エピソード新藤・8歳児の軽率
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
この俺、新藤司の人生は、ほぼ順風満帆だったと言ってもいい。
家は教育委員会の会長をやってる裕福な家庭で、生まれ持った容姿も良い方。勉強は言うほど得意でもなかったけど、運動は得意な方で、小学、中学校時代からクラスの中心に君臨していたものだ。
俺に甘い親に頼めば大抵の望みは叶ったし、声がでかくて体も大きい俺に対して同年代の奴らは何も言えずに従っていて、自分の思い通りになるこの世界が滅茶苦茶心地良かった。
でも一時期、そんな俺の世界を壊す奴が現れたのだ。
『今日の掃除当番は君だろ? 他の子に押し付けるようなことはするなよ』
そいつは小学三年に進級し、クラス替えをした時に初めて知り合った奴で、女のくせに男みたいな喋り方と恰好をした生意気な奴だった。
今も昔も、俺は掃除をするなんて言うのは大嫌いだった。そういうのは女の仕事で、男はどっしり構えておけばいい……そう思って下っ端扱いしていたクラスメイトに掃除を押し付けようとしたら、そいつは無理矢理俺の手に箒を持たせて掃除場所まで引っ張りやがったんだ。
『うっせー男女! 掃除なんてのは、女がやればいいんだよ‼』
『そんなおかしな言い訳が通るもんか。変なこと言ってないで早く掃除しろ』
何時もなら俺が大声で怒鳴れば、皆怯んで言うとおりにする。ましてや相手は弱い女……すぐに泣き出して言うとおりにするだろうと、そう思っていたのに、あろうことかそいつは全く怯まずに冷静に言い返してきたくらいだ。
しかもそいつは同じ女子にえらい人気で、そいつと喧嘩になれば必ずと言って良いほど、大勢の女子が集まり、一斉に口喧しく責めてくる。
姦しい……なんていう言葉は後々知ることになるんだけど、団結した女子連中と口喧嘩になれば男が敵うはずもなく、俺は嫌々ながらも自分の欲望を押さえる学校生活を送るしか出来なかった。
腹立たしい。本当に生意気だ。女が男に意見するなんて。時代劇に出てくるような粛々とした女こそが、本当にあるべき姿だろうに。
しかし、そんなぶつかり合いも半年続けば俺の心境に変化が訪れた。この俺に意見し、対等に向かい合う奴なんて新鮮だったし、よくよく見れば顔つきだって良い。だから俺は何時しかこう思うようになった。
……この女を俺の物にして従順に言う事を聞かせられるようにしてやりたいと。
それからも俺は躍起になってそいつに言う事を聞かせようと……もっと言うなら、他のクラスメイトみたいな下っ端にしようとしていたんだと思う。
大声を出して怒鳴ったり、時に拳を振るったり、親が偉いんだってことをことさらにアピールしたり、色々な手段で望み通りにしようとしていたけど、全然上手くいかない。
怒鳴っても静かな声で言い返され、振るった拳は躱されて、自分の親が如何に凄いのかを説明しても――――
『それ、お前の両親が凄いだけじゃん』
と、まったく相手にされない。
毅然としていて、何時も颯爽と誰かを助けたりする姿がカッコいいと褒められるアイツの姿を見る度に苛立ち、悔しい思いをしてきた。
だって俺はアイツよりも全然恵まれているはずなのに、何もないはずのアイツの周りに集まる奴は皆が笑顔だったんだ。俺の周りに集まる奴も笑顔じゃない訳じゃないけど、その笑顔の質はどこか違う。
なんていうか……俺に笑いかけているというよりも、俺を通して別の何かに笑いかけているような……そんな気がしていた。そんな不自然な笑みの正体は、今でも分からずにいる。
だから俺はより一層あいつを屈服させようとしてきたんだけど、柳に風、暖簾に腕押しとばかりに受け流されるばかり。それどころか、他のクラスメイトに言う事を聞かせようとすると、あの女はそれを庇ってきやがった。
それで結局、三年に上がってからというもの、学校は俺の思い通りにならない場所になってしまった。親にもあの女をどうにかするように言ってはみたんだけど、「自分たちにも立場っていうものがあるから、そんな理不尽なことはできない」と窘められるばかり。あとで好きな物を買ってやると言われて、仕方なく引き下がったけどな。
