こんな抱き着きたくないモフモフ系は初めてだ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
エネルギーポーション。飲むだけで高い栄養をバランスよく摂取できるこのアイテムは、木偶人形のエネルギーゲージの回復にも役立つ。
【アイテムボックス】から取り出したエネルギーポーションを使って黄色いゲージを全回復させ、俺は木偶人形を走らせながら【アイテムボックス】の中身を確認した。
回復ポーションが三十五個。壺爆弾が二十個。攻撃の魔符が五枚。罠アイテムが三つ。他にもあるけど、戦闘に役立ちそうなのはこのくらいだ。催涙爆弾も切らしてしまっているし、残っているアイテムと、コントローラーを操作する俺の技術で凌ぐしかない。
「ギャー!?」
道中で遭遇するランイーターを切り裂く。今俺たちはギガントモンスターとの戦闘に備えて、木が多くて月明かりを遮る森の中から、戦いやすい平原に向かっている最中なんだけど……既にランイーターを軽く二十体くらい始末したぞ。
(どうなってるんすか? どうしてランイーターばっかりこんなに多いんですか?)
いくら数が多い雑魚モンスターとはいえ、この遭遇率は異常だ。そう思っていると、目の前の地面からランイーターが出現する。
前にコボルトナイトが【眷属召喚】を使った時にも見た、モンスターが誕生する瞬間だ。いい加減まどろっこしくなってきたので、移動の邪魔になったランイーターを踏み台にして木偶人形を跳躍させ、【三段ジャンプ】を活用して森の上空を横断するように平原へと飛び出る。
(もしかしたら、これがギガントモンスターのスキルの一つなのかもしれない)
実は以前から疑問だった。ランイーターは基本的に十体未満の群れで狩りをするモンスターなのに、なぜ俺や百瀬たちの時に限って二十~四十体近くの群れと遭遇したのか。
(ギガントモンスターのスキルが、モンスターを連続召喚、もしくはモンスターの発生速度を上げる類のものだったら、このランイーターの多さも頷ける)
前に少し調べてみたら、最近ここら辺の雑魚モンスターが増加しているという情報もあった。その原因がギガントモンスターのスキルなのだとしたら説明が付く。
(でも何でランイーターばっかり? ランイーター萌えっすか?)
(それどんな萌えツボ? ……多分だけど、スキルには何らかの制限があるのかもな。地帯に合わせたモンスターしか出せない、みたいな)
こちらとしての問題は、スキルの力で出現したモンスターはギガントモンスターの意のままに動くのか、それとも単に出てきただけなのかだ。
後者でもキツいけど、前者だと最悪の場合詰む。いくら雑魚でも人間大の大きさのモンスターが大量に出て来られたら邪魔だし、そんな中で戦闘力で上回る相手と戦いたくない。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアッ‼‼」
(来たかっ!?)
激しい地鳴りを起こす足音を響かせ、森の木々を圧し折りながらこちらに向かって直進してくる大きな影。ガンブレードを構えた瞬間、ソレは太い樹木を砕き飛ばして現れた。
(デッカ!? 何すかこのウサギ!?)
出てきたのは意外や意外。一体どんな厳ついモンスターかと思えば、十五メートルは超えてそうな大きさを誇る全身モコモコのウサギ型モンスターだったんだけど、可愛いなんていう感想は出てこなかった。
シルエットこそウサギだけど、顔面がヤバい。口は縦と横に裂けるし、口腔内には牙がビッシリ生え、奥から長い舌が伸びていて、その尖端は管のような長い針が付いている。
あまりに醜悪な外見は生理的嫌悪感がするし、眼球にいたっては九個もあって、それぞれが独立した感じでギョロギョロと動いている。
なんかもう、ウサギに寄生したエイリアンみたいな姿だ。
(これで普通の外見ならその毛皮に飛び込みたかったんですけどね!!)
先手必勝。【会心の瞳】で弱点を見て、そこに向かって魔力の弾丸をばら撒いた。
見た目こそアレだけど、別に変なところに急所がある敵じゃない。普通に眼球や首筋といった、柔らかかったりデリケートだったりする箇所が弱点のモンスター……だが一ヵ所だけ例外的な部分もあるみたいだ。
「ゴォオウッ‼」
一見柔らかそうな長い舌をとんでもない速さで振り回し、連射で放たれた魔法の弾丸を全て撃ち落としたキモウサギ。
マジかよ……マシンガン並みの連射力だったのに、それを全部弾くとかどうなってんの!?
効果時間が残り僅かになった【会心の瞳】で見てみると、舌は赤く光って見えていない。どうやらあの長い舌がキモウサギの武器らしい。弾丸の掃射を無傷で捌き切ったキモウサギは、そのまま返す刀ならぬ返す舌を木偶人形に向かって振り下ろす。
鞭のようにしなった舌が地面を割り、石や土が大量に飛び散る。慌てて横に回避したけど、それを追うように今度は横薙ぎに振るわれた舌が、木偶人形の胴体を打ち据えた。
「がっ!?」
そのまま吹き飛ばされ、地面を転がる木偶人形。俺はコントローラーを操作して体勢を立て直させたけど、体力ゲージを半分以上ゴッソリ削っていきやがった……!
(大丈夫か!?)
