エピソード新藤・やっぱりお前だったのか
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
失敗した……スタジアムのトイレから逃げ出し、暗い夜道を走る俺、新藤司は奥歯が割れそうなくらいに歯噛みする。
「クソ! クソクソクソォ……! なんで、こんな……!」
九々津雄介が冒険者として注目を浴び、一之瀬カズサが現れてから、俺の人生の歯車は再び狂い始めたんだ。
春休みまでは、俺が学校の頂点に君臨してたのに、周りの連中の関心や人望はあっという間に二人に流れていって、気が付けば俺を中心としたグループは孤立してた。
人間でもない人形。冒険者の力がなければ日の目を見ることもなかったハズレアイテムのくせして、まるで小学校時代に居たあの女を彷彿とさせる一之瀬カズサの存在は、酷く俺の心をかき乱す。
人形のくせに、女のくせして俺よりもクラスメイトから信頼されて憎たらしい。俺よりも学校の奴らから注目を浴びて疎ましい。それでいて、今まで侍らせていた女共とはレベルが違う外見や、かつて俺の物にもならずに死にやがったあの女を彷彿とさせる在り方を見て、俺の物にしたいという欲求が湧いた。
小学三年の冬……あの女の死がきっかけになって、俺はとにかく他人の物を欲しがる性癖のようなものが身に付いたと思う。終ぞ俺の物にならなかったくせに、見ず知らずの男子に心を開いていたあの女を永遠に失ったことへの反動だろう……ゲームに漫画に菓子にと、種類問わずに他人の物を欲しがるようになったのだ。
それは女であっても変わりはない。中学に入ってから性に目覚め、同年代の奴らが色付き始めた頃、俺はフリーの女子よりも彼氏持ちの女をモノにしたくなっていた。
だがクソ生意気なことに、全ての女が俺の物になった訳じゃない。家が金持ちってことを仄めかしても、彼氏を裏切るような奴はまたの緩いバカ女ばっかりで、殆どの女は自分の彼氏を裏切るようなことはしなかったのだ。
実に腹が立つ。女は強い男に従えばいいのに……そう思った時に気が付いた。
――――俺はまだ、女を屈服させるほどの男じゃないんじゃないかって。
冒険者を目指したきっかけは、大体そんな感じだ。欲しくなったものを奪えるだけ力と名誉を持つ花形職業……それになれれば、俺の人生は俺の思うがままになるんじゃないかと。
実際、上手くいっていたのだ。俺に甘い両親は必要経費をすぐに出してくれたし、伝手を辿って大学生冒険者グループに混ざる事が出来たし、戦闘力も上がってすぐに俺自身の手で大金を得られるようになった。
まぁ、冒険者になる前の講習っていうか、説明会みたいなのはメンドーだったけどな。話は殆ど聞いて無かったけど、良い子ちゃんを演じておけば色々得するってことくらいしか分からなかったし。
でも講習で聞いた話は本当だった。冒険者になってからちょっと余裕で寛大な金払いの良い男を演じてやれば、冒険者っていう肩書も合わさって誰もが俺に夢中になったものだ。
その証拠に、冒険者になってからは肩書に惹かれた彼氏持ちの女の何人かが、少し誘うだけでホイホイ彼氏を捨てて俺に媚びるようになった。一応本命扱いしている薫もその内の一人……一学期は地味な奴で、オタク野郎の九々津と付き合ってるっていうのはふとしたことで偶然知ったんだけど、夏休みデビューで結構可愛くなったから、俺の物にしてやった。
まさに順風満帆。小学校時代に一度は失った、充実した学校生活を本当に意味で取り戻せた気がして、俺は本当に気分が良かったんだけど……それは呆気なく終わりを告げる。
『皆さん初めまして! 隣にいるユースケと冒険者業をやってる、マジックアイテム木偶人形、一之瀬カズサって言います! 今日から皆さんと一緒に生徒としても生活することになったんで、よろしくお願いします!』
政府だか何だかの意向でやってきた、あの女によく似た雰囲気を持つ木偶人形。そいつが思い出したくもない過去をほじくり返して、俺を苛立たせやがる……!
まるで小学三年の時のように、あっという間に学校の奴らからの関心と人気を奪っていくあの女が許せない。それに加えて、俺以外の男と親しくしているのも心底腹が立つ。子供の頃出来なかったことを……九々津の奴から一之瀬カズサを奪って犯して滅茶苦茶にしたくて仕方がなかった。
でもそれは出来ない。俺だって奴らの動画を観たし、俺の戦闘力じゃ手出しできない強さっていうことは分かっていたから、力尽くじゃ無理だってことくらい分かる。
それでも何とか人気だけでも取り戻したい……その為には、カラクリという冒険者の評判を貶めるしかない。
だからこそ、今回のユース王決定戦の出場は、学校での俺の沽券を取り戻すための絶好のチャンスだった。
優勝者が挑戦できる、全国に中継されるエキシビジョンマッチには奴らが出る。それを知った時、その場で奴らを叩き潰せれば俺の望みは叶うって確信した。
戦闘力に大差はあったけど、問題ない。九々津の家族を襲うぞと脅してしまえばいい。そうすれば奴らはエキシビジョンマッチでわざと手を抜いて、観衆の前で戦闘力で大きく劣る俺に負けざるを得なくなる。そうなれば奴らの冒険者としての評判は地に堕ち、俺はまたスクールカーストのトップに返り咲ける。九々津から一之瀬カズサを奪える機会も出てくるだろう。俺が見事優勝を決めれば、隙を見て奴らを脅してやる……そう思っていたんだ。
[勝者、黒犬屋選手! 試合時間二秒! 神速の三連射を炸裂させ、優勝候補としての意地と貫録を見せつけました!]
