エピソード薫・あっちにフラフラ、こっちにフラフラ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
『……嘘』
私、水無瀬薫は石舞台の上であっさりと倒された恋人を見て呆然と呟く。
そんな呆気ない試合結果は周囲の観客たちにとっても拍子抜けも良いところだったみたいで、皆が困惑と嘲笑を口々に溢していた。
『ちょ……二秒って……』
『早ぇ-よ、シン(笑)』
『相手が悪いって言っても、もうちょい粘れよなぁ』
『まぁ前座の掴みとしては、ネタになったしアリじゃね? あのやられっぷりは今大会の珍プレー入り決定だろ』
いくら冒険者に品性が求められても、見る側の観客は口さがない。彼氏である司くんが、全国テレビに流されるカメラの前で無様に敗北し、観客の皆から笑われる姿に、彼女である私は酷くみっともなく、恥ずかしい思いをした。
『何で……こんな……』
どうしてこんなことになったんだろう……雄介が冒険者になって……一之瀬カズサが編入してきてから、全てが変わったように思う。
短いスパンで上げられる、カラクリという雄介と一之瀬カズサの二人組の冒険者の動画によって、これまで学校のスクールカーストトップであった司くんは引き摺り下ろされた。
客観的に見れば、それも当然なのかもしれない。在野で取れる資源を持って帰るだけ、大学生の冒険者チームに付いて行ってダンジョン攻略の手助けをするだけの、所謂エンジョイ勢と呼ばれる冒険者である司くんと、前代未聞の冒険者として名を馳せ、短い期間でギガントモンスターまで討伐してしまった、カラクリという冒険者とでは注目度が違うのは当たり前。
しかもその片割れである一之瀬カズサは、人並外れて容姿に優れているだけじゃなく、人当たりまで良いと学校中ですぐに評判になった。
目の前で困っている人がいればさも当然のように手を差し伸べ、何かを乞われればサラッと手助けをして、それでいて恩着せがましくない……まさに世の人々が理想とする、冒険者の品格を体現していた。
まぁ、それでも一之瀬カズサを面白く思わないのもいる。私を始めとした、司くんが中心になってるグループの女子とその女友達たちだ。
『何よ。良い子ぶっちゃってさ。どうせああいうのは演技だよ、演技。皆アイツに騙されてるんだよ』
不良というほどグレてるわけでもなく、真面目と言われるほど素行が良くない……保身と快感の境目にいる、良く言ってどこにでもいる、悪い言い方をすれば中途半端なスタンスの女学生。そんな私たちの間で一之瀬カズサの話題になれば、大体が彼女を陰口で貶めることになる。
やれビッチだとか、やれぶりっ子だとか、やれ男に媚を売ってるだとか……内心では自覚しながらも、表面では認めていない自分たちの素行の本質を棚に上げ、口々に一之瀬カズサを悪く言ってストレスの捌け口にしていた。
うん……そうだ。ストレスの捌け口……八つ当たりだ。
あの日、一之瀬カズサが学校に現れた時から、もう生物構造の根本から違うんじゃないかってくらい整った容姿を見て、学校中の女子たちは大なり小なりコンプレックスを抱いたと思う。
それを許容できる寛容な女子は最初から彼女に好意的だったけど、入学してすぐに皆から受け入れられたわけじゃない。レベルの違う外見に嫉妬して、どう接すればいいのかも分からずに距離を置く女子も多かった。
その時はまだ、私たちのグループも学校が居心地の悪い場所じゃなかった。敵を共通する女子も多かったし、陰口でも一之瀬カズサを詰れば、私たちにもまだまだ居場所があるような気がしたんだ。
『話してみたけど、一之瀬さんって良い子なんだよねぇ』
『最初は綺麗すぎて気後れしたけどさぁ……実は私、この間階段から落ちそうになったんだけど、その時偶然居合わせた一之瀬さんが、私をお姫様抱っこして助けてくれて……』
『ちょ、王子様かよ!? イケメンすぎじゃん!』
