普段話さない奴が話しかけてくると戸惑うよね
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
「……ちょっと寝過ごした」
憂鬱極まりない月曜日の朝。学校に行きたくない衝動に抗いながらベッドから起き上がり、制服に着替えてリビングに降りる。階段の下からは、既に朝食の良い匂いとカズサたちの話し声が聞こえてきていた。
……朝一で動画の再生回数とかチェックしようと思ってたんだけど……しくじったな。
「はよー」
「おはよーです、ユースケ! ご飯できてるっすよー!」
朝から眩しい笑顔で出迎えるエプロン姿のカズサと、こちらを一瞥だけして、素知らぬ顔で味噌汁を啜り始める美波。
相変わらず兄に対して愛想がない……もっとも、いきなり愛想を振りまき始めたら絶対に何か企んでると思うけど、まぁこんなの何時もの事なので気にせず同じテーブルに座る。
以前の俺たちなら、お袋も親父もいない日に同じ食卓に付くこと自体なかったんだけど、カズサが来てから色々と変わったもんだ。ただ単に、お互い美味い朝飯にありつきたいだけなんだろうけど。
「ご飯の量どうします? 大盛りいっちゃいます?」
「それ山盛りだろ。そんなに食えないから普通でいい」
「りょーかいっす!」
アニメでしか見ないような茶碗に縦長に盛られた米を、鼻歌混じりで炊飯器に戻すカズサ。ちょっとした悪ふざけなんだろうけど、その様子は何時もの五割増しで機嫌が良い。
「カズ姉楽しそうだね。そう言えば、今日から学校なんだっけ?」
「そーなんすよ! ずっと楽しみにしてたおかげで、昨日はなかなか寝付けなかったんすよねぇ」
「その割には私より大分早く起きてたけど……」
「これでも朝には強いんです」
休みが明け、遂に今日からカズサは俺と同じ学校に通い始めることとなった。
その事もあって、今のカズサは【コスチュームチェンジ】で既に制服に着替えていて、リビングの片隅には新品の鞄が置かれている。
それにしても奇特な奴というか……カズサは陽キャだ。学校が楽しみとか、俺には分からん感性だし。……と思いはするんだけど、カズサがいるなら学校生活は前より楽しくなるんじゃないかって、少し期待している俺がいたり。
「でも何でお兄のバカ校? どうせなら私と同じ高嶺山学園に通えばいいのに」
「そこはしゃーないっすよ。アタシの学校生活のサポートは所有者であるユースケがするのが筋ってもんですし、何より美波ちゃんの学校って偏差値高いんすよね? そんな学校の授業に付いていける頭は流石に無いっすから」
クソ生意気な妹ではあるが、美波はこれでも頭が良く、この辺りじゃ結構名門の女子高に通ってたりする。何でも高校と大学のエスカレーター式の学校で、目当ての学部があるとかないとか……って、あれ? そう言えば……。
「高嶺山学園って、千堂と百瀬が通ってるとこじゃなかったか?」
「……おお! 言われてみれば確かに!」
「え? 何? 二人って、あの千堂先輩と百瀬先輩の知り合いなの?」
「知り合いっていうか、友達っすね。冒険者友達っすよ」
「その口振りだと、美波もあの二人の事を知ってたのか?」
「知り合いってわけじゃないけど、二人ともウチの学校じゃ有名人だからね」
有名? あの二人が?
そう口にしかけて、その理由に何となく察しがついた。
「二人とも美人だし、何より冒険者だって話だからね。そりゃ有名にもなるよ」
あの二人が冒険者になったのは春休み頃だけど、俺と違って友達も多そうだし、その手の情報が学校内で拡散するのはあっという間だったんだろう。実際、新藤が冒険者になったっていう話も、あっという間に広まったしな。冒険者っていう肩書は、学校内ではそれほどまでに大きい。
……まぁ、俺の場合はすぐに広まるってこともないかもだけどな。ネット上では顔出しして告知したけど本名は晒してないし、喋る相手といえば二村と八谷くらいで、二人とも率先して言いふらすタイプでもないからな。
そんな事を考えながら朝食を済ませ、俺たちは学校へと向かうのだった。
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正直に言おう。見られさえすれば評価される動画にはなったと自画自賛してはいるけど、初めて動画投稿をしてすぐに知名度が上がるわけがねぇとも思っていた。言いふらして情報を拡散できるだけの友達もいないし、冒険者としての知名度が上がるには時間が掛かる……そう思っていたんだけど。
「九々津……だったよな!? この動画の配信者って、お前だろ!?」
教室に入った瞬間、こんな一声と共に俺はクラスメイトたちから詰め寄られていた。
「へ!? ちょっ!?」
「一緒に映ってる美少女もすげー見覚えあるし! ていうか、この子がアイテムってマジか!?」
「どうやったらこうなるんだ!? 俺も冒険者になったらこんな可愛いアイテムをゲットできる!?」
「しかも春休みに冒険者になって、新学期が始まる前にはギガントモンスターまで倒しちゃったんでしょ!?」
「アイテムマスターなのに成り上がり過ぎだろ!! 一体どうやったら春休みだけでこうなるんだ!?」
これまでの人生で、ここまで人に囲まれた経験のない俺は思わず吃って何も答えられなくなる。
いつかはこういう風になろうと夢想したものだけど、幾らなんでも早すぎる。動画投稿したの昨日の今日だよ!?
