ボスキャラに第二形態はつきものです
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
「ちょっ!? わぁああああっ!?」
突然全身から強い光を放つキモウサギ。ホログラム画面の大半を塗り潰す発光が止んだ瞬間、木偶人形の体を吹き飛ばそうとしたのは、筋肉が強靭に発達した、毛むくじゃらの巨大な足による前蹴りだった。
あ、あぶねぇ……! ジャンプで回避できたのは咄嗟だった……が、それは悪手であったとキモウサギの姿を見てようやく理解する。
(な、何じゃこりゃあ!? キ、キモい‼)
光が収まった直後、キモウサギはその姿を大きく変えていた。
首から上はそのままに、首から下は全身筋肉の塊かと思えるほど強靭な人間のそれに酷似した体となり、全体を毛皮で覆っている。
その外見を一言でいうなら、醜悪なウサギの被り物を被った、全身毛皮ピッチリスーツを着用した巨人……みたいな感じだろうか。先ほどとは別の意味で更にキモくなったギガントモンスターは、空中に跳んだ木偶人形に向けて正拳突きを放った。
(ま、待て! ちょ、こんなん有りか!?)
先ほどとは違う、明らかに近接戦を意識した変身スキル。慌てて二回目のジャンプで横に回避したけど、追い打ちにもう片方の腕で薙ぎ払ってくる。
(なんのぉっ!!)
それも体勢を整え、地面に向かっての三回目のジャンプで回避したが、これ以上の回避は無理だった。
「ガァアアアアアッ‼」
「くぁああああああっ!?」
横に薙ぎ払うように振るわれた蹴りが木偶人形に直撃。彼女の体は小石の様に数回地面をバウンドし、体力ゲージの七割を吹き飛ばした。
さっきまでと戦い方が全然違うぞ!? 舌をちょん切られて真の力でも発揮しちゃったか!?
「ゴォオオオオオオオオッ‼」
慌てて回復ポーションで体力を回復させた頃には、キモウサギは既に木偶人形のすぐ近くまで迫ってきて、木偶人形を踏みつけようと足を大きく持ち上げる。
(そ、それは洒落になんないっす‼)
身動きを封じられてグリグリと踏み躙られるのは一番いただけねぇ……!
何とかバックステップでそれを回避したけど、追撃の前蹴りが続け様に迫ってきて、それをガンブレードでガードした。
直撃は免れ、体力ゲージもそこまで減少していないけど、木偶人形はまたしても盛大に吹っ飛ばされてしまう。
(ギガントモンスター相手にガードは無謀だったか……!)
戦闘力に差があるのもそうだけど、何より体格差があり過ぎる。ガンブレード自体守りに長けた装備でもないし、先ほどと同じように回避に徹底しないと……!
(動きは大分早いけど、舌攻撃と比べれば攻撃は読みやすい! 目と指が慣れるまで耐え凌ぐぞ!)
(でも回復は足りそうですか!? いくら避けるのに集中するって言っても、無くなったらヤバいっすよ!?)
また一つ消費される回復ポーションに、俺は思わず苦々しい顔を浮かべる。
残りのポーションの数は半分をとうに切っていた。加えてこの怒り狂ったかのような猛攻……対応できるようになるまで、ポーションが持つかどうか心底怪しい……!
幾ら大振りの攻撃とは言え、あれだけの巨体とパワーで、このスピード……戦闘力と体格が勝る相手の連続攻撃は、例え単調で読みやすくても脅威には違いないのだ。
(こんな土壇場でふざけんなよ、この野郎が‼)
悪態をつきながら必死に指を動かし、木偶人形を操作する。動き回っていない筈なのに、顔に熱が集まって全身から汗が薄っすらと滲み出てきた。
幸いにも範囲攻撃をしてくる様子はない。基本行動である回避を主軸に、避け切れそうにない攻撃はガンブレードを側面から当て、弾かれながらも直撃を回避し、掠るだけで地面を転がる一撃をギリギリのところで避けていく。
だがそれを何時までも続けるほど、俺はキモウサギの動きに慣れていなかった。
「かはっ!?」
永遠にも感じる極限状態で操作する中で、何発もの直撃を受けてしまい、その度に回復ポーションが消えていく。
だがその甲斐はあって、回復ポーションが尽きるころにはキモウサギの動きに対応できつつあった。あと少し……あと少しで反撃に転じられる……!
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛‼」
(しまっ!?)
だが現実は残酷だ。どれだけ動きに慣れてきても、絶対というものは無い。
動きを読み間違い、連続攻撃から逃れるための【三段ジャンプ】の後に地面に着地しようとした直前、かち上げるような前蹴りによって木偶人形はキモウサギの眼前まで打ち上げられてしまった。
(そしてその隙は見逃さないってか!?)
【三段ジャンプ】は木偶人形が地面に着地しないと再発動できない。まるでそれを学習したかのように、空中で身動きが取れなくなった木偶人形を平手で叩き落そうと、キモウサギが腕を振り下ろす。
(くっそ……!)
