君に活躍の場は相応しくない
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
冒険者ギルドのカフェテリア。学校の帰りにそこへ向かうと、そこには柴田さんと思われる、角のテーブル席に座っている中年の男性が、俺たちの顔を見るなり軽く手を振ってきた。
「九々津雄介さんとカズサさん……ですよね? 改めまして、お電話させていただいた柴田です。こちら名刺をどうぞ」
「あ、どうも」
差し出された名刺を特に何も考えずに受け取り、ポケットにしまう。まさか学生の身で名刺を渡される日が来るとは……正直、貰ったところで扱いに困るんだけど。
そのまま促されるがままに席に座る俺とカズサの対面には、柴田さんともう一人、見知らぬ女性が座っていた。
「えっと、そちらの方は?」
「申し遅れました。私、週刊アドベンチャーズの編集者をしております、講話社の伊藤と申します」
……! 週刊アドベンチャーズっ。
主に冒険者に関する情報を取り扱う雑誌は多く存在するけど、週刊アドベンチャーズはその中でも日本最大手の出版社が発行している人気雑誌だ。
「本日はお時間頂きありがとうございます。それでは早速本題に移りたいのですが……」
「エキシビジョン枠で出る時の報酬の話……でしたよね?」
「はい、その通りです。詳しくお話しすると、お二人には通常の選手としてではなく、運営側が用意した冒険者として決勝戦の後に行われるエキシビションマッチに出場していただきたいのです。」
そう言いながら伊藤さんが横に置いてあったカバンから一冊の雑誌を取り出して机に置く。週刊アドベンチャーズの今週号だ。そのまま付箋がされたページを開くと、そこにはユース王決定戦の特集記事が載せられている。
「こちらのページに書かれている通り、ユース王決定戦は我が社の提供の元行われている大会なのですが、優勝者には私どもがご依頼した凄腕の冒険者の方とエキシビションマッチをしていただくことになっております。このことに関しては、先日大会ホームページでも更新されましたので確認できます」
……流石は最大手出版社。全国から集めるだけあって大会の規模はかなり大きいはずなのに、それを主催できるほどの財力があるとは。
「ユース王決定戦は毎年行われる、冒険者界隈ではそこそこ名の知れた大会で、エキシビションマッチはいわば伝統とも言うべき試合なのです。もし優勝者が私どもが依頼した冒険者の方に勝つことが出来れば、通常の優勝賞品とは別に豪華な特賞を手に入れることができるので、多くの冒険者の方がふるってご参加してくださいます」
「ただ、当然ながらエキシビションマッチにはそれに相応しい強く話題性に溢れる冒険者の方を用意しなければなりません。その為、毎年エキシビジョン枠に相応しい方を探すのに苦労しているのですが……今年はお二人が彗星の様に冒険者界に現れました」
そう言うと、柴田さんは興奮したように少しだけ身を乗り出す。
「これまで非戦闘職として解明が遅れていたアイテムマスターの可能性を詳らかにしたパイオニアに、前代未聞の木偶人形! 話題性は既に十分どころか十二分! お二人ほどエキシビジョンに相応しい冒険者はいません!」
「エキシビジョンマッチは毎年、優勝したアマチュア冒険者が、プロかそれに匹敵する冒険者に挑むという触れ込みで盛り上がっています。優勝者がエキシビジョンで自分よりも戦闘力が遥かに上回る相手に勝利した事も何度かありましたし、観客の方々はアマチュアの逆転劇も、プロの圧倒的な戦闘力による制圧も期待していますから」
有望な若手冒険者が強大な戦闘力を誇るプロに挑む……なるほど、そう言われてみれば胸が熱くなる展開だな。……まぁ俺たちはプロ冒険者ってわけでもないけど。
それによく考えてみれば、俺たちだって戦闘力が二倍近くの開きがあったギガントモンスターを倒したんだ。経験の差っていうのは決して甘く見れるものじゃない……戦闘力に関係なく、戦略次第で拮抗した試合になるかもしれないってことか。
「それに、エキシビジョンマッチに選ばれた冒険者次第で、より多くの方が参加してくださるんですよ」
「え? 何でっすか?」
「お二人は、戦士思想というものをご存じですか?」
今でこそ格闘技はスポーツの一種として見られているが、大昔……まだ人々が武器の常備を当然としていた時代では自身が最強になるために、殺し合いも厭わない死合いが行われていたという。
当然そういう思想は時代と共に消えていったんだけど、魔王の襲来とゲートの出現を経て、戦いが身近になった現代ではそういう思想がまた広まってきていると聞いたことがある。
まぁ、人間同士で殺し合いを……というような過激なものじゃない。出来る限りの安全を取り入れたルールの中で、「俺こそが最強の冒険者だ」と証明したい、「強い奴とドンドン戦いたい」という、戦いそのものに楽しみを見出している血気盛んな冒険者が多いのだ。
「昨年、大会に参加してくださった理由のアンケートをとりましたが、大雑把な内訳として優勝賞品目的が約40%、他の冒険者と戦ってみたいというのが約35%という結果が出ました。そういう意味でも、エキシビジョンマッチを担当する冒険者は重要なのです」
「はぁ……そういう人たちもいるんすねぇ」
