表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/138

一部ゲーマー界隈では、環境操作系実況者は誉め言葉です

設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください


 正直、してやられたと思った。でもすぐに考えを改めた。


「君たちの動画は俺も見させてもらったよ。敵の攻撃をすり抜ける【ミラージュステップ】……弓使いとしては実に有用なスキルだ。取得方法もご丁寧に動画で教えてくれたし、この大会の為に、つい先日ようやく習得させてもらった」


 だって正直、自業自得な部分があるしな。

 カードを始めとし、強化槌やオーブに関する動画で、どうしてもカズサの戦闘力やスキル一覧を公開して【アイテム強化】の効果を証明する必要もあったし、カズサが使えるスキルっていうのは結構な人数に知れ渡ってると思う。

 そうなると当然、「これはどんなスキルですか?」っていう質問が押し寄せたりする。その中でも特に多かったのが【ノックバックカウンター】と【ミラージュステップ】で、俺たちは視聴者の要望に応えて、取得方法に関する動画を上げた。

 だから何時、どこで二つのスキルを使う奴が現れても不思議に思わないんだけど、まさかこんなに早い段階で覚える奴が現れるとは。

 

(オーブに頼らずに覚えるスキルの中じゃ、かなりの高難度だと思うんですけどね)

(俺たちの場合は【ゲージシステム】ありきでやってたからな。生身の奴がやった時、もし回避し損なったら怪我するし)


【ノックバックカウンター】も【ミラージュステップ】も、敵の攻撃に合わせてギリギリの対応を続けることで覚えたスキルだ。そう簡単に習得は出来ないと踏んでいたんだけど……これが有名冒険者の力か。

  

(でもつい先日……って言ったな?)


【ミラージュステップ】はインターバルも必要なく、汎用性も高い強力なスキルだ。だが習得して日が浅いなら、まだ使い慣れているという訳じゃないということだろう。

 なら、それに関しては問題ない。俺は【アイテムボックス】を開き、ガンブレードを両方とも仕舞う。


[おっとこれはどうしたことでしょう!? カラクリ選手、武器を仕舞ってしまいましたよ!?]

[そうですね……ですが視線は常に黒犬屋選手を射抜いています。何の策もなく武器を仕舞った訳ではないでしょう]


 実況の声はそのまま黒犬屋の考えていることで間違いないだろうということは、奴の顔を見れば分かる。

 これまでの対戦を見る限り、黒犬屋の得意戦法は距離を取りながら攻撃を繰り返し、相手の集中力が切れたところを一気仕留めるという堅実なもの。

【ミラージュステップ】持ちの相手に見切られやすい遠距離攻撃はほぼ通用しないし、俺たちに追尾系スキルはない。仕留めるのに近接は必須だ。

 

(まだまだ勝ち筋はある! いくぞ、カズサ!)

(了解っす!)

 

 不利を知ったうえで、紛れもなく本心からそう言って、俺はコントローラーを操作する。

 真っすぐに駆けだすカズサに対し、黒犬屋は鋭い軌道を描きながら追尾してくる矢を二発同時発射。駆け回りながら三本目を矢を番えて、俺たちが隙を作る瞬間を見極めている。しかも攻撃魔法スキルも豊富なのか、火球に氷柱、鎌鼬に電撃といった魔法も隙を見て飛んでくる。

 戦闘力ではこちらが勝っている以上、逃げる黒犬屋に追いつくことは本来なら簡単な事だけど、延々と追いかけてくる二本の矢がそれを邪魔する。実戦で格上のモンスターを倒すことでは無く、デュエルという試合で他の冒険者に勝つことを想定した戦い方だ。

 

(これがデュエルか……!)


 命のやり取りではなく、先に攻撃を一定数当てた方が勝つ為に、格上が相手でも〝まさか〟が起こりうる……なるほど、見る側が熱狂するわけだ。今なら運営の言葉に嘘偽りが無かったことがよく分かる。

 だが年季では劣っても、俺たちだって相応の修羅場は超えてきた。そう簡単にやられやしない。

 迫りくる矢を【ミラージュステップ】で回避しながら、俺はカズサを操作して黒犬屋への近接と攻撃を試みる。


[追尾し続ける矢を避ける避ける避ける! その動きはまるで踊っているかのような可憐なフットワークです!]

[【ミラージュステップ】に関してはやはりカラクリ選手に一日の長がありますね。これは長い試合になりそうです]


 この時、実況が見当違いな事を言って、俺は思わず笑ってしまった。

 なぜ俺たちが矢を弾くことを止めて避けることを徹底しているのか……ただ悪戯に長引かせればこっちが不利なのは分かっている。だがそのおかげで―――― 


(追尾の矢にも慣れてきた……!)


