○○○○がオマケ品に入ってたんだが、どう思う?
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
ギルド内にある道具屋。そこに並ぶアイテムの数々を、所持金と相談しながら吟味する。
俺が冒険者として活躍するには、攻撃アイテムが必要不可欠。そう言った物を買い揃えに来たんだけど――――
「やっぱり、高い」
ここに来るまでの間だけだけど、アイテムマスターでも戦える方法を色々と考えてはみた。結果、一応不可能ではないという結論に至った訳なんだけど……やはり難しい。
戦闘力を上げる方法は簡単ながらも、とてつもなく根気が必要になる地道な作業の繰り返しだ。
モンスターを倒せば、魔石かスキルカードのどちらかが落ちる。その割合は九:一とされ、基本的にどのモンスターでも同じ確率だ。
スキルカードは決して珍しい物じゃない。そして冒険者は、スキルカードを取り込み続けることで少しずつ戦闘力を上げていくことができる。
だから俺でも倒せる雑魚中の雑魚モンスターを狩り続ければ、いずれは素手でも強いモンスターを倒せるようになるんだけど、雑魚モンスターが落とすスキルカードによる強化数値はかなり低い。
ダンジョンとかに潜んでいる強大なモンスターが落とすスキルカードなら一枚で戦闘力が100とか上がっていくんだけど、在野のモンスターが落とすカードだと上がる数値は1~2とかが大半だ。
「俺としては、延々と雑魚を狩り続けて戦闘力を上げつつ金稼ぎして、装備を充実させていくしかないんだけど……」
その為には財力と、攻撃アイテムが必要不可欠。そしてそんな攻撃アイテムの代表例として、壺爆弾という小さな手投げ爆弾のようなアイテムがある。
【アイテム調合】スキルの持ち主たち、またはダンジョンから持ち帰られて市場に流される攻撃アイテムの中で一番ポピュラーな品だけど、その値段は一個千円。
昔、有名冒険者のチームが配信した、チームと提携しているアイテムマスターの壺爆弾一個でどのくらいの強さのモンスターまで倒せるかっていう検証動画を見たことがある。
モンスターが落とす魔石は品質や大きさによって値段が異なるけど、この辺りのモンスターが落とす魔石の最高額が八百円くらいだ。
つまりモンスターを一体倒すごとに二百円以上の赤字というわけだ。その赤字を補填するには、資源の採取しかない。
「というわけで、真っ先に買うべきなのはコレだな」
俺が手に持ったのは先端が尖ったツルハシだ。鉱石の採取だけじゃなく、全身から魔力を発するようになった俺が振るえば、威力はかなり低いけどモンスターにダメージを与えることだってできる。
ちなみにお値段は四千三百円。これ自体は地球でも作られる普通の道具だから、大して高価でもない。俺の残り残高は二十四万円くらいだから、痛い出費でもないし。
「本当ならちゃんとした武器を買いたいところなんだけどなぁ」
ギルドには武器屋があって、剣とか斧とか弓矢とかが売られている。でもそういった類の武器は、俺では扱いきれない。普通の冒険者なら、最初期から備わっている【剣術】や【槍術】、【射撃術】といった、武器の扱いを補助するスキルでどうにかできるんだけど、俺からすれば剣もツルハシも武器として使う分には大して変わらない。
「まぁ、魔法の武器も売られているから、いつか武器屋にも行くけども」
ダンジョンから持ち帰られた、魔法の力を宿した武器が売られて市場に流れることも多々ある。それがあれば俺でもある程度戦えそうなんだけど、如何せん値段が高すぎる。
最低でも百万円とかするしな。今の俺じゃあとても手が出せない。
「まぁ、無い物強請りしても仕方ないか。……すみません、これ買います」
俺は後で防具屋で買う予定の防刃服上下の購入に必要な値段を残しつつ(値段は事前に調べた)、ツルハシを始め、壺爆弾をニ十個、軽い怪我を癒やすことができる一番安いポーション(千五百円)十個、解毒薬(七百円)五つをレジの上に置いた。
「ただいま一万円以上お買い上げの方には、こちらの籠から商品を一つ無料で提供するサービスをとり行っておりますが、如何なさいますか?」
店員が張られたバーコードを読み取って、俺が金を払って会計を済ませると、店員がレジの横にある、乱雑に道具が詰められた大きな籠を指し示した。
運良くサービス期間に来たっぽい。こいつは幸先が良い……と思ったんだけど、籠の中にはロクなアイテムが無い。一番良いので、俺が買ったポーションと同じのがあるだけか。
まぁ、無料サービスなんてそんなもんか。早速回復ポーションを貰うとして…………ん?
