PSって超大事
昨日は本当にすいませんでした……! 昨日投稿したと思ったら、別の作品の最新話として投稿してしまっていました。まさか間違えて投稿してしまうとは夢にも思わず……!
ご指摘受けて、慌てて張り直しておきました。本当に申し訳ありません。
纏う雰囲気が変わった……それを察したのか、キモウサギは少し怯んだ様子だったが、最終的には殺戮本能が勝ったのだろう、大きな掌で木偶人形を圧し潰そうとしてきた。
(いくぞっ!)
先ほどまでなら前後左右に向かって回避するところだが、俺は斜め上……つまりキモウサギの手に向かって跳んだ。
物理的な話をすれば、そのまま押し潰されてしまう自殺行為。だが木偶人形の体は先ほどと同じように、キモウサギの手をすり抜け、そのまま腕を駆け上がっていく。
狙いは急所である首筋。戦闘力に差がある以上、有効部位はどんどん狙っていきたい。
「ガアアアアアアアアッ‼」
もちろん、それを許すキモウサギじゃない。空いたもう片方の手で、蚊を叩き潰すような張り手が迫ってくるが、それに対して木偶人形に攻撃で応じさせる。
「ギャウウウッ!?」
巨大な腕が強かに弾かれて仰け反るキモウサギ。その隙に首筋まで辿り着いた木偶人形は、両手に持ったガンブレードを奴の薄い皮膚に突き立てた。
開いた隙間から血が噴き出る。思ったとおり、太めの血管があったらしい。このまま傷を開いて致命傷を与えてやろうとしたけど、キモウサギの手が木偶人形を握り潰そうと迫ってくる。
(流石ギガントモンスターってところか!)
急所の首筋に一撃入れた程度じゃ動きは鈍らないらしい。キモウサギの体を足場にして、斜め下に向かって跳躍し回避することが出来たが、激しい追撃が木偶人形を襲う。
「でやあぁあああああっ‼」
両手や足を駆使しての連撃……それら全てに対してガンブレードをぶつけ合わせると、キモウサギの全身は大きく仰け反り、そのまま地鳴りを立てて転倒した。
攻撃のすり抜け。迎撃による激しい仰け反り。この二つはいずれも、今初めて発現し、初めて使ったスキルだが、なぜこうも使いこなせるのか……それは、これまで俺が似たような事をしてきたからに他ならない。
大人気ゲーム、モンスターバスター。色んなハードでソフトを出しているこのシリーズだが、その中にPC版の『モンスターバスターオンライン』という作品がある。
インターネットを通じて数多くのプレイヤーと共にモンスターを討伐できる事を売りとしたこのゲームだが、発売当初、神ゲーシリーズと呼ばれたモンスターバスター最新作でありながら、糞ゲーの烙印を押されたことがある。
その原因は一つ……敵モンスターが馬鹿みたいに強いから。
二回連続で攻撃されれば死ぬのが当たり前で、一撃死も珍しくない攻撃力。バカみたいに広い当たり判定。異様なまでの素早さ。隙が少なすぎるアクションに攻撃頻度。体力がやけに高いくせして制限時間が短い、モンスターのAIが優秀過ぎるなど、もうクリアさせるつもり無いだろってくらい、公式の悪意しか感じない難易度を誇っていたのだ。
パソコン所持率の多い大人を狙った、玄人向けのモンスターバスターっていうのが名目だったらしいけど、公式はやりすぎた。
誰も攻略できないと、すぐに低評価コメントが公式サイトに殺到し、制作陣は大急ぎで大型アップデートデータを無料配信。その内容がプレイヤー側の強化……二つのアクションの追加と修正だ。
一つがモンスターの近接攻撃に対しジャストタイミングで特殊な攻撃を当てることでモンスターを大きく仰け反らせ隙を作るカウンター。もう一つがステップやローリングをすることで生じる無敵時間を作るアクション……通称、フレーム回避の無敵時間の大幅延長。
これによってPC版のモンバスは『鬼のように難しいけどやり応えのある良ゲー』と、コアなファンの間で流行ることになったんだが……もう俺が言いたいことが分かるだろう。
木偶人形を操作し始めた時からずっと続けてきた試行回数がついに規定値に達し、ゲームの中にしかなかったカウンターアクションを【ノックバックカウンター】、フレーム回避を【ミラージュステップ】というスキルに昇華させ、現実で使うに至ったのだ。
(これでモンバスのプレイヤースキルが全て現実で使えるようになった!)