入学から三年。鬱憤が溜まってばかりの俺とは真逆に、男勝りな性格に加えてスポーツ万能なあの女は、同学年ではすっかり人気者だ。だが同時に疑問に思ったことがある。
学校では友達も多そうに見えるあの女が、放課後とか休みの日に学校の奴らと遊んだっていう話を一度も聞いたことがない。聞こえてきた会話によると、何時も用事があるとかないとか言って、誘われても断られるらしい。
それを聞いた俺は、もしかしてあの女の弱みでも握れるんじゃないかって、雪が降ったある日の放課後に、こっそり後を追いかけたことがある。
そうしてあの女がやってきたのは、学区の境目にある寂れた公園。目立たない場所にある上に、ブランコと小さい滑り台くらいしかないことから人気のない遊び場だ。
一体何をやってるんだろうと覗き見てみると……あの女は、俺たちと同い年くらいの知らない男子と楽しそうに遊んでいた。
『何……で……』
その時、言い表しがたい感情が浮かんできたことを今でも思い出せる。
だって俺に向けるあの女の表情は何時だって不満気なものだった。なのに見知らぬ男子に見せるあの女の笑顔はクラスの友達と同じ……いいや、それ以上に輝いているように見えたから。
本当なら邪魔してやりたい。でも足が動かず、声も出ない。ただあの時は、何故か酷いショックを受けていて、何も出来ずに二人のやり取りを眺めているしか出来なかったんだ。
『誕生日プレゼント』
そうしていると、男子の方がマフラーをあの女の首に緩く巻いた。会話の全容は聞こえなかったけど、誕生日プレゼントという言葉だけはしっかり聞こえてきて、それがまた俺を打ちのめす。
俺はあの女の誕生日を知らなかった。それだけじゃない……あの女が好きな事、嫌いな事、趣味も夢も、何も知らない。それをあの男子は知っているのかと考えると……何か、どす黒い何かが心の中で沸々と湧き上がってきた。
『にひひ……あったかい。ありがとな』
それ以上に、あの女が俺には絶対に向けないだろうと直感で理解できてしまう、本当に幸せそうな笑顔を見て、俺はその場を離れるしか出来なかった。
それでも何か文句でも言ってやらない時が済まなかった俺は、石階段の上であの女を待ち伏せすることに。しばらくして石階段を上ってきたあの女は、俺の顔を見るなり眉を歪める。
『新藤? 何でここに……』
あの男子に見せた笑顔とは正反対の、煩わしそうな顔。それを見た俺は、胸の中に溜まっていたものが爆発したかのように動き出し、気が付けばあの女からマフラーを奪い取り、石階段の近くにある、当時の俺から見れば少し高い位置にある木の枝に投げかけてやった。
『な、何するんだ!?』
俺より背の低かったあの女には届かない高さ。そこにあの男子からのマフラーを引っかけてやると、少し気分が晴れた俺は、背中から聞こえてくる怒声を無視して走り去る。
ざまぁみろ、と思った。そうした理由なんて今でも思い至らないけど、あんなどこの誰とも分からない奴から貰ったマフラーを大事そうにするあの女が許せなくて、そうすることに何らかの間違いがあるなんて、思いもしなかったんだ。
その翌日、あの女は石階段から転がり落ちて死んだと、担任から聞かされることになった。
大人たちは皆、雪で凍った階段で足を滑らせての事故死ってことであの女の死を片付けたけど、俺の心中は穏やかじゃいられなかった。
だって、あの女が石階段から落ちた理由なんて、考えられるとすれば――――
『違うっ! 俺は悪くねぇ!』
胸の奥から這い上がるように生じた不安……それを認めてしまえば何かとても大事な物が終わってしまう。そう思った俺は「自分は悪くない」と言い聞かせた。
全部あの女が悪いんだ。あの女が生意気で、俺の言う事を聞かなくて、知らない奴にデレデレして……そうしなければ、こうならずに済んだんだ。
『だから俺は悪くねぇ。俺を怒らせたアイツが悪い! 俺を悔しがらせたアイツが悪い! 俺のした事なんてちょっとした嫌がらせで、俺が責められる理由はない!』
まるで自己暗示をかけるかのようにそう自分に言い聞かせ続け……いつしか本当にそう思い込むようになった。あの女の死に、俺は何一つ関与していないんだって。