(な、何とか……。【ゲージシステム】に助けられたっす)
スキルが無かったら腕の骨が砕けそうな威力だ。慌てて回復ポーションを使って体力をほぼ満タンまで回復させる。今の一撃だけでも、木偶人形とキモウサギの戦闘力に大きな差があるということが理解できた。
でも一撃死するような絶望的な差でもない。それが分かっただけでも僥倖すぎる。
(まずは第一条件はクリアーってところか)
スキルの力で効果を増した回復ポーションなら、一撃を受けても一~二個使えば体力ゲージを安全圏に入れられる。使用動作もスキルでキャンセルできるから隙を窺う必要もないし、結構安全に回復できるわけだ。
(まずは回避に徹底し、キモウサの攻撃パターンの引き出しを全部開ける。隙を見つけながら反撃するぞ!)
俺が第三者視点から戦場を俯瞰でき、相手の体が大きい分、攻撃を見極めること自体は簡単だ。手足が短い四足歩行の体である以上、近接戦で出来ることと言ったら飛び掛かって押し潰すくらいなもの。確かにキモウサギの方が戦闘力が高いから速度はあるけど、木偶人形も回避できるだけの戦闘力はある。
(ぬっ……こんの……!)
厄介なのは伸縮自在、縦横無尽に振るわれる長い舌だ。やっぱりこれがキモウサギの主力スキルらしい。
何度か斬りつけてみたけど、生半可な攻撃じゃ傷一つ付かないくらい頑丈だし、威力も半端じゃない。二回も連続で食らえば体力ゲージは丸ごと消し飛ばされる……!
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛‼」
「あっぶなっ!?」
大気を引き裂きながら迫ってくる舌が頭に掠りながらも、何とかで避けることに成功する。強度、威力に加えて速さまであるときたもんだ……!
しかも最初に銃撃を防いだところを見る限り、あの舌は防御にも長けているんだろう。長さを見る限り、首から上の弱点だけじゃなく、全身をカバーできるくらいの事はしてきそうだ。
中距離攻撃を仕掛ける相手に近接戦を持ち込むのは不利。銃撃も弾かれる。その上戦闘力も格上。圧倒的な力の差にひり付くような感覚をしばらく味わうが――――
(いい加減、ワンパターンが過ぎるんだよ!!)
回避にのみ専念し、何度も攻撃を食らっては回復を十数回も繰り返しながらキモウサギの攻撃パターンを見極め続けていると、攻撃の対処方法というのが見えてくる。
こういう鞭にも似た得物の特性上、先端にさえ注意を払ってしまえば感覚で攻撃を対処できるものだし、幾ら小回りが利いても木偶人形からすれば大きすぎる分、どうしても大振りの攻撃として見切りやすい。
(【炎柱】!)
「ガァアアアアアアアアッ!?」
攻撃を見切り、回避の成功率が上がった分、他のボタンを押す余裕も増えてくる。
今使った【炎柱】は、任意の場所から上空に向かって火柱を上げる魔法スキルだ。攻撃することで隙を露呈することもないし、舌によるガードも掻い潜れる、俺が導き出したキモウサギ攻略の最適解。
(効いてるっすよ、ユースケ!)
立ち上る炎に毛皮が燃え、肉が焼ける音が辺りに立ち込める。決定打や大ダメージというほどでもないけど、有効打を与えている感覚……いける、これはいけるぞ……!
(【炎柱】のインターバルが終わる二分間、もう一度回避に徹底する! 時間はかかるけど、これが一番堅実な――――)
「ギャーッ!?」
そんな時、すぐ近くの地面からランイーターが湧いて出てきた。
詳細が分からなかった、キモウサギのモンスターを呼び出す系のスキル。邪魔になったから銃撃一発で仕留めようと思ったけど、ランイーターはキモウサギを見るや否や、怯えたように逃げだす。
(逃げちゃいました……ね?)
(あぁ……どうやら、【眷属召喚】みたいに自分の手足となるモンスターを呼び出す類のスキルじゃないっぽいな)
となるとやはり、単に周辺の雑魚モンスターが出現しやすくなるだけの常時発動型スキル……そう捉えていいかもしれない。しかも出てくるモンスターが皆ランイーターだとするなら、今の奴みたいに逃げ出すだろう。
懸念事項が一つ消えて気が楽になった。これなら心置きなくキモウサギにだけ集中できる。
「ギャッ!?」
そう思った瞬間、キモウサギの舌が逃げたランイーターを追いかけて、舌先の針でその体に突き刺した。
……? おかしい。キモウサギからすれば、ランイーターなんて取るに足らない存在の筈。それをどうして逃げた奴を追うような真似を? やっぱりモンスター的には、目に映った生き物は全て敵だからとかそういう――――。
「ギ……ア……ァ……ァ……ッ」
(ちょっ!? ランイーターさん!? なんかカラカラのミイラになっちゃってるんですけど!?)
ランイーターはまるで全身の水分を吸い上げられているかのように萎れていき、やがて光の粒子となって消えた。
……吸い上げる? え? ちょ、キモウサギ!? お前まさか……!?
「グォオオオオオオッ‼」
((か、回復しとるぅううううううううううっ!?))
先ほどキモウサギに与えたダメージが、綺麗サッパリ消えていた。
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