木偶人形の性能。モンスターバスターの必須テクニック。そしてそれら全てを操るのは、この俺。
自慢じゃないんだけど……実は俺、モンスターバスターオンラインの最強ボスを五分以内に仕留め、公式企画のタイムアタック大会で何度も優勝して、ユーザーの間じゃ「頭のおかしい廃人」って呼ばれてるんだよね。
(まずは足から切り崩す!)
キモウサギの横側で□ボタンを押し、再び攻撃に転じる。今の俺からすれば、動きがすっかり見慣れてきたキモウサギの攻撃を凌ぐなんて簡単だ。
奴の体の構造上、足への攻撃に対する対処は上半身への攻撃と比べるとかなり狭まる筈。俺は木偶人形を操作し、キモウサギの左足を集中攻撃する。
「ガァアアアアアアアアアアッ!?」
体のサイズから、左足を中心にグルグル回りながら攻撃されれば、先ほどよりも更に単調な攻撃しか出来なくなってきていた。
そんな攻撃、【ミラージュステップ】を覚えた俺たちなら最小限の隙で回避し、最大限攻撃を繰り返す事が出来る。【ミラージュステップ】自体が常時発動型スキルだから乱用も出来るしな。
「まだまだイケますよね、ユースケ!」
(当たり前だぁぁあ!)
デュアルモードで左足の腱や筋、膝や向う脛、足先を狙って斬撃銃撃を無数に叩き込み続ける。一撃一撃のダメージは小さいが、それが積み重なることで次第に大きな傷へとなっていく。
左足による反撃は【ノックバックカウンター】で弾いては追撃し、右足や両手での攻撃は【ミラージュステップ】で全部回避。
むしろ右足や両手での攻撃は自爆だ。左足に張り付くように動き回る俺に攻撃を避けられれば、その一撃は左足が受けることになる。
回復が使えず、後一撃で仕留められる筈の獲物が仕留められない……その事に苛立ったのか、キモウサギの攻撃はどんどん単調になっていった。
(【炎柱】! 【爆雷】! 【絶氷】!)
そんな隙をついて、インターバルが終わった魔法スキルも惜しみなく使う。左足を軸にした右足の攻撃を回避し、炎が足裏を焼き焦がし、雷撃と冷気が膝を痛めつけ、凍らせる。
「ガ……ァアアア……!?」
繰り返される連撃に、もうキモウサギの左足は血だらけのボロボロだ。左膝がガクガクと痙攣するのを確認すると、俺は木偶人形をキモウサギの右足側へと走らせた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛‼」
それを攻撃のチャンスとでも捉えたのか……キモウサギはそれが誘導されたものだとも知らず、無傷の右足で木偶人形を踏み潰そうとする。
((【ノックバックカウンター】‼))
俺と木偶人形の叫びがハモる。下から掬い上げるようなカウンター攻撃によって巨大な右足は勢いよく高く持ち上がり、キモウサギは片足立ちの状態で左へと体を傾けた。
ボロボロの左足で踏ん張りなんか効くわけもない。態勢を大きく崩したキモウサギはそのまま左側へと上半身から倒れ込み――――
「グォオオオオオオオオオオオッ!?」
(いよっしゃああああああっ‼)
突如地面に空いた大穴に上半身から落ちた。
俺が先ほど□ボタンで仕掛けた最後の罠アイテム、落とし穴だ。設置すれば内蔵された大地の魔法の力によって地面に大穴を空けると同時に傍目からは分からないようにカモフラージュし、モンスターを落っことす事が出来るという代物。しかも【アイテム強化】の効果によってギガントモンスターを落っことすまでになった。
正直な話、俺はこの落とし穴が今のキモウサギに通用するとは考えていなかった。人間のそれに似た両腕を使えば、足から落としてもすぐに脱出されると思ったから。
だが【ミラージュステップ】で翻弄し、【ノックバックカウンター】で体勢を崩すことが出来るならと考えた末……頭を下にして穴にすっぽりハマったキモウサギは、満足に両腕が動かせない、〇神家の有名死体みたいな状態でジタバタと藻掻くだけになった。
(止めだぁあああああああっ‼)
そんなチャンスを見逃すわけにはいかない……ガンブレードをバスターモードに変形し、木偶人形をキモウサギの方に向かって跳躍させると同時に【オーラブレード】を発動……その光輝く刃で、キモウサギの股間を貫いた。
(ちょっ!? どこに突き刺してるんすか!?)