「これってもしかして……木偶人形か?」
俺は籠の中から、マネキンっぽい小さな木の人形を手に取る。
これはダンジョンの宝箱から取ることができる、歴とした魔法の道具だけど、その評価は最低……ハズレとして扱われるアイテムだ。
この木偶人形は使うと人間大の大きさになって、モンスターの敵意を引き付けながら攻撃することができるっていう、召喚系アイテムと同じく一時的に味方を増やすアイテムなんだけど、その操作は全てマニュアル。使用した冒険者が操作に集中しなければ動かない、文字通りの木偶人形状態の上に、動かしても素手の一般人並みに弱い。
動画で〝アイテムマスターなら木偶人形でモンスターを倒せるか〟っていう企画動画が上げられていたけど、結局そこら辺の雑魚モンスターに倒されていた。
そんなカス性能もあって、売値は僅か三百円。動画サイトで投稿者がワクワクしながら宝箱を開け、木偶人形が出てきた時に盛大に悪態をつくのはお約束だ。
「叩き売りのセール品どころか、買い物のオマケ扱いされるようになったか」
多分、買い取った側の店も持て余しているんだろう。正直に言って、俺もタダだから上げるなんて言われてもいらない。
「でもまぁ、何かに使えるかもな」
ただでさえ弱い職業だ。もしもに備えて手札は増やした方が良いだろ。
俺は籠から木偶人形を取って、店のカウンターに置いた。
=====
その後、ギルド内の更衣室で防具屋で買った防刃服に着替えた俺は、ギルド内にある異世界へのゲートに向かった。
ここのゲートから通じている場所は、異世界でも初心者向けポイントと呼ばれるくらい、比較的安全な場所だ。
モンスター自体が殆ど現れないし、危険な環境でもなければ猛毒を持つ植物もない。俺は運よく地元に住んでたけど、ここに来るために、わざわざ県外からくる新人冒険者もいるくらいなのだとか。
「で……あれが異世界ゲートか」
スキルカードを見せながら、警備員や電子システムで開閉される重厚な鉄の扉といった何重ものセキュリティを潜った先。そこにはスーパーとかでよく見かける野菜売り場の、冷気を出す商品棚がポツンと鎮座していて、本来野菜を冷やすその場所には、夜空のように光が混在する闇が渦を巻いていた。
あそこに飛び込めば異世界へ行けるらしい。生で見るのは初めてだけど、黒い水か光で出来ているようにも見えるし、とにかく形容し難い。
「クンクン……無臭だ」
とりあえず匂いを嗅いでみたけど、特に匂いとかはしない。熱も冷気も何も感じない、実は異世界に通じているのではなく、宇宙空間にでも通じているんじゃないかってくらい、底知れない何かを感じた。
そう思うと怖気づきそうになったけど、心を無理矢理奮い立たせて、備え付けられた小さな階段から商品棚の上に登り、勢いよく闇の渦に飛び込む。
飛び降りるようにゲートに飛び込んだけど、不思議と着地する感覚もなく、気が付けば両足の裏にはしっかりとした地面の感触が伝わっていた。
続いて感じたのは、先ほどまでの鉄やコンクリートといった地球の街中特有の匂いじゃなく、青々とした植物の香りと清涼な空気。そしてどこからかサラサラと流れる川の音と、肌を撫でる風の感触だった。
「ここが異世界……本当に来たんだな」
古びた遺跡と化した廃墟や、石造りの歩道が苔や太い根の隙間から見え隠れする大森林。一見すると地球では中々お目に掛かれない自然の中に、確かな文明の跡が残っている。
冒険者たちは言う。この異世界にはかつて、人が住んでいたんだって。ならその住民たちはどこへ行ってしまったのか……その答えは、蔓延るモンスターたちの姿を見れば何となく察せられた。
そんなどこか物哀しい世界の上空を見上げれば、そこには地球と大して変わらない太陽がある。分かってはいたけど、それを見て改めて確信した。異世界は作り話の話なんかじゃなく、現実の事なんだって。
「やべ……ワクワクしてきた」
胸が激しく鼓動を打つ。足の感覚が薄れる。尻の穴が縮んで金玉がヒュンってなる。
あぁ……俺は今、冒険をしてるんだな。
恐怖と高揚の二つが同居した不思議な気分を存分に味わってから、俺は道の先を見据える。
思い出せ、彼女にフラれた悔しさを。フラれたどころかリア充に寝取られていた屈辱を。俺はこの第一歩を始まりとして、冒険者として歩き出――――。
「あ、あれ? 俺のスマホは? どこいったの? ……あっれー?」
そうとしながら何となくポケットに手を当ててみると、スマホが無いことに気が付いた。体中をまさぐっても見つからないし……一体どこにいった?
「……探しに戻る、しかないよなぁ」
おい、マジかよ。初めての異世界を一歩も歩くことなくUターンしなくちゃダメなの? こんなかっこ悪い異世界デビューってある?
ガックリと項垂れながら俺はゲートを再度潜って地球に戻り、来た道を思い返しながら逆走する。途中、警備員のおっちゃんが「あれ? もう戻ってきたの? 早くね?」とでも言いたげな目で見てきた時は、俺の人生の屈辱ノートに新たな一ページが刻まれることになったのは、言うまでもない。
ちなみに、スマホは更衣室のロッカーに置きっぱなしになってました。
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