俺たちはどちらかというと、実利主義の冒険者だ。行く先々にある異世界ならではの光景や、スキルを増やすこと、ダンジョンを踏破する達成感に胸を躍らせることはあるけど、戦いそのものに楽しみを見出していない。
「それではまず、お引き受けてくださった場合の報酬ですが、契約金として一千五百万円をお支払いさせていただきます。そしてエキシビジョンマッチでも勝利された場合には、特賞である身代わりのスキルオーブを差し上げることをお約束します」
「っ! それって、【スケープバリア】を習得できるっていう……!?」
【スケープバリア】は防御系スキルの中でも上位に位置するレアスキルだ。余程特殊な効果があったり、ガンブレードの連射みたいな攻撃でもない限り、どれだけ威力が高い攻撃でも一回に付き一発、無傷で凌げるという代物だ。
唯一欠点があるとすれば、インターバルの長さといったところか。確か……一回使うと三十分くらいは使えないと聞いたことはあるけど、それでも破格のスキルといってもいい。大会側が選手に対する安全装置として用いるのも頷ける。
「流石にあの有名な《神奈川守衛隊》のような使い方は出来ないとおもいますがね」
「あれはまぁ、しょうがないですよ」
《神奈川守衛隊》……冒険者ギルドが発足した黎明期から活動している、前衛職……それも主に壁役をこなせる冒険者を育成、派遣する大型クランだ。
世界ランキング常連の冒険者が常にリーダーを務めていて、どうやっているのかは公表されてないから分からないけど、【スケープバリア】を短いインターバルで使用することができるメンバーが多いのだとか。
その力を見込まれ、今回のユース王決定戦のような大会では参加者たちに安全装置変わりである【スケープバリア】を付与するために雇われることも多いらしい。
「そして最後にもう一つ……こちらのマジックアイテムを差し上げます」
そう言って柴田さんが机の上に置いた、木箱入りの小さなアイテムを【天眼】で確認すると、そこには驚くべき効果が示されていた。
「これは……っ?」
「講話社が支援しているクランが発見した物ですが……正直、我々からすれば正体不明のアイテムで、使用用途があるのかすら疑わしい。ですが鑑定をしていただければ、九々津様なら必ず興味を持たれると思って用意させていただきました」
……確かに、これは俺にとって……いや、俺とカズサにとってかなり興味が惹かれるマジックアイテムだ。
「これに加えて、【スケープバリア】に大金か……それは確かに魅力的だ。ぜひ、提案に乗らせてもらいたいですね。カズサも、それでいいか?」
「良いっすよ。強力なスキルが手に入るなら、やりがいがあるってもんですよ!」
「ありがとうございます! つきましては、契約などに関する説明をとサインを――――」
こうして俺たちは大会のエキシビジョン枠……見方を変えればラスボス的な存在としての出場が決まったのだった。
=====
その後、俺とカズサは伊藤さんによって撮影所まで連れていかれて写真撮影したり、インタビューに答えたりした。
それも週刊アドベンチャーズのユース王決定戦特集に載せる為のものらしく、まさかこんな形で有名雑誌に載ることになるとは思わなかった俺はかなり緊張したものだが、それでもつつがなく時は流れていき、雑誌は遂に発売。それに少し遅れる形で俺たち自身も動画でユース王決定戦にエキシビジョン枠として参加することを表明した。
それによって視聴者たちや学校の面々は大盛り上がり。多くの叱咤激励や応援の声が俺とカズサに集められ、大会のテレビ放送は絶対に見るとまで言ってくれた。
同時にトーナメント表も発表され、そこに記された冒険者を八谷と二村の協力を得ながら調べられるだけ調べ、優勝候補者たちの対策を練りつづけた。
「ついに来ましたね。ちょっと緊張してます?」
「まぁ、な」
そうして大勢の人からの応援を受けながら迎えた大会当日……学校を休んだ俺たちは大型スタジアム内に運営が用意した控室に備え付けられた、会場のカメラと接続されている液晶画面から、今行われている大会の様子を眺める。
ドーナツ状の観客席には大勢の人が集まり、その中央にある四角い石舞台の上に立つ参加者たちは、大会のルールとかを改めて聞かされている訳だ。
「確認なんですけど、ガンブレードの銃機能、片方は使っちゃダメな上に連射もダメなんですよね?」
「あぁ。スキルや装備品も含めて、【スケープバリア】の守りを突き破って相手に大怪我をさせかねない攻撃は全面禁止だからな。ガンブレードは連射がなくても、二振りもあるし、単発撃ちでもカズサの戦闘力なら連射同然の事だってできるから。実質、ガンブレードの片方は普通の剣として扱う事になる」
カードゲームの大会などでも、強すぎて使用禁止になるカードというものがある。所謂アマチュアの大会であるユース王決定戦では、三つの【スケープバリア】を速攻で破壊して相手に大怪我をさせられるスキルや魔法の装備の使用が制限されるのだ。
俺たちの場合、ガンブレードの連射の他に【烈風爪】が禁じられた。あれは五つの真空波を多段ヒットさせる魔法スキルだから、【スケープバリア】三つくらいなら貫通できるんだよね。
有用なスキルだけど、ある程度威力のある攻撃なら虚仮脅しの攻撃でも消費されてしまうのが、【スケープバリア】の弱点だな。
[それではこれより、第一試合を始めます。選手の方は前へ!]