だが俺は負けた。それも全く注目さえしていなかった相手に、一回戦で、たった二秒で負けた。
まさかこんな呆気なく終わるなんて思いもしなかった。純然たる力の差……それを薫を始めとした取り巻きどもを含めた大勢の前でまざまざと見せつけられ、俺は無様を晒しただけだったのだ。
余りにショックが大きすぎて、観客が口々に俺をバカにしても反応できなかった。気が付いた時には、九々津と一之瀬カズサはエキシビジョンマッチで勝利して、観客を始めとした大勢の人から称賛され、取材者たちにまで囲まれてやがった。…………俺とは正反対に。
(九々津……雄介ぇえ……!)
俺の中で、ドンドン九々津という存在が膨らんでいく。今までは俺に彼女を奪われた冴えねー男くらいにしか思っていなかったのに、今は腹立たしくてしょうがない。
……だから、トイレに行った隙を狙ってアイツを襲った。
正直、殺そうとまでは思ってなかったけど、存分に痛めつけて冒険者を辞めるよう、体に言い聞かせるつもりだったのだ。大会に出るなんてまだるっこしいことも馬鹿らしくなったし、もう真っ向からボコって俺の思い通りにしようと。
幸いにも、俺は【フラッシュ】や【透明化】、【コスチューム】と言った変装系スキルを覚えている。これらを駆使すれば、人目の付かない場所で九々津を痛めつけても、正体がバレることなく逃げ出せる。
『コイツ……大したことないぞ!』
でも、ここでも俺は敗北した。【恐怖耐性】のスキルもないから刃物を持った冒険者相手に恐慌状態になり、【剣術】みたいな武術系スキルもないから腕をブンブン振り回すしか出来なかった、ハズレ職の九々津なんかに。
【剣術】スキルは、グルグルパンチを繰り出す奴の仕留め方を的確に教えてくれてはいた。それのおかげで、何度か剣で切りつけられもした。
でも俺は、九々津自身の戦闘力も上げられていることまでは把握できていなかったんだ。俺と奴の戦闘力にもすでに大差が付けられているみたいで、何度攻撃してもアイツの肌から血を流す事は出来ず、単調なはずの攻撃は早すぎて避けることも出来ず、まともに力も乗っていないであろう攻撃を何度も喰らって一方的にボコられてしまった。
挙句の果て、アイツは俺の事を大したことないってバカにしやがって……!
何とか逃げることは出来たけど、今まで見下していた相手に……ハズレ職のアイテムマスターの雑な攻撃にやられたことで、俺の自尊心は木端微塵に砕かれてしまった。
「ストレス……ストレスを消さねぇと……!」
受け入れがたい現実の連続で頭がおかしくなりそうだ……憂さ晴らしをしなきゃやってられない。俺は乱暴な手つきでスマホを操作し、両親が泊まりで不在の自宅まで薫を呼び出した。
「き、来たよ……司君……」
ビクビクしながら家に上がる薫。その態度が逆に俺の神経を逆撫でして……気が付けば、俺は薫の髪を掴んで部屋へと引っ張っていた。
「痛い痛い‼ おねが……止めて!」
「うるせぇよ。ムシャクシャしてんだ……女は大人しく男の言うとおりにしてりゃいいんだよ‼」
泣き喚こうが気にも留めない。俺の彼女になったからには俺の言う事に絶対服従だ。いつか一之瀬カズサだって俺の物にしてやる……!
ご質問があったのでお答えします。
Q『カズサってば、アイテムボックスに逃げ込めばいいのに・・・距離の制約でもあるのかな?』
A『そこまで冷静じゃいられなかったんですよね。一般学生だった冒険者が果敢に脅威に立ち向かえるのは【恐怖耐性】スキルあってこそ。一般人が刃物を持った変質者に襲われた時のリアルな反応を追求してみました』
Q『アイテムマスター以下の戦闘力しか持たないのに威張り散らしててイキってて本戦二秒で負けたイケメンがいるってマジ!?』
A『マジです』
Q『流石に天眼じゃ種族までしか分からないか、なら天眼のスキルオーブを入手出来たなら名前や性別なんかも判明するようになるのか?』
A『上位スキルになれば個人情報を得られるようになりますからね。まぁ、天眼のスキルオーブがかなりレアなので早々見つかりませんが』
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