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休み明けほど学校が鬱に感じることはねぇ

設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。


 あれから地球に戻った俺たちは、ギルド職員や百瀬たちから五体無事の帰還を驚かれた。

 ギガントモンスターは冒険者になってから一ヵ月で討伐できるような甘いモンスターではない……そんな当たり前の認識を持っていたギルドは、百瀬たちの報告を受けて討伐隊と並行し、救出部隊を編成しつつも、俺……というか、カズサは生きていないものと考えていたらしい。

 しかもただ生き延びるだけでなく、単独で討伐までしてしまったのだ。俺はカズサの内側からホログラム画面越しに、カードの記録を目にし、顎が外れそうなくらいに口を開いて驚く面々を見て思わず笑ってしまった。

 この件で百瀬と千堂は更に恩を受けてしまったと、泣きながらカズサに抱き着いて礼を言い、他にも色んなゴタゴタがあったけど、ギルド職員は首を傾げながらも生還と討伐を祝福してくれた。


『この早さでギガントモンスターを討伐するなんて……もしかしたら、史上最速でランカーに名を連ねるかもしれませんね!』


 ランカー……それは実績や知名度、民間からの人気を基準として定められる世界冒険者ランキング百位に入る化け物並みに強い冒険者たちの総称。大人気冒険者となるには避けては通れない道であり、俺たちが目指す目標の一つでもある。

 それになれると、何の誇張もなくそう言ってのける職員に、俺とカズサは揃って照れ笑いを浮かべたものだ。俺たちはこうして半月も立たない内に、第十七支部の期待の星として、ギルドから一目置かれるようになった。

 とは言ってもだ……夢みたいな成り上がり、その手ごたえを感じる俺たちだったが、現実というのは容赦なく訪れるわけで。

 何が言いたいかって言うと、学生にとっての夢の日々……すなわち、春休みが終わったのである。

 

   =====


「学校だる」


 朝に家を出て久々の登校路、その第一歩目から俺は恨みがましく呻いた。

 学校そのものに楽しみを見い出せない奴からすると、学校というのは退屈な場所だ。かく言う俺もその内の一人で、学校行くくらいなら遊んだり異世界行くなりしたい派である。

 そもそも、今の俺に学校に通う意味ってあるの? もう既に、そこらのエリート会社員より稼いでいると思うんだけど。


(あんまり気乗りし無さそうっすね、ユースケ。学校ってなんか楽しそうな感じしますけど……)

(お前も通ったら分かるって。学校の嫌なとことか、退屈なとことか、面倒なとことかな。……まぁ、親父とお袋に高校は卒業することを条件に冒険者活動を認めてもらったから、学校行かないっていう選択肢ないんだけどな)


【アイテムボックス】内から念話で語りかけてくるカズサに、念話で返事をする。

 人生何があるか分からない。だからせめて高校卒業資格だけは取っておくようにとキツく言い聞かされているから、どんなに面倒でも学校には真面目に通わないといけない。

 しかも今日から二年生……クラス替えだ。多少なりともナイーブになるだろ。


「えっと、俺のクラスはっと……」


 家から歩いて暫く経ち、辿り着いた校舎の正面玄関ガラスに大きく張り出されたクラス分け表を見る。一学年四クラスの内、二年D組のところに俺の名前はあった。

 そこに八谷と二村の名前もあってホッとする。親しみのある相手と同じクラスになるかどうかで、学校生活は大きく変わったりするから、クラス替えというのは生徒にとって一大事なのだ。


「……げっ」


 でも中には「コイツとだけは同じクラスになりたくねぇ」って奴もいるわけで……D組には、薫と新藤の名前も書かれていた。


(あららー……確かこの二人って)

(元カノと、そいつを寝取った奴……最悪だ)


 新学期早々鬱になりそうだ。これ本当に学校サボっちゃダメ? 今すぐカズサと異世界まで冒険(ランデブー)したいんだが。何が悲しくてあんな奴らと同じクラスで過ごさにゃならん。

 ……なーんて話が通じるわけもなく、俺は重い足を引きずって新しい教室へと向かった。

 

(…………)

(どうした、カズサ? さっきからやけに静かだけど)

(んー……ちょっと考えごとを)