「お、始まるみたいっすよ」
二人して液晶画面を食い入るように眺める。
南北の入場口から戦いの舞台となる石舞台に立つ二人の冒険者。片方は弓と軽鎧を装備し、もう片方は剣を装備した軽装の――――
[第一試合、黒犬屋選手VSシン選手! 両者、所定の位置について!]
「って、新藤!?」
大会参加者たちは本名ばれや身元バレを防ぐために、動画配信などをしているしていないに問わずハンドルネームを名乗っているが、あのシンとかいう剣を持ってる冒険者は間違いなく新藤だ。
「参加してたんすね、あの人! 全然気付かなかったです!」
今までの新藤なら言いふらしたりして注目を集めていたんだろうけどな……でもアイツはそれをしなかった。
いや、出来なかったというのが正しいか。カズサが大会に出るっていう話で学校中が持ちきりだったし、そんな中で求心力が下がってきている新藤が「自分も大会に出る」なんて言ったところで、周囲の反応は何となく察しがつく。
「あの人が勝ち上がってきたら、アタシたちと戦う事になるんすね」
「あぁ……そうだな」
もしかしたら、新藤はその為に参加したのかもしれない。公衆の面前で俺たちを倒すことで、学校で王様気取りだったかつての自分を取り戻すために。
そう思うと、俺はなんだか不思議な予感がした。大勢の人たちが注目する舞台の上で、俺と新藤は因縁の決着をつけることになる……そんな予感が。
[勝者、黒犬屋選手! 試合時間二秒! 神速の三連射を炸裂させ、優勝候補としての意地と貫録を見せつけました!]
早ーよ、新藤。
ご質問があったのでお答えします。
Q『アイテムマスターって戦闘能力が倍増えてバフアイテムの効果も増えて単純なスペックだけなら最強に成れるのでは?』
A『戦闘力という数値上のスペックだけなら、そうですね。でも実際に戦うとなるとスキルの活用が重要になりますから、単独で最強になるのはとても難しいんですよ』
Q『カズサちゃんのスリーサイズ』
A『身長148センチ。スリーサイズは上から89(F)・56・86。着やせするタイプ。とあるギャルゲーのヒロインが似たようなスリーサイズだったので、そちらを参考にしつつ決めました。ちなみに雄介の身長は168センチです』
Q『ステータス上昇で、動体視力や第六感(敵意察知)等は鍛えられるでしょうか?』
A『動体視力は上がりますけど、第六感は鍛えられませんね。こちらは経験則がものを言いますから』
Q『木偶同調の空間はどんなイメージなのかな?』
A『ゲームのイベントとかにある大画面の試遊台……それをイメージしてもらえればいいかと』
Q『質問にて木偶同調の状態に対する質問が多いようですが、私のイメージとしては、『カズサというロボットのコクピットに主人公が乗り込んでいる状態』と認識しているのですがそれであっていますか?
カズサが敵に吹っ飛ばされたりした時に主人公がどうなるのか(一緒に吹っ飛ぶのか、椅子の上でシートベルトに押し付けられるのか等々)もイメージしやすいかと思います。』
A『イメージ通りで大体あってますね。ただロボットや飛行機みたいに椅子や大量のボタンやレバーがあるわけではないですけど。ちなみにカズサが吹っ飛ばされても、雄介は微動だにしません。安定した状態でコントローラーを操作できます』
Q『初期の主人公が戦闘力5でも木偶同調でのコントローラー操作が高かったので現在の戦闘力が5000になったのなら更に操作能力が高くなっているのでしょうか?』
A『指の動きは早くなりましたかね? 調子が良すぎる指に慣れれば、チート級のテクニックがさらに上がると思われます』
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