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現代創作物において、ピエロは最早ホラー要素の一つだと思う

設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください


 まぁ、大会が終わった直後は大変だった。


「すみません! こちら日朝新聞の者ですが!」「カラクリ選手! エキシビションマッチの勝利おめでとうございます!」「今のお気持ちをお聞かせください‼」「お二人はどのようにして出会ったのですか!?」「冒険者としての目標はありますか!?」「ランカー入りを目指しているのは本当ですか!?」「はぁ……はぁ……今、どんなパンツ穿いてるんですか……?」「僅か数ヵ月でここまで上り詰めたお話について是非!」「お二人は男女交際の関係にありますか!?」「黒犬屋選手との対戦について一言!」


 試合が完全に終わったのを見計らったように押し寄せてきた幾人ものリポーターの波に飲み込まれる俺たち。揃いも揃って目をギラギラさせてて、ちゃんと答えるまで絶対に放してくれなさそう……!

 

(これが……これが有名税って奴なのかー!?)


 大勢の取材者が押し寄せてきたり、大勢の編集者が押し寄せてインタビューの予定を申し込んできたり……俺だけでも解放されたのは二時間も経った後のことだった。


「……殺されるかと思った」


 比喩ではなく、割と本気で。取材者たちの探求心は血走った眼も合わさって、どこか殺気染みたものを感じたし。

 そんな訳で、何とか俺に来ている分の取材を捌き終え、これ以上取材者が来る前にトイレに行こうと控室を出たところなんだけど、この扉一枚の先では、カズサは現在進行形で色んな雑誌の編集者たちに迫られている。


『私どもの雑誌に出演していただけませんか!?』『今は夏物の衣装の取材をしていまして!』『人気モデルの神山君との共演に興味はありませんか!?』『カズサさんなら絶対に人気モデル兼冒険者になれます!』『是非我が社とモデル契約を!』

『ちょっと皆さん順番! 順番に! ユ、ユースケ~~~! 早く戻ってきてくださいぃいいい!』


 確か今は……冒険者モデルの雑誌編集者に囲まれてるんだったか? 人間離れした美貌のカズサならあり得るかなって思ってたけど、まさかこんな大勢押し寄せてくるとは。

 こういう有名になるための話が来るのは嬉しいけど、休みもなくぶっ通しになると流石に疲れる。

 すまない、カズサ……俺は何時までも我慢できるような括約筋をしていないんだ。不甲斐ない相棒を許してくれ……。出来るだけ早く戻るようにするから……。


『あ、すみません。アタシもちょっとトイレに――――』

『行かなくても良いということはカラクリ選手の動画を拝見しているので知っています。まさか昔のアイドル像を実在させたような方が本当にいらっしゃるとは思いませんでした! 私どもの雑誌は現役アイドルも多く出演しておりまして、カズサさんなら芸能界入りも――――』


 許してくれ……【ゲージシステム】でトイレとは無縁のお前を、『昔のアイドルみたい(笑)』と紹介して逃げ道を封じてしまった俺を、どうか許してくれ……。


「っと、これを付けとかないとな」


 俺は【アイテムボックス】から超人のブレスレットを取り出し、手首に嵌める。最近より一層有名になってきた事もあって、冒険や試合以外の平時は俺が付けるようにと、カズサと話し合って決めているのだ。

 最近、新藤の視線も何か怖いし、俺たちの成功を妬む奴も出てきてもおかしくないかもだし。


「ふぃ~。さて、と」


 控室から離れた場所にあるトイレの個室にそそくさと入って、ズボンを下ろして便座に座ると、SNSや冒険者関連のニュース、動画サイトのマイページを確認するためにスマホを取り出す。

 ユース王決定戦のエキシビションマッチの勝利は早速ネットニュースに取り上げられているだろうし、マイページにも祝いのメッセージが来ているかもしれない。

 

「……これで俺たちはまた一歩、ランカーに近づいたな」 


 アマチュアの中じゃ一番大きな大会だったし、知名度は大きく上がったはず。リアルタイムでテレビに生中継されてたって話だし、雑誌に出ることも合わされば、俺たちは今までよりも更に有名になる。

