頭の良い敵ほど厄介な奴は存在しねぇ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
ホログラム画面を埋め尽くしていた黒が晴れた時、そこに立っているのは信長だけだった。新藤は勿論、カズサの姿はどこにもない。
俺は汗が滲む手でコントローラーを握りしめ……信長の気が緩んだ瞬間を見計らって、コマンドを入力した。
「でぇい‼」
「ぬっ……!?」
突然信長の背後にカズサが出現し、【オーラブレード】の光を纏った、バスターモードに変形したガンブレードで信長の胴体を横薙ぎに捉える。
……その時、俺はこの目で確かにあるものの存在を確認した。
「飛・ん・で・けぇえええええええええええっ‼」
捻り上げた全身を回転させ、気迫を口から迸らせながら、カズサはそのまま渾身の力で燃え盛る本殿に信長を吹き飛ばし、焼ける木片が飛び散る。今の一撃は……間違いなく効いている!
(今の超範囲攻撃、かなりヤバかったっすね! 【空蝉】が無かったら間違いなくやられてました!)
(取っておいて正解だった……それよりも、見たか?)
(はい、ばっちり)
ガンブレードが直撃した瞬間、信長の頭の上に緑色のゲージが出現し、それが少し縮んだのだ。あの正体は言わずもがな……【ゲージシステム】の体力ゲージだと直感する。
多分最初の【炎柱】と【鉄槍】の攻撃でも出てたんだろうけど、派手な火柱で見えなくて気付かなかった。肉体の損傷を体力ゲージで肩代わりするスキル……そのゲージが見えるようになった理由はいまいち分からない。
【天眼】のスキルがそうさせたのか、別の理由があるのか……いずれにせよ、何時倒せるか分からない不安感に苛まれる必要が無くなったのは良しとしよう。
(あれが本当に体力ゲージなら、攻撃を当て続ければいつかは倒せるってことだ)
(はい……! でもユースケ、あの人は……)
何食わぬ様子で炎をかき分け、本殿から出てきた信長を油断なく見据えながら、カズサは言いかけた質問を自ら遮った。
あの黒太陽は本当に恐ろしいスキルだった。放たれる余波で妨害を防ぎながら、超威力にして超広範囲の一撃を放つスキル……カズサだって、【空蝉】が無かったらやられていたに違いない。当然、新藤がそれに耐えられる筈もなく……。
(本当に、何しに来たんだ……アイツ)
いや、今は考えるな。信長にだけ集中しろ。希望は出てきたけど、同時にとんでもない敵だってことも再認識したんだから。
(一回逃げて頭数を揃えて挑みたいとか思ったけど、それはやっちゃいけない戦法だったな)
これは俺の推察だけど……新藤が現れた瞬間、信長の戦闘力が上がり、今は元に戻っている。その数値差はおよそ3000。新藤の戦闘力のほぼ二倍だった。
思えば、信長の戦闘力がカズサの戦闘力のジャスト二倍というのも出来た話だ。もしかすると信長の戦闘力は、敵対者全員の戦闘力の二倍の数値になる……みたいなスキルを持っているのかもしれない。
だとすれば、どれだけ戦闘力が高くても信長の前には無力だ。むしろ頭数を揃えれば揃えるほど手を付けられなくなる……東京に現れた魔王と比べれば劣るなんて、とんでもない勘違いだった。
(ユースケの分の戦闘力が加えられないのは、アタシの中に居るからってことですかね……?)
カズサの内部空間は外部からの干渉を全て遮断する場所だ。敵の合計戦闘力の二倍の戦闘力になるスキルを本当に持っているとしたら、それを上手く掻い潜れた……こういう点でも、俺たちは本当に運が良かったらしい。
(となると、後は技量次第……信長の攻撃を上手く捌き、攻撃を当て続けるだけだ!)
そこから俺とカズサにとって、長い長い戦いが始まった。
互いに隙を見つけながら攻撃を叩き込んでいくという、一種の膠着状態。相手の攻撃を上手く対処した次の瞬間に攻撃。バスターモードで大きなダメージを与えるほどの隙も無いから、デュアルモードでチマチマ削っていくしかない。
それに対して信長の攻撃はどれもカズサの体力ゲージの七割以上を消し飛ばす。喰らう度に回復ポーションでカバーしているけど……火縄銃での連射以外の攻撃なら、二発連続で食らえば間違いなく死ぬ。
(インターバルが終わり次第魔法攻撃! アイテムでの攻撃も確実に当てるタイミングを狙うぞ!)
