野郎の顔と濁声なんぞに需要はねぇ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
結局、カズサは次の休み明けから正式に学校に通う事になった。
どうもギルドの方では既に準備だけは進んでいたらしく、俺とカズサの了承を得たその日の内に親父から通達があったのだ。教科書とかは余ってるらしいし、制服に関しても【コスチュームチェンジ】があれば問題ないしな。
そんな訳で、俺は今週までになる、退屈な授業と友達との談笑、そして時折感じる「始業式の時のあの子は誰だ?」と言いたげな視線を向けられることを繰り返すいつも通りの学校生活を約七時間で終えた放課後。
八谷と二村と学校帰りに遊ぶ途中に寄った電気屋で纏めて購入した動画機材を持って家に戻ってきていた。
「これが動画投稿に使う機械っすか。思ったより少ないんすね」
「動画投稿が流行り出した2000年以降はもっと必要だったらしいんだけど、今は技術力が上がったからな。何かと手軽なんだよ」
動画投稿用の超多機能で高性能なビデオカメラと、編集用のソフトが入ったパソコン。いずれも高額な物だけど、その二つさえあればゲーム動画だろうが、野外だろうが、屋内だろうが、とんでもなく綺麗な画質で音質の良い動画を投稿することができる。
今回は俺たちが目指した動画に合わせて、ビデオカメラも大型で良いのを買ってきたからな。大抵の冒険者ならスマホとか、ブレ補正を重視したアクセサリー型の超小型カメラを使うところだろうから、そこらの動画投稿者相手でも画質や音質では負けないと思う。
「そんじゃあ早速動画撮っていくぞ」
「お、おぉう」
録画モードをオンにしたビデオカメラをカズサに向けると、なんか変な声を出した。
「どうした?」
「いやぁ、いざ撮影ってなると……何話して良いか分かんないっすね。変に緊張してきました」
「生放送でもないし、後で編集しまくれるし、リラックスしていけ。とりあえず、まず自己紹介から頼むわ」
俺達の動画の指針としては、まず俺たちがどんな冒険者なのかを説明するためにハンドルネーム紹介とスキルカードの公開から、カズサの木偶人形としての力の説明、これまでの経歴発表を第一回の動画とし、その後は活動動画を頻繁に投稿していくという、冒険者としてはスタンダードなものだ。
動画は全て編集を入れることも出来るし、異世界での活動動画以外でなら幾らでもリテイクが効く。命の危険がある異世界での活動中に生放送なんて出来るわけもないしな。冒険者的に、投稿動画の編集は当たり前の技術である。
「とりあえずカズサが顔出しする前に、カズサの事は軽く説明しておくつもりだから、そのつもりで視聴者さんへの挨拶を頼む」
「それじゃあ……こほんっ。どーもです! 視聴者の皆様初めまして! ユースケの――――」
「あ、悪い。ちょい待った」
俺は慌ててカズサを止める。
「俺の本名バレはあんまり良くないから、動画撮影中は俺の事をカラクリっていうハンドルネームで呼んでほしい」
「おっと、そうでした」
ちなみにカズサの名前はそのまま出しても問題ない。親父に詳しく聞いたところによると、学校に入学することが決定したカズサだが、かなり特殊な枠の生徒として扱われ、戸籍も特に用意されていないらしいから、動画背景にさえ気を付ければ一般人や普通の冒険者と違って調べようがなく、身バレもしないのだとか。
唯一情報が洩れそうなのはカズサの事に関わった関係者たちだが、うちの家族は洩らしたりしないだろうし、ギルドの職員が洩らせば処罰されるから特に気にしなくても平気らしい。学校関係者側は言わずもがな、無断でネットに晒せば肖像権やプライバシーの侵害に問われると、国とギルドが学校全体に通告してくれるって言うし。
という訳でテイク2。先ほどまで撮っていた分は全て消去し、新たに動画を撮り始める。
「どーもです! 視聴者の皆様初めまして! アタシはカラクリの木偶人形、名前はカズサっす! 今後ともよろしくお願いします!」
太陽のように快活な笑みを浮かべ、両手を前で重ね合わせながらお辞儀をするカズサ。
一通り台詞や動きを記録したところで一旦録画モードを切り、編集用の写真を撮影していると、ふとカズサが首を傾げた。
「…………あれ? そう言えば、ユースケは顔出ししないんすか?」
「ちょっとはするよ。でも動画のメインとなるのはあくまでもカズサだからな」
「…………ユースケのアカウントから投稿する動画っすよね?」
「そうだけど……お前、俺の顔と濁声に需要が生まれると思ってんのか?」
なんとも言えない表情を浮かべるカズサ。……正直、そこは否定してほしかったと思うのは、自分勝手な男心だと自覚している。
「俺の声なんて合成音声と字幕でどうとでもする。その点お前は見栄えするし、そっち向きだ。ぶっちゃけるけど、お前は外見も声も最高に可愛い奴だ。自信を持て」
「ちょ、褒め過ぎっすよ、もう……」
満更でもない感じと恥ずかしさを同居させた赤い顔でそっぽを向くカズサ。自分でいうのはともかく、他人から褒められるのは少し気恥しいらしい。
……自分で言っといてなんだけど、恥ずかしがんなよ。言ったこっちまで恥ずかしくなるじゃん。