なのに最近になって、あの女の死を無意識の内に向き合わされる羽目になって、苛立ちが抑えられなくなった。
それもこれも……俺より目立つ冒険者になった九々津雄介と、あの女によく似た笑顔を浮かべる一之瀬カズサのせいだ。
ご質問があったのでお答えします。
Q『ダンジョンに人間が食べれる食材があればアイテム融合&強化を発動させたカズサが料理して作成した料理を食べた人は某料理漫画みたいに目や口からビームが出たり宇宙空間になって絶賛するのでしょうか?』
A『まだ本文には出していませんが、ダンジョンや異世界にも食材となる物が存在しますからね。しかも魔力が宿っているものばかり。スキルやカズサの調理技術を駆使すれば、マジで目と口からビーム出せるようになるかも?』
Q『質問なんですが友人の陰キャ勢は冒険者に巻き込まないのでしょうか?』
A『正直悩みどころですね。如何せん命を落とす可能性も高い厳しい世界ですし、何となく後方の事務作業とかで冒険者の活動をサポートするのが向いてそうな気がします』
Q『二段ジャンプができれば壁なしで三角蹴りができるので使い方次第でかなり有用なスキルなのでは?』
A『本当に使い方次第では、何ですよね。あと冒険者の身体能力があってもかなりの練習を積まなければ実戦運用も難しいそうです。カズサの場合、イメージ補正が強く反映されるからいきなり出来たってだけで』
Q『木偶人形もアイテムなんだし、木偶自体に槌を使えないの?』
A『通常の木偶人形になら可能ですが、カズサのような特殊な木偶人形には無理です。詳しくは下記参照』
Q『犯罪行為をした冒険者同士はどうなるのですか?資格剥奪したら登録する前にの身体能力に戻るんですか?』
A『事と次第によりますが、情状酌量の余地なしとされれば重犯罪者として刑務所に入ることになります。資格剥奪には当然なりますね。ただ、一度体に入ったスキルオーブはもう取り出せないので、釈放後も永続的な呪いのスキルや呪いのアイテムで無力化させてしまうのが大半です。それか、異世界に常在する探索員として一生を過ごすかですね』
Q『カズサに強化鎚使えないですか』
A『凄い盲点でしたが、使えません。カズサはアイテムでありながら人間に極めて近いという、凄く曖昧な存在なのですが、本来人間にのみ適応されるオーブが使えるので基本的には人間とみなされ、強化槌は反応しないのです。この曖昧さを何時か強みに出来る展開とか書きたいですね』
Q『この世界って毒耐性は持てても毒無効は取れないって事やその逆はありますか?その場合取得できないものの上位なら取れるってことあるのですかね?』
A『毒耐性問わず、アイテムマスター以外の冒険者なら耐性系スキルは全部とれますね。下位スキルは取得できず、上位スキルだけは覚えられるという例もないです』
Q『人形が人間のようなものになるというアイテムがあるなら、人間を人形化するまたは変化するアイテムやスキルもありますか?一時的にとか。もしくはモンスターの攻撃の中にそいうタイプの呪いがあったりとか。人形でなくともアイテムのカテゴリーに入るものになればいいと思います。
もしあったら、きっちり契約してアイテムマスターに強化してもらえるのでは?スキルカードやオーブがダメでも、強化槌ならスキルを覚えさせるようなことができるし。さらに前提として人間に戻す手段があればですけど』
A『人形化のスキルを使うボスモンスターは想定はしていましたが、ご質問のような運用は想定していなかったですね。このまま評価ポイントが集まれば『俺たちの冒険はこれからだ』エンドにならず、そういうボスモンスターが現れることになるでしょうし、ぜひともご質問を参考にさせていただきたいです』
Q『つまりカズサはウンコをしないアイドル体質?』
A『摂取した栄養素だけでなく、本来排泄物になるものもエネルギーに変換して吸収しますからね。トイレに行かないどころか、太りもしないんですよ』
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