これは嵐の序章に過ぎないと、僕たちはまだ知らない
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
高速移動手段を備え、戦闘力が1万後半に差し掛かった今のカズサなら、ラミア道場なんて短時間で終わらせて周回することができる。むしろ上がり方に不満も出てきたし、そろそろ他のダンジョンで良いレベル上げ方法を探ろうと思ってたところだ。
そんなこんなで、二人の戦闘力は既に3000を軽く超え、有用なスキルもいくつか習得するに至り、地球に戻った俺たちはフードコートで少し早めの夕食を取ることにした。
「正直、ドン引きするくらい戦闘力が上がったよね」
「ちょっと怖いくらいよ。身体能力も飛躍的に上がったし、ちゃんと今の戦闘力の感覚に慣れないとね」
ファミリーレストラン【カスト】の冒険者ギルド支店。その店の一角で、千堂はパスタ、百瀬はドリア、カズサはハンバーグセット、そして俺はミックスグリルを食べながら駄弁る。
「そうっすね。アタシたちもしばらくは戦闘力に合ったダンジョンに行ってスキル集めする予定ですから別行動ですし」
「一応、いきなり推奨戦闘力が2000とか3000のダンジョンには行かず、1500くらいのに行った方が良いと思う。強力なダンジョンほど必須スキルみたいなのがあって、それが無いと戦闘力が高くても苦戦することってあるらしいから」
「そうね。今日行った花橋ダンジョンのボスなんかもまさにそれらしいし」
ちなみに、こうして何度かギルドで話すようになってからというもの、俺も普通に二人と話せるようになった。流石に冗談交じりの談笑とかが出来るほど仲良くなった感じはしないけどな。
「でも良いのか? 俺らの動画に顔出しまでしてもらって」
今日のダンジョン攻略は、花橋ダンジョンでの戦闘力爆上げをコンセプトに、カズサが短期間でどうやってここまで戦闘力を上げられたのかという動画の資料を撮影していた。
それにあたって、二人には姿が映らないようにしない方が良いかと聞いたんだけど、意外にも返答は「映るくらいで丁度いい」というものだったのだ。
「大丈夫大丈夫。実はわたしたちも、動画投稿しようって思ってたから!」
「そうなんすか!? お仲間っすね! 人気冒険者になれるよう、一緒に頑張りましょー!」
「おーっ!」
能天気に手を取り合って笑うカズサと百瀬。それを尻目に、俺は千堂に問いかけた。
「コラボ目的か?」
「そういうこと。ちょっとある事情で始めることにしてね。多分……と言うか、ほぼ間違いなくカズサは話題を呼ぶわ。そんなカズサに便乗する形で動画を上げ始めれば、私たちの動画も再生数伸びるかなって思って」
「まぁ、投稿した動画を見てもらえればの話だけどな」
投稿主が違う二つの動画に関係性を持たせ、相乗効果を生む手法だ。確かにそれだと俺たちにも利があるし、断る理由がない。
「そーだ! 沙月ちゃんに瑠衣ちゃん、アタシとうとうスマホデビューしたんすよ! 連絡先、交換しません?」
「ホント!? するする!」
「あら? 戸籍が無いからそういうの作れないって前に言ってなかったっけ?」
嬉々として連絡先を交換し合う三人。実は今カズサが取り出したスマホ、俺が契約した俺名義のスマホ(二台目)だ。親父に言えば何とかなったかもだけど、流石にそれは気が引けたしな。ギルドの方でも色々と便宜を図ってくれたらしいし。幸い、金ならあるから問題ない。
「ところで二人はコレに参加するの?」
「「コレ?」」
そう言いながら千堂はスマホの画面を俺とカズサに見せてくる。そこに映っていたのは、とある大会のホームページだった。
「えぇっと、何々? 日本冒険者ギルドユース王決定戦?」
「デュエルの大会か! 何時の間にこんなの企画されてたんだ!?」
デュエルとは、冒険者同士の決闘を指す用語だ。主に興行として大会の中で行われることが多く、かつて存在していたという格闘技の大会に代わる、大勢の観客が集まる人気競技だ。
かつて存在していたというオリンピック。その競技内容であった主なスポーツは、異世界へのゲートの出現と共に軒並み衰退し、今となってはその規模を大きく縮小させていった。
地球の平和を勝ち取った当時、スポーツの文化を復活させるほどの余裕がなかったというのもあるし、スポーツのノウハウを伝える人が皆死亡していたというのもある。今となっては、徒競走とかサッカーとか野球とかは、学校の体育や遊びでやるのが大半だ。むしろそう言うスポーツの世界規模の大会が開かれていたなんて、現代を生きる俺からすれば信じられない。