 普段喋っていることが多い相棒の静けさを疑問に感じながらも、俺は二年D組の扉を開ける。既に何人かの生徒が揃っていたようで、その中に八谷と二村の姿を見つけた。


「おお! お待ちしてましたよ、九々津殿!」

「久しぶりだね九々津氏! 春休み中はずっと大変だったんでしょ? お疲れ様!」

「おー、お前らも久しぶりだなぁ!」

 

 春休み中、冒険者活動に専念してて遊べなかったけど、二人は温かく迎え入れてくれた。

 そのまま先生が来てホームルームが始まるまで、当然のように駄弁り始める俺たち。そうすると、話題は自然と俺の冒険者活動に関することになった。


「そう言えば九々津氏、異世界はどうだったの? LINEで色々教えてもらってはいたけど」

「やっぱり直に話を聞かないと始まりませんよ! 是非とも九々津殿の武勇伝をお聞きしたい!」


 動画配信する前に、この二人にはカズサの事は話そうと思っていた。自慢したいっていうのもあるけど、こんなにも心強い相棒がいるから安心してほしいって伝えたいから。

 とは言ってもここだと人目がある。なので放課後、落ち着いた場所で……そう切り出そうとした時、騒がしい声と共に六人グループが教室に入ってきた。


「マジで? 司チョーヤバくね!?」

「ホントホント! 疑うんだったら俺のスキルカード見せてやるよ!」

「私も見せてもらったけど本当だった! やっぱ司くんって凄いよねぇ!」


 新藤と薫を中心とした、カーストトップのリア充どもだ。やたらとデカい声で話してるから内容が丸聞こえだけど……どうやら新藤の冒険活動について盛り上がっているらしい。


「最近ダンジョンリフォームが起こって難易度が爆上がりしたっていう花橋ダンジョンを攻略して、戦闘力が800になったんだろ!? これもう将来はプロの冒険者になれるんじゃね?」 

「いやいや、卒業した先輩の大学の冒険者サークルに着いてっただけだし。プロになろうと思ったら、800くらいじゃまだ足りねぇって」


 謙遜する新藤だけど、その表情にはありありと優越感が滲んでいた。

 確かに高校生で戦闘力800は凄い方だと思うけど……俺からすると、正直全然大したことない。戦闘力はカズサと比べ物にならないし、俺たちは実質ソロで花橋ダンジョンを何度も攻略してるし。


「やっぱり司くんの彼女になってよかったぁ。こんな彼氏、誰にでも自慢できちゃうよぉ」

「へへへへ……今頃気付いたのかっての。俺以上の男なんて、この学校にいるわけねぇだろ」

「あー! 薫ズルい! ねぇ司くぅん……私も司くんの事世界一カッコいいって思ってるんだよぉ?」

「ったく、可愛い奴らだぜ。気分が良い! 今日は俺の奢りでどっか行こうぜ!」

「さっすが司! 太っ腹! だったら駅前のボーリングに――――」  


 薫を始め、グループの女子三人は挙って新藤に媚を売り始める。男としては実に胸糞悪い光景だが、グループの男子たちは新藤のおこぼれに預かるのに必死なのか、新藤を持ち上げるばかりだ。

 そんな時、ふと薫と新藤の二人と目が合って―――― 


「…………へっ」

「…………ふふっ」


 何を思ったのか、優越感に満ち溢れた顔で鼻で嗤ってきやがった。

 ム、ムカつくぅうううう……! 浮気女と三股男の分際で、さも「新藤司は九々津雄介とは男としての格が違う」とでも言いたげな顔をしてきやがって……!


「九々津氏、気にすることないよ」

「そうです。ああいう奴らは後で痛い目に遭うというのが世の摂理なのですから」

「……うん」


 二村と八谷に宥められて心を落ち着かせることが出来たけど、新藤なんて俺たちと比べると大した冒険者じゃないって今すぐ言ってやりたい……!