□ボタンを押して、ついに最後の一個のポーションを使い果たした。これで回復手段は二分のインターバルを要する【リカバリー】だけ。
そんな状況下で、振り下ろされる巨大な腕に対して攻撃……というよりも、二振りのガンブレードで腕を横に弾こうとしたのは咄嗟の行動だった。
普通ならその選択は間違いだ。なにせパワーが違い過ぎる。この一撃は今の木偶人形の戦闘力で弾けるものではない……そう思っていたのだが――――
「ガァアアアアアッ!?」
ガンブレードの刃が振り下ろされた腕に触れた途端、バァンッ! という音と共に腕は勢いよく後ろに向かって弾かれ、キモウサギの体が仰け反った。
一体何が起きた……と思いはしたが、不思議とそれを強く疑問には思わなかった。なぜなら俺は、今の光景をよく見知っている。何が起きたのか、直感で理解したのだ。
「オ゛オ゛オ゛ッ‼」
だがまだまだピンチは終わっていなかった。体勢を思ったよりも早く立て直したキモウサギが、もう片方の腕を斜め上から振り下ろしてきたのだ。
その直撃を受け、更に地面に強く激突する木偶人形。張り手と墜落の二段ダメージを受けて、体力ゲージが残り一割を切ってしまう。すぐに【リカバリー】を使ったが……取り戻せた体力は全体の六割程度だった。
(ヤバい……次は、もう……!)
掠るくらいのダメージなら良い……だが、直撃を受ければ体力ゲージは今度こそ根こそぎ削り飛ばされる……!
「グォオオオオッ‼」
インターバルが終わるまで逃げる……そう考えていた俺を嘲笑うかのように、体勢を立て直したばかりの木偶人形に、キモウサギの踵落としがすぐ真上まで迫ってきていた。
踵と木偶人形の距離、振り下ろされる一撃の速さを見た時、直撃は免れないと悟ってしまった。この距離では、前だろうと横だろうと、後ろだろうと上だろうと、どの方角に回避しても間に合わない。
体力ゲージは全損し、【木偶同調】の効果で俺は死ぬ……なのに、俺の頭を占めた感情と、口から出てきた言葉は、自己保身とは正反対のものだった。
(……カズサァっ‼)
このままでは木偶人形も死ぬ……そう思った俺は、無意味と知りながら何時もの癖で左スティックを倒しながら×ボタンを連打……ステップで木偶人形を踵落としから逃れさせようとする。
だがそうするには余りにも遅すぎた。キモウサギの踵落としは無慈悲にも木偶人形の頭に叩きつけられ――――
「……ほぇ?」
たと思ったら、木偶人形の体がキモウサギの足を透過したようにすり抜け、地面に減り込んだ踵の周りに飛び散った礫を浴びたのだ。
(ユースケ、今のは……?)
(……そうか。ここに来て、ようやく……!)
木偶人形の言葉に反応せず、俺は彼女のスキルカードを表示した。
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名前:
天職:木偶人形
戦闘力:6802
【スキル一覧】
・全スキル習得可能
・ゲージシステム
・不壊の担い手
・空中殺法
・毒無効
・ノックバックカウンター
・ミラージュステップ
・木偶同調
・三段ジャンプ
・コスチュームチェンジ
・会心の瞳
・リカバリー
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新たに加えられた二つのスキル。その詳細を確認すると、俺は木偶人形に静かに語りかける。
(悪いな……ここまで散々痛い目に遭わせちゃって)
(いえいえ。こういうのも全部覚悟してましたから)
全身ボロボロで土塗れになった木偶人形は、何時ものように暢気に言う。
(……ここまで追い込まれて虫が良いかもだけど、もう一度俺を――――)
(おっと、それ以上は言わなくてもいいっすよ)
心許ない体力ゲージ。まだまだ元気なギガントモンスター。途切れそうになる集中力。その他絶望的な要因が揃っている中にあって、それでも木偶人形は力強く、ヘタレな俺を勇気付けるように笑ってみせた。…………まるで、一颯と同じように。
(何度も言わせないでくださいよ。恥ずかしいじゃないっすか)
(そうだな)
回復アイテムが切れた……そんな状況なのに、俺と木偶人形は気恥ずかしさでちょっと笑ってしまった。
木偶人形が耐えて、俺に従い、身を委ねてくれたからこそ、今ようやくこのスキルが手に入った。俺のゲームテクニック、その全てを駆使することができるスキルが。
(覚悟しろよ、キモウサギ。お前の動きにも粗方慣れた……今からプレイ時間が二千を越えた、モンスターバスター廃人プレイヤーの意地と本気を見せてやる……!)
ご質問があったのでお答えします。
Q『一話投稿から10万文字越えるまで待ってたのに、カタルシスまだ無いんすか......長えっすよ』
A『春休みの間だけはマジ勘弁してください。いきなり薫とか新藤が出てきても不自然にしかならなかったんです……!』
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