ただそれも長くは続かなかった。きっかけは何だったか……私も噂で聞いただけでよく分からないんだけど、どっかのクラスの女子が彼氏に二股されて喧嘩になって、殴られそうになったところを助けたとか何とか……そういう事だったと思う。
本人からすれば、何の見返りも求めないただの人助けだったのかもしれないけど、良し悪し問わず女子の噂っていうのは異様な速さで広がる。暴力を振るおうとした男を前にして女子の味方になったっていう美談は、すぐに学校中に広がることになったんだ。
そこからは第一印象で気後れしてた女子たちも人となりを見て見ようっていう気になって、話は早かった。
動画に容姿に肩書と、元々あっという間に人気者になれるだけの下地があった一之瀬カズサは、司くんを押しのける形で皆の中心に居座ったのだ。それに伴って、彼女の相方でもある雄介も一目置かれるように。
司くんの恩恵を受けていた女子たちは不機嫌な彼に流される形で、一之瀬カズサを中心とする皆の輪からあっという間に孤立していった。勿論、私も。
だから陰口で八つ当たりするくらいしか出来なかったのだ。表立って非難すれば、こっちが大勢からバッシングされることくらい分かっていたから。
ちなみに同じグループの男子は、愚痴をこぼす相手としては全く役に立たない。
皆が皆チャラい奴らばっかだし、一之瀬カズサの見た目にすぐにメロメロになったから、私たちが陰口を言っても何も言ってこないし、便乗もしてこないし。
ただ、この件で一番苛立ってるのは間違いなく司くんだ。
理由はまぁ、分かり切っている。今までスクールカーストのトップに君臨していたのに、そこから蹴り転がされたら誰だって腹が立つだろう。
それでも、司くんの苛立ち方はどこか変だ。これまでの明るい性格は鳴りを潜めて、いつもイライラしてて、それでいてどこか挙動不審にも見える。
まるでそう……何か都合の悪い事が何時かバレるんじゃないかってビクビクしているというか……上手くは言えないけど、彼女として一緒にいることの多い私はそんな風に感じた。
そんな余裕がなさそうな今の彼は金払いも悪くなって、グループの男子が何人か彼から離れていった。それに便乗して一人の女子もそれとなく離れていこうとしたことがある。司くんの浮気相手の一人だった子で、春休みにはバッグを買ってもらったって私に自慢してきた。
『おい……最近何かにつけて誘い断るけどよぉ……もしかして俺から離れるつもりじゃねぇだろうな? 今まで良い思いを色々させてやったのを忘れたわけじゃねぇよなぁ!? あぁ!?』
『痛い! 止めて! 止めてよ司くん! ごめん! ごめんなさい‼』
その子の髪を掴み上げながら至近距離から凄む司くんは、傍から見ていても凄く怖かった。冒険者として、人間の枠組みから外れた人の戦闘力の圧力っていうのは一般人からすれば恐怖でしかない。
男子が離れるのは良くて、女子が離れるのを許さない理屈が分からないけど、下手に逆らったり、歯向かったりしたらタダじゃすまない。それを見せつけられた私たちは告げ口することも出来ず、離れることも出来ずに司くんの後を付いて行くしか出来なくて……。
『これじゃあ、彼女じゃなくて奴隷だよ……』
昔、漫画やアニメで見た、権力者の後を暗い顔で付いて行く愛妾という首輪で繋がれた奴隷。久しく思い出してもいなかった創作物のワンシーンを思い返せるほど、私たちと司くんの関係は激変した。何時も機嫌の悪い司くんの憂さ晴らしに付き合わされて、毎日胃がストレスで悲鳴を上げている。
……一度だけ、同じ冒険者の観点からアドバイスか何か聞けないかと思って、雄介にLINEを送ったこともあるけど、まだ返信は来ていない。
既読無視されたんだ。別にダメ元だったし、返事を期待していなかったのは分ってたけど、どこか裏切られた気がして腹が立った。昔はすぐに私を助けたのに……今の私は、こんなに苦労しているっていうのに……!