 ……でゅふふ。参ったなぁ。これからは変装しないと外を出歩けないかもしれない。


「…………!?」


 早く用を足そうとしたその時、ドカッと個室の扉に何かがぶつかる音が聞こえてきた。ただのノックとか、何かがぶつかった音とかじゃない。誰かが個室の扉をよじ登っている……そんな感じの音だ。


「ちょ、まさか覗き!? 男を覗くとか変態度高過ぎ――――」


 顔を上げて、思わず固まった。なぜなら視線の先に居たのは、扉の上側の縁から身を乗り出し、剣を片手にこちらを見下ろしているピエロだったからだ。


「ほわああああああああああああああっ!?」

「がっ!?」


 思わず扉を両手で力一杯押して、勢いよく開け放たれる扉ごとピエロを吹っ飛ばす。

 何あれ何あれ何あれ!? ビックリしたぁー‼ 人間か!? 一応人間っぽいけど、ホント何なのあれ!?


「……死ね……!」


 大急ぎでズボンを上げて個室から飛び出す。能面の様に変化のないピエロの仮面の奥から聞こえてくるのは、明確な殺意を示すくぐもった声。ピエロは手に持った剣を構えると、間髪入れずに俺に襲い掛かってきた。

 冒険者業開始一日目を彷彿とさせる命の危機に、俺の頭は混乱した。【恐怖耐性】もなければ、【剣術】のような戦闘を補助するスキルも一切ない。あるとすれば超人のブレスレットだけど、多様なスキルを操る冒険者の方が優位。しかもトイレの出口はピエロの背後にあるため逃げ場も無し。これまでずっと頼りにしてきたカズサも、離れた場所にある控室で質問攻めの真っ最中。


「その上今すぐにでも漏れそうなんですけど!?」


 同時に襲い掛かってくる命と尊厳の危機。ネガティブな思考が頭を占領し、俺は冷静さを失った。 


「うわあああああああああああっ‼」


 そして気が付けば俺は目を瞑りながら両腕をグルグル振り回した。

 子供とかがよくやる、グルグルパンチである。武術の心得なんて一切ない俺にはこれが精いっぱいで、拳に何かが当たる感触や、体に何かがぶつかる感触を感じながらも、とにかく腕をグルグル振り回し続けた。


「ごっ!? がっ!? ぶっ!? べっ!? ばっ!? ぐぶはあああ!?」

「わあああああああああああああああ…………あれ?」


 そして気が付けば、俺はグルグルパンチでピエロをボコっていた。

 剣は圧し折れ、満身創痍といった様子のピエロ。対して俺は服を何ヵ所も切られていたけど、露出した肌は無傷だ。

 これはもしや……俺とピエロの戦闘力に隔絶とした差があるのでは? しかも【鉄塊】や【剛腕】もブレスレットに付与されてたし……これで俺は一方的にピエロをボコれたのか。


 ―――――――――――――――――――――――――

 種族:ホモサピエンス

 戦闘力:1533


 地球で数多く活動している知的生命体。主に集団で生活しており、道具を生み出し、扱う事に長けている。

 ―――――――――――――――――――――――――


 試しに【天眼】を使ってみると、戦闘力差は実に二倍以上。そこに身体能力を補助するスキルも加われば……グルグルパンチでも倒せるのも頷ける。トイレという狭い空間も相まって、まともに避けることも出来なかっただろうし。

 …………あれ? そう言えばこの数字、どこかで見た気がするんだけど…………どこだっけ? ユース王決定戦の会場だっただけに、このくらいの戦闘力の冒険者なんて数時間前までは幾らでもいたから、個人を判別できない。


「コイツ……大したことないぞ!」


 ここまで戦闘力に差があれば俺でも倒せる。そう思ったら恐怖心もどこかに吹き飛んでいって、ボロボロになったピエロを抑え込もうとしたんだけど、それよりも相手の行動の方が早かった。

 

「クソがあっ‼」

「はぅああっ!? 目が!? 目が~~~~‼」


 突然放たれた凄まじい光がトイレを埋め尽くす。【閃光】という目晦ましの魔法スキルだ。強烈な光に目が眩んで何も見えないから、満足に身動きも取れない……こういう時、アイテムマスターって都合よく対処できるアイテムが無いと何もできないんだよな!