 その為には、ギガントモンスター討伐実績が刻まれたスキルカードを見せれば済む話なんだけど、生憎と俺の戦闘力は変わらずたったの5(ゴミ)。絶対に裏があるって思われるのがオチだ。

 やはり動画投稿と共にカズサの存在をこれまでの実績と一緒に公表し、マウント取るしかねぇ。今は耐え忍んで――――


「ユースケ」


 春休みの間で、すっかり聞き馴れた鈴を転がすような聞き心地の良い声が俺の名前を呼ぶ。

 驚いて顔を上げて声がした方向……教室の扉の方を見てみると、そこにはウチの学校の制服で身を包んだカズサが、微笑みながら俺に向かって軽く手を振っていた。


「え……ちょ!? だ、誰だあの子!?」

「綺麗で可愛い……あんな子、うちの高校に居たっけ……?」

「……てか、ちょっと待って? 今あの子、誰を呼んで……?」


 人間離れした美貌……ただそれだけでクラス全員の視線を奪ったカズサは、教室にいる奴からよく姿が見える教壇の前まで颯爽と歩いてくる。

 こ、こいつ何時の間に外に出てきたんだ……? 

 慌てて教壇前まで行ってカズサと向き合うと、彼女は恋人にするかのように俺の腕を抱き、豊かな胸を押し付けながら満面の笑みを浮かべた。


「もう、駄目じゃないっすか。スマホを家に忘れてましたよ? お義母様に頼まれて届けに来ました」

「今なんか発音可笑しくなかったか!? てかそのスマホって俺の【アイテムボックス】に入ってた――――」


 そこまで言いかけて、俺の唇を人差し指で止めるカズサ。自分の声が鳴り止むと、教室内のヒソヒソ話が耳に入ってきた。


「アイツ、あのキモオタ連中の一人だよな……? 何であんな可愛い子と親し気に……」

「ていうか今、義理の母と書いてお義母様って言った? しかも家って……あの二人ってそういう関係!?」

「嘘、だろ……? あんな可愛い子を彼女にしたっていうのか……? 俺が男として、あんなパッとしない奴に負けて……?」

「ちょ、ちょっと雄介。アンタその子と一体どういう……」


 羨望。嫉妬。そう言った俺にとっては心地いい感情を目に宿し、薫と新藤を始めとした野次馬連中は一斉に俺とカズサに注目する。


「はい、どーぞ。それで、今日は何時くらいに帰ってくる予定ですか?」

「いや……今日は二村と八谷と遊ぶ予定あるからちょっと遅くなるかもだけど、19時くらいまでには多分家に戻ってると思う」

「あぁ、そちらのお二人さんが八谷さんと二村さんっすね? お話はかねがね。初めまして、カズサって言います。何時もアタシの(・・・・)ユースケがお世話になってるみたいで……」

『『『アタシのって何!?』』』


 世話になっている友人に頭を下げて挨拶をする姿は、出来た嫁(実際は全然違うけど)の貫禄すら滲ませる。それを見た新藤や薫たちは、一斉に目を見開いて俺を凝視してきた。


「ユースケ、今日の晩御飯は何が良いっすか?」

「…………そ、そぼろ丼?」

「了解っす! それじゃあ、愛情たっぷり込めたそぼろ丼を作って、帰りを待ってますね!」


 眩しいくらいの笑顔を浮かべるカズサに何も言えなくなった俺だったけど、そんな俺以上に呆気を取られるのは薫と新藤だった。


「う、嘘だろ……? 九々津なんかが、あんな美少女と……?」

「ま、負けた……色んな意味で……」


 絶世の美貌を誇るカズサ。そんな彼女が俺に対してただならぬ関係を持っていることを匂わせる、心底親しそうな態度で俺と接しているのを見た薫と新藤は、どこか敗北感を滲ませる間抜け面を晒している。

 それを見た俺は、さっきまでのモヤモヤした気持ちが嘘みたいに晴れて、胸がスッとした。もしかしてカズサは、二人に意趣返しをするために……?


「それじゃアタシはこの辺で失礼しまっす! ユースケ、またお家で会いましょうね!」


 そう言って颯爽と立ち去っていくカズサ。この後、俺が八谷と二村に無茶苦茶問い質されたのは言うまでもない。  


   =====


 夜、家に帰ってきた俺は本当にカズサが用意したそぼろ丼を食った後、私室でカズサに聞いてみた。


「しかし、まさかお前がああいう事するとはなぁ」

「ああいう事?」

「ほら、朝学校で」

「あぁ、あれっすか」


 カズサは嫌なことがあっても大抵のことは気にせず、その場では色々言ってもあっさりと流すタイプだと思っていただけに、学校で姿を現してまで薫と新藤にやり返すような真似をしたことをして、俺は少なからず驚いた。