(仕方ないじゃん! 【会心の瞳】で見た露出した急所ってここしかなかったんだから!)
悶え苦しみ、激しく暴れるキモウサギ。だが攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
俺はガンブレードが突き刺さったままの状態で〇ボタンを連打。零距離から股間に魔力弾を浴びせまくり、フィニッシュは勿論――――
(【チャージショット】ォオオオオッ‼)
充填した強力な砲撃が股間に炸裂し、爆発する。ガンブレードが股間から抜けて、それを持っていた木偶人形が遠くまで吹き飛ばされたが……キモウサギの体から光の粒子が立ち上り、やがて影も形もなく消え去った。
すっかりお馴染みになったモンスターを倒した証の光景……それを見た時、俺は思わずコントローラーを投げ出して背中から倒れ込み、ホログラム画面の木偶人形も大の字で地面に倒れる。
((つ、疲れたぁぁぁぁぁぁ……!))
俺は精神的に。木偶人形に至っては精神と肉体両方がクタクタだ。もう二度と……二度とあんなギリギリの戦いしたくねぇ。倒せたのだって、幾つもの奇跡が重なった結果みたいなもんだし。
(もーこのまま寝たいっす)
(同感だけど……それは地球に戻ってからにしよう)
異世界で何の準備もなく寝るなんて自殺行為だ。ギガントモンスターを倒したことで閉ざされたゲートも解放されたはずだし、今日はギルドの宿泊施設を利用して爆睡しよう。絶対にそうしよう。
俺は重く感じる体を起き上がらせ、木偶人形を操作して大穴の底にあったキモウサギのスキルカードを回収すると、そのままゲートへと向かった。
(ねぇユースケ、ちょっと聞きたいんですけど)
(何? どしたの?)
(さっきアタシの事を名前で呼んでませんでした? カズサって)
(あー……)
その途中、木偶人形がそんなことを聞いてきて、俺は記憶を辿る。……確かに言ってたなぁ。
(もしかして、それがアタシの名前っすか? 決めてたなら教えてくれればよかったのに)
(いや、とは言ってもボツになった名前だし)
(そうなんですか? ……でも何でまたボツに? そこまで変な名前とは思いませんけど……)
(それはだなぁ……何というか、その……)
なんか言い難いけど……別にいいか。知られて困ることでもないし、正直に喋っちゃおう。
(実は一颯っていう、昔の親友が居てな……一緒に冒険者になるって約束もしたんだけど、その次の日には事故で逝っちまってさ。その友達とお前がどことなく似てるから、何となく思い浮かんだんだ。……ちなみに似てるっていうのは、外見じゃなくて中身の方な)
そもそも男と女だし。性格以外に共通点もなかったはずだ。
(で、結局すぐにボツだなって思った。死人が蘇った訳でもないし……お前はお前で、一颯は一颯だ。代わりになんて、なるわけがない)
確かに俺は木偶人形と一颯が似てるとは思ったし、昔の夢が叶えられた気がして嬉しかったさ。
でもだからって、木偶人形を一颯の代わりだなんて思ったことは一度もない。そんなの二人に対してあまりに失礼な話じゃんか。
(だから名前は後もうちょい待っててくれ。今良いのを考えてて――――)
(これでいい)
(え?)
静かで、それでいて力強い声に、俺は意味を理解しながらも、思わず聞き返してしまった。
(アタシの名前……カズサでいいっすよ)
(いや、でもそれは流石に……)
(咄嗟に呼んじゃうくらい思い入れがあるんでしょ? だったらアタシはこれで……ううん、違いますね)
木偶人形はホログラム画面の向こう側から、見惚れるくらい優しくて綺麗な、嬉しそうに微笑んで俺を見る。
(アタシはこれがいい)
ふと、彼女の一人称が別のものに聞こえた気がした。
(ユースケユースケ! ちょっと記念に呼んでみてくださいよ、アタシの名前!)
(いや、本当に良いのか? 別人の名前だぞ?)
(良いんすよ。さぁさぁ早く!)
元々彼女自身の名前の事だ。そこまで言うんなら……その意思を尊重するべきだろう。
(……カズサ)
(……えへへへ)
(な、何笑ってんだ?)
(いやぁ、何でですかねぇ? 自分でもよく分かんないっす。ただ……)
(何か……嬉しいんです)
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