 いくら普通の追尾系スキルよりも避けにくいと言っても、その軌道は機械的で、真っすぐにしか飛んでこない。外れた矢が軌道変更する位置も常に一定……それさえわかってしまえば、後はどうとでもなる。

 俺は【ミラージュステップ】は使わせず、左スティックを細かく連続で傾けることで、カズサの体の位置をほんの少しズらすという最小限の動きだけで三本の矢を回避。

 紙一重……それこそ、矢がカズサの服や肌に掠るほどギリギリのところで避けると、追尾するはずだった矢は軌道変更もせず、【スケープバリア】を一枚も割ることなく、そのまま床や壁に突き刺さって消滅した。


「なっ!?」

 

 それが意味するところをちゃんと理解しているらしく、黒犬屋は明らかに焦った表情を浮かべる。  


[今のはどういう事なのでしょう? 黒犬屋選手の矢が、追尾せずにそのまま消えてしまいましたよ?]

[これは……どうやらカラクリ選手は追尾の解除条件を探り当てたようですね。その上で、【スケープバリア】を割らせずに追尾を無効化している!]


 一枚目の【スケープバリア】を割られる直前、一本の矢がカズサの頬を掠めていった。当然また追尾してくるものだろうと思って警戒していたんだけど、画面端で床に突き刺さったその矢は消滅してしまったのだ。

 それはつまり、あの追尾の矢はマーキングされた相手が触れた時点で効果を失うものだったという訳である。だからこうやってほんの少し掠る程度にわざと当たってやれば、追尾能力は失われる普通の矢となるわけだ。【スケープバリア】だって、直撃もしていない攻撃程度で割れるほど脆くないしな。


[なんという捨て身の戦法! これほど高度な戦い方をする方が、まだ冒険者歴数ヵ月とは驚きですね!]

[インターネットゲームのプレイヤー間では、カラクリ選手は合法チート三人組と呼ばれる、非常に有名なゲーマートリオの一人らしいですからね。カズサさんの操作はゲームのコントローラーを持って行うものであると動画内にありますし……ゲームのキャラクターが現実に現れれば、本当にこのような強さなのかもしれません]

[まさにリアルゲームキャラ! 前代未聞の冒険者、その評判に偽りなしですね!]


 これで俺たちは最小限の動きだけで黒犬屋に迫れる。こうなってしまえば、もうお互いの敏捷力の問題……あっという間に距離を詰めにかかる。


(動画を見てくれた視聴者さんへのサービスだ……投稿予定だった【ミラージュステップ】の注意点を先に教えてやる)


 インターバルが終わった攻撃魔法を【ミラージュステップ】で最短距離で掻い潜り、カズサの手が黒犬屋に届くところまで間合いを詰めると、俺はR1ボタンを押して黒犬屋を拘束しにかかる。

 当然それを【ミラージュステップ】で避けられ、カズサの手は黒犬屋を透過するわけだが、このスキルは完全無敵の回避スキルじゃない。回避行動と回避行動の間に生まれる僅かな隙……その瞬間だけスキルの力は反映されない!


(【炎柱】)


 黒犬屋の足元から吹き上がる炎の柱。予兆を見逃せば回避が難しいこの魔法スキルを使われれば、案の定【ミラージュステップ】で回避した。俺は炎の柱から抜け出した瞬間を見逃さず、懐からある物をカズサの腕に装備させる。


(切り札っていうのは取っておくもんだよなぁ!)


【ブースト】のスキルはまだインターバルが終わっていない。だから俺はその代用品として、隠し持っていた超人のブレスレットを装備させることで、カズサの敏捷性を飛躍的に上げたのだ。

 突然のパワーアップで不意を突かせることを狙い、あえて装備させずにいたけれど、その狙いは上手くいったらしい。ギョッとした顔をする黒犬屋の腕を掴みにかかった右手は【ミラージュステップ】で避けられたけど、透過が切れた瞬間に伸ばした左手で、黒犬屋の片腕を掴むことに成功した。


「ほぉら、捕まえったすよ‼」


 そして【ミラージュステップ】の第二の弱点……それは拘束されれば発動できなくなるという事だ。

 ステップという名称通り、足を使った回避を取らなければ効果を発揮しないスキルで、今みたいに腕だけ掴まれて拘束された状態でも満足に使えなくなる。これで黒犬屋はもう逃げられない。


「くっ……放せ!」


 腕を掴まれた弓使いほど脅威を感じさせない敵はいない。瞬時に矢を手に持っての直接攻撃や膝蹴りで対応しようとしたのは流石だけど、この距離では戦闘力で上回る俺たちのターンだ。