隙も少ない相手となると、ダメージを与えるために主力となる攻撃は魔法スキルとアイテムだ。近接必須の【絶氷】を除いた四種の攻撃魔法を隙を見つけるか作り出すかしながら使い回し――――
(爆弾を食らえ!)
直径1メートルの大きさにも及ぶ壺を【アイテムボックス】から取り出して信長に目掛けて投げつけると、今までの攻撃アイテムとは比べ物にならない大きな爆発が巻き起こる。壺爆弾の上位互換、大壺爆弾だ。
数に限りはあるけど、威力は魔法攻撃よりも明らかに上。今の俺たちが放てる最高威力の攻撃だ。その衝撃波によって地面に二本の線を引きながら大きく後退る信長に向かって更にもう一発の大壺爆弾を構えたんだけど、投げるよりも先に爆弾を火縄銃で撃ち抜かれた。
「あああああっ!?」
必然、今度は大壺爆弾の威力を自分たちで味わう羽目になってしまった……! 吹き飛ばされながらも回復ポーションで体力ゲージを回復し、すぐさま体勢を立て直して逃げ回りながら銃撃を掃射、隙を伺い続ける。
堅実な戦い方が出来ているという手応えはある。その甲斐もあって信長の体力ゲージは順調に削れていっているんだ。
「かあっ!」
「あぐぅっ!?」
超速で迫りながら火縄銃で牽制。間合いを詰めたところを刀で切りつけてきたので【ミラージュステップ】で回避したその直後、火縄銃で思いっきり殴りつけてられて、大ダメージを受けながら、燃える本殿に吹き飛ばされてしまった……!
「いつつ……!」
(あのくらいの攻撃でも、体力の四割削られて――――っ!?)
燃えて崩れ落ちる木材の向こう側から、炎に紛れて極大光線が放たれる。
(あっぶねぇっ‼)
慌てて転がりながら緊急回避……できたと思えば、そのまま光線を放出しながら薙ぎ払ってきやがった!?
(喰らって堪るかあああああっ‼)
しゃがんだ状態から背面跳びの要領で光線を回避し、視界の悪い本殿を飛び出して再び信長と対峙する。極限の操作を連続で迫られすぎて、頭が熱くなって鼻血まで出てきたけど、それを拭う暇すらない。
強力な攻撃スキルは多いが、特定の条件を満たさなければダメージが通らないみたいな、厄介なスキルがあるようには見えない。純然なパワーとスピードで挑戦者を圧倒する魔王に相応しい力だけど、何より厄介なのは信長の対応力だ。
似たような戦法を二回か三回使えば的確に対処されて、手痛すぎる反撃を食らう事になる。今の一連の流れだって、【ミラージュステップ】の欠点を見抜いたような動きだったぞ……!
(これが織田信長の力……! 壺爆弾は残り僅か。回復ポーションも心許なくなってきたし……何より……)
カズサの両手に握られた二振りのガンブレードを苦々しく見る。カズサと出会ってから今日まで共に戦ってきた得物は、信長の強力な攻撃の盾になり続けたせいで、幾つもの刃毀れを起こし、小さなヒビが入っているのが見えた。
(【不壊の担い手】を封じられた弊害が、こんな土壇場で……!)
装備の破損を防ぐスキルを封じられたことで、幾つものスキルを付与されたことで特に頑丈になったマフラーを除いた、カズサが身に着けている全ての装備はボロボロになってしまった。
ガンブレードによる斬撃の威力も低下……【オーラブレード】を併用しなければ、まともにダメージを与えることはできないし、何よりもう長く持たないだろう。
良くてあと数回攻撃をするか受けるかをすれば、ガンブレードは圧し折れる。そんな予感をヒシヒシと感じさせられた。
(…………いきましょう、ユースケ)
(あぁ……二人で勝つぞ)
それでも、まだまだ絶望なんてしない。信長の残り体力と【アイテムボックス】の中身を確認して見い出した、勝利の道筋はまだ途絶えていないから。
ご質問があったのでお答えします。
Q『信長の戦闘力と特殊攻撃について』
A『こちらに関してですが、もう次話の後書きで一気に信長のスキルについて公開したいと思います。作中では主人公側の情報不足で分からないことも多いですからね。むしろ公開したいので、ぜひお待ちください』
Q『これはギルドから新藤の冒険者資格の剥奪もあり得るかな?』
A『事がバレれば間違いなく刑罰に処されます。バレたかどうかは……あと2話ほど先をお楽しみに』
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