけど非難されないの?みんなが自分のスキル構成やらバンバン公開してるのに命に関わる大事なスキルを秘匿してるとか炎上ものでしょ。』
A『普通ならそうですね。ただ、神奈川守衛隊は有用なディフェンススキルを門外不出としたのは、情報公開を推奨される以前の黎明期から。時代が進んでも、他所のギルドではマネできない防衛力という売りなのに、その秘密が流出してはパーティの屋台骨が大きく揺れる可能性大です。なので神奈川守衛隊は、パーティ運営の為に技術を公開できないことをテレビや雑誌を通じて深々と詫び、その代わりとして他のどんなパーティよりも良心的な活動を心掛けているんですよね。派遣料金を激安にしたり、地球に現れたモンスターによって破壊された街の復興を惜しみなく手伝ったり、各地に人員をやって新人冒険者たちの指導を行ったりと他にも色々ね。情報という点で他の冒険者の助けが出来ない代わりに、他の事で大きくカバーしているから、世間からの心証は良いんですよ』
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