 てっきり言わせるだけ言わせて、実績で黙らせてやろうというスタンスを取るだろうと。……というか、前にそういう感じのこと言ってたしな。


「てか何なのお義母様って。お前何時からお袋の事をそう言う風に?」

「あれはその場での冗談って奴っすよ。……まぁ、ママさんから割と本気の口調でそう呼ぶようにって言われもしましたけど」


 春休み中、一度家に帰ってきた両親とカズサは互いに顔を合わせたことがある。そしていつの間にかカズサは二人からやたらと気に入られてて、この家の住人として私室まで与えられるようになったんだが……その辺りの話はまたの機会に語るとしよう。


「ほら、アタシの容姿ってユースケの理想像に沿って形作られてるじゃないっすか?」

「何それ聞いてないんだけど!?」

「あれ? そうでしたっけ?」


 つまり俺の好みのタイプは初めっからカズサにバレていたらしい。なんという気恥しさ……! カズサが美少女で小柄で巨乳なのはその為だったのか……! 本当にありがとうございます。


「まぁそこは一旦置いといて……ユースケがブス専とか地味専とかでもない限り、アタシはかなり容姿が整ってると思うんですよ。だからあの二人みたいな感じでマウント取ってくる人には、超美少女なアタシがユースケと仲良いのを見せつけてやれば黙るかなって思って」

「自分で言うか」

「だって機能的にそうですし、野次馬が挙ってアタシの容姿を褒めてるのも聞こえてましたしね」


 ドヤ顔で言ってのけるカズサ。事実を当然のように言っている分、下手な謙遜よりも嫌味を感じられない。

 

「ま、ああいうやり方が趣味じゃないのは確かっすよ。……でもね、大事な相棒が笑われて黙って見過ごすほど、アタシも出来たアイテムじゃないんです」

「……そっか……」


 戯けた表情を不意に真面目なものに変えるカズサ。そう言われると……全然悪い気はしない。

 薫のように優良物件に簡単に乗り換える女がいるように、世界中好景気に入って人間社会は少し薄情になったらしいと、テレビで聞いたことがある。

 そんな中で誰かの為に怒って、実際に行動に移せる奴がどれだけいるだろう? そう考えると、今の俺は前よりも断然幸せだ。

 元カノにフラれて大きなものを無くしたけど、それよりも大きくて得難いモノを手に入れた……そう思えば、薫には感謝しても良いかもな。


「あ、そうそうユースケ。ママさんたちに言われたんですけど……」


 お袋たちに……? 一体どうしたんだろう?


「アタシも今度からユースケと同じ学校に通う事になったみたいなんで、そっちでもよろしくお願いしますね」

「…………ふぁっ!?」


 


ご質問があったのでお答えします。


Q『この世で一番うまい駄菓子はキャ〇ツ太郎に決まっている。(ノ`Д´)ノ彡┻━┻』

A『キャ〇ツ太郎……大好きだ……!(某ヒトデ頭のAIBO風に)』


Q『毎回の様に高額換金してるようですが、毎回言い訳してるんですか?』

A『金銭が発生する売り買いである以上、身分証明は必要なのですが、職員がわざわざその詳細を確認することはありません。スマホが身分証明書として使える世界観なので、定期券を専用機械にピッてする感じで売れることができます。換金に関してはスキルカードを見せなくてもいいんですよ』


Q『自立起動できる、思考もできる人形ならコントロールしなくても学習して戦えるようになるのでは?』

A『その場合、【木偶同調】や【コスチュームチェンジ】などの例外を除いた、全スキルが使えない状態になります。木偶人形はあくまでも操られることで本来の力を発揮できるアイテムですからね。それに当の本人は剣術とかは基本的に素人ですし、雄介のイメージ補正が反映される操作に身を任せた方が圧倒的に強いんです』



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― 新着の感想 ―
税金関係で両親頭痛そう この流れでそぼろ丼は史上初じゃなかろうか。
[気になる点] いくらか本人も強化してなかったけ?5のまま?スキルが増えないけど
[気になる点] 嫉妬を受けるようになったんだし 一般人にゼロ距離で不意打ちされても怪我しない程度には、強化しといた方がいいとは思うけどねぇ
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