「よーし、続いて【木偶同調】について実践を交えた説明をしていくぞ」
「はいはーい」
録画モードをオンにし、俺とカズサはカメラの前で【木偶同調】を発動。カズサの内部空間に入ってすぐにスキルを解除し、映像を確認すると、そこにはちゃんと俺が光になってカズサの体に吸い込まれる光景が保存されていた。
「【木偶同調】の発動時って、こうなってたんだな」
普段当然のように使っていたスキルの知らなかったことに少し楽しくなってきた俺は更に動画用の映像を撮り貯めていく。
俺がカズサの体に吸い込まれる映像を取れれば、次はカズサの内部空間の撮影だ。
この空間内でも俺は自分の【アイテムボックス】から物を自由に取り出せる。普段はカズサに持たせる形で取り出してはいるけど、内部空間にいる俺の手元に取り出すことも可能な訳だ。
それを利用し、カメラを【アイテムボックス】に収めた俺は再び【木偶同調】を発動。ビデオカメラを自分の手元に取り出し、辺り一面からコントローラー、カズサが映るホログラム画面を撮影していく。
「やっぱりカメラは性能重視にして正解だったな」
大多数の冒険者がブレ補正重視の超小型カメラを愛用しているのは、余程万全の準備をしなければ異世界での活動中に暢気に撮影なんてできないからだ。
下手をすればモンスターにやられるのは勿論の事、カメラ自体を壊される可能性だって高い。にも拘らず、俺が性能重視の大型カメラを使う理由は、この空間内ならどんな状況下で、どんなカメラを使っても安定して撮影できるからだ。
そしてもう一つの理由として、このカメラならテレビ画面やホログラム画面を撮影しても、画質や音質が悪くならないから。
大昔……それこそ、2000年代初期の技術では、ビデオカメラでテレビに映る映像を撮影すれば、画質も音質も最悪なものしか撮れなかったらしいけど、この最新式超高性能カメラならホログラム画面に映るカズサの姿や周囲の光景、音もすっごい綺麗に撮れる。
(OKOK、良い感じに撮れた。この調子でどんどん撮っていこう)
(りょーかいっす)
こうして俺たちは動画や画像の撮影を続けていき、満足できる量になればそのまま動画編集に勤しんだ。
常に高評価を得ている、電気屋に売られていた動画編集ソフトと、この時の為に購入し直したロードや処理の速さに定評があるパソコンのおかげで、動画は簡単に編集することができ、思ってたよりもあっという間に第一回投稿用の動画は完成した。
「ユースケって機械とかに強かったんすね。アタシ横から見てましたけど、殆どサッパリでしたよ」
「まぁ、説明書見りゃ大体のことは出来るな」
動画投稿しようって思ってる奴は、大抵編集の段階で挫けるらしい。まぁ苦手な奴はとことん苦手って聞くし、分からなくもないけど。かく言う俺も、現段階で機能とかを全部活かせてるとは思えない。
「さて……紹介用の動画一本上げて、しばらく投稿なしっていうのもなんだし、あと一本くらい活動動画を撮ってから投稿しようかな」
「おっ。つまり次の冒険っすね? ……あれ? でも確か次の予定って……」
「あぁ。花橋ダンジョンだよ」
目的はラミア道場によるカズサの戦闘力上げとスキルオーブ集めだが、それだけではない。
「千堂と百瀬の戦闘力上げを手伝うのも、目的の一つだ。動画撮影してるってことを伝えて、色々と予定組まないとな」
ご質問があったのでお答えします。
Q『将来主人公が有名になるんだったらアイテム狙いで襲われたり、その強さによってたくさんの方面に影響を与えて狙われることも増えるだろうし尚更個人の戦闘能力も必要だと思うんだけど。世界一になるとしたら国家同士の争いにも巻き込まれると思うしやっぱり多少は本人の戦闘能力を上げるべきでは?』
A『あー……確かに。この世界観、国同士の争い……つまり戦争とかは無いんですけど(冒険者は異世界に対する全世界共通戦力)、犯罪者に対する対策は必要ですね。まぁいずれは急いでカズサの戦闘力を上げる必要性がない時もきますし、その時にでも自衛が出来る程度に……ね?』
Q『カズサをアイテムとして公開するよりよく分からん融合するスキルを持ってるみたいな感じにしといた方が世間には嫌な目で見られなかったかな?』
A『んー……その辺りを誤魔化すと、言及された時にどう言い繕えばいいのか悩ましいんですよね。更に付け加えるなら、冒険者というのは力がある分品性を求められます。特に動画投稿をするような冒険者ともなると、誠意も求められますから、下手な嘘を吐く方が痛手になりかねないんです。いざ動画投稿するとなれば、もう隠す必要性もないですしね』
Q『毒無効が通用するなら腐ったシュークリームとかでお腹痛くならなくて便利 病気に強くなれそう』
A『一応、毒無効は菌類やウイルスに対しても有効です。まぁ、腐ったシュークリームの劣化した味や腐敗臭は、如何とし難いですけどね』
Q『これって他の人も同じスキルオーブ二回使えばスキル強化されないのかな?されるんならさらに使えば毒吸収とかにならないかな?』
A『んー……一般的な戦闘職では無理……と言う事だけ答えておきます』
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