 反撃を防いだ瞬間に怯ませる目的で顔面に叩き込んだ裏拳で【スケープバリア】を一枚割り、胴体に抉り込むボディブローで上空へと浮かせると同時にカズサを跳躍させ、黒犬屋の服を掴んで頭を下に向けて――――


((パイルドライバー‼)) 


 石のステージを粉砕し、首から上が全部埋まる威力の垂直落下式で止めを刺してやった。ここまでやっても無傷なんだから、【スケープバリア】というスキルがどれだけ強力かが理解できる。 


[試合終了~~~~~‼ 勝者は、カラクリ選手‼ 両者善戦の結果、最後はプロレス界の大技で締めました‼]


 握り拳を掲げる勝利のスタンディングを披露すると、観客席からスタジアム全体が震えそうな大歓声が聞こえてくる。

 

(お、おぉおお……! 歓声が……喝采が俺たちに向けて集まってるぞ……!)


 凄く……凄く気分がいい‼ テレビの大会とかで優勝した冒険者って、何時もこんな気分を味わっていたのか!

 言い表しがたい感動を噛みしめていると、頭を石舞台から引き抜いて、髪に絡まった破片を払い落としながら、黒犬屋はカズサに握手を求めてきた。


「悔しいけど、完敗だ。君たちのような冒険者と手を合わせられたことを誇らしく思う」

「こちらこそ、戦闘力で優っていたはずなのに経験の差を見せつけられました」


 それに対して素直に応じ、互いの健闘を称え合うと、その姿を周りにある幾つものカメラが激しいフラッシュを焚きながらバシャバシャ撮る。

 品格を求められる冒険者同士の競技であるデュエルは、他のスポーツの様に礼節を求められる。どんな結果であれ、相手を称え合うのがマナーだ。

 それに、カズサが言ったことも嘘じゃないしな。同等の戦闘力ならまた結果は違っていただろうし、今回デュエルを実際に経験できたのは、冒険者としての今後を考えれば僥倖だった。


「次に戦うことがあれば、プロの舞台で戦おう。その時は俺も全てのスキルを容赦なく使わせてもらう」


 今大会のようなアマチュアデュエルではなく、プロデュエルの舞台……参加条件は色々と厳しいけど、その過酷さや注目度はユース王決定戦とは比較にならないだろう。

 黒犬屋はルールによってかなり行動が縛られていたし、今の言葉だって別に負け惜しみってわけでもないしな。


(プロか……何時か絶対になりましょうね、ユースケ)

(あぁ、そうだな)


 ランカーになり上に駆け上がるには、プロになるのは必須だ。その事を胸に、俺たちは浴びせられる称賛の声をひたすら味わった。


ご質問があったのでお答えします。


Q『スキルとか戦い方とか全部動画で公開してるの?それは一般的に言って普通のことなの?隠したりしないの?』

A『意外に思われる方も多いかもしれませんが、実はかなり一般的なんです。冒険者の生存率を上げるために有用スキルの習得方法の公開は推奨されていて、人気冒険者になる為には他の冒険者の手助けになる情報を公開するのは必須といってもいいんですよね。だからデュエルになれば、強い冒険者ほど対策されがちなんです』


Q『ミラージュステップやノックバックカウンターは前からあったスキルなのですか?それともゲームを元に編み出した新スキルなのですか?編み出したなら格ゲーの技を模倣した新スキルを体得する事は可能ですか?波〇拳とか』

A『ゲームを元に雄介とカズサが編み出したスキルです。まぁ、似たようなスキルはあるにはありますが、それらは高難度ダンジョンにあるレアなスキルオーブによって習得できるもので、誰にでも習得できる透過スキルやカウンタースキルとしては、多分初めてです。ちなみに波〇拳は練習を重ねることで、空気砲を両掌から放つみたいなスキルとして覚えるかと』


Q『他のアイテムマスターにも特別な木偶人形は在るか?主人公みたいに手にしたとしても、ゲームスキルは必須科目かな(笑)』

A『有るか無いかはともかく、今のところは確認されていませんね。たとえ有ったとしても、ゲームスキルが必要かどうかは、その木偶人形によるかと思います』


面白いと思っていただければ、お気に入り登録、または下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを送って頂ければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
俺は赤きサイクロン!
[気になる点] ガンブレて1本に制限されてなかったけ?
[気になる点] アイテム使用可能個数は1個とありましたよね。木偶人形で1個使っていたら他のアイテムは使えないのでは?装備品はアイテムでは無い?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