 ただ、遠ざかっていく足音が聞こえてきたから、向こうはもう俺に危害を加えるのは諦めたらしい。しばらく経って完全にピエロを取り逃してからようやく視力も戻ってきて、トイレには俺一人が取り残されていた。


「もう我慢できん!」


 慌てて個室に飛び込んでズボンを下ろし、便座に座る。


「スキルを使ってきたってことは、冒険者で間違いないんだよな……? なのにデュエルの試合以外で人間に攻撃するとか、マジかよ……!」


 世の中にはそういう奴も居るとは聞いたことがある。だから俺自身の戦闘力も上げるようにしたし、そのおかげで助かった。

 でも戦闘力を上げると同時に取り越し苦労になるかもと思ってもいた。冒険者になる前の講習を受けたことがある奴なら皆知っているはずだけど、冒険者が戦闘力やスキルを悪用して盗みや人に危害を加えるなどをするのは、少年法でも守れないレベルの重犯罪だ。

 冒険者犯罪と呼ばれる、社会問題の一つ。まさか実際に被害に遭いそうになるとは思いもしなかったけど……いずれにせよ、あんなのを野放しにしておくわけにはいかない。スタジアムの警備員にも話を通して、すぐに通報をしないと。


「……俺がぶっ壊したドアは、正当防衛ってことで不問にしてもらえないかな……?」


 個室の扉だったモノは、蝶番が吹き飛んで真っ二つに砕けていた。何のアイテムもなくこんなことが出来るとなると、俺も人間辞めちゃった感が凄い。

 一応、切られた服や、魔法攻撃の痕跡と思われる焦げ目や切れ目もトイレの壁や床に残ってるし、無実を証明できると良いなぁ……。



ご質問があったのでお答えします。


Q『アイテム使用可能個数は1個とありましたよね。木偶人形で1個使っていたら他のアイテムは使えないのでは?装備品はアイテムでは無い?』

A『恐らく、試合中に超人のブレスレットを使った件に関する質問であると察しますが、お察しの通り、装備品はアイテム扱いではありません。試合で使用制限されているのは、爆弾などの消耗品です』


Q『アッサリ二秒敗退した某氏ですが対戦相手が優勝しましたし三位決定戦への敗者復活戦などは無かったのでしょうか?』

A『三位決定戦はありましたけど、それは準決勝で敗れた者同士で決める闘いであって、初戦敗退の某氏には無縁の事柄です』


Q『異世界が地球の情報を取り組んでアイテムを変質させるってことはカズサもそれですか?

人間のカズサが転生(?)して人形になったのではなくて、その情報が取り組まれて人形が変質し、今のカズサになったってこと?』

A『ネタバレになるので多くは答えませんが……知名度も何も無い一個人の死は異世界に影響を与えるほどの力は、普通はありませんね。海に一滴のお茶を混ぜるようなものです。歴史に名を残す偉人ならその限りではありませんが』


Q『報酬ってカメラでしょうか?今まで一人称視点でしか撮れなかったので俯瞰視点でも撮れたら便利だし普通に偵察とかできそう。飛行能力も重力制御で耐久力も相当なカメラとか』

A『ご質問の内容から察するに、ドローン付きカメラの事でしょうか? 確かにあれば魅力的なんでしょうけど……金さえ払ってしまえば簡単に手に入る物なので、報酬として提示するには少し弱いですね。異世界産の激レア高性能ドローンカメラだとしても、せっかく正体をボカしたんですから、もっとこう……ねぇ?』


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クソがあっ‼ 漏れそうな時に(笑) いっそのことマウントポジションで発射してやれば
[気になる点] 警備の人駆け込んでくるんじゃねえの此れ??
[気になる点] おいィ、ズボン下しておいてなんでどんなパンツ履いてるか書いてないんですかねェ。(はぁ……はぁ……)
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