これはまさかと思い、名前もまともに覚えていないクラスメイトが手に持ってるスマホ画面に映っている、俺が昨日配信した動画のページ……そこに記された再生回数と高評価ポイントを見て見ると、その理由が判明した。
「バ、バズっとる……!」
再生回数は既に七桁に突入し、急上昇ランキングに入っている。こういうのって、数をこなして徐々に上げていくもんじゃないの……? 動画投稿の予備知識を集めてる時、そういう情報を見聞きしたんだけど……。
「…………っ!」
それはそれとして……何だろう、今なら新藤の気持ちが凄く理解できる。この優越感というか、高揚感というか……大なり小なり尊敬に似た視線を集めるのって、すごく気持ちいいんですけど……! 思わず顔がニヤニヤしちゃう。
「私は今朝教室に来て初めて知った口なんだけどさ、普段話もしない二村くんたちがこれを見ろって言ってきて見てみたら、もうすっごく驚いた! 九々津君が冒険者だったこともそうだけど、まさか始業式の日に来てた子がアイテムだったなんて」
「え?」
その言葉を聞いて、俺は片手でクラスメイト達の質問攻めを制しながらスマホを操作し、八谷と二村のSNSを見てみると、二人は積極的に俺が配信した動画や、俺という冒険者を推しまくっていることが分かった。
思わず教室の端にいる二村たちに視線を送ると、二人は良い笑顔と共に親指を立てる。……やだ、何なの……女子と話すの苦手って言ってたのに、俺の為に動画を周囲に推してくれるなんて……こんなん、惚れてまうやろ……!
「皆ー、席に付けー。朝のホームルームを始めるぞー」
気が付けば時間も経ち、担任が教室へとやってきた。バカ校とは言えど、真面目に過ごすことで補習もなく進級できることを売りにした我が校の生徒たちは、先生の言葉には割と素直に従う。
「あ、九々津はそのまま教壇に立っててくれ」
それぞれが自分の席に座っていく中、俺だけが先生に呼び止められて、教壇からクラスメイトたちを見下ろす。その理由は、事前に知らされていたから特に驚く必要も、疑問を抱く必要もない。後はただ、先生の指示を待つだけ。
「えー、今日は編入生を紹介する。その編入生は少々特別な事情があって我が校に入学したんだが、皆仲良く過ごすように。……それじゃあ九々津、頼む」
「はい」
そう言われて、俺は【アイテムボックス】からカズサを呼び出す。
突如何もない空間から現れた、同じ制服姿をした絶世の美少女に皆が皆呆気に取られ、顎が外れそうになるほど口を開いたクラスメイトたちを見回しながら、カズサは快活な笑みを浮かべながら朗々と喋り出した。
「皆さん初めまして! 隣にいるユースケと冒険者業をやってる、マジックアイテム木偶人形、一之瀬カズサって言います! 今日から皆さんと一緒に生徒としても生活することになったんで、よろしくお願いします!」
次の瞬間、窓ガラスが割れるんじゃないかってくらいの歓声が響いた。そして始まる怒涛の質問攻めの中、俺はふとあることに気が付く。
冒険者になってから絶えず周りに人がいた新藤と、その彼女である薫。その二人が状況に取り残されたかのように、蚊帳の外から呆然と俺たちを見ていたという事に。
ご質問があったのでお答えします。
Q『・登場人物の氏名に数字が入っていること。主人公はアイテムマスターとして調合等の活動は行わないのか。アイテムマスターが調合する際、工房とかの施設は必要ないのか』
A『氏名に関しては意識していますが特に意味はないです。調合はその内します、ただ展開的に今までやらなかっただけです。スキルで全て事足りるので、工房や施設は必要なし』
Q『消耗品がアイテムの判定ならダンジョン産の銃弾とかは強化されるのだろうか?投げナイフとか矢が強化されても専門職の方が強いだろうし』
A『【アイテム強化】は魔力が宿っている消費アイテムに適用されるので、魔法効果のある弾丸とか投げナイフ、矢とかなら効果はありますね。爆弾の威力を上げていましたけど、あれも異世界産の魔力が宿った素材が原材料ですし。逆に地球産の消耗品には効果がありません』
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