『おい。俺はユース王決定戦に出場してカラクリをぶっ潰すから、ちゃんと見に来い。来なかったらどうなるか、分かるよな?』
そんな鬱屈とした日々が続いたある時、司くんが私たちにそんな事を言いながらチケットを渡してきた。
司くんと雄介たちの間にどれだけの戦闘力差があるかくらいは私たちだって知っている。だから誰も司くんが勝てるなんて思ってなかったんだけど、何やら秘策があるらしい。
正直、もう司くんと付き合うのも嫌になってきてたんだけど、逆らうのも怖い。だから私たちは揃って司くんの応援に行ったんだけど、結果は言わずもがな。雄介たちと戦うどころか、初戦で呆気なく敗退した。
『え……ダサッ』
それを見た時、もう私たちと司くんの間には脅迫関係以外にないんだなって思った。前まではあんなに輝いていた彼に、もう魅力も何も感じられない。
そしてエキシビションマッチが終わってからは、司くんなんかよりもずっと輝いて見える人の存在に気付いたから、余計にそう思う。
『……雄介……』
エキシビションマッチに勝利し、異色の冒険者として取材者たちに囲まれている元カレを見て、私はどこか懐かしい感情を覚えるのだった。
ご質問があったのでお答えします。
Q『プロとアマ…どう違うのでしょうか?雄介もかなり稼いでいると思うですが、ギルドの規定で何か線引きされているか、それとも学生か社会人かぐらいでしょうか?』
A『冒険者には特定のダンジョンの踏破、モンスターの討伐実績、資源の調達などの条件を全てクリアして得られるプロ資格というものがあって、この資格を取得した冒険者は年齢に関係なくプロ冒険者として扱われます。アマチュア冒険者とはプロ資格を持っていない全冒険者を指す言葉ですね。プロにはアマチュアにはない権限や義務が多く存在し、権限を活用して得られる名声や報酬はアマチュアとは桁違いです』
Q『質問です主人公のいる世界では見た目の良い冒険者とかをモデルにした薄い本とが出回ったりしていますか?もし出回ったりしたら大会で華麗に勝利したカズサをモデルにした薄い本が即売会で販売されたら主人公とカズサはどんな気持ちになるんでしょうか・・・汗』
A『ぶっちゃけ、出回ってます。当然オリキャラであると言わんばかりに申し訳ない程度に経歴や名前を微妙に変えていたりしますが、見る人が見れば一目瞭然なのが。雄介とカズサがそういう本を見ればどうなるかって言われると……雄介は多少気にするでしょうが、カズサは大して気にしないでしょうね。創作は創作と割り切ってそうですし、特に害があるわけでもないって放っておきそう。まぁ最終的には雄介の判断に任せるでしょうけど』
Q『質問です。46話の最後のQ&Aを見て思ったのですが、別のタイプの特別な木偶人形があるとして、操作法がロボットの操縦形式だったり、自分の動きと木偶人形の動きが同期するタイプだったりあるいは考えるだけで動いたり、という人形もあるかもしれないのでしょうか。あるいはアイテムマスター次第で操作方法が変わるとか。』
A『作中でも述べたとおり、異世界は地球の情報を逐一取り込んで、出現するモンスターや宝箱の中身を変化させる性質を持ちます。なので雄介とカズサが活躍し続ければそのようなアイテムが出てくるでしょう。それを踏まえて答えさせていただくと、ご質問通りの木偶人形が今後ダンジョンの宝箱の出現する可能性は高いです。使った瞬間、巨大ロボットに変化してギガントモンスターと真っ向から渡り合える、みたいなのが』
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