異世界の資源によって好景気を迎えた時には、既に多くの人々が冒険者たちの活躍に目を奪われていたからな。事人同士が競い合う興行において、冒険者が主流となるのは当然だった。
「告知自体は以前からされていたけど、ホームページが出来たのはつい先週みたいだね。二人は知らなかったの?」
「学校始まったり、友達と遊んだりと色々あったからな。そこら辺の情報チェックすんの忘れてたわ」
春休み中はともかく、戦闘力上げやスキル集めに夢中だったしな。正直、大会の事は視野に入って無かった。
「開催日は来月の中頃。わたしたちは学校行事が埋まってて参加しないけどね」
「うちの学校は特に何もなかったはずだから、俺らは参加できるな。えっと……参加資格は二十歳未満の冒険者全員か」
「ようはお祭りって事っすよね、ユースケ! 面白そうじゃないっすか! 参加しましょう!」
「分かった分かった」
身を乗り出して俺のスマホをタップしようとするカズサを宥めながら、俺はホームページから参加登録を済ましていく。
催しという字面から純粋に参加そのものを楽しみにしているカズサとは裏腹に、俺が参加を決めた理由は、大会に優勝すれば一躍有名になれるかも、という打算的なものだ。
ただでさえ新藤や薫と同じクラスで居心地が悪いんだから、出来るだけ早く冒険者として成り上がり、奴らを悔しがらせた上で教室を居心地の良い場所に変えたい。
そういう意味では、この大きな大会は非常に都合がいいのだ。これに優勝してしまえば、俺たちは一躍学校のスターだからな。……大会に参加することの宣伝動画も編集しないと。
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翌日、遊びを挟みながら土曜日に撮った画像を元に、夜まで動画を編集した俺とカズサは、普通に風呂に入って就寝準備をしていたわけだが、ベッドに入る前にやることがある。
ズバリ、先日作った俺たちの紹介動画の投稿だ。これを投稿した瞬間から、俺たちは世間から色んな評価を下される身になるわけで……そう考えると、少し緊張してきた。
「よし……いくぞっ!」
カズサと並んでパソコンの前にかじりつき、動画投稿サイトから第一作目を配信する。
ディスプレイに映る「投稿が完了しました」というメッセージを見ると、なんだか肩の荷が下りた気がして、俺はフゥ……と溜息を吐いた。
「いやぁ、楽しみっすねぇ。見てくれると良いんすけど」
「最初から上手くいくことを期待しない方が良いぞ。冒険者の動画ってジャンルとしては人気だけど数が多いしな。こういうのって日を跨ぎ過ぎずに投稿し続けることで見られるようになるっていうし」
勿論、動画投稿するにあたって気を付けるポイントとかやっておいた方が良いという事とかは調べ尽くして、余さず実行してきた。サムネにも当然意識が向けられそうな画像(カズサの写真)を使ったりしたけど、俺たちが今あげた動画なんて、大海に垂らされた一滴みたいなもんだ。
まずは出来る限り頻繁に動画を投稿して、視聴者の目に留まるようにする。そんな方針を頭に刻み、過度な期待を抱かないように保身を掛けながら、俺たちはパソコンから離れるのであった。
ご質問があったのでお答えします。
Q『やっぱり主人公限定のチートですかね。過去の人も検証で気づくはずですし、気づかなかったら何を検証してたんだってことになりますね』
A『検証されるほど、アイテムマスターって注目されてなかったんですよね。戦力として数えられないサポート役というのは、どうしても最前線で戦う天職の後回しにされがちと言いますか。そもそも冒険者という人種自体、全体から見れば少数派で、そんな冒険者の中でもアイテムマスターに更に少数ですし、未だアイテムマスターの力というのはあんまり解明されてないんです』
Q『そういやアイテム調合ってどんな感じなんですか?レシピが決まっていてそれを淡々とスキルで作るのか適当なアイテム練金釜にぶち込んで大爆発するを繰り返してレシピを探るのか戦闘力上げたら品質上がったりしないのかな?』
A『レシピが決まっていて淡々とスキルで作る奴ですね。ちなみに余談ですが、ただでさえ数が少ないアイテムマスターの力で検証されるのは、有用性や緊急度などの理由から主にアイテム調合に関してです。レシピは完全に手探りで研究してるんですよね。こっちの分野に関してだけは解明が進んでるんです。ちなみに戦闘力が上がったからといって品質は上がりませんが、品質を上げる方法